「……たった2週間でこれだと?」
管制室内からアリーナ内で繰り広げられている模擬戦を見つめている千冬が思わずそんな言葉を漏らしたのを確かに聴いた真耶は自分の事では無いのに心から嬉しくなっていた、本当は自分も驚いているがあれは才能ではなく彼が心から強くなりたいという願望やこのままでは居たくないという思いが具現化するために積んで来た苦労の結晶とも言える結果の現れ。それが才能と経験を積んだ代表候補生であるセシリアと渡り合えるだけの力となっている。
「正直驚きしか沸いてこないな……まだまだ粗さがあるがそれが逆にオルコットの油断と実力の見極めの誤差を生んだか。そしてあの戦法……今日まで必死に対策を講じて来たのだな」
やや笑みを作りながら素直にカミツレを賞賛する千冬。正直此処までの形になるとは思ってもみなかった。真耶から訓練の進捗や教わる態度や傾向程度は聞いてはいたがどれ程に成長しているのかは全く聞いていなかった。しかし此処までの成長をしているのは嬉しい誤算であり思わず自分でも指導をしてみたいという思いを募らせていた。直向きな態度と現実を見据えた選択によって紡がれている今の彼を見ると昔ドイツ軍で指導をしていた時の血が騒いできてしまっている。
「なあ真耶、私にも杉山の指導をさせてくれないか」
「あっ、先輩もカミツレ君に指導したくなりました?」
「まあな。まさか此処まで成長するとは…正直弟にはない物を感じてならない」
その言葉に思わず乾いた笑いが出てしまう真耶だがそれは仕方がない、千冬から自分から言うまでアクションは起こすなと言われたが一応様子を見に行った時、一夏は箒と共に剣道ばかりしていた。訓練機は予約制で使えないからという選択だろうがそれなら相談してくれれば工面するのにと思わずにはいられなかった。
「でも駄目です、カミツレ君は私の弟子なんですから!!」
「ほう、『
「ちょっと先輩!?普段から実技は其方でばかりやってるんですから少しは自重してくださいよ!!」
「フフフッ、なら手綱はしっかり握っておけよ?でないと私が掻っ攫うぞ?」
「ええええ!!?」
どこか冗談めいているが冗談には聞こえない話に慌ててしまう真耶。自分でも大切に思えるほどにカミツレは可愛い教え子であり弟子であると認識している。そんな彼を千冬に取られてしまうのは嫌な感じがする、それに自分に指導を仰いでくれたのだから責任を持って最後まで教えてあげたいと思っている。そんな真耶の反応を楽しみつつもカミツレの動きの良さに舌を巻く千冬。矢張り指導してみたいという気持ちがあるのか後日尋ねてみようと決めたのであった。
「全力で行きますわ。ブルー・ティアーズ、レディ!!」
その言葉と共にブルー・ティアーズからフィン状のパーツが飛び出していく、合計3つの円錐状のそれがセシリアの周囲を浮遊し身体に携えている砲門を此方へと向けている。あれこそ第3世代兵器「BT兵器」の実験・試作機として設計されたブルー・ティアーズの象徴的な兵装「ブルー・ティアーズ」である。本来は4基からなる自立稼動兵器であるが勝鬨のブレードによって1基落とされているのは幸いと言える。セシリア最大の武器と言える物の投入に自然とライフルを握る手の力が強まる。
「先程までは失礼致しましたわ、ですが今から本当の意味での全力をお見せ致しますわ。ですからミスタ、貴方も全力で来てくださいまし!!」
「勿論、貴方相手に加減が出来るほど俺に余裕はないんでね!!!」
「では……行きますわ、スタートアップ!!!」
先ほどまでの主人を守る番犬が主からの命を受け敵を狩る獰猛でありながら躾がされた猟犬へと姿を変貌させる、向かってくるティアーズがそれぞれ独立した頭脳を有しているかのようにバラバラに動きながら此方へと迫りながら携えた武器からレーザーを放ってくる。四方八方から迫ってくるレーザーを防御するようにオートガードによるシールドがカミツレを守るがそれでも守れて二本のレーザーのみ、最後の一撃は防御し切れずに装甲で受け切るしかない。それでも完全な直撃は避けており良くやっている方だと言える物。
「ぐっ、やっぱキツいなおい!!」
真耶との特訓でも対ブルー・ティアーズを念頭に置いた物があった、しかし自立稼動兵器はラファールにはない為固定式の射撃装置をアリーナ内に配置しそれらの攻撃を回避するという方式の訓練によりある程度の対処は出来ているが矢張り360度のオールレンジ攻撃を行うティアーズに対応しきれていない。
「(如何すれば良い、落ち着けオールレンジは如何すれば防げる!!?)」
必死に頭を働かせながら全力で対処を行う、どうすればこのオールレンジを防げるのか。その時、一筋の光明がさしてきた、カミツレは勝鬨を高速で回転させながら地面へと降り立った。それと同時にティアーズの猛攻の勢いが殺がれシールドでの対処がし易くなった、そして増設された腰部装甲の一部をスライドさせて持ち上げる、そして保持したまま真正面から狙いを付けてきたレーザーを防御した。
