DMMORPG「ユグドラシル」-・・・
仮想現実を使ったこのゲームはその圧倒的な自由度の高さから日本国内において爆発的な人気を誇っており、彼もそんなゲームにのめり込んだ1ユーザーであった。
しかしながら流行とは移ろい易いもの。発売から12年の歳月を歩んで来たユグドラシルも今日そのサービス最終日を迎えることになっている。
そんな刹那の仮想ゲームの中で、一人のプレイヤーが悔しそうに拳を握りしめながらつぶやく。
「どうしてみんなそんな簡単にここを捨てられるんだっ…!くそっ!」
彼のプレイヤーネームはモモンガ。ギルド”アインズ・ウール・ゴウン”のギルドマスターであり、異形種”死の支配者(オーバーロード)”のプレイヤーである。モモンガはサービス最終日に引退していった他の40名のメンバーに「最後くらい一緒に過ごしませんか」と誘いのメールを送ったのだが、結局ログインしてきたのはたったの数人。しかも皆早々にログアウトしてしまい、先ほどまで残っていたヘロヘロも今しがたログアウトしてしまった。皆自分の生活があり、事情があるのはモモンガも理解はしているのだが、どうしても心は裏切られたと感じてしまう。そんな自分勝手な自分に嫌気がさし、一つ大きなため息をついたその時、彼のコンソールに一つの通知が入った。
”『キアラ』さんかログインしました”
「っ!?!?キアラさんっ!?」
「まぁまぁモモンガさん。そんな顔をされてどうされましたか?」
そうモモンガに慈愛に満ちたような声で問いかけながら、彼の目の前で形成されたプレイヤー。
その姿はなんとも艶めかしく、白を基調とした露出の多い裸エプロンを彷彿とさせる尼のような姿。そのくせに出るところは出て引っ込むとこは引っ込んでいる完璧なプロポーション。リアルで出会ったら即、痴女認定間違いなしのそのアバターを見るたびに、モモンガはよくBANされないなーといつも感心していた。さらにその姿と同じくらいに目を引くのが頭部から生えた大きな二つの角。その二つの角が彼女もまたモモンガと同様、異形種であることを告げていた。
「お久しぶりですキアラさん!」
モモンガは思わぬ再会に驚きと嬉しさを隠しきれず思わず椅子から立ち上がる。
「えぇお久しぶりでございますモモンガさん。皆さまはいらっしゃらないのですか?」
「いや、さっきまでヘロヘロさんがいたんですけど、どうやらお疲れのようで先にログアウトしてしまって…」
「そうでございますか。どうやら入れ違ってしまったようですね。まぁここで立ち話もなんですし、玉座の方で最後を迎えませんか?」
「えっ?それじゃあ…」
「えぇ、不肖私キアラ。モモンガさんとゲームの最後までお供させていただきますわ」
キアラはその顔に微笑みをたたえながら(まぁゲームなので表情は固定されているが)モモンガにそう告げたのであった。
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「しかし懐かしいですね。キアラさんとお会いしたのは何年ぶりです?」
「そうですね……3年ぶりくらいでしょうか?」
モモンガとキアラは赤い絨毯が敷き詰められた絢爛豪華な廊下を歩きながら久々の会話に花を咲かせていた。彼らの後ろには途中で出会ったNPC。執事のセバスと美しい戦闘メイドのプレアデス達が付き従い、その様相を尚、華やかにする。モモンガの手にはギルド武器”スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン”が握られており、これはキアラがどうせならとモモンガに持ち出させたものだ。
「モモンガさんお一人でこのギルドを?」
「えぇ。皆一様に辞めてしまって…」
「そうですか。でも私は今一度ここに帰ってこれたことを嬉しく思います。これもみなモモンガさんのおかげでございますね」
「いえいえ!俺もそう言ってもらえると、ここを維持して来た甲斐がありましたよ!」
キアラは嬉しそうにはしゃいでいるモモンガを見て、手を口に当てながら”フフフ”と笑った。そうこうしているうちに玉座の間の扉に到着し、そこに控えていたメイドがその扉を開く。そうして彼らの目の前に現れた大きく開けたその空間は、まさしくこのギルドの心臓とでも呼べるほど、華と荘厳さを兼ね備えたものだった。
