「ソレハ、バケモノノ話」
「ソシテ再会ノ物語」

13話で登場する『とある絵本』の御話です

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「ソレハ、バケモノノ話」
「ソシテ再会ノ物語」


王子様とまもの

/The Prince and The Beast

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある国の王子は、その日、明るい夜の月を眺めていました。

 

 王子は16歳になったことで、いろいろな外の世界を見るべく旅をする許しをもらいました。

 けれど、王子は特別に行きたい場所や会いたい人がいるわけでもないため、まったく旅に出ようとはしません。

 そんなある日。

 月が顔を覗かせる夜空を、お城の庭で見つめていると、茂みの方で物音がしたのです。

「誰だい?」

 そうたずねても、答えはありません。

 冴え冴えと輝く月の明かりを頼りに、王子は茂みから飛び出す影を見ました。

 

 王子が振り返った先には、漆黒の羽根に包まれた、ひときわ美しい翼の影。

 

 王子はそれが、ヒトと交わることない“魔物”と呼ばれる存在であるとわかりながら、そのあまりにも美しい少女……姫の姿に、一目で恋に落ちました。

 

 

 

 王子は魔物の少女にもう一度会いたい一心で、方々を探して回りました。

 国中を探しても、隣国を訪ねても、あの美しい魔物を見た者はおりません。

 やがて、王子は危険な旅に出かけます。城の庭で旅する意味を見出せなかったのが嘘のよう。

 国の重要な臣下や兵達を付き添わせるにはあまりにも相応しくない、王子にしては珍しい、我儘に過ぎる旅でした。

 あまりにも危険な旅です。

 お付きの者も、何人かが怪我や病気で国に帰るしかないほどの旅。

 それでも、王子は少女に会いたいがために、無茶な旅を続けます。

 そうして、王子の守りが少なくなった時、災いが王子を襲いました。

 

 王子は、とある砂漠を旅した時、不幸にも毒蛇に咬まれてしまったのです。

 残っていたお付きの者たちでは、誰も王子を救えません。

 

 死の淵に立たされ、王子は願います。

「ああ、あの魔物と、もう一度会いたい」と。

 そう願う王子の前に、一人の少女が現れ、蛇の毒を吸い出してくれました。

 人では口に含んだだけでも危険な毒も、少女には平気だったのです。

 お付きの者たちは手放しで喜び、王子の無事を祝いました。

 命を救われた王子は、救われた以上の奇跡に歓喜します。

 

 その少女こそ、あの月の夜に出会った、魔物の少女。

 

 あの美しく大きな翼はありませんが、あの月明かりの中で見た、彼女の顔を見違えることはなかったのです。

 

 

 

 王子は少女を命の恩人として、自分の結婚相手に選びました。

 国の誰もが王子の命を救った少女を受け入れ、その結婚をお祝いしました。

 神父の問いかけに花嫁が応え、花婿となる王子にも同じ問いがなされます。

「病める時も健やかなる時も、死が二人を分かつまで、寄り添い続けると誓いますか?」

「はい、誓います」

 指輪を交換し、2人は誓いのキスを交わします。

「王子の命を救った勇敢な少女に祝福を!」

 大きな歓声と共に、国中が喜びに溢れました。

 

 

 

「ああ、なんて幸せなのだろう。彼女が僕の傍にいる。言葉をかけてくれる。微笑んでくれる! 彼女が魔物だろうと関係ない! 僕は彼女を愛しているんだ!」

 王子たちは幸せでした。

 国の仕事をする王子を、隣で支えてくれる姫。

 王子たちは時にゆっくりと、色んな場所へ旅にでかけました。彼女を探す旅で、王子は国の外の美しい世界を知っていたのです。

 サファイアを散りばめたような大海、煌めく光の草原、燃え盛る炎のように揺らめくオーロラ。

 姫が王子の手を取り、微笑みかけてくれます。

 

「私を離さないで、■■■■」

 彼女からの申し出に、王子は喜んで頷きます。

「僕は君を離さないよ、□□□」

 

 

 

 幸せな日々が、ずっと続くはずでした。

 けれど、徐々に姫の様子がおかしくなります。

 鏡を見ることを怖がり、手袋をして、頭には被ったことのない帽子まで被るように。

「どうしたの?」とたずねてみても、姫は多くを語りません。

 

 そして、ある日の朝、

 王子は共に眠っていたはずの彼女がいなくなったことに気づきます。

 ベッドの上には、彼女が残したらしい、とても美しい……黒い羽。

 王子は国中を探しましたが、愛する彼女を見つけることは出来ません。

 

 

 

 

 

 ならばと、王子は再び旅に出ます。

 

