快楽天が逝く。   作:Leu

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ニグンさんが出るといったな。
あれは嘘だ。


神の使い

ナザリック地下大墳墓の第九階層にあるモモンガの執務室。そこでモモンガは宙に浮く鏡の前で何とも奇妙なパントマイムを披露していた。これはただミラーオブリモートビューイングを操作しているだけなのだが、モモンガ自体はごく真剣なので側から見るとどうしてもマヌケに見えるということには気がついていないようだ。そんな時、彼の執務室の扉をノックする音がしたが、モモンガは操作にのめり込んでいるようで気がつかない。代わりにセバスが応対する。

 

「はい、どうしましたか?」

 

「はいセバス様。キアラ様がモモンガ様にお会いになりたいとのことで扉の前でお待ちでございます」

 

「わかりました。モモンガ様に確認しますので少々お待ちくださいとお伝えください」

 

「承知致しました」

 

セバスはモモンガの側に寄ると、キアラが来たことを耳打ちする。

 

「何?キアラさんが?よし通せ」

 

そうして主人の許可を得たセバスは、執務室の大きく重そうな扉を軽々と開くと、一歩横に下がり流れるような所作で頭を下げた。

 

「ご苦労様ですセバス」

 

「勿体無き御言葉」

 

「やはりセバスは、たっちさんの面影がございますね。お堅いところもそっくりです。もう少し遊んでみるのも良いのですよ?何でしたら妾でも良いので女を味わって見るというのはどうです?それとも私がお相手いたしましょうか?」

 

「い、いえ、それは...」

 

「ウフフ...冗談でございます」

 

言葉に詰まるセバスを面白そうに揶揄うと、キアラはモモンガの元へ足を進める。

 

「何かあったのか?キアラよ」

 

「いえ、こちらの仕事は片付いたのでモモンガさんの様子を見に来ただけでございますよ」

 

「あの量をもう片付けたのか!?」

 

モモンガは驚きのあまり大声を上げた後、沈静化が起こった。ちなみにモモンガとキアラがこのナザリック地下大墳墓での役割を話し合った際、アイテムや守護者達の能力や状態の把握をモモンガが、内政や財政面の管理をキアラが担当することになっている。

 

「いえいえ、手伝っていただいたアルベドが大変優秀でございましたので。それよりモモンガさんは鏡の前でパントマイムなどなさってどうしたのですか?」

 

「パ、パントマイム....んんっ!いや、このミラーオブリモートビューイングが使えればナザリックの防衛網の構築や周辺警戒に役立つと思ってな...む?」

 

ミラーオブリモートビューイングを操作しながらモモンガはそう答えていると、ピピッと短く機械音が聞こえた。どうやらうまくいったようだ。セバスもその成果を讃えるように拍手をしている。

 

「おめでとうございますモモンガ様」

 

「ありがとうセバス。ん?これは...祭か?」

 

村を発見したモモンガだったが、俯瞰で見ると人が忙しなく動いておりなにやら様子がおかしい。セバスが身を乗り出しその様子を観察する。

 

「いえ、これは...」

 

鏡の中で行われているのは一方的な殺戮だった。鎧を着た騎士達が逃げ惑う村人達を次々と剣で斬り伏せていく。あちらこちらに老若男女関係なく村人の死体が横たわり、道にはおびただしい量の血溜まりができている。その悲惨な光景を目の当たりにしたキアラが感じたのは嫌悪感でも悲壮感でもなく、純粋な怒りだった。だだそれは正義が悪に抱くような怒りではなく、自分の手以外で人の命が終わるということが許せない、そんな身勝手極まりない怒りだ。例えるなら、自分が遊んでいたおもちゃを他の子に取られた子供のようだ、といったところだろうか。何故そんな怒りを抱くのかキアラ自身も不思議ではあったが、どうあってもこの身を焦がすような怒りは収まることはないようだ。

 

「いかがいたしますか?」

 

「見捨て「では私が参りましょう」」

 

モモンガの発言を遮るようにキアラが声を張り上げて告げる。

 

「...私は反対だ。助ける価値も義理もない。まだこの世界の者達がどれ程の力を持っているのかも未知数だ」

 

「ではこのままここにずっと引き篭っていろと?リスクを恐れていては何事も前に進みません。それに力量を知るのなら今が好機ではありませんか?」

 

モモンガとキアラは睨み合い、そこにまるで一触即発の不穏な空気が流れる。セバスも2人のオーラに気圧され、額に冷や汗をかきながらゴクリと唾を飲み込む。

 

