Fate/Gray Sheep   作:雑種犬

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turn 3

  貴方が私のマスターか!

  天知る地知る私知る!

  なんという深い畏敬!なんという篤い祈り!

  例え多聞天とかそこらへんが聞き逃しても私の耳は逃しません!

  地に舞い降りた日輪は沈まず貴方を照らしましょう!

  邪悪な程に美しい神の化身、天狐キャスター参上です!

 

  ……これあかんやつや。

  チェンジ。チェンジで。

 

それは人間に近い姿でありながら獣のような耳と尻尾を持った存在だった。

この召喚獣が喋った言葉の意味を認識した瞬間、そう言わざるを得なかった。

そのとき私は、きっと死んだ魚のような目をしていただろう。

「邪悪な程に神の化身」とかなんとかいうのは私が過去に言った言葉だ。

自己紹介の振りをしながらさりげなく黒歴史を掘り返すという鬼畜の所業。

残酷な不可避の一撃が私の精神を蹂躙したのだ。

いや、一撃ではない。二撃。三撃。更なる黒歴史が私を襲う。

 

  チェンジ!?

  この私の決め台詞に対していきなりなんてこと言ってくれちゃってるんですかこの悪魔!

  500年前から何も変わってませんね!そのせいで貴方は駄目なんです!脱皮できない蛇は滅びなさい!

 

  もうやめて!とっくに私のライフはゼロよ!

 

  力と知でセディエルク様を越えてみせるぅっ!

 

  ああああああああ!!

 

  焼き払えペルセポリスぅっ!

 

  ■■■■■■■■!

 

 

 

駄狐による黒歴史発掘大会は数十分にわたって続いた、というのは後になって聞いた話だ。

私の記憶はペルセポリスらへんで途切れているのだから、後から聞かねばわからぬのも道理であろう。

暫く狂戦士の如く叫んでいたが、地獄が終わる頃には魂が抜けたような表情で立ち竦んでいたらしい。

 

その後、私は意識を取り戻すまで放置されたようだ。

先程我に返ったとき、目の前で駄狐が私を見下しながら愉悦の表情で高笑いしていた。

ずっと笑っていたらしい。

目が合ったので「完全にメインヒロインの笑い方やな」とだけ言っておいた。

駄狐はそのえげつない表情を自覚したらしく、膝から崩れ落ちた。意趣返しには成功したようだ。

しかし何だろうか、この虚しい勝利は。

 

何はともあれ、結局私達は数十分、というか1時間近くを無為に過ごしたわけだが。

最初からずっと気になっていたことがある。

 

  っちゅーか誰てめー?

 

ので。

問おう、貴方が私のサーヴァントか。

 

  キサマ、余の顔を忘れたと申すか!?

 

  知らぬ存ぜぬ。

 

  酷い!私との事は遊びだったのね!よよよ……。

 

  記憶にございません。

 

  モノリスであんなにテレパシーのやりとりした仲じゃないですか!

  写テレパシーだって送ったっていうのに、私を見てもわからないんですか!?

  ならばこいつで思い出させてやる!この印籠が目に入らぬかー!

 

  あっ……(察し)。遺憾の意を表します。

 

駄狐が持ち出したのは遍照の神のシンボルが描かれた印籠だ。

何故印籠なのかがわからないが、まあとにかく印籠だ。

そう、私は印籠というものを知っている。この国の有名な歴史ドラマに頻繁に登場する小道具で、たぶん古代日本で用いられていた身分証だ。

まぁ印籠は置いといて。

 

私は多分、また死んだ魚のような目になったと思う。

理解した。

理解してしまった。

この駄狐が黒歴史の元凶だということを。

全部こいつのせいなのだと。

即ちこの者の名は。

 

  遠坂時臣(全部時臣のせい)……!

 

  違わいっ!?誰がアゴヒゲか!

  ボケるにしてもせめて性別ぐらい一致させやがれコンチクショー!

 

自分で言っておいてアレだが、トーサカなんたらというのが誰なのかわからない。

咄嗟に口をついて出た言葉でしかないのだ。

名前自体には聞き覚えがあるような気もするが、何故ここでその名が出たのかわからない。

駄狐には通じているようなので、実在した人物ではあるようだが。

まあそれはどうでもいい。

言い直そう。

 

  おっと言い間違った。

  この世全てのz……悪。

 

  そうですそうですその通りでs……と思ったら最後の一文字が思いっきり違いますー!?