 今回の旅は、今までで一番危険な、“魔物”の森へと赴く旅です。

 お付きの者は誰もついてきたがらないほど、“魔物”の森への旅は危険すぎました。

 

 それでも、王子はたったひとりで旅に出ます。

 

 

 

 

 

 人間を拒み害する“魔物”たち。

 彼等を必死に説得し、彼女が残した漆黒の羽を見せて、その羽の持ち主を教えてもらいます。

 森の“魔物”で、その美しい黒い翼を知らぬ者は、いませんでした。

 

 彼女は“魔物”の姫……魔女と契約し、人間の王子と結ばれながら、森の奥へと帰ってきたばかりだと、魔物たちの間でもっぱらの噂です。

 ついに、彼女の(もと)へとたどり着いた王子。

 ですが姫は、醜い魔物に成り果てた自分を見られたくないと、王子を拒絶し続けます。

 

「私は、あなたなんか愛していない!」

 その言葉が嘘であることは明白でした。

「私は、あなたを騙していた。自分が“魔物”であることを隠して、人間のフリをして、近づいて、結婚までして……この呪わしい姿を解くために、あなたの首を引き裂いて、殺そうとまでしたんだ!」

 その言葉は確かに真実でした。

「帰ってください……お願いだから」

 涙の訴えに対し、王子は引き下がりません。

 

 

 

「病める時も健やかなる時も、死が二人を分かつまで、寄り添い続けると誓いますか?」

 王子の口から、懐かしい結婚の誓いがこぼれます。

 

 

 

「僕は君を愛している。醜い魔物だろうと関係ない」

 ともに過ごした日々の中で、彼女の存在は、王子にとってなくてはならないものになっていました。

 そして、王子は告白します。

「僕も君に謝らないといけない。僕も、君を騙していた。

 僕は、君が、……“魔物である”と、知っていたんだ」

 姫は驚きます。

「それでも、僕は君に恋をして、いくつもの国を旅して、ようやく君に出会えた……今さら、こんなことを言っても信じてはもらえないかもしれないけれど、僕は本当に、“魔物”の君が好きなんだ」

 姫は黙って頭を振ります。

「君の美しい羽も、君の優しい瞳も、今のその姿だって、すべて愛している」

 姫の長く歪んだ爪と傷だらけの掌を、王子は自分の両手で包み込みます。

 王子は、たくさんの愛情をこめて、姫に語りかけます。

 

「僕の国の仕事を手伝ってくれて、ありがとう」

「僕と一緒に、いろいろな場所を旅してくれて、ありがとう」

「僕みたいな、嘘つきな王子と結婚してくれて……本当に、……ありがとう」

 

 いつしか、魔物の姫は大粒の涙を流し、自分もいかに王子を愛しているのか語ります。

 

「私にヒトの幸せを教えてくれて、ありがとう」

「私と一緒に、たくさんの時を過ごしてくれて、ありがとう」

「私のような、醜く歪んだ魔物を愛してくれて……本当に、……ありがとう」

 

 人間の王子は、愛する魔物の姫に口づけを交わします。

 

 

 

 すると、どうしたことでしょう。

 姫の呪われ歪み果てた姿が、見る見る内に、元の姿へと戻っていきます。

 驚き合う王子と姫。そこへ姫を人間にした、あの森の魔女が現れました。

「私は言ったね。

『お前が最も愛するものをその手で殺せば、お前の呪いも解け、元の魔物の姿に戻れるだろう』と」

 頷く姫に、魔女は説明します。

 

「お前は今、自分が愛していた偽りの王子、『人間としてのおまえを愛した王子』を殺し、『魔物としての真実の姫を愛した王子』を、改めて今ここで得たのさ。これからは、自分を偽ることなく、“魔物”としての姫のままで、王子と共に暮らすんだよ」

 

 姫と王子は魔女に感謝を捧げます。

 

「けれど、覚えておいで。人間と魔物が結ばれ続けることは、とても大変なことだ。人間の国と魔物の森、ふたつの世界を納得させ、おまえたちの在り方が正しいと、間違ってはいないのだと、そう教えていかなければならないんだよ」

 

 それは、ただ人として生きることよりも、ただ魔物として生きることよりも、はるかに難しいことでした。

 

 

 

 

 

 

 

 人間の王子と魔物の姫は、固く寄り添い合って、あの誓いをやり直します。

 

『病める時も健やかなる時も、死が二人を分かつまで、寄り添い続けると誓いますか?』

 

「誓います、僕の□□□」

「誓います、私の■■■■」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり

 

 

 

 




13話の感動のあまり書き上げてしまいました。
『まものと王子様』という絵本の「続き」をイメージした二次創作です。
あの悲しい絵本には、
こんなハッピーエンドがあるのだと、そう信じたい。


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