(これが至高の方々の殺気...なんと凄まじい。しかし御二方の衝突という最悪の事態は何としてでも避けなければ)

 

セバスはこの身を犠牲にしても2人を止めるつもりではいるが、もし争いになった時に本当に止めることができるのかと一抹の不安に駆られる。ただ彼のそんな不安をよそに、モモンガは内心ではこの上なく焦っていた。

 

(ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!キアラさんまじで怒ってるじゃないですかっ!?!?なんで!?調子こいて啖呵切っちゃったから!?今から土下座したら許してくれるかな!?いや無理無理無理!!!キアラさんめっちゃ怖すぎるううぅぅぅっっ!!!)

 

「,............」

 

「..........わかった。ただ危険だと思ったら即座に撤退すること。それが最大限の譲歩だ」

 

「えぇ構いませんわ。感謝いたしますねモモンガさん♪」

 

「全く、貴方という人は...転移門(ゲート)!」

 

モモンガが折れる形で話がつくと、その場を満たしていた殺気が霧散する。その瞬間キアラの態度がコロッと変わり、いつもの優しげなものにもどった。女って怖いなーとモモンガは苦笑いしながら思いつつ、その手にギルド武器を出現させると、転移魔法"転移門(ゲート)”を唱えて村までの入り口を作る。

 

「ではお先に参りますね」

 

「私も後で行く。くれぐれも無茶だけはするなよ」

 

「えぇ、それでは後ほど」

 

キアラは先程とは打って変わって上機嫌で微笑みながらゲートの中へ消えていく。それを見届けたモモンガとセバスは2人ひとまず去った危機に仲良くホッとしたように息を吐くのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

リ・エスティーゼ王国。国王、ランポッサ三世が治めるこの封建国家は、バハルス帝国とスレイン法国に並ぶ有数の人類国家である。しかしその実態は貴族が数多くの利権を握っており、その下に位置する平民の大多数は貧しい暮らしをおくっていた。しかもそれは王国の中心部から離れれば離れるほどに酷くなり、辺境の村などは例え襲われたとしても国の援助など出ることはそうそうなく、何事もなかったかのように捨て置かれるというのがざらであり、そんな環境が災いしてか、ここカルネ村は現在、正体不明の騎士達に蹂躙されていた。村娘エンリ・エモットの両親も、村を襲った騎士達に自分を逃がすために必死の抵抗も虚しく呆気なく殺されてしまった。その彼女も妹を連れて村から抜け出す事には成功したのだが、途中で彼女達に気がついた騎士達に追われながら、現在進行形で森の中をひた走っている。ただいくら全身に鎧を纏い鈍重になっているとはいえ、まだ子供の彼女達に足の速さで劣っているわけがなく、その差は刻一刻と縮まりつつあった。何とか彼等を引き離そうと、エンリも妹を引っ張り必死に走るが、それがいけなかった。エンリより小柄な妹が彼女に合わせられる筈もなく、ついには足がもつれて転んでしまったのだ。

 

「ネムっ!」

 

エンリは転んだ妹ネムを助け起こそうとするが、その間に騎士達が2人に追いつきそのまま剣を振り上げて斬りつけた。エンリは咄嗟に妹を庇うように抱きしめ、騎士達の剣を背中で受ける。その瞬間焼けるような激痛が彼女の背中を襲った。

 

「お姉ちゃん...」

 

「大丈夫よネム...何とかお姉ちゃんがあいつらを抑えるから、あなたは走りなさい?いいわね?」

 

背中の痛みに耐えながら、何とか妹にそう言い聞かせるエンリ。今にも泣き出しそうな妹を強く抱きしめ、騎士達に立ち向かう覚悟を決める。

 

(何とか妹だけでも逃がさないと...あぁ、神様...助けてっ...!)

