「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に、犯罪行為ですよ!」
生徒を引き連れながらやってきた七草真由美は、生徒会長として相応しい威圧感を放ちながら声をあげる。
声のする方を振り返った一科生達が次々と顔を青く染めていく。
「貴方達、1―Aと1―Eの生徒ね。事情を聞きます。ついて来なさい」
真由美の隣に立って居た上級生と思われる女子生徒が、硬質な声で命じた。彼女は確か……そうだ思い出した、入学式の委員会紹介のうちの一つ、風紀委員会の委員長として登壇していた先輩だ。三年生で、名前は渡辺摩利だったはずだ。
ふと彼女の手元に目を向けてみれば、既にCADは完全に起動しており、魔法式は完璧に展開していた。つまり、いつでも我々を無力化できるということだろう。もう面倒だから帰ろうか、などと思っていたが無理そうだ。少しでも怪しいそぶりを見せればすぐにでも実力行使されかねない。
私はアインツベルンだ。おごりでも慢心でもない。本当のことを言ってしまえば、あの三年生の魔法を打ち破れるし逆に無力化できる自信もある。よって私自身たいしてなんとも思ってないのだが、周りの生徒はそうでもないらしい。現に、ほのかと雫を始めとした一科生や二科生たちも、言葉なく、硬直してしまっている。
どうしたものか、と思っていたそのとき。深雪と、その兄と思われる二科生のグループの中心にいた切れ目の男子生徒が他の生徒のように萎縮したり、項垂れたりすることなくしっかりとした足取りで、背後に付き従う深雪と共に、風紀委員長である摩利の前へ歩み出た。
注意される側の生徒がいきなり堂々とした態度で前に出てくるのだ。当然、摩利は訝しげな視線を向けた。
「すみません、悪ふざけが過ぎました」
「悪ふざけ?」
一礼して何を言い出すのか、思わず私も風紀委員長と同じことをうっかり言いそうになってしまった。なおも司波兄の言葉は続く。
「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学のために見せてもらうだけだったのですが、あまりにも真に迫っていたもので、思わず手が出てしまいました」
チラリと司波兄がこちらを見る。風紀委員長殿も眉をひそめながらこちらを見てきた。周りを見回せば一科生のグループも二科生の彼らもみんなこっちを見てくる。
どうしてそんなにこっちを見るのだろうか。
いくつもの視線のうち、いくつかは私の足元に向けられていた。視線を追ってみれば、簀巻きにされた状態から抜け出すことを諦めたのか、ため息をつきながらぐったりとしている
因みに、先ほどまで身体中をアイリスで縛っていたが、何か言われても面倒なので、それは既に取り除き回収した。今彼らを縛っているのは彼ら自身の袖と袖。お互いの腕が相手の背中側にあるのでそこで両手をしまってしまえばどちらにせよ、動けないし、何もできないという寸法だ。
森崎が落とした特化型CAD、赤髪の二科生が慌てて隠した警棒など。周囲の状況を確認すると、改めて達也に質問した。
どうやら、抱き合う二人はひとまず後回しらしい。
「少し前から遠目に見させてもらっていた。そこの1―Aの女子生徒が男子生徒に何かをしていたな。あれはなんだ?」
「先ほども言った通り、真に迫った森崎のクイックドロウに思わず手が出てしまったのでしょう。条件反射であそこまで行動できるとは……流石は一科生ですね」
「本当か?」
あの男子生徒の言葉はどことなく白々しかった。
しかし、見られていたのか。まぁ、あれは別に見られてもなんの問題もない。アイリスのような機構のアプローチはすでに世間に公表してある。(刻印魔法の効率化などと共にだしたそれは、刻印魔法の研究を10年進めたなどと言われるまでだ。)作り方がわかっているものを見られても別に問題ないのだ。
「私の
もし原理が知りたかったら、アインツベルンの論文、「刻印魔法の研究報告 第13号」を見てみてくださいね。とさりげなく宣伝もしてみる。
「その森崎と君の友人は彼女に拘束されているのだがそれについては」
「それはーーー」
