風少女 〜蝶の羽ばたき〜   作:小方

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お料理回。

※作中のレシピの材料と分量が、ハニージョイに変更する前の別の物と混同していたので、変更しました。


▽21 趣味を仕事にしたら、息抜きには何するの?

今日は、土曜学習の代休の月曜日。午前の内に、私は一人でお菓子を作る。おばあちゃんはカウンター越しにこちらを見ているだけだ。

 

いつもは一緒に作るが、今日は口は出しても手出しはしないことを、約束してもらっている。

 

 

それでおばあちゃんの大切なキッチンの使用許可を貰ったわけだが、年齢的に扱いの難しい物は今日は使えない。例えばガスコンロとか。

でも鍋で加熱する手順があるので、代わりに電熱器を出してもらった。

 

 

料理の基本のまず最初は、事前の準備。特にお菓子作りはそれが大事で、一度失敗すると誤魔化しが効かない場合も多い。

レシピの分量や手順などには、ちゃんと理由があって決められているのだから、失敗したくなければ守らなければならないからね。

 

とおばあちゃんに教わりました。

 

ということで、道具と材料は先に用意する。えーと。

 

計量カップに計量スプーン、計量計(スケール)、木しゃもじにゴムべら、スプーン、ホーロー鍋。

 

あと人にあげる予定だから、可愛い紙カップ。アルミカップだと生地がくっ付いて、食べるときに剥がれないんだって。

 

それから材料が。

 

無糖のコーンフレークを二と二分の一カップは、カップに2杯と半分だけ。

バターの60グラムは計量計で量ること。先にお皿を量り(スケール)の上に置いて。お皿の重さに60グラムのバターを足す。

同じようにお砂糖を20グラムと蜂蜜が子さじ4杯。

 

 

 

ああ、用意するだけで調理台が一杯になってしまったよ。狭い。作業スペースが足りない。とりあえず使わない物は、カウンターへ移動させようか。

 

そうそう。オーブントースターを使う前に、温めておかないとダメなんだ。あー、寒い時期じゃないから、直前で二三分でいいんだったっけ?

 

おばあちゃんが頷いているから、間違いないね。

 

次に鍋にバターと砂糖と蜂蜜とを入れてから、電熱器の上でゆっくり温めて混ぜる。焦がしたら大変だから、時々電熱器から降ろして、とにかく混ぜ混ぜ。

 

綺麗に混ざったらそこにコーンフレークを入れてよく絡める。

うーむ。なんか水っぽいかな?学校で作ったよりしゃばしゃばしている感じがする。バターが多いの? コーンフレークが少なかったかも?

…ちゃんと分量は量ったんだけど、どうして?

 

まあ、いいや。それを紙カップに盛って、オーブントースターで10分加熱。

中の温度が下がるから、開けたくなるのは我慢。窓を覗きながら焼き色が付くのを待つ。

 

研修に来ていたオーストラリア人の先生が、交流会の後のリクレーション会で教えてくれたレシピで作ったお菓子だ。蜂蜜とコーンフレークで作る、ハニージョイ。

オーストラリアの家庭では、よく作るお菓子だって言っていた。先生も小さな時から、よく作ってたんだって。その頃の夢はパティシエだったらしい。

 

パティシエかあ。クラスの子でも、将来成りたいって言ってた子がいたなあ。

 

 

 

 

「んー。すごい甘い匂い。換気扇換気扇ー」

 

 

焼けるほどにキッチン中に広がる甘ったるい匂いに、おばあちゃんが顔をしかめている。慌てて換気扇を付けて空気を入れ替えた。

 

うっかりしてたよ。おばあちゃんは甘いものは好きだけど、甘い匂いがあんまり好きじゃないんだ。

 

オーブントースターのタイマーが止まる音がしたので、慌てて駆け寄った。火傷しないよう両手にミトンをはめて、扉を開けて鉄板を取り出す。

結構、いい手際じゃない? だいぶ慣れてきたよね。

 

 

「やっぱり、なんか柔らかい気がするなあ…」

 

 

生地が水っぽかったせいだろうか。もう少し焼いたら、どうだろうか。でも冷めたら、ある程度は固まるんだよね。

 

しばらく迷ったが、おばあちゃんに相談して、半分だけ取り出して、試しに残りを更に2分くらい加熱することにした。

 

あ、焦げた?

