「誠・エルトナム・シリウス、帰還しました」
「藤丸立香、帰還しました」
「マシュ・キリエライト、帰還しました」
ボーダーの仲間たちに帰還を知らせる。
「へぇ〜、これがシャドウ・ボーダーね。案外広いじゃない」
初めてのシャドウ・ボーダーにイシュタルは興味を示しているようだ。
「イシュタル神いらん事して問題起こさないでくださいよ」
「誠、あなたの中で私ってどう映ってるのよ⋯⋯」
「⋯⋯し⋯⋯し、神霊が複数か⋯⋯。この私が責任者を務めるボーダーに⋯⋯」
今更何をと言いたい所だがゴルドルフはエレシュキガルが神霊のことも最近知ったようだった。
「うむ!この際だ。私も覚悟を決めるとしよう!本の一冊二冊書く前提でのレポート作成を、だな!」
「(いや、仕事しろよ)」
「何はともあれみんなお帰り!バビロニア以来だね、イシュタルは。また頼りにしているよ!」
奥から出て来たダヴィンチが昔を懐かしむように再会の声を上げる。
「任せなさい!それよりわざわざ帰還させた理由は近況報告―――以外にもありそうね」
「ああ。そろそろ診察の時間だからね。マシュ。わかっているね?」
「あ―――は、はい!」
ダヴィンチちゃんの問いかけに立香も頷く。
誠は自分に知らされてないことがあるのかと内心少し驚いたが、自分の知らないところで立香とマシュが頑張っていると思い心の中でエールを送った。
「じゃ、診察室に行こう」
そう言うとダヴィンチちゃんはマシュを連れて診察室へ向かって行った
「ではまず、持ち帰ってきた情報を基に、次の一手を考えましょう―――」
ホームズの一言で作戦会議が始まった。
「名探偵考えがあるのだが」
「聞こう」
「俺とエレちゃんでヤガ・モスクワ偵察に行くのはどうだろうか。戦力についてはイシュタル神一人入れば大抵なんとかなるだろうし、アタランテもいる。敵も叛逆軍の存在を知りつつも放置していることからまだ大きな行動には出ないだろう。それに多分敵はコヤンスカヤの言い分から察するにクリプターの内の一人だ。誰か分かるだけでも情報アドバンテージが大きい」
「成る程、余裕のある今のうちにしかできない作戦か。許可する。ただし絶対一週間以内に帰ってくることだ」
「了解」
取り敢えず俺とエレちゃんが偵察、立香たちが叛逆軍のところに一旦戻ると言うことになった。他に何かないのかって?
「このロシア領が野蛮な獣人の住処となっていることしか分かってないじゃないか!」
ゴルドルフが叫ぶ。
「Mr.ゴルドルフ。彼らは獣人ではありません
「いやだから、獣人がヤガと呼ばれているのだろう?」
「いいえ、違いますとも。獣人とヤガは、外見は同じでも進化基盤が異なるのです。Mr.ゴルドルフの言うところの獣人⋯⋯、ウェアウルフ、ライカンスロープなどですが、あれは有り体に言って血の覚醒に伴う魔獣。一方ヤガは魔獣と人間の合成体。どちらかといえばキメラですか。ああいう、合成された幻想種に近い」
「ああ、源流が異なるのか⋯⋯」
「ええ、しかし問題はむしろ違う部分にあります」
「む?」
自分の予想とは違った解答にゴルドルフが疑念の声を上げる。
「いいですか、ヤガは―――は国を築いている。生活基盤を、文明に築き上げている」
「⋯⋯貴様らが解決したという特異点とは違うのか?」
「ええ、違います。かつて解決された7つ特異点は歴史の『
「成る程。ここは特異点を放ったらかしにしてしばらく放置した結果できた世界ということか、名探偵」
話を呑み込んだ誠が口を挟む。
「そういうことだ。ポイントが切り替えられたのは大寒波に襲われたことでイヴァン雷帝がヤガになった四百五十年前でしょう」
