生存報告
また当分更新できないと思いますが、待ってていただければ幸いです。
「借りだなんて思わないからな」
噛ませ犬ですと言わんばかりの捨て台詞を吐いた男子生徒。森崎は達也を棘のある視線で睨み、同じく棘のある口調で達也にそう言った。
達也を見れば、やれやれという表情を浮かべていた。ほかにも二科生の生徒が達也と同じような顔をしていた。
「貸しているなんて思っていないから安心しろよ。決め手になったのは俺の舌先じゃなくて深雪の誠意とアインツベルンさんのとっさの判断によるものだからな」
「イリヤでいいわよ」一応同学年の学友になるわけなのでちゃんと言っておいた。
その後の司波兄妹のやりとりに毒気を抜かれたのか、気を削がれたのか、やや敵意の薄れた表情で名乗りをあげる。
「……僕の名前は森崎駿。お前が見抜いた通り森崎の本家に連なるものだ」
そうなんども言わなくても分かる、と言いかけたが飲み込む。いつだったか、興味本位で日本の魔法について調べていた時、森崎一門のクィックドロウを見たことがある。確かにアレは速いが、やはり到底私には敵わないレベルだと思った。彼は森崎の中でも優秀なのかは知らないが、動画より少しクィックドロウが速かった。ちゃんと鍛えれば素晴らしい魔法師になると思う。
まぁ、本人次第だが。
さらにエリカとレオ、美月のコントのようなやりとりを挟んで
「僕はお前を認めないぞ司波達也。司波さんは僕たちと一緒にいるべきなんだ。それにアインツベルンさんもだ。
この期に及んでまだそんなことを言うのか。まさか、こいつは私の楽しみにしていたスクールライフを邪魔するつもりなのだろうか。前言撤回、ちゃんとした魔法師になりたくばその性格を直したほうがいい。
「まぁ、考えておくわ」
そう言い切り、私の返事を聞くと、「いきなりフルネームで呼び捨てか」という達也の独り言のようなボリュームの言葉に反応することなく、そのまま立ち去った。達也の言葉に若干肩が動いていたが、彼のプライド故か、こちらを振り返ることなくズンズンと歩いて行った。
その後、なんやかんやで一緒に帰ることとなった。
高校生らしいイベントの王道を体験することができると言うことで、私の気分は最高の状態だった。
若干微妙な空気であることを除けば。
ふと、そんな雰囲気を壊すかのようにほのかが達也に向けて質問をした。
「じゃあ、深雪さんのアシスタンスを調整しているのは達也さんなんですか?」
「ええ、お兄様にお任せするのが一番安心ですから」
ほのかの質問に対して深雪が我が事のように得意げに答えた。
達也は深雪の発言に対して「そうでもない」と苦笑いをしていた。
「それだってデバイスのOSを理解できるだけの知識がないとできませんよね」
「美月の言う通りよ。デバイスのアレンジなんて
深雪の隣から覗き込むようにして顔を出して会話に加わった美月に続いて私も気になったことを聞いてみる。
深雪ほどの実力者が使うCADだ、本来ならプロのエンジニアにやってもらうのが一番いいはずだ。しかし先ほど、深雪はただの学生であるはずの達也に任せるのが一番安心といったのだ。何かありそうと思うのは当然だろう。すごいと思うのは事実だが。
深雪がなにか同志を見つけたかのような嬉しそうな表情を浮かべてこちらに声をかけようとしていたが、いち早く気づいた達也に手で制された。文句を言いたげな深雪をよそに
「少しデバイスに慣れているだけさ。実力主義の魔法科高校では実技のできない俺は二科生であっても別におかしくないだろう」
「ふふ、今はそう言うことにしといてあげるわ」
なんにせよ、いずれ分かることだ。今はそう言うことにしておこう。
「CADの基礎システムにアクセスできるスキルもないとな。大したもんだ」
「達也くん、私のホウキもみてくれない?」
振り返りながらレオとエリカ。
確かエリカのホウキはあの警棒か。彼女が制圧に動く前に私のアイリスで片付けてしまったからわずかな時間しか見れていないが。
「無理。あんな特殊な形状のCADをいじる自信はないよ」
「あはっ、やっぱりすごいね達也くんは」
達也の返事は本気なのか謙遜なのかわかりにくいものだったが、エリカの反応は裏表がないものだった。先の会話から、私は十中八九謙遜だと思うが。
「えっ?その警棒、デバイスなの?」
目を丸くして驚きの声をあげる美月に満足したのか、ウンウンと頷くエリカ。
まぁ、それが普通の反応だろう。