流れて来る匂いが変わったので、慌ててオーブントースターのタイマーを切って、扉を開けた。ミトンをはめて、そうっと天板を取り出して焼け具合を確認する。

 

焦げまではいかないけど、少し色が濃くなったかな。ああ、フレークの端が濃いきつね色になっちゃったわ。

 

冷ます間に片付けをしようか。片付けも料理のうちだと言うおばあちゃんの言い付けは、守ります。

 

生地をかき混ぜた鍋は水に浸けておいたが、底に蜂蜜と砂糖が張り付いて取れないので、水は捨てた。

おばあちゃんがしているみたいに、ポットのお湯に浸けておこう。そうして先に材料を入れた器やゴムべらを洗った。

 

 

 

冷ましておいたハニージョイが二種類。レシピ通りに一度だけ焼いたものと、水分を飛ばすために更に加熱したもの。

見た目は二度焼きした方が、当然色目が濃い。

 

味見をしてみると、最初のは蜂蜜がしっとりねっとりと絡む感じで、後の方は、固めでややガリガリしている。味は一緒だから、どちらが良いかは好みかな。

 

おばあちゃんは固い方が好きだって。

 

 

「上手に出来たわね」

 

「作るのは2回目だからね」

 

 

学校で食べたのは最初の方が近い。同じレシピで作ったはずなのに、やっぱり学校ではオーブンだけど、今回はオーブントースターを使ったからかな。

 

おばあちゃんは、焼き菓子は火力で焼け具合が変わるから仕方がないと教えてくれた。たとえ同じ機種のオーブンでも、それぞれの癖が出るから、それを読み取らないといけないようだ。

 

ああ、ピアノと一緒だね。ピアノもそれぞれで、弾き心地や音の出方が違うの。

うちのピアノ、ピアノ教室のピアノ、学校のピアノ、弾いてみるとみんな違うんだよ。

 

 

 

出来上がったハニージョイは、蜂蜜が苦手な人はダメかもしれないが、私は好きだ。蜂蜜のねっとり感とバターの風味が結構癖になって、美味しい。

 

 

手土産用だから、あんまり食べちゃダメなんだけど、もう一つだけ食べてみた。

 

 

「美味しいー」

 

 

美味しかったので衝動に突き動かされるままに、その場でクルクル踊ってみた。エプロンとスリッパでピルエットを5回転。ピタリとポーズを決めるのも忘れない。

 

…間が抜けてる自覚はある。うん。

 

 

「あら、美味しいの舞。上手に回れるようになったわね。蘭ちゃん」

 

 

どんな状況でも誉めてくれるおばあちゃん。あなたのお陰です。たぶんお母さんなら、キッチンで踊るなと注意するでしょう。

 

いつもの事なので、おばあちゃんは私の奇行など気にもせず受け流し、ハニージョイにピーナッツを砕いて混ぜてもアクセントになっていいかもねなどとアドバイスをくれる。

ピーナッツかあ。アーモンドは? 私、アーモンドの方が好きだな。

 

ふーむ。蜂蜜をメープルシロップにしてもいいかも?

うーん。その場合の名前は、ハニージョイじゃなく、メープルジョイになっちゃうねえ。

 

 

 

冷ましたハニージョイを、用意しておいたワックスペーパーに包むのは、おばあちゃんが手伝ってくれた。私はまだ綺麗にリボンを結べないから、助かる。

 

 

後片づけをしたりと、お昼近くまでキッチンを占領していたので、おばあちゃんが横でお昼ご飯の仕度を始める時も、私はまだキッチンにいた。

 

 

「蘭ちゃん。おうどんとパスタとどっちがいい?」

 

「おうどん。温かいので」

 

 

冷蔵庫に冷凍うどんが入っているのを知っていた私は、即答した。モチモチの冷凍うどんは大好きなのだ。具材がお揚げと玉子ならば、言うことはない。

 

もう暑い時期だが、あまり冷たい麺類は好きじゃないので、夏でもうどんは温かいのが食べたい。一推しは鍋焼きうどんだけど、あれが美味しいのは、やはり寒い時期だよね。

 

さて用意は出来てるし、習字の教室までは、まだ時間があるから、ちょっと休憩しよう。

 




レシピは簡単な手順なので、時間をかけさえすれば、作中の蘭ちゃんの年齢でも作れます。

問題はラッピング。蝶々結びって、自分は何歳で出来たかなあ…。


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