風少女 〜蝶の羽ばたき〜   作:小方

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今回も、呼吸するように捏造があります。

つじつま合わせの妄想ですので、気にしちゃいけません。

はい。 これは二次です。



△16 闇夜の灯火

立ち止まって思った。

あ、迷子だよ。って。

 

どうしたら。戻れるのか分からない。困ったなあ。歩いても同じように続く店の並びに、溜め息が出た。

 

お茶屋さんも、おばあちゃんがいるお漬け物屋さんにも戻れません。目の奥が熱くなり、涙が込み上げてくる。

 

ああ、泣きそうだ。こういう場合は。えー、

 

あ、まーさん?

 

今、すうっと目の端を、どこかで見た人が(よぎ)った。

 

角を曲がって行ったその人を、迷わず追い掛けて、捕まえた。

 

地獄に仏、闇夜の灯火。

京都でまーさん。

 

 

「待って! 行かないで」

 

 

たとえ違っても、まーさんじゃない人でも。この人に、近くの交番まで連れて行ってもらえばいい。

 

最悪この人が変な人でも、ゴールデンウィーク中の人通りの多い町の中だ。大きな声で、周りの人に助けを求めよう。

 

そうして掴んだ、その人の服の裾。振り返ったその人は、

 

 

「……なんや」

 

 

吊り目がちの目許も涼しい男前。シュッとした立ち姿。

 

 

「やっぱり、まーさん」

 

 

大当たり。9ヶ月ぶりで二度だけ訪れた場所で、二回とも同じ人と遭遇するなんて、わたしってば凄いくじ運だよ。

 

 

 

振り返って訝し気に私を見下ろしたまーさんは、次の瞬間ぎょっとしたようだった。

 

 

「…あんたは」

 

 

困ったように棒立ちになり、私を見下ろしたままのまーさんに、このままでは(らち)が明かないので腕を広げてアピールした。

 

涙目で見上げて抱っこを強請(ねだ)る小学2年生、7歳女児。断れるものなら、断ってみろ。

 

我ながらあざとかったが、顔に似合わず優しいまーさんは、断れないだろうという計算が、たぶん当時の私には、きっとあった。

 

だって歩き疲れてたんだよ…。自業自得だけどさ。

 

 

「あー、確か。蘭さん?」

 

 

抱き上げてくれたまーさんの首に腕を回し、ギュッと抱き着く私に、戸惑ったまーさんが声を掛けてくる。

 

 

「どうしはりましたんや?」

 

 

どうも私は、思ったより初めての迷子に、神経を削られていたらしい。

ポンポンと軽く、遠慮がちに背中を叩くまーさんの不器用な慰めが胸に染みる。

 

 

「蘭さん?」

 

 

遠慮がちに話し掛けられ、我慢していた涙が、ぽろりと一粒こぼれて落ちた。うう。まーさん、やっぱり優しい。

 

 

 

私はまーさんの首にしっかり抱き着いたまま、迷子になったことを申告した。

 

 

「ああ、なんや。迷子になりはったんか」

 

 

ポンポンと背中を叩きながら、ホッとしたように、まーさんが言った。

 

 

「しかし相変わらず、警戒心の薄い子やなぁ…。よう知らん男に抱き着くのは、よろしゅうないです」

 

 

まーさんは前に会ったから、知らない人じゃないと返せば、まーさんは若干呆れた様子だった。

 

袖すり合うも他生の縁。前に会ったのも、何かの縁。これも前世からの、浅からぬ因縁かもしれませんなあ。とまーさんが言った。

 

確かにね。去年呉服屋さんでまーさんに会ってなかったら、私はこうして助けを求めなかった訳だし。

 

おばあちゃんがよく口にする(えにし)って、たぶんこういう物なのかも知れない。

 

それなら前にまーさんに会ったのは、単なる偶然ではなくて、今日に繋がるための 前世からの因縁によるものってこと?

 

首を傾げる私に、まーさんは、だからどんな出会いも大切にせなあかんということですよ。と言った。

 

一期一会だね。と言えば、随分難しい言葉を知っとるんですなぁと感心された。おばあちゃんがよく言ってるの。

 

「ああ、涙も引っ込んだようですな」

 

 

顔を覗き込まれ、ちょっとばつが悪くなった私は、またまーさんの首に齧り付いたが、またもやポンポンとされただけだった。うん。ちょっと恥ずかしかったんだ。

 

 

「それで? 蘭さんは、何処から迷わはったんですか?」

 

 

 

 

 

 

私が覚えていたお土産の柏餅の包みの模様がお店の屋号だったため、一服したお茶屋さんは、まーさんがあっさりと割り出した。

 

そうしてその周囲で私を探していたおばあちゃんとも、すぐ無事に会えたのだった。

 

まーさん、名探偵だね。

 

 

おばあちゃんは、もう交番へ行くつもりだったって、とても悲しそうだった。ごめんなさい。

 

 

 

そうして是非ともお礼をと言うおばあちゃんと、まーさんがちょっとした押し問答になってた。というか、まーさんが押されてる。

 

ああ、前は挨拶だけだったけど、今回は名前と大学名まで名乗らされたよ。まーさん大学生なんだね。19歳。

 

え? おばあちゃん、まーさんのお家のこと知ってるの?

へえ、ひいおばあちゃんの実家繋がりで…。

 

うちのおばあちゃんって、おっとりしているけど、案外押しが強いから。多分まーさんが負けるなと思った通りだったね。

 

でもその間、私はまーさんに抱っこをされたまんまだったんだけどな。私を間に挟んでの問答は止めて。

 

地獄で仏に会ったよう。とおばあちゃんがまーさんに、しきりにお礼を言っていたけど、本当にそうだった。

 

うん。私もまーさんに後光が差して見えたんだよ。捕まえて良かった。そうして思わず拝むと、まーさんに微妙な顔をされた。

 

 

「止めてください」

 

 

ふふふ。そのイントネーションが聞けるのは、次はいつだろうか。

 

でもそんなに先じゃない気がするよ。だって、まーさんとは前世の因縁があるらしいから。

 

 

 




原作蘭ちゃんって調べてみたら、極度の方向音痴とのこと。思い切りの良い彼女のことだから、豪快に迷いそうです。

しかし、綾小路さんの使う京弁がよく分からない…。
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