「俺も久々にここに来ましたけど、相も変わらず凝ってますよね」
「そうでございますね。皆様ここを作るときは一番力を入れておりましたから。まぁ一名ほど作業を途中で放置した輩もおりましたが」
「あぁ。るし★ふぁーさんですね。あの人は飽き性でしたから。そのくせ皆にしょうもないいたずらばっかして回ってて。正直、俺は苦手でしたよ。そういえばキアラさんは、るし★ふぁーさんにいたずらされていませんでしたね?」
「いいえ、一度だけございますよ。その時は懇切丁寧に”お話”させていただきましたのでそれ以降は被害にあったことはございませんね。ウフフフフフフ…」
「あははは…」
モモンガは心なしか黒いオーラを発しながら笑うキアラを見ながら苦笑いする。あの問題児のるし★ふぁーが、もはや彼のライフワークとよんでも過言ではないいたずらを止めたその”お話”とやらが気になって仕方がなかったが、なんとなく地雷になりそうな予感がしたので彼はきくのを止めた。
「さぁギルドマスター様。ここにお座りください。この玉座は貴方様が座るに相応しい場所でございます」
キアラは先に玉座への階段を登り、モモンガへと手を差し伸べる。そばには守護者統括のNPCアルベドが微笑みをたたえながら控えている。
(あぁ、なんかアルベドとキアラさんって雰囲気似てるよなー。まぁ明らかにキアラさんの方が痴女レベルは高いけど)
玉座への階段を登りながらそんなことを考えるモモンガ。
「モモンガさん?どうやらモモンガさんにも”お話”が必要のようでございますねぇ?」
「えっ!?い、いやっ!?そっ、そんなことにゃことにゃっn!?」
とっさのことで玉座に座りながら盛大に噛む。それを見てキアラは仕方ないと言った様子で一つため息をつくと、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを握る彼の手に自分の手を添えた。
「モモンガさん?貴方がアインズ・ウール・ゴウンを愛しておいででしたのは知っております。きっとそんな想いが人一倍強い貴方様は、皆に裏切られたとお思いであることでしょう。ですがおそらくここにいない皆様も同様にアインズ・ウール・ゴウンを愛していたのだと私は思います。何せ私もその愛している一人なのですから。私はたまたまここに戻って来ることができましたが、きっと皆様もここに戻って来たかったはずでございます。ですから皆様の代わりと言ってはなんですが、ここに貴方様へ謝罪と感謝を。貴方様のようなギルドマスターを持てて私たちもこのギルドも幸せでございました」
「キアラさん……..」
モモンガは泣いた。ゲームのアバターで一切涙など流れるはずもないことは重々承知だ。しかし彼はおそらく泣いているのだろう。さっきまで裏切られたなどど思っていた自分が恥ずかしくて、何よりこんなにも優しくて自慢の仲間に巡り会えたことがとても嬉しかった。
「ありがとうございますキアラさん。俺も楽しかったですよ!今までありがとうございました!」
「ウフフフ…世の常とは合縁奇縁と申します。ですからこれが今生の別れになるなど誰が思いましょうか?きっとまたいつかどこかでお会いできますよ」
「あははは!そうですね!では!」
「えぇ」
「「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!!」」
ー0:00ー
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「………………………あっ、あれ?ログアウトされない?」
「そのようでございますね。最後の最後だというのに全くもって締まりのない…」
「サーバーダウンが延期されたんでしょうか?」
「どうやらチャットもGMコールも機能していないようでございますね」
サービス終了時刻を過ぎてもログアウトされない様子に、モモンガとキアラはお互い困ったように顔を見合わせる。
そんな予想外の状況の中、ふと二人の側で第三者の声がした。
「どうかなさいましたか?モモンガ様?キアラ様?」
驚いたモモンガはその声のする方に顔を向けると、NPCであるアルベドが不安そうな顔でこちらの様子を窺っていた。
(NPCが喋った!?そんな!ユグドラシルにそんな機能はなかったはずっ!)