「問題は"イヴァン雷帝を打倒すれば解決するのか"ということか」
「⋯⋯ポイントがイヴァン雷帝である以上、必ず何らかの影響は出ると思います」
「ええい、世界一の名探偵だろう。もっとこう、ズバッといかんのかズバッと!」
ゴルドルフが焦れったいといった様子でホームズを問い詰める。
「状況証拠すら、碌に揃ってないので。それに―――」
「「それに?」」
誠と立香がハモる。
「⋯⋯今はまだ語るべき状況にない、ですな!」
「くそ、この男本当に言いやがった!」
今日もホームズは通常運転だ。
「ははは。まぁ、状況は不明点だらけだが、問題はそう複雑でもないさ。何しろ、はっきりした敵がいる。我々の歴史にあるロシア領との最大の相違点。五百年近く存命しているというイヴァン雷帝。この人物がキーパーソンであるのは間違いない。当面は叛逆軍に手を貸そう」
そうして作戦会議の幕は閉じた。
誠と立香たちは次の日に備えて十分な休息を得るためそれぞれ部屋に戻ったのだった。
「さぁ、朝よ!起きなさいマスター!」
時刻は午前7時、いつも通りエレちゃんに叩き起こされていた。
「Zzz⋯⋯]
「起きていることは分かっているわ!」
誠は狸寝入りを決め込むがどうやら許してはくれないらしい。
「後5分⋯⋯」
「だーめよー!」
「分かったよ⋯⋯、令呪を持って命じる―――」
「わー!!!、そんなことに使うなんて駄目なのだわ!!」
何とこの令呪は特別性で一日一画回復するんだぜ⭐︎
「しょうがないなぁ」
誠は悪態をつきつつも体を起こしエレシュキガルが用意してくれた服を着てエレシュキガルが運んで来てくれた朝ごはんを食べる。
――まるでお母さんみたいだなぁ。俺この戦いが終わったらエレちゃんのヒモになるんだ⋯⋯!
「またロクでもないことを考えてそうな顔ね⋯⋯」
「失敬な、いつも俺がいつもロクでもないこと考えているよう言い方はやめてくれママ」
「誰がママよ!!ママ!!」
そんなくだらないやりとりを続けながらも操縦室に行くと偶然、立香達も今来たようだった。
「おはよう、ミスター立香に誠。ほんの少しの休息時間ですまないね。温かな毛布とは、またしばらくお別れだ。さて。状況を再開しようか。我々の目的は、依然としてこのロシア領の解明だ。今までの調査によって判明した幾つかの真実⋯⋯新人類のヤガ。五百年生きる雷帝。世界の果ての嵐。そして謎の大樹。これらの正体を突き止めることが、今後の我々の行き先を決定づけるだろう。その為にはまずイヴァン雷帝の情報が欲しい。その為二人にはそれぞれで情報の収集も行ってもらう。後は叛逆軍の成長を助けたい。彼らが殺戮兵器を打倒できる勢力になってくれれば文句なしだ」
「アタランテはギリシャ神話でも名高い女狩人だが、イヴァン雷帝に抗するのは難しいだろうな」
そこにゴルドルフが口を挟む。
「強力なサーヴァントを召喚できんのか。こう、英雄王だの征服王だの騎士王だの」
――英雄王はカルデアの資料で見たことある。何でも宝具がチートで全力解放したら抑止力さんに止められる程だとか。
「現状では望み薄でしょう。このロシアに召喚されれば強力なサーヴァントならいやでも噂になる。叛逆軍にもそんな噂が届いていなかった以上、単騎で世界を救えるほどの英霊は現れていない」
そんなうまい話はないと言うことだろう。
よし、そろそろ出発の時間だ。
「いってらーしゃい!」
ダヴィンチちゃんがにこやかに手を振る。
「行ってきます!」
「行ってくる」
どうやらマシュはナビゲーターに戻るようだった。
「ヘマするなよ立香」
「そっちこそ」
互いに拳と拳をぶつけ正反対の道を歩き出した。