「まさかそんな事まで!?」
「まだだ、俺はまだやれる……カチドキ、俺に付き合え!!」
そうだ、ISの基本は空中戦。機動性を100%引き出せるのも空中という概念に囚われていた、あのままでは確実に自分はティアーズに狩られていた事だろう。そもそもオールレンジ攻撃は本体とは別に行動する多数の遠隔誘導攻撃端末による同時攻撃の事で一対一でそれを有効的に活用出来るのは360度から攻撃を行える事になる。ISには
「ミスタ、貴方本当に凄いですわ。賞賛に値します、だからこそ私は貴方に勝ちたいですわ!!」
「俺もだミス、勝鬨を上げさせてもらうぜ!!!」
再び再開される攻撃の雨、だが全方位ではなくなった攻撃にカミツレは対応出来ていた。大型化しているシールドは大きい範囲で防御を行いつつ手にした装甲を新たなシールドにする事でカミツレの守りはより強固となっている、それでも負けじと限られた方位から相手の動きを計算して誘導しレーザーを当てようと頭をフル回転させながらティアーズを操るセシリア、その一心一体の攻防が続くと思われていたが身体を回転させて防御をした時、カミツレの身体を強い衝撃が襲った。
「がぁっ!!?」
「遂に、リズムを狂わせましたわ!!」
その衝撃の正体はセシリアのライフルであった、本来セシリアはティアーズの操作を行いながら自分での攻撃が出来ない。意識を集中させなければ制御が難しいからである、しかし攻防の末にセシリアはティアーズで相手をリズムを付けさせながら攻撃を行い相手を自分の絶好の射撃位置に誘導し、瞬間的にティアーズの制御をストップさせて自らが攻撃を放つという戦法を会得した。より計算と自らが質の良い攻撃リズムを作り出す必要があるが成功さえすれば相手の不意や止めをさす事が出来る。
「感謝しますわミスタ、貴方のお陰で私はまだまだ上へと昇る事が出来ますわ!!」
「ぐっ!!!」
遂に自らのリズムを確立させたセシリアの猛攻が始まった、先程まで維持出来ていたペースが完全に乱された上に相手に掌握されてしまった。次々と身体に突き刺さっていくレーザー、減っていくSE。真耶との特訓で確かに技量は上がっていた筈だが僅か2週間の集中訓練では長期間の訓練を積んだ代表候補生の経験には適わない。このまま、敗北するのかと考えが過ぎった。ISバトルの初戦、相棒に勝鬨という名前を付けて置きながら敗北を与えてしまうのかと考えが浮かぶ中、何かが叫んだ気がした。諦めるなと、そして聞こえてきた。
―――カミツレ君頑張れ!!
紛れもない真耶の声、今日まで自分に力を貸してくれた真耶の声が聞こえたような気がした。瞬間、自分には真耶の思いも乗っていると思い知った。ならば簡単には負けてやれない。それに言われたではないか。悔いが無いように全力を出し切れと。自分は全力を出し切ったか?悔いが残らないのか?残るに決まっている。残らない方法とは何だ―――全力で今ある現実に立ち向かう事!!!
「――――うおおおおぉぉぉぉっ!!!!」
もうSEが無くなりそうになった時、咆えた。それと同時にシールドから一本のブレードが零れた、集中攻撃に耐え続けてきたせいなのかそれとも勝鬨が自分の声に応えてくれたのかは分からないがカミツレは無我夢中で落ちてきたブレードを渾身の力で蹴り飛ばした。勝鬨のパワーで蹴られたブレードはティアーズの一つを串刺しにしながらセシリアへと向かっていきその腰部へと炸裂し爆発を引き起こした。
「キャアアアア!!?」
「ぁぁぁぁああああああ!!!!!!!」
最早獣の如き気迫と咆哮を上げた男は形振り構わずにもう一方の腕にも腰部装甲を装着するとそのままセシリアへと最大出力で向かって行った。それは先程まで得ていたティアーズの全方位攻撃に晒される事を意味するがそんな事などもう如何でもよかった、これで全てが終わるのだから!!
「テ、ティアーズ!!」
反応が遅れたセシリアだが背後からレーザーを襲わせるが勝鬨はシールドを背後へと移動させ攻撃を防御する。ならばとライフルを構え狙い撃つがそれを両腕の装甲が防ぐ。どんどん迫っていくカミツレ、その手にはブレードを展開し振りかぶっていた。
「ですがまだ奥の手がありますわ!!」
迫ってくるカミツレ、そのブレードが触れるより前にブルー・ティアーズのもう片方の腰部からミサイルが射出された。そう、ブルー・ティアーズには腰部に接続されたミサイル型のティアーズが残っていた。そのミサイルは振るわれたブレードと同時にカミツレへと炸裂した、同時に最後の一撃が互いを捉えSEを大きく削った、そしてその時試合終了のブザーが鳴り響いた。結果はどうなったのか……!!?
『勝鬨・黒鋼、SEエンプティ。ブルー・ティアーズ、SEエンプティ。よって杉山 カミツレ 対 セシリア・オルコットのこの試合は引き分けとします!!!』
その時、観客席から沸き上がった大歓声と拍手がアリーナ中を包みこんだ。