モモンガはその異常な光景に戸惑いながらキアラの方に目を向ける。
すると彼女もいつもその顔に貼り付けている微笑みではなく、何が起こったのかわからないと言った表情を浮かべながらアルベドの方を見ていた。
「モモンガ様?キアラ様?何か問題がございましたか?」
「えっ、あっ、いや……どうやらGMコールがきかないようだ」
モモンガは慌てて自分に詰め寄るアルベドの姿に一瞬テンパるが、なぜか途端に平常心に戻った。
「申し訳ございません。無知な私ではGMコールというものに関してお答えすることができません。この失態を払拭する機会をいただけるのでございましたら、これに勝る喜びはございません」
予想外の事態に固まるモモンガ。どうやら彼はこの状況への処理が追いついていないようだ。そう判断したキアラは仕方ないと、彼の横から口を開く。
「でしたら私があなた方に命令いたしましょう。アルベド、貴方は六階層の闘技場に各階層守護者の招集を。ただ第四、第八階層守護者は召集から外します。そしてセバスはナザリック外の様子を偵察してきて頂きましょう。もし知的生命体がいるのであればできる限り無傷でこちらに招くように交渉しなさい。大抵の要求はのんでも構いません。プレアデス達は九階層の警備をお願い致します。何か変わったことがあればすぐに私達に報告するように」
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「いったいどういうことなんでしょう?」
アルベド達が出て行った後の玉座の間で、モモンガがキアラに問いかける。
「私にもわかりませんわ。依然として運営もGMコールも機能してしないようですし。それにこれは私の感覚ですが、仮想現実にしては些か現実味に溢れているかと」
キアラは困ったような顔で手を頬に当てる。”現実味に溢れている”それはモモンガも感じていたことで、匂いといい触覚といいまるでリアルにいるかのような感覚がする。しかも先ほどのNPC達。コマンドでもない命令を受け入れ行動し、あまつさえ不安そうな表情で口を動かし言葉を発する。いくら自由度の高いユグドラシルでも技術的にそのようなAIの設計など不可能のはずだ。
「これが現実かどうかを確かめる方法が1つだけございます」
「本当ですかっ!?」
「えぇ。では失礼して...」
キアラはおもむろにモモンガの手を掴むと、よいしょとその手を自らの胸に押し付けた。
「へ?」
「あぁん♡」
突如モモンガの手を襲う柔らかな感触。あまりの出来事に頭が真っ白になった彼は思わず手に力を入れてしまった。その瞬間キアラから漏れる艶声。柔らかさの中にも弾力があり、彼の骨だけの指を心地よく押し返すそれは、男の夢とロマンが詰まった禁断の果実。モモンガの理性とは裏腹に一度その感触を覚えてしまった手が言うことをきかず、たわわに実った豊満な果実を揉みしだく。その度に彼女の頬が上気し、口から出る短い喘ぎ声がモモンガの耳(骸骨なので耳はないが)を犯す。
「おぉ.........って何やってんですかあんたはっ!?!?」
死の支配者、感情抑制で正気に戻る。
「失礼いたします。モモンガ様、キアラ様、各階層守護者の準備が整いましたのでお迎えにあがり.............」
その場の時間が一瞬止まった。報告のために現れたアルベドの目は、キアラの胸に充てがわれたモモンガの手に注がれている。そしてその顔に何故か悲しそうな表情を浮かべると、何も言わずそっと開けた扉を閉めた。
「ちょっ!?ごっ、誤解だアルベドっ!アルベドォー!!」
「まぁこれでBANされないということは仮想現実が現実になった、と考えた方が良いということでございますね」