私が起こした技術革命の影響か、ドイツでは刻印魔法自体それほどマイナーでもない。刻印を効率よく、無駄なく刻むことができればどんなものだってホウキとして使えるし、いくらでも応用が利くからだ。それに対して、日本では魔法の発動はCADが主で刻印魔法自体の認知度がとても低いのだ。
「……どこにシステムを組み込んでるんだ?さっきの感じじゃ、全部空洞ってわけじゃないんだろ?」
「いえ、全部空洞じゃないかしら。警棒の中にCADの機械を入れたりなんかしたら縮められなくなるし、振った時の衝撃で木っ端微塵になるわ。だとすれば刻印魔法かなって思ったのよ」
レオの質問に続いて私が言葉をつなげる。
「さっすがイリ、……えーと」
「イリヤでいいわよ、エリカ」
友達とは名前で呼び合う、はず。本当に呼び捨てでいいのかと言う目とともにこちらを見てきたエリカに間髪入れずオッケーを出す。
「ありがと……コホン、イリヤの言った通り。柄以外は全部空洞なの。刻印式の術式、刻印魔法で強度を上げているの。レオ、硬化魔法得意なんでしょ?」
「……術式を幾何学模様にして刻み、サイオンを注入することで発動するって言うアレか?そんなもん使ってたら並のサイオン量じゃ済まないぜ?よくガス欠にならねぇな?そもそも刻印型自体、燃費が悪すぎるってんで、今じゃあんまり使われていねぇ術式のはずだぜ」
レオの指摘にエリカは目を開き驚き半分、感心半分を表した。
「あんた、鋭いっちゃ鋭いけど本当にドイツの血が流れてるのかしら?アインツベルンの、イリヤの刻印魔法って言ったらドイツの誰もが知ってるって兄貴の知り合いが言ってたけど」
「そりゃ知ってるさ。アインツベルンの魔法技術革命は世界中で話題になってたしな。革命の主な内容は刻印魔法とかマイナーな魔法の完全効率化だったわけだからな。それで効率が良くなったってサイオンを大量に使うことには変わりねぇだろう?」
やっぱりそこまで話題になってたか。
私は壁が大きければ大きいほど乗り越えたくなる性格なのだ。ゴミと呼ばれていた魔法を効率化・最適化して世に発表したのが魔法技術革命だなんて呼ばれているのは小耳に挟んでいたがこれほどまでだったとは。
「ま、そこは私の腕でカバーってところね。要は効果が必要な時だけ魔法を発動させればいいってわけ。振り出しと打ち込みの瞬間だけね。
その刹那を見極めてサイオンを流せば、そんなに消費しないわけ。つまり兜割と似たようなものね……って、みんなどうしたの?」
逆に感心と呆れ顔がブレンドされた空気にさらされて、居心地悪げに尋ねたエリカに、
「エリカ……兜割って、それこそ秘伝とか奥義とかに分類される技術だと思うのだけれど」
「単純にサイオン量が多いよりもすごいと思うわよ?」
全員を代表して深雪と私が答えた。
「達也さんも深雪さんも、イリヤさんもすごいけど、エリカちゃんもすごい人だったのね…………うちの高校って、一般人の方が珍しいのかな?」
「魔法科高校に一般人はいないと思う」
美月の天然気味な発言と、それまで押し黙っていた北山雫がボソッと漏らした的確すぎるツッコミで、色々とわけありの空気は確信が見えぬまま霧散した。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ」
靴を脱ぎ、リビングへ続くドアを開けるとそこらの主婦となんら変わらない衣装にエプロンをつけたセラが出迎えた。
「あれ、リズは?」
「ああ、情報収集と関係各所に挨拶に向かわせました。あと少しで帰ってくるかと。イリヤ様はこれからどうしますか?」
「エミヤ魔法工学と五十里の共同開発の警棒って持ってきていたかしら?」
「申し訳ありません。持ってきていません。データの方のみとなっています」
残念だ。送られてきたその時は、ナインライブズの開発で大忙しだったので見向きもしなかったのだ。一応、データの収集のみは行わせていた。エミヤ魔法工学研究所に行く時のお土産として警棒を改良して持って行こうとしたのだが……最悪データだけあれば魔法式の構築と幾何学模様化、デザインの設計はできる。
「そう。まあいいわ…………そうだ、遠坂重工との会談とか研究の件、正式に許可が出たわ。スケジュールのチェックをお願い」
「かしこまりました。警棒の件なのですが、ドイツより持って来させましょうか?」
「お願いするわ」
「では、2日以内に」
そう言うと私は自室に戻った。
謝罪
第7話に続く8話と9話を削除して投稿をしました。
理由は、どうしても続くがかけなかったからです。変にごちゃごちゃしてしまって、このままグダグダしてしまうならやってしまえと言うことで、はい。
何かあれば感想等でお知らせください。
感想・評価お待ちしております。
では