Fate/Gray Sheep   作:雑種犬

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ごめんなさい今話はギャグが息してないです。


turn 2

  ……さて、準備できた。

  祭りの始まりね。

 

その日の中に、私は召喚を行おうとしていた。

英語圏で言うところの「干し草は日の高いうちに干せ(make hay while the sun shine)」だ。

この国の言葉で言えば、同じような意味の言葉は「善は急がば回れ」だったか。

善は回った方が早いとはどういう意味だろうか……回ると早くなるゼン……ライフリング?銃?

なるほどつまり悪を撃つことが善を為す近道であり、生かして更生させようなどとは考えるな、という意味か。なるほどなるほど、一定の正しさを含む主張だ。日本怖い。

結論が出たところで、話を戻そう。

今は昼前、正午まであと僅かというところだ。

まさしく「日の高いうちに(while the sun shine)」の言葉通り、太陽が正中する時刻に合わせて召喚を行う。

 

  支援せよイスファハーン。最大出力で魔力供給を。

 

傍らに佇むオブジェクトに命じる。

それは宙空に直立する二重螺旋杖。

西方の神話に語られるケーリュケイオンのような形状を持ち、表面は黒銀色の装甲で覆われた奇妙な物体。

戦後に収納用の時空魔術を習得して以来ずっと持ち運んでいたこの物体を、随分久しぶりに取り出した気がする。

神話時代に造られたモノリスと呼ばれる兵器群、その内の一つがこのオブジェクトだ。

機種名は"ナイトブリンガー級マザーモノリス"、機体名は"稟都イスファハーン"。

イェニ・ルームとの戦いで擱座した幾つかのモノリスのパーツを再利用して建造されたものであり、現存するモノリスの中でも全機能が生きている数少ない機体だ。

 

このモノリスを今持ち出した理由は二つある。

 

一つは、先の台詞にもある通りに魔力源とするため。

モノリスはいくつかの機能を備えており、その一つが魔力供給機能だ。

固有の機体名をつけられた上位モノリスが持つ魔力供給能力は凄まじい。

イスファハーンの名を持つこのモノリスも例外ではなく、忘都スーサより取り出された魔力炉をそのまま内蔵しているのだ。

あの後に神父に聞いた情報を併せて考えれば、召喚に用いる魔力は多い方が良いようだ。

彼が直接そう言ったわけではないが、そう考えるに足る理由はある。

召喚対象はイェツィラー界の無意識集合が象る英霊でありながら、その霊は本来の状態よりも能力が劣るそうだ。

能力が低下する理由など、能力を再現するための魔力の不足くらいしか思いつかない。

優秀な魔術師ほど強力な霊を得やすいとも言っていたのだから、魔力量の問題と考えて間違い無いだろう。

 

もう一つの理由は、降霊の触媒として用いるため。

これによって、それなりの精度で召喚獣の性質を定めることができる。

つまり、稟都イスファハーンに縁のある者の霊が喚起されることになるだろう。

尤もイスファハーンは比較的最近になって復元された機体であるため、これ自体ではなくこれの材料となった忘都スーサや破都ペルセポリスの縁を期待してのことだ。

あるいはそれより昔、古代エーラーンで用いられた原初のモノリスの関係者も対象となりうるだろうか。

 

モノリスの歴史は三つの時代に分けられる。

最初にモノリスが造られ双角のアレクサンドロスに撃滅された古代エーラーン帝国の時代。

発掘と復元がなされながらもイェニルームの銃砲により多くの復元モノリスが破壊された聖性エーラーン善教国の時代。

そしてその後、現存するモノリスの殆どが残骸という状態でエスケンデレイヤのアトラス院所管の施設に保管されている現代だ。

モノリスに関わりのあった故人と言えば、自分が名前を憶えているだけでも数十人は下らない。

その中から特定の個人を喚び出すことは難しいだろう。

求める者が居ないでもないが、個人レベルでの特定には大して期待しているわけでも無かった。

 

ともあれ、召喚の準備は整っているのだ。

ならばこれより召喚の儀を始めよう。

 