「目の前で学友が法を破るところだったのよ?止めなくてどうするのかしら?」
「……ふっ、確かにその通りだ。しかし、魔法式に触れるだけでも拒絶反応を起こすこともある。少し軽率だったんじゃないか?」
なるほど、そうくるか。
しっかりと説明しようとしたその時。司波兄が口を開く。
「どちらにせよ、問題はなかったでしょう。あの糸のような形状のホウキには捕縛以外にもう一つ並列で行なっているものがありました。サイオンを弾丸として魔法式に直撃させると、魔法式はその効力を発揮せず、魔法は不発のまま霧散しますね。あの糸の表面には高出力のサイオンが膜のように張り付いていました。それによって最初の一巻きの時点で魔法式は全て破壊されてましたよ」
驚いた。誰も気づいていないと思っていたのに。
司波兄の言った通りだ。サイオン光も目立たないように情報改変の魔法を裏で発動していたのにも関わらず、すべて的確に当ててみせた。司波兄、彼は他の生徒たちとは一味も二味も違うらしい。
会長と委員長の方をみれば、彼女たちも気付けてなかったのか驚きの表情を浮かべていた。
「その様子だと、私が魔法を展開してたのにも気がついていそうね」
「魔法式の形式が違っていたな。あれは確かドイツだな?そうだとすればあれは現実の情報改変、視覚情報の操作だったか?」
「正解!あなたは分析が得意なのね!」
とりあえず、レオと森崎を拘束していた分を回収する。流石にこれ以上暴れないと思うが。
というわけでこれぐらいで納得していただけるとありがたいのだけれども。そう言った意味合いも込めて委員長を見やる。
「二人揃って誤魔化すのも得意なようだ」
値踏みするような、睨みつけるような、その中間の眼差しが私と司波兄を貫く。
そこで司波深雪が私たちを庇うように前に出た。
「兄と彼女の申した通りちょっとした行き違いだったんです。先輩方のお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」
そうして深く頭を下げた。私も一応頭を下げておく。
流石に司波兄も含めた3人から真正面で深々と頭を下げられて、毒気を抜かれた摩利は目をそらした。
「摩利、もういいじゃない。達也くん、それにイリヤさん。本当にただの見学だったのよね?」
どうして名前で呼ばれているのだろうか。と思ったが絶好の機会でやってきた助け舟を無駄にするわけにはいかない。たまたま目があった達也もおんなじことを考えていたようだ。
「はい」
「大変参考になりました」
それを真由美は満足そうに頷いた。
「生徒同士で教え合うことは禁止されているわけではありませんが、魔法の行使には、起動するだけでも細かい制限があります。このことは一学期の授業で教わる内容です。魔法の発動を伴う自主活動は、それまで控えた方がいいでしょう」
会長の言葉の後に風紀委員長も続く。
「……会長がこうおっしゃられていることでもあるし、今回は不問とします。以後はこのようなことがないように」
その言葉を皮切りに、当事者全員が‘慌てて頭を下げた。
そんな一同に見向きもせずに摩利は踵を返した。
と、思われたのだが。
「そういえば、そこの君」
「なんでしょう」
視線もこちらに固定されている。何だろうか?
「先程会長からイリヤさんと呼ばれていたな」
そういうことか。
「申し遅れました。1―Aのイリヤスフィール・フォン・アインツベルンと申します。ドイツからの留学ということでこの第一高校で三年間学ばせて頂きます。よろしくお願いしますね、先輩」
そう言い切ると、周りからどよめきが聞こえてくる。耳を澄ましてみる。内容としては、「あのアインツベルンが!?」「本物だ……」などなど。やはりそういう反応になるよなぁ……。
「君が……うん覚えておこう。それで隣の分析が上手な君は?」
「1―Eの司波達也です」
「君のことも覚えておこう」
そんなやりとりを最後に、第一高校に入学してからの最初の波乱は幕を閉じたのだった。
すごい無理矢理な気がしますが……
ちょこちょこでいいので直していけたらと思います。
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