風少女 〜蝶の羽ばたき〜   作:小方

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一週間ぶりです


△22 迷うときは、どうしても迷うんだよ

お昼ご飯におうどんを頂いてくつろいでいたら、おばあちゃんが急な用事でお出掛けすることになった。本当に急な連絡だったので、おばあちゃんは考え込んでしまった。

 

 

「蘭ちゃん。もしかしたら、お習字の時間に間に合わないかもしれないわ。帰りが、夕方を回りそうなの。今日はお休みにしない?」

 

 

習字の時間は3時から6時の間だ。特に時間の縛りは無く、その間の1時間に指導を受ける。いつもは学校が終わったら、おばあちゃんが車で送ってくれるので、私は大体4時くらいから1時間の指導を受けている。

今は1時を回ったばかりなので、送ってもらうにしても早すぎるのだ。車ならね。

 

 

「バスで行くから大丈夫だよ」

 

 

流石に二年生ともなれば、バスを一人で利用するくらいは、出来る。現に引っ越したために今の自宅マンションが、小学校の学区ギリギリとなってしまい、通学にバスを利用していた。

 

ポアロの上に住んでいた時に何度か、おばあちゃんと今のマンションの下見でバスを利用した事があるし、乗る路線も分かっている。だから別にバスで行っても問題は無い。はずだ。

 

目的地が行ったことの無い場所ならともかく、何度も足を運んだ習字の教室だし。大丈夫だろう。たぶん。

 

バスを使ったのは去年だが、バス通りとポアロのビルの通りは、そんなに離れていなかったし。大丈夫だよ。きっと。

 

 

「早い時間にバスで行って、暗くなる前に、帰りもバスで戻ったらいいじゃない」

 

「あら、先生のご用事で、時間が変わるんじゃなかったかしら?」

 

 

あ、そうだった。今週は先生の都合で開始時刻が1時間、後ろにズレると連絡があったのを忘れていた。今週だけは4時から7時になるんだ。

そうなると最初に入っても、帰りは5時以降だ。

 

 

「また終点まで行ったりしない?」

 

「大丈夫だよ。たぶん」

 

 

実はバス通学を始めた頃、団体客に巻き込まれて、最寄りバス停を降りそこねて終点まで行ってしまい、こっそり座席で泣いていたことがある。

まあ、折り返し運転だから時間はかかったものの、目当ての停留所に着いた。でも私が座席にいることに気が付かなかった運転士さんを、凄く驚かせてしまったのだ。

おばあちゃんも予定時間をだいぶ過ぎても、バスから降りて来ない私を心配して、学校へ連絡するところだった。

 

つまり私に前科があるので、夕方の混雑するバスから、また降りそこなうかもしれないと、おばあちゃんはバス帰宅に否定的なのだ。

じゃあ、行きだけバスにすればいいじゃない。

 

 

「お習字が終わったら、ポアロで待ってるよ」

 

「そうね。終わり次第迎えに行くわね」

 

 

 

 

習字の先生のお家は米花5丁目。同じ米花町内でも、私の家からは距離があるので、バスに乗らないと行けない。でも路線が一緒だから、降りるバス停を間違えなければ、私でも問題は無い。

 

お習字の先生のお家は、ポアロを目標物にすればすぐだ。

おばあちゃんのビルだ。

 

念のためにと、おばあちゃんが心配して用意してくれた地図には、バス停からポアロへと至る道順が描かれている。

 

問題は無い。私が道を間違えなければ。間違えなければね。

 

しつこいって? 仕方がないじゃない。だって、迷っちゃったんだもん。

 

そう。あれだけ大丈夫だと言ったのに、迷ってしまった。

 

 

おばあちゃんが善かれと思って描いてくれた地図は、何の役にも立たなかった。

 

地図は写真じゃない。目に見た景色通りを、写したものじゃないんだ。あくまでも目印になるものを、記号にして表示したものなんだ。

つまり私に読み取る力が無い以上、地図は何も教えてくれないということ。

 

