風少女 〜蝶の羽ばたき〜   作:小方

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先週の金曜ロードショーを観てから、彼が忘れられないので、特別に絡めてみた。





△10 夏の京都は、正直避けたい

夏休みも残り数日、私は京都にいた。初めて来た夏の京都は、

 

 

「暑い…」

 

「京都は盆地だからね」

 

「涼しくなってから来たかった…」

 

「ふふ、夏の京都も良いものよ。蘭ちゃん」

 

 

透け感のあるシンプルな織りのオレンジ色の紗の着物に、色襦袢を重ねたおばあちゃんは、着物を着ているのに涼しそうに見える。

 

下に着たのが白襦袢ではなく色襦袢だからか、透け感が押さえられて真夏というより、初秋の装いのように思う。

 

私は夏感満載のノースリーブのワンピースだから、横に並ぶとちょっとバランスは悪いかもしれない。

 

おばあちゃんが夏の京都の良さを色々と教えてくれるが、子供にはちょっと理解出来ない。というか、暑くて頭が回らない。

日傘を差すおばあちゃんに手を引かれ、なんとも強い日差しの下を歩いてようやく着いたのは、呉服屋さんだった。

 

店内は天国だった。冷房があるって素晴らしい。

 

 

「涼しい…」

 

 

呆然とつぶやけば、おばあちゃんとお店の人に笑われた。

 

ここはおばあちゃんが昔から贔屓にしているお店で、去年の七五三に私が着た着物も、こちらで作ってもらった物らしい。

 

そういえば七五三って数え年でするんだよね。まだ六歳なのに、なんで七五三 ? って不思議だったな。

 

 

出してもらったジュースを飲みながら、反物を広げてお店の人とお話しをしているおばあちゃんを窺う。

 

おばあちゃんのお着物の話かと思ったら、私の成人式の振り袖がどうとか話してる。

 

十年以上先なんですが。

 

涼しくはなったが退屈だった。

しばらくはお利口にしていたが、どうにも間が持たない。

 

暇潰しにと、京都駅でもらった観光客向けのパンフレットを、肩から下げたポシェットから取り出してみたが、良く見たら外国人向けだった様で全く読めなかった。

 

諦めてパンフレットを仕舞い直して、おばあちゃんを見るが、まだ話し込んでいる。

 

 

 

外は暑くて出たくない。

 

退屈に負けて、私は側にいた男の人に声をかけた。

 

 

「こんにちは」

 

「…こんにちは」

 

 

訝し気(いぶかしげ)に返ってきた挨拶は、関西の人特有のイントネーションで。少なくとも地元のお客さんだと思った。

 

 

「お兄さんはお使いですか。私はおばあちゃんを待ってます」

 

「ええ。母の使いです。よく分かりましたね」

 

 

二十歳は越えていない若い男の人が、呉服屋にいるのは、たぶん珍しい。そこで出されたお茶を飲みながら、落ち着いて座っているのは、もっと珍しいだろう。

 

彼自身普通に洋装だから、彼ではなく、知り合いが常連なのだろうと思った。

 

なんとなく分かったと、えへへと笑えば、女の子が知らない男に声を掛けるのは危ないと注意された。

 

 

「でもお兄さんが誰のお使いの人で、ここで待ってるのか、お店の人は知ってるよね」

 

 

どこの誰だか、身元が分かってるんでしょう? そんな人がお店の中で、悪いことはしないだろうと答えれば、クククと笑われた。

 

 

「確かになぁ。こんなとこで、悪いことは出来ませんなぁ」

 

 

そうすると冷たそうな切れ長の目元が緩んで、雰囲気が柔らかくなる。改めて見ると、結構カッコイイ人だなと思う。

 

こっちの言い方をするなら、シュッとした男前って感じ?

 

 

「お兄さん。お話ししましょう」

 

 

退屈だから相手をしてくれと言えば、お兄さんはちょっと目を見張ってさっきよりもハッキリ笑った。あ、笑うとちょっと表情も柔らかくなるんだ。

 

 

「本当に豪胆なお嬢さんや」

 

 

困った子やなあ。子供やからかなあ…と呆れたように笑って、それでも無下にしたりせずに私の相手をしてくれた。

 

 

「ごうたんは知らないけど、毛利蘭です。おばあちゃんと東京から来ました」

 

 

とペコリと挨拶をすれば、丁寧に返してくれた。

 

 

「ご丁寧にどうも。綾小路文麿です」

 

「ふみまろ…。まろさん。まーさん」

 

 

ちょっと長かった名前を呼びにくいので、勝手に縮めた。

 

 

「…まーさん」

 

 

彼の反応から。あ、嫌かな? と思ったが、特に反論も無かったのでそのままにした。

ふと思い付いて、ポシェットに仕舞ったパンフレットを取り出して見せた。

 

 

「まーさん。これ、何て書いてあるのかなあ」

 

「外国人観光客向けの観光案内やないですか。なんでこんなもんを持ってるんですか」

 

 

綺麗だったから貰ったけど、さっぱり読めないと言えば、外国人観光客向けの凝ったデザインは、子供の目を引いたのだと納得された。

 

 

「まーさん。読んで」

 

 

一方的に話し掛けていた私は、この頃にはすっかりまーさんに対しての遠慮が無くなっていた。

 

人懐こいと評される私は、図々しくも彼にそれを読めとねだった。豪胆とまーさんは言ったが、単に図太い子だと思われたかもしれない。

 

硬質な雰囲気のまーさんだったが、存外に子供好きだったらしく、嫌な顔もせずそれを読んでくれた。

 

うん。顔だけ見ると情が薄そうなんだけど、本当は優しい人だと思ったよ。

 

だってまーさんは、自分のお使いの、お母さんの物だというお着物を受け取っても、帰らないで私がおばあちゃんを待つ間、おしゃべりに付き合ってくれたから。

 

 

 

いい人だったなあ。

 

おばあちゃんがまーさんに、ありがとうございましたと何度も頭を下げ、私はまたねと手を振った。

 

 

「子供が人懐こいのは可愛らしが、気をつけんとあきませんよ。悪い人もたくさんいますからね」

 

 

苦笑しつつ小さくだが、まーさんも手を振り返してくれた。

 

バイバイ。まーさん。

また会えたらいいなあ。

 




寿命の問題があるから、映画に出ていたリスは、多分ポケットには入ってなかろうと、描写はしなかった。

衝動に負けて書いてみたが、綾小路警部の口調が分からないし、こんな性格なのかも全く分からない。
でも出したかったので後悔はない。

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