イスファハーンのサポートを受け、総身に魔力が満ち溢れている。

モノリスは神話時代の決戦兵器というだけあって、その魔力供給能力は凄まじい。

ともすれば一個方面軍の戦闘行動で消費される膨大な魔力をたった数機で賄いきるような代物だ。

通常であれば個人が受けるには過大に過ぎる魔力量。

だが自分ならば多少は耐えられる。

これでも自身は生まれながらにして強力な魔の適性を持った純粋なデビル族、その中でも最上の位階に達したアークデーモンだ。

魔力容量だけなら、アークデーモンの底辺でさえイプシシマス(魔法使い、人間族として最高位の魔術師)に匹敵する。

万の敵軍から魔力を奪い尽くす第三代魔王などと比べれば流石に劣るが、それでもそれなりの自信があるのだ。

 

  遍く照らす神智の威光の下に、רִאַמם(神の火を意味する名)が杯の業にて霊を喚起せしめん。

 

これから行う儀式の概要を宣言し、魔術回路を最大出力で稼動させ始める。

その有様は本来の体積を超えて膨張する風船に穴を開けたかの如く。魔力は決河の勢いを以て流出を始めた。

体外へと溢れ出す魔力は無意識のうちに統御され、明確な指向性を持った魔術となって吹き荒れる。

無意識下で現れるのは先天的に得意とする術。即ち水の属性にして凝固の特性。それは氷雪の嵐となって具現する。

魔族としては当然ながら闇属性(魔術教会が定義するところの虚属性)も十分に扱えるのだが、リアムスの場合は闇よりもなお水を得意としていた。

風雪が周囲を薙ぎ払えば、無数の氷晶は触れる物全てを悉く侵食しながら樹氷へと変わってゆく。

 

  其、エーテル光を捉えセフィロトを遡らん。

  天上の火、まさに降り来たれり。

  五重に返し五方に奔り、遍く地を撫で払わん。

 

吟詠するのは英霊を召喚する呪文の前半部。召喚陣を起動させ、安定させる呪言。

尤もそれそのままというわけではなく、普段用いている呪文の形式に合わせて大きく改変したものではあるが。

抑、必ずしも魔術に呪文など必要無いのだ。呪文とはただの精神集中(イメージ)型通りの行動(ルーティン)に過ぎない。

言葉を発するならば、精神はそれに追随する。魔術にとって重要な要素ではあるが、所詮は心象風景の明確化に過ぎず、もとより明確に思考できるならば必要の無いものでもある。

特定の言葉を発するとき、同時に特定の魔術的操作を行う。条件反射として刻まれた行動は、精神集中の度合いによる施術精度の誤差を緩和する。これも場合によれば必要無いだろう。

あるいはこれとは異なる術理の呪文、例えば言葉自体が効力を持つようなものも存在するが、それでもこの呪文はそうではない。

 

詠唱とともに、無差別に放っている魔力を徐々に意識の制御下に置いていく。

連れて、それまで通りの氷雪に加えて熱と光が身の内から溢れ出る。

それは炎。我が身より出て氷雪へと燃え移る魔術の火。

雪は雪のままに燃え、氷は氷のままに焼ける。

ホレブの柴にも似た、溶ける事無く燃え尽きる事無き紅蓮の氷雪。中空を舞う氷の結晶とて火の粉の様相だ。

天上に聖炎たる太陽と、地上に魔炎たる氷火。ここに在る全ては火に包まれた。

 

  聖数に閉ざされたる真理の瞼を開き、霊器と霊石の下に招来せん。

  我はスプンタマンユとアンリマンユを知りたる者。峻別の法に従いたる者。

  我、地の理に従い二元のダハトとウォフマナフの意志を以て願えり。

  マズダアフラよ、天の理に従い我が前に善なる導き手を遣わし給え。

 

召喚呪文の後半部、召喚そのものを行うもの。

前半部よりもなお原型から乖離したこの呪文は、それでも召喚という機能そのものは問題無く果たせるだろう。

断言せずに「だろう」と表現するのは、この部分が自身ではなく聖杯を制御するものだからだ。

即ち先に述べた"異なる術理の呪文"だ。

魔術基盤たる聖杯への呼び掛け。聖杯に対する召喚の宣言。

前半部分は余興に過ぎず、この後半部分こそが召喚術式の核なのだ。

 