 

「なっ!なんだあれはっ!」

 

そんな覚悟をしていた矢先、騎士達の様子がおかしいと不思議に思ったエンリは顔を上げた。そして先程驚きの声を上げた騎士達を見ると、もはやエンリ達を視界には捉えておらず、どうやらその後ろに目がいっているようだ。彼女も恐る恐る騎士達の見ている方を振り返る。するとそこには得体の知れない何かが現れており、その様子はまるで空間がねじれているようだった。そしてその空間からそれはゆっくりと出現した。前面が大きく開いた白い袈裟を身に纏い、その間から見える欲情を唆る身体は申し訳程度の布で覆われている。そしてスラッと伸びた脚はピンクのストッキングを履き、ガーターベルトでそれを留めている。何より目を惹くのは、その頭に生えてる角だ。紫の斑が刻まれたそれは、彼女が人間ではないことをを察するには十分なほど禍々しさを湛えていた。そしてそれは妖艶に微笑み口を開く。

 

「衆生無辺誓願度....慈悲です。戯れと参りましょう」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「........予想はしていましたが、想像以上に脆いですね。私、全くもって物足りませんわ」

 

結果から言えば、勝敗は圧倒的だった。いや、彼女にとっては最早、戦いどころか遊びとも呼べないお粗末な結果だ。スキルも魔法も特別な技術も要らない。ただ軽く小突くだけで騎士達の四肢は吹き飛び四散し、辺り一面にはグチャグチャになったそれらの残骸が転がってる。ナザリックから見ていた時に彼等の動きから、身体能力では優っているだろうとは思ってはいたが、唯一懸念していた魔法での攻撃すらなく、いっそこれが罠なのではないかと疑いたくなるくらいの呆気なさにキアラ自身も困った表情を浮かべる。確かに怒りの憂さ晴らしを兼ねて殴りつけてはいたが、正直彼女もこんなサイコパスが作り上げたスプラッタな殺人現場を再現する気は毛頭なく、ひとえに彼等が弱すぎた結果であった。

 

「キアラよ。首尾はどう.......こ、これは...?」

 

「やりすぎちゃいました♡」

 

あまりの惨劇に思わずドン引きするモモンガがキアラに問いかけると、彼女は片目を瞑りながら舌をちょこんと出す、言わばテヘペロでお茶目に返す。それを見たモモンガが、”うぁ、似合わねー”とか内心思っていると、全身を完全武装したアルベドが転移門から出てきた。

 

「準備に時間がかかり、申し訳ありませんでした」

 

「いや、実に良いタイミングだアルベド(本当、いろんな意味でいいタイミングだ..)」

 

「ありがとうございます。それで...この下等生物の処分はどうなさいますか?」

 

「とりあえずの敵は、そこに転がっている鎧を着た者達だ」

 

「畏まりました」

 

「ところでキアラよ。この者達の力量はどうだった?」

 

「私の1割以下、といったところでございましょうか?余りに貧弱すぎて秤に掛けるのが難しいくらいでしたわ。多分第5位階魔法でもオーバーキルかもしれませんわね」

 

「なるほど、では私も一つスキルを試してみるとするか。中位アンデット作成”死の騎士(デス・ナイト)”!」

 

モモンガが魔法を唱えると、宙に泥のような何かが出現し、側に転がっていた騎士の死体を飲み込んだ。

 

(うぇ...この世界での召還は死体に乗り移るのかよ...)

 

自分のしたことなのに若干の嫌悪感を覚えつつ、モモンガは死の騎士(デス・ナイト)とのつながりを感じる。そして死の騎士(デス・ナイト)に村を襲っている騎士達を殲滅するように命令を出すと、死の騎士(デス・ナイト)は大きく吠えながら村の方へ駆け出していった。

 

「ユグドラシルでは召還者を守るだけでしたのに、ずいぶんと命令の自由度も上がっているようですね」

 

「.....そのようだな。まさか守るべき者を放っておいて意気揚々と行ってしまうとは...まぁ命令したのは私だが...」

 

ぼそっとそうつぶやいたモモンガはがふと振り返り、怯えたように震え抱き合う姉妹に気がついた。

 

「む?怪我をしているな。これを飲め」

 

せっかくキアラが助けたのにこのまま怪我を放置して死なれたら目覚めが悪い。そう思った彼はアイテムボックスから低位の真っ赤なポーションを彼女達に差し出す。本人としてはただの親切のつもりだったのだが...

 

「ひっ!の!飲みますからっ!どうか妹だけはっ!」

 

「ダメだよお姉ちゃんっ!」

 

(えぇー...何で俺こんなに怖がられてるの?)

