IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第70話

「……誰だ君は?」

 

目の前に現れた少女はキラキラと輝かせた瞳の中に感動と驚きで満たしながら、興奮したかのような早口で凄いと口々に漏らしながら見つめてくる。しかしカミツレはそんな彼女に思わず嫌悪感を抱いてしまった、失礼だと思いつつも抱かずにはいられなかった。自分の部屋に不法侵入した上に痴女スタイルで待ちうけていたあのド変態且つカミツレの中での国家代表をイメージダウンさせた存在、更識 楯無に似ているような気がしてならない。更識と同じく青い髪に赤い瞳、そして何処か幼さがあるが似ている顔つき。如何にもあれの関係者にしか思えない、他人の空似であったら失礼な事なのだが……。

 

「あっえっと、そのっ……い、いきなりごめんなさいっ……!そ、その今使ってる奴が余りに凄くて…」

「ああっ……そう、まあ文句を言うつもりはないが……」

「ごっごめんなさい私ったら名前も言わずに……」

 

赤らめながらも自分の非を素直に詫びてくる少女、如何にもこれが演技には自分は思えないが…。しかし彼女の口から名前が出た時、思わず警戒心が一気に引きあがった。

 

「更識、簪っていいます!日本の代表候補生をやってて、えっとその……よ、よろしくお願いします!!」

 

それを聞いた途端に警戒心がMAXに引き上げられた。更識、あの生徒会長の親族である事は確定でしかも日本の国家代表候補生。最早役満のレベルで自分にとってはアウト、カミツレは既に日本という国を信用などしていない。そんな日本の代表候補生で更識の家の人間……なんか目的があって接近して来たようにしか映らない。演技にも見えない様子も真耶から聞いていた更識という家の特殊性から考えても納得が行く、政府に仕える家なのだからそのような訓練を積んでいても可笑しくはない……。つまり政府の差し金と考えるのが妥当。

 

「……俺は宜しくする気はない」

「えっ……!?」

「なんだ政府に俺に近づくようにでも言われたのか、俺はもうお前ら政府を信用する気は0だ。今更何を取り繕うとする気だ」

「せ、政府って…な、何の事……ですか?私は、政府に命令なんてされた事はなくて……ただ、話がしたくて……」

「芝居はやめろよ白々しい、それとも何か。此処の生徒会長みたいに誘惑でもする気か」

 

汚物を吐き捨てるかのように言葉に満ちる悪意と敵意、それを受けた簪は動揺していた。彼女は本当に政府から何も受けておらず、寧ろ政府には好きではなく嫌っているに近い。今カミツレに話しかけたのも純粋に憧れがあったからこそで、そこに打算や目的はない。強いて言えば仲良くなりたいという思いしかなかった。だがその口から生徒会長という言葉が出てくると、簪の顔色が変わって行った。

 

「生徒、会長……に何か、されたんですか……?」

「……今更知らん顔か、親族なんだろ。更識 楯無、あいつは俺の部屋に不法侵入して痴女のような格好で俺を待っていた上に部屋に盗聴器やカメラまで設置していた」

 

信用などないと言った時、簪の表情は完全に青くそして失望と怒りに染まっていた。更識 楯無は紛れもなく自分の姉だ、そんな姉が自分の憧れの人にそんな事をしていた。そしてそれが原因で自分の英雄は日本という国と自分を信用してくれずにいる、自分はただ……この人と話をしたかっただけなのに、今までの事を聞いてみたかっただけなのに……出来る事ならばサインやツーショット写真を撮って欲しかっただけなのに……。それら全てが、自分の姉によって粉砕されてしまった。

 

「……っごめん、なさいっ……!!」

 

簪は大粒の涙を流しながらその場で土下座をしながら大きく頭を下げた、床に頭を叩き付けるほどに下げる。今の自分に出来るのはそれしかないと思ったからだった。自分に一切の非はない、寧ろ彼女も被害者なのだが自分の姉がやった事が悪い事に変わりはない。そして心から謝りたかったと簪自身が思った。

 

「……っ」

 

流石にこの行動に面食らったカミツレは動揺する。これが本当に演技なのかと疑いたくなって来た、だが嘘でないとも限らない。大粒の涙と絶えず聞こえてくる謝罪の声は、自分には嘘には思えない。これは本当の物なのではないかという思いを作らせるが、日本にとってはそれほどまでに自分を繋ぎ止めておきたい事と考えるとこの行動にも納得が生まれてきてしまい如何したら良いのか迷いが生まれてしまう。

 

「私は、ただお話がしたかっただけなんですっ…!!杉山さんは私にとってのヒーローで、憧れだったから……」

「俺が、か……後日、もう一度話そう。二日後の14時にまた此処で、という事でいいかな」

「はい、有難うございますっ……!!」

 

簪は深く深く頭を下げた、そして涙を拭いてから静かに整備室から立ち去って行った。彼女が居なくなった整備室で溜息を吐いたカミツレは如何にも心が痛くなった感覚を覚えていた。自分の中であの更識の一件は如何にもトラウマに近い何かになっているようで、更識という名前を聞いた時に無意識に心が凍てつくのような気がした。それで強い言葉を言ってしまったのだろう。あの少女の涙は嘘なのか真なのか……知りたいと何処か思ったのかもしれない。

 

「カチドキ」

『はい』

「真耶先生と千冬さんに連絡を取ってくれ。更識 簪という生徒について知りたいって」

 

 

「……っ!!!どうして、どうしてあの人は私の邪魔ばかりするの!!?」

 

自室に戻った簪は怒りに身を任せたまま壁を力いっぱい殴りつけた。その表情は涙ではなく、姉への怒りに染まっていた。政府なんて知らない、姉のした事なんて自分には関係ない……だがそれはカミツレにとっても同じ。彼からしたら自分は日本政府に属する者であの人の妹で、関連があり何か打算があって近づいてきたようにしか思えない。そう思っても可笑しくはない、寧ろ警戒して当然なのかもしれない。

 

「何で、何でなの……私には、あの人に憧れる資格すらないの……?」

 

簪にとってカミツレは本当の意味でヒーローのように映っていた。誰にも期待されず、織斑 一夏の予備(リザーブ)としか見られていなかった。噂ではまともに成績を残せなかったら直ぐに研究所へ送られてしまうという話まで出回っていた。過酷過ぎる運命しか待ち受けていなかった筈だった、それなのに彼はその運命を覆した。

 

セシリア・オルコットとの戦い、一説にはあの戦いで負ければ研究所へと送られるという話もあったが彼はそれに引き分け自らの力を見せ付けた。その後も彼は努力し続け、今では世界が注目する操縦者となっている。そんな彼は簪にとってヒーローのようだった。まるでアニメの主人公だ、そんな彼に簪は何時しか興味を抱き、それは憧れへと変わって行った。彼のようになりたいと思った、話したいと思っていたのに……。

 

「私はっ……何時まで、あの人に縛られればいいのっ……!!」

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