全周に向けて放射している魔力の矛先を魔法陣のみへと絞る。

極度の精神集中は魂を時間から解き放つ。歪み捩れた時の中で、数瞬か、それとも数刻か。

氷炎に閉ざされた世界の中心に、ある時白い光球が現れた。光球自体は大した大きさではないが、強烈なフレアで視界を埋め尽くす。

眩い視界の中でもはっきりと知覚できる。深き天上より呼び起こされたエーテルの奔流が迫り来るのだ。

原理的には、高密度のエーテル光束による流動的なエーテル質の隆起と言えよう。即ちアストラル体の招来だ。

やがてエーテル光がアストラル体と交わりエーテル体を具現化し、次にエーテル光はエーテル体と交わり肉体を創り上げるだろう。

視覚では見えない霊視の領域。私が視ることができるのは物質界に近い位相にあるエーテル界とアストラル界までだが、仮に私よりも高位の術者であればさらに根源に近いイェツィラー界や根源そのものであるアツィルト界にまで知覚が及ぶのだろうか。

 

眼前にてエーテル光は収束し、アストラル体が形成される。

強力な思念体の現出に伴う余波、高圧の精神衝撃波が私に降りかかる。それは私の周囲に展開されている防護力場を暖簾の如く退け、私自身をも飲み込んだ。

アストラル側における強度が高くない者であれば、人格が漂白されかねない程の力。それは何も感じることの無い無我無心の境地へとリアムスを連れ去ろうとする。

その被害をある程度小さく抑えることは可能だが、完全に被害を無くすことまではできない。

五感が消え去る独特の感覚。

仄かな光、僅かな熱量を感じる。否、実際には仄かや僅かといったものではないのだろう。精神波により鈍化した感覚が認識を矮小化しているのだ。

 

――――ふと我に返る。今し方、恐らく数秒にも見たぬ一瞬ではあるが、私は意識を喪失していたらしい。

両の瞼が天上の火の如き明烈なる力に恐れをなしたのか自らを閉ざし、眼球を闇の奥底へと封じていた。

魔力の放出は未だ無意識に続いているが、いくらか制御が緩んでいる。感じた熱はその影響でもあるようだ。

 

体外に魔力を放出するならば、いかなる魔術であれ副作用として魔力自体が術者と施術対象を阻む結界となる。

これは召喚術であるためにその結界は防衛術のものより劣るが、それでも扱う魔力が多ければ結界の強度は高まる。

ならば膨大な魔力を放出し続けている私の前にはそれ相応の強度を持った防護力場が発生しているなのはずだが、精神波は僅かに減衰しながらも力場を容易に貫いたのだ。

貫通というよりも浸透といった方が適切なのかも知れないが、そこまで思惟する余裕は無いために捨て置く。

兎に角、相当に強烈な精神波なのだ。

降霊によってこの規模の余波が発生するなど尋常では在り得ない。明確に精神支配を指向する術かと疑わしくなる威力だ。

私が知っている限りで同様の例を挙げるとしても、たった一つだけ。イェツィラー界より引き出した高位天使偶像の具現くらいなものだ。

であれば、ここに現れた召喚体は思念体として熾天使のイェツィラー体に匹敵する強度を持っているということになる。

天使であろうか悪魔であろうか、少なくともそれが人間だとは思えない。

 

閉じていた瞼を開けば、見える光景は召喚の儀の成功を示している。

視界に映るのは大いなる霊の写像。その周囲に、もはや氷雪は存在していない。

その人影が纏う浄火は、触れる物の悉くを焼き尽くす燎原の尖兵。

ひと通り見渡してから再び視線を正面に戻したとき、英霊は徐に口を開いた。

 

  問おう。貴方が私の――――




・make hay while the sun shine
できればペルシア語かサンスクリット語の言葉を使いたかったけど、よくわからんので諦めて英語で妥協した。
英語なら同じ意味でもっと有名な言葉に鉄は熱いうちに打て(strike while the iron is hot)があるけど、語中に(sun)がある方が拝火教徒のリアムスには似合いますよね。

・魔術
型月と光の目は当然として、他にもいくつかの魔術理論を参考にしてます。
創作物だけでなく、リアルの近代西洋魔術とかもちょっと混ざってたり。
とはいえリアルの魔術について詳しくはないんですが。
とりあえず入門レベルの近代西洋魔術については、ただの精神修練みたいなもんだと認識してます。
意外と、宗教家を敵に回すような邪悪な雰囲気は感じないですね。
あ、でも入門段階では日常生活の中で他人に悟られない方法で精神修練(魔術を行使)するけど、完全に魔術行使をカモフラージュできるようになったら次の段階ではガチの邪悪な黒魔術とか出てくる可能性も。コワイ。

・シリアス
幸いにも、次話はシリアスが息してないです。
何がどう幸いなのかはわかりませんけど。
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