風少女 〜蝶の羽ばたき〜   作:小方

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シニョンって、分かるかな?
お団子頭のことですよ。

バレエのシニョンは、高いと髪飾りを付けるのに邪魔になるので、首筋に近い低い位置でぺたんこのお団子になるよう作ります。




△8 似て非なる者

「美味しかったー」

 

「そうね。また来ましょうね」

 

「うん」

 

 

今日はお母さんと、お昼ご飯を食べる約束をしていた。お母さんの勤める弁護士事務所近くに、評判の和食レストランがあるというので、そこでの食事だ。

 

土用の丑の日にはちょっと早いけどと言いながら、お母さんは鰻重を注文してくれた。

 

 

「暑いけど、負けずに頑張らないとね。蘭もお稽古頑張ってるのね。…お団子頭も似合うわよ」

 

 

すっかり私のトレードマークになってしまった頭のシニョンを見て、お母さんが笑う。

 

バレエを始めてから、教室のお友達のように伸ばし始めた髪は、やっと肩を過ぎる長さになって結えるようになった。

 

毎日おばあちゃんが結ってくれるシニョンは、首筋がすっきりして涼しい。見た目もバレリーナっぽく見えて、私もお気に入りだ。

 

 

「前髪も伸ばすの?」

 

「うん。汗で張り付いて気持ち悪いから。…変?」

 

 

まだ上げるには短い私の前髪はピンで留められ、おでこが丸出しになっている。まだちょっと見慣れないが、別におかしくは…ないと思う。

 

 

「とっても可愛いわよ。その方が女の子っぽくて良いわ」

 

「えへへ。お母さんと一緒だよ

 

「そうね。お揃いね」

 

 

いつもポニーテールのお母さんだが、今日はたまたま私と同じ髪形だった。お母さんとのお揃いを褒めてもらえたのが嬉しくて、笑った。

 

 

今日は頬がゆるみっぱなしだ。

ご飯は美味しかったし、この後はバレエスタジオまで送ってもらう予定だけど、まだ時間があるから。

もう少しだけ、お母さんと一緒にいられる。

 

 

「バレエは3時からだったわね。ちょっと時間があるから、この後…」

 

 

ふいにお母さんの携帯電話が鳴った。

 

笑っていたお母さんの眉が、着信表示を確認した途端に曇る。

…お仕事の電話かな。

 

 

「蘭、ちょっと電話をしてくるから待っててね」

 

「うん」

 

 

お母さんは電話をするために、店の外に出ていった。さっきまでの浮き立つ気持ちが、急速に萎んでいく。

 

ああ、残念。気分が下降して行くのが止められない私は、お手洗いへ気分転換に手を洗いに行った。

 

鏡に写る下がり眉のへにょんとした自分の顔。変な顔だなあ。前髪を上げていると表情が丸見えなんだ。

見ていたくなくて、顔を洗ってお気に入りのハンカチで拭いて、お手洗いを出た。

 

それでも気分を変えられず、しょんぼりしていると、ふいに声が掛けられた。

 

 

「なあ、お前。あー。えーと。蘭、蘭だよな」

 

「あ」

 

 

振り向くと見覚えのある男の子が立っていた。彼は…。

 

 

「なんだよ。覚えてたの俺だけかよ」

 

ぼんやりして反応を返さない私に苛立ったのか、その子は不満気に呟いた。

 

 

「……覚えてるよ。魔法使いの快斗君」

 

 

快斗君と、ついこの前会ったばかりの新一君の顔立ちがよく似ているため、一瞬戸惑ってしまった。でもよくよく見れば全然違う。

 

 

「こんにちは。快斗君」

「おう」

 

 

この前会った新一君の興味無さげな、不機嫌そうな顔と、目の前の人懐っこい快斗君の曇りのない明るい笑顔を比べてみる。

 

うん。丸っきり真逆の反応。別の人だね。

 

 

「ごめんね。快斗君によく似ている子と間違えたの」

 

 

「なんだよ。それ」

 

 

第一印象でやらかしてくれたアレな快斗君だが、今の私の中での好感度は高い。

快斗君への好意に、多分に彼のお父さんが影響していることは、誰にでも想像に難くないだろうけれど。

 

もしここにいたのが、快斗君ではなく新一君だったら。私は挨拶もそこそこに、お母さんを待つために席へ戻っただろう。

 

そういえば、快斗君は誰とここに来たかと確認してみれば、店の奥の方の座敷席に、彼のお父さんで天才マジシャン黒羽さんと、恐らく奥さんらしき女の人の姿が見えた。

 

 

 

すっかり黒羽さんに魅せられてしまっている私は、快斗君の手を取って、一直線に駆け出した。

 

そうしてご挨拶をして、彼の小さなレディ呼びがくすぐったくて笑いつつ。少しお話をしていたら、お母さんが戻って来てしまった。

ああ、残念。時間切れだ。

 

 

「蘭ー。どこなのー」

 

 

慌てて黒羽さん御夫妻にペコリと頭を下げ、快斗君には手を振って。それではまた今度と別れる時、快斗君が今度はマジックを見せてくれると言ってくれた。

 

 

「約束な」

 

「うん」

 

 

お互いに名前しか知らず、いつどこで会うとも叶うかも知れない約束だったが、私たちは子供の気楽さで何も思わず別れた。

 

またあの人たちに、会えたらいいなあと夢想する私は、さっきまでの憂鬱さなどすっかり消え去り、いっそ晴れ晴れした気分だった。

 

「お友達と話していたから、平気だよ」

 

 

待たせたことを謝るお母さんに、にっこり微笑む余裕も取り戻していた。

 

大丈夫。ちゃんと笑えてる。ありがとう。

 

快斗君と黒羽さんに、心の中でそっとお礼を言った。

 

 

 

 




原作主人公とは互いに初期値のままの好感度は、怪盗親子に限りかなり高め。
憂鬱も吹き飛ばすレベルです。

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