「チャールズ、この後1杯どう?」
「僕にとってはひと口で十分だ」
公演を終えたレティはジョッキを傾ける仕草をして、隣で着替えるチャールズをいつものバーに誘った。
「今日の歌も良かったよ」
「貴方も気分良く馬に乗って駆け回ってたわ」
パワフルで華やかな歌声を響かせた髭のある歌姫と身の丈よりもずっと大きく見える馬に跨って銃を打ち鳴らす小さな将軍はサーカスの人気者だ。
「今の私がいるのはバーナムのおかげよ」
ショットグラス2杯で顔を赤らめるチャールズに対してレティは2本目のボトルを取りに席を立った。
「歌っている時が1番幸せだった。世界が私だけの物になるから」
自分に向けられる声も視線もかき消す事が出来る。唯一自分を守ってくれる物をバーナムは誇りに変えてくれた。
「こんな身体じゃ仕事も碌に出来ないって言われてきたし僕もそう思ってた。まさか人を楽しませる事が出来るなんて思ってもいなかったよ」
銀行での出会いが無ければずっと外の世界から存在を隠されたままだった。バーナムには感謝しているし彼の力になりたいという思いは人一倍強い。
「アイツは紛れもないナポレオンだ」
「将軍は貴方でしょう?」
「『我輩の辞書に不可能は無い』、こんなにぴったりな言葉が他にあるか?」
「本当にその通りだわ!」
レティの豪快な笑い声が響くとドアのベルがなった。
「レティにチャールズ、まだ帰ってなかったのか」
「随分楽しそうだな、私達も混ぜてくれないか?」
バーナムとフィリップはカウンターに座るとメモ用紙を広げて唸り声を零している。
「どうしたのよ、飲まないの?」
「次はどんな事をやろうかと思ってね。なかなか良いアイデアが浮かばないんだ」
「フィリップ、アンタが出来る事やらないでどうするんだよ。元セレブの劇作家さん」
チャールズの言葉に突然バーナムが立ち上がってペンを取る。
「そうだ、演劇だ!フィリップ、君が脚本を書いて皆で演じるんだ。これは盛り上がるぞ、ここはユニークな役者ばかりだからな」
「オクランシーを主役にしてガリバー旅行記とかどうかしら?」
「彼にとっては皆が小人の国の住人だ、採用しよう!」
「親指トムも童話があっただろう?僕を主役にしてもいいんじゃないか」
「それもいい!フィリップ、君の意見はどうだ?」
「反対はしないけどこんな酒の席で決める事じゃない。明日皆で話し合おう」
騒がしい三人を横目に見ながらフィリップは自分の作った脚本をどうアレンジしようかアイデアを巡らせていた。