去年何度か通ったはずの道が分からず、進む方向も曲がる角も間違えて、私は全然反対の通りに出ていた。

 

不思議だね。確かにバス停を降りた時は、まだ自分が行くべき方向は分かっていたんだよ。

 

なのに横断歩道を渡って、自分の立ち位置が変わったとたんに、どっちへ進めばいいのか分からなくなってしまった。

 

少し迷って私が足を踏み出したのは、きっと逆方向だったんだな。何度か角を曲がり、ポアロに着く距離くらいを歩いて差し掛かったのは、小さなビルや建物が目立つさほど広くはない通りだった。

 

ポアロがあるのは大通りで、商社ビルやカフェなどの飲食店のテナントが入ったビルが軒を連ねているから、明らかに道が違う。たぶん目的地からは、道が一二本ズレている。

 

今度からは、自分が思ったのと逆に進んだ方がいいのかもしれないと、この時に思ったが、今思うと満更不正解ではなかったんだよね。

 

 

 

 

 

 

「そういう訳で小さい頃から、筋金入りの方向音痴なの」

 

 

いや、筋金入りと言うのはおかしいか。別に方向音痴を鍛えてるわけじゃないし。

 

でも実際に努力も虚しく、むしろ方向音痴の度合いはレベルアップしている気がしている。特に初めての場所は、地図があっても辿り着けないの。ごめんね

 

今日も快斗君と青子ちゃんが通う江古田高校のある地元に来るのに、迷いに迷って約束の時間を1時間半もオーバーして到着してしまった。

一応1時間の余裕を見ていたのに、見通しが甘かった。迷いに迷って更に1時間半も余計にかかるなんて、我ながら酷い話だと思う。

 

変な人に声をかけられて時間を無駄にしたことも理由だけど、それは私のせいじゃないし、運がなかったんだよね。

 

 

 

「はあ…。お前さあ、地図アプリがあってもダメって、どんだけ方向音痴なんだよ」

 

 

「うーん。まず、地図が分からないかな。地図の中の自分が、何処でどちらに向いて立っているのかが、理解出来ないの」

 

 

「マジかよ」

 

 

マジだよ。

 

けっこう長い付き合いなのに、知らなかった…。と快斗君が溜め息を吐いた。

だろうねえ。待ち合わせの場合、たいてい送ってもらってたし、快斗君や青子ちゃんが一緒にいる時は、私が先導して動くこともまず無いし。

 

 

「もう、快斗ったら。次からは、青子たちが蘭ちゃんを迎えに行くから、いいじゃない」

 

 

今日はたまたま待ち合わせ場所が学校だったから、来てもらって迷っちゃったんだから。

ね。蘭ちゃん。って青子ちゃんが慰めてくれる。でも一度迷ったから、たぶん覚えた。次は大丈夫。だと思う。

 

 

「いいから、早く行こうよ。せっかく二人とも当番代わってもらったんだもん」

 

「そうだな。腹も減ったし、焼きそば食いに行くか」

 

 

青子露店のチケット出せよ。えー最初は唐揚げにしようよ。青子、唐揚げ食べたい。

などと、まるで子犬の様に二人がじゃれだす。

ああ、二人とも仲良しだ。ラブラブで可愛いね。照れてないで早く付き合っちゃえよ。

などとうっかり和んでいると、両腕を二人に引っ張られた。

 

え、私。連行される宇宙人みたいになってない?

 

 

「腹減ってんだから、焼きそば」

 

「青子は唐揚げがいいの」

 

「はいはい。順番に行きましょうね。まずは混んでない方にしましょうか」

 

 

せっかく二人の学校に来たんだから、後でクラスの展示とかも見せてね。

 




後半途中から、語り手の現在である原作時間に移りました。

小1の快斗君との出会いから、青子ちゃんが途中で交ざって、学区は離れていても3人とも仲良しです。

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