「何冷静になって分析してるんですか!?何とかアルベドの誤解を解かないと!あっ、抑制された」
「そんな浮気を見つかった亭主でもないのですから、もっとギルドマスターらしく堂々としていてくださいませ。英雄色を好むと申しますし、そんなことで狼狽える様では立派な男にはなれませんよ?」
「いや、そういう問題じゃなくてですね...はぁ...もういいです。とりあえず守護者達の準備ができたようなので行きましょう」
「そうでございますね。あの様子だと恐らく無いとは思いますが、もし私達に反旗を翻す様でしたらリングで宝物殿に逃げ込むことにいたしましょう」
「なるほど。あそこなら守護者達も入って来れませんし」
「そういえば宝物殿にも1人NPCがおりましたような...」
「そこはあまり触れないでください...」
モモンガは自らの黒歴史を思い出し、恥ずかしさのあまり顔を手で覆ったのであった。
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第六階層 円形闘技場
ナザリック地下大墳墓のジャングルに建設された円形闘技場。念のため玉座の間にあったレメゲトン達の命令権を自分たちだけに再設定したりと所用を終わらせた後、モモンガとキアラはリングの力で第六階層にある円形闘技場に転移した。そこには既に召集をかけたナザリック地下大墳墓を守る各階層守護者達が待っており、彼らは2人を見つけるとその場で跪く。第1第2第3階層の守護者。真祖シャルティア・ブラットフォールン。第5階層守護者、蟲王のコキュートス。第六階層守護者ダークエルフの双子。アウラ・ベロ・フィオーレとマーレ・ベロ・フィオーレ。第七階層守護者最上位悪魔デミウルゴス。そして守護者統括のアルベド。皆一様に頭を垂れ、自らの主人達の言葉を待っていた。
「面を上げよ、守護者達よ。我々の呼び掛けに応じて集まってもらったことにまずは感謝する」
「いえ!感謝など勿体無い!創造主であらせられる至高の御方々の御命令とあれば即座に参上するのが我等の務めでございます。ですので何なりと我々を存分にお使い潰しください」
「あっ、えー...うん」
守護者達はまるでアルベドの言った通りですといわんばかりに目をキラキラ輝かせながら2人を見つめ、その様子にモモンガは若干引きながら何とか言葉を返す。それを横目に見ながら、キアラはクスクスと笑いを隠す様に手を口に当てながら笑っていた。
『笑ってないで助けてくださいよっ!』
『これはこれは失礼いたしました。モモンガさんの慌てふためく姿は中々に乙なものでございまして』
『この人でなし!』
『あら、上手いこと仰いますのね』
モモンガはそんな軽口をキアラと伝言を使い会話する。そして再び頭を切り替えて守護者たちに意識を向ける。
「さて、現在ナザリック地下大墳墓は原因不明の事態に巻き込まれている。すでにセバスに地上を捜索させているのだが、その報告を聞く前に皆に伝えておかねばならない事がある。言うまでもない事だが、我が友キアラさんがナザリック地下大墳墓へ帰還された」
モモンガは大きくその手を広げ、キアラが彼の後ろから前に歩み出る。すると守護者達から”おぉ!”と感嘆の声が上がり、その表情を嬉々とさせた。
「皆々様、済度の日取りでございます。私キアラ、救いを求める声を聞いて参上いたしました。再びあなた方と相見えることができた事、大変嬉しく思います。宜しければまた私にもお力をお貸し頂けると幸いでございます」
こうしてナザリック地下大墳墓に帰った快楽天。異物を孕んだ物語はここから始まる。
原作と被ってるとこはサクサクと進めて行きたい。
なので描写とかはひどく少なめです。
独自展開の構想はあるのでそこまでは結構原作シーン割愛したりするかも。