  なんで言い直した!なんで言い直したんですか!

  悪じゃなくて善ですよ善!真逆じゃないですか!

  遍く照らす神智、アフラマズダの一側面!天照の玉藻ちゃんですよ!

  テレパシーのハンドルネーム欄にちゃんと遍照の神サマ☆って書いてあったでしょーが!

  っていうか言い間違いってレベルじゃねーぞ!

 

  あんたのどこが善ですと!?

  テレパシーで洗脳してきたのとかギルティ過ぎるし!

  マズダは洗脳とかしねーし!

  他人の黒歴史で愉悦もしねーし!

  完全に邪神の所業だし!

  あと写テに写ってたのはもっと神々しかったし!

 

  うっ。

  そ、それはアレですよ、悪い面が顕現するのは仕方無いんです。

  ほら、複数の神格が習合した結果が私ですから、純粋な善神じゃありませんし……。

  あと洗脳じゃなくて啓示と言ってくださいな。

  確かに最初はちょっと啓示をぶっこみすぎましたけど、

  途中からしっかり手加減したから良いじゃないですか。

  写テについては、ちょぉっとだけフォトショ的なアレでエフェクト入れたような気が……

  えーとつまり私が言いたいのはですね、私は悪くねー!ということです!

 

……結論を言えば、駄狐の正体は本人も言うように遍照の神で間違い無いと思う。

ただ、そうだとするとわからない点がある。

 

  それで、何故に遍照様がサーヴァントなんですか?

 

  んー、何故と言われても。

  なんとなく面白そうだから来ただけですし?

  あとなんかリアムスちゃんに呼ばれましたし?

 

  そですか。でも神族って、ちょっと呼んだぐらいじゃ現れないもんだと思ってましたけど。

 

  最近は拝火教なんて下火ですから。火だけに。

  リアムスちゃんみたいな数少ない狂信者げふんげふん、敬虔な信徒は目立つんですよ。

  私のアフラマズダとしての神格が消滅の危機に……というと大げさですけど、

  そこそこ弱体化してますから信者は大事にしとこうかと思いまして。

  まあさっきも言った通り複数の神格の習合体なので

  万が一そのうち一つ消えても致命傷にはならないんですけど、

  それでも消えたら嫌ですからね。

  というわけでリアムスちゃん、存分に私を崇めなさい?

  ついでにパーッと布教なんかしてくれちゃってもいいんですよ?さあ、さあ!

  教義上は拝火教に改宗できない遺伝的な異教徒達も、

  信仰心さえあれば多少は私の役に立てるんですからね!

  何ならこの際、神道とかでも構いませんし!

 

  ……知らん。帰って酒飲んで寝る。

 

 

 

宿に帰ってから気付いたけれど、お酒無かった。

ので、代わりにミネラルウォーターのお湯割りをロックでいただきます。ぬるい。

なんか駄狐がいきなり良妻みたいな雰囲気を醸し出しながら飲み物を差し出してきたと思ったら、なんでこんな意味不明な水なのか。嫌がらせか。

 

  お味はいかがですか?

 

アルカイックスマイルを浮かべながら尋ねてくる駄狐。

こんな奴に対して言うべきことなど一つしか思い浮かばない。

 

  知るかボケ!




・駄狐
Fate/EXTRAとかのやつとはまた別のモチベーションで動いてる。
残念な信者が何か面白そうなことやってるので手伝ってやろうかな(手伝うとは言ってない)という程度の考え。
人に尽くすとか良妻とかではなくて、それよりもっと神らしさがある。ネ申。ネコを崇めよ。いや別にキャットじゃないけど。

・アフラマズダ
マズダはアティルト界(型月で言うと根源とか「」とかそんな感じ?)そのもので、サーヴァントはイェツィラー界(型月で言うとガイアとアラヤらへん?)の無意識集合を物質化したもの、というのがリアムスの考え。
マズダを名乗るサーヴァントであっても、サーヴァントである以上は別物として扱う。
ましてや絶対正義ですらないのであればなおさら。
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