風少女 〜蝶の羽ばたき〜   作:小方

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原作開始の10年前の喫茶ポアロには、トリプルな執行人も可愛い美人店員さんも存在しません。
デザート作りの得意なバイトさんを、適当に捏造しました。

マスターも10年も経てば、別人かもしれない。




▽11 食べれば太るし使えば汚れる

「蘭ちゃん。発表会の時の写真が見たいって言ってたよね。」

 

「うん。今回は出れなかったから。見たいの」

 

「お父さんが録画したのがあるけど、見に来る?」

 

「見たいな」

 

 

春からバレエを習い始めた私だが、通うバレエスタジオの発表会が入ってすぐの5月の連休中だったため、参加はしなかったのだ。ちょうどお母さんとお出掛けの予定があったし、見学に行くこともなかった。

 

でもお友達の間でよく話題に上がり、この前のバレエ合宿中でも、発表会の時の話は度々出ていた。

だから写真を見せて欲しいと仲の良くなった子に言ったら、録画映像があると言う。

 

見たい。うちのバレエ教室の発表会はスパンが長く、2年に1回だ。次回私が出る時は、3年生の時だが、ぜひとも参考にしたかった。

 

そうしてその子に都合を聞いて、お家にお邪魔する約束をした。

 

 

 

 

 

「だったら、お土産がいるわねえ」

 

「何がいいかな」

 

「お持たせとして、一緒に食べられる物とかね。やっぱり洋菓子かしら」

 

 

学校の後にピアノ教室へ直行した私たちは、さすがに疲れてしまって、ポアロでちょっと一服中。

 

今の住所だと小学校が遠いので、おばあちゃんは毎日車で送迎してくれている。

 

 

 

学校の後に行く習い事も、ピアノが週3回にバレエが2回、スイミングも1回あるから、送迎役のおばあちゃんは毎日大忙しだ。

 

おばあちゃんも疲れてるし、自分でお茶を入れるのも手間だから、美味しいコーヒーの飲める喫茶店があって良かったね。

 

もう5時過ぎだから、夕ご飯に響くといけないから、いつも頼むのは飲み物だけ。

私はいつものフレッシュジュースで、おばあちゃんはマスターのブレンドコーヒーだ。

 

私はコーヒーはまだ飲めないけど、コーヒーの香りは好きだった。

 

 

「お土産ですか? よかったら、うちのタルトはいかがですか? 」

 

 

手土産をどうしようかと二人で悩んでいると、マスターが声を掛けてきた。

 

 

「あら、タルトですか?」

 

「はい。バイトの子の発案の、秋の限定メニューなんですが、お薦めしますよ」

 

 

「ああ、確かパティシエ見習いの学生バイトさんがお勤めでしたわね」

 

「ええ。その子の作るデザートなんですが、これが下手なケーキ屋の物より、ずっと美味しいんですよ。自信を持ってお薦めします」

 

 

マスターは飲み物と軽食が専門の人らしいのだが、調理学校の学生バイトさんが作るデザートも、なかなか美味しいと評判なのだ。

 

いつも私がポアロに来るのは、お休みのモーニングの時間か、今日のように晩ご飯前のことなので、パンメニューか飲み物しか頼まない。

 

例外が、初めて来た時のマスターのサービスで頂いたケーキだった。

 

あのシフォンケーキは美味しかったなあ。

 

フワフワでしっとりした生地は、口に入れるとあっという間に溶けて、余韻のように紅茶の香りが優しく残った。

 

クリームに添えられたキャラメリゼしたりんごと、生地を一緒に食べれば。また違った味わいで、ちょっと贅沢な気分になれる。本当に美味しいケーキだった。

 

あのケーキも、そのバイトさんが考案した物らしかった。

 

あれを考えた人のタルトかあ。いいんじゃないかなあ。そんな私の心の声を聞いたように、マスターが言う。

 

 

「今ちょうど有るんですが、味見しますか?」

 

 

もちろん味見した。お夕飯前だけど、今日は特別にね。とおばあちゃんが言ったから。

 

やっぱり、そのタルトも美味しかった。こうしてお友達のお家の人へのお土産が決まった。

 

 

 

 

 

そうして今日は、約束のお休みの日。バレエ教室のお友達の家には、おばあちゃんに送ってもらう。お友達の家は元のマンションの方に近いので、

 

駐車場が離れているため、おばあちゃんが先に車を取りに行っている間に、私は身仕度を済ませた。

 

頼んでおいたお友達のお家へのお土産のタルトをポアロで受け取り、店の前に停まっていた車に乗り込むと、後部座席のジュニアシートに座ってシートベルトをカチンと締めた。

 

私を待っていたおばあちゃんが、エンジンを掛けながら言った。

 

 

 

 

「蘭ちゃん。小五郎のアパートへ寄っていくわね」

 

「いいけど、なんで?」

 

 

お父さんの家には、先週末に掃除に行ったばかりだ。夏休み前におばあちゃんに叱られたせいか、そんなに汚れてはいなかったけど、またチェックしに行くの?

 

 

「着替えを届けて欲しいんですって。今、連絡があったの。あの子ったら、忙しくてろくに部屋に帰ってないのよ」

 

 

部屋が綺麗なはずだわ。とおばあちゃんが言った。なるほど、汚せるほど家に居なかったんだね。

 

 

「警察に行くの? 先に行く?」

 

 

「約束の時間があるから、あなたを送った後で行くわ」

 

ああ、確かに。急いでもお友達との約束に間に合わない。もう少し早く言ってくれたら、私も一緒に行けたのにな。

 

残念。お父さんの顔が見たかった。そう思いながら、お友達のお家で過ごした。

 

 

 

 

 

夕方迎えに来たおばあちゃんが、私の顔を見た途端に言った。

 

 

「蘭ちゃん、来なくて良かったわよ。向こうで大変だったの」

 

 

聞いてみたら、本当に大変な事が起こっていた。

なんと取り調べを受けていた容疑者の人が、隙を見て逃げ出して大騒ぎだったらしい。

 

え? ニュースでも報道されたの?

 

 

ちょうどおばあちゃんは、その時にお父さんと会って話していたので、容疑者の人が確保されるまでの間、安全な会議室に隔離されてしまったんだそうだ。

 

さっきまで、出して貰えなかったんだって。大変だったね。

 

私がお友達とバレエの発表会の話題で盛り上がっていた頃、まさかおばあちゃんが、そんな目に遭ってたなんて…。

 

 

「ふふふ。大丈夫よ。可愛い婦警さんにお茶をいれてもらって、お話ししてるうちに解決してたから…」

 

 

おっとり話すおばあちゃんは、いつも通りだった。

良かった。心配はいらなかったみたいだ。

 

 

 

でもせっかく捕まえた容疑者を、御膝元で逃がしたら駄目でしょう。何やってるの…。

しっかりして欲しいなあ。

 




原作で毛利夫妻が別居する引き金になった事件には、おばあちゃんが遭遇しました。
でもタイミングがズレたため、人質にもならず、のんびり婦警さん達とお茶をしながら、息子の話をしていました。

人質になる者がいないため、可及的速やかに容疑者は確保。当然人的被害も無し。

容疑者の扱いの在り方等で、警察がマスコミに叩かれたりは有るんでしょうが、これくらいならコップの中の嵐で収まるんじゃないでしょうか。

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