 

鈴木悟、童貞。その心はアンデットになっても案外繊細なのだ。その様子を隣で見ていたアルベドは愛しの主人に失礼な態度をとる姉妹に怒り、プルプルと体を震わせている。そしてもう我慢できないといったように手に持っていたハルバードを大きく振り上げた。

 

「このっ...下等生物風情がぁっ...!」

 

「よっ!よすのだアルベドっ!」

 

「......畏まりました」

 

慌てるモモンガに止められたアルベドは渋々といった様子で振り上げていたハルバードを収める。いつも通りそんなやり取りを可笑しそうにクスクスと笑って助けようともしてくれないキアラに若干の怒りを覚え、後で絶対何か苦労を背負わせてやると器の小さいことを考えながら、何とかエンリにポーションを飲ませるモモンガ。その瞬間、エンリの背中にあった酷い傷がみるみるうちに塞がる。モモンガはポーションがちゃんと効き目を発揮することを確認しつつ、彼女に魔法について尋ねた。どうやらこの世界にも魔法は存在しているらしく、田舎の村娘であろう彼女の知り合いにすら使える者がいるということは、魔法というものはこの世界では広く一般的なものなのかもしれない。一通り訊きたいことを訊き終えたモモンガは、彼女達に守りの魔法と吹けばゴブリンが現れる課金ガチャの外れアイテムを護身用として授け、キアラとアルベドを引き連れその場を後にしようとする。

 

「まっ!まってくださいっ!助けていただいてありがとうございますっ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「気にするな」

 

「あっ、あの!お名前は何と仰るのですかっ!?」

 

エンリに名前を問われ、足を止めるモモンガ。そうして少し何かを思いついたのか、大きく手を広げながら姉妹の方を振り返り、その名を口にした。

 

「我が名を知れ!我が名はアインズ・ウール・ゴウン!」

 

モモンガが名乗ったその名前に、キアラは驚き目を丸くする。彼女の中での彼という人間は、あまり自己主張をせず、いつも冷静に慎重な行動を常とする人という印象だった。そんな彼が、まるでアインズウールゴウンは自分のものであると言わんばかりにその名を自分の名とする大胆な行動に出たのだ。そんな彼の思わぬ行動を目の当たりにしたキアラは、その口元を妖艶に歪める。

 

(あぁ...面白い事を思い付きましたわ)

 

そして彼女もモモンガに習い、一歩前に進み出ると自らも名乗りをあげた。

 

「私の名はキアラと申します。ここに御坐します神、アインズ・ウール・ゴウン様にお仕えし、その素晴らしい教えを広める為にやって参りました聖職者で御座います」

 

「...........は?」

 

まさかの自己紹介に面食らい、思わず素っ頓狂な声を上げるモモンガ...もといアインズであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

エンリ姉妹を助けたアインズ一行は、村に向かわせた死の騎士の様子を見るために、彼の唱えた飛行(フライ)の魔法で向かっていた。キアラはこの世界の住民が弱いと言っていた。自分が召喚したモンスターだからだろうか、死の騎士(デス・ナイト)との繋がりを何となく感じてはいるので、まだ倒されてはいないようだが、流石に防御に優れているモンスターといえ、レベルが30もない死の騎士では苦戦しているだろう。アインズはそう思っていた。だが現実とは案外呆気ないもので、死の騎士は彼らをを容赦なくボコボコにしており、どうやらもはや完全に遊び感覚で殺しているようだった。

 

「まっ、まさかこれほど弱いとは...」

 

「まぁ必然でございましょうね。では手筈通りにお願いいたしますね?」

 

「それは良いのだが...本当に大丈夫なのか?」

 

「問題ございません。アインズ様が思った通りに演じてくだされば、後は私の方で合わせてますので」

 

ここまでの道中でいつの間にか尼の服装に着替え、アイテムで角を隠したキアラから提案された計画を再確認し、とてつもない不安を覚えながらも、このままだと死の騎士(デス・ナイト)が騎士達を皆殺しにしてしまいそうだったので、アインズはとりあえず死の騎士(デス・ナイト)を止めることにした。

 

死の騎士(デス・ナイト)よ!そこまでだ!」

 

その一声で、先ほどまで暴威を振るっていた死の騎士(デス・ナイト)が嘘のように動きを止める。騎士達と村人達が驚きと恐怖に苛まれながらも、声がした方向を一斉に見た。そんな視線を一斉に浴びるアインズ一行は、それを気にする様子もなく優雅に地面に着地する。そして赤く目を光らせた死の支配者(オーバーロード)が一歩前へ進み出ると、高らかに名乗りを上げた。

 

「皆さんはじめまして。私の名前はアインズ・ウール・ゴウン。救いを求める声を聴き、この地に降臨せし神である」

 

 

 




モモンガの口調を変えました。
他の話も随時修正予定です。
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