東方心届録   作:息吹

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 東方キャラソートの結果、一位と四位に幽香がいました。

 この話から、原作の時間軸に至るまでに関係を持たせたいキャラの話になります。
 ちなみに、先のキャラソートでどの順番で出すか決めました。
 そしてこのあたりから作者が何も考えずに書き始めた故の弊害が出始める。

 それでは、どうぞ。(注:オリキャラ要素あります)


第13話

 人間の恐怖の象徴である妖怪の中でも、とりわけその代名詞として有名な妖怪……厳密には、種族が存在する。

 圧倒的膂力、妖力。妖怪としての格。

 総じて酒好きで、勝負好き。

 嘘を嫌い、『人攫い』による人間との真剣勝負も好む。

 

 鬼。

 

 その逸話は全国各地に轟き、人であろうと妖怪であろうと恐れる程の存在。

 さて、では何故ここでその種族の名が出てくるのか。

 

「――さあ半端者! この伊吹萃香が相手になるぞ! いざ尋常に、私と真っ向勝負と行こうじゃあないか!」

 

 山の四天王の中で、酒呑童子の名で知られる鬼の中でもさらに力が強いとされる鬼がいる。

 名を、伊吹萃香。

 童女にしか見えない容姿に、紅く爛々と輝く瞳。頭の左右からは見た目に相応しくない程大きな捻じれた角が生え、それは彼女がまさしく鬼という種族であることの証左。

 そんな彼女は今、挑戦的な笑みを湛え、こちらを睥睨している。

 場所は、妖怪の山と呼ばれる、鬼と天狗、河童が主として生息する、妖怪蔓延るこの国で尚その名が付けられる程恐れられる山の頂点近く。

 周囲は無数の鬼が集い、酒を呑み、料理を食らい、天狗や河童のような手下を弄ぶ。

 宴会の体を為すこの状況に、彼ら彼女ら鬼のことを詳しく知らない幽綺は圧巻される他ない。

 

「……えと、紫さん?」

「……ごめんなさい。こういう、宴好きな性格なの。彼女が、というか、鬼が」

「気にしなくていいわ。冷やかしはしても、邪魔立てはしないから」

 

 ここに連れてきた本人ですら溜息を漏らす始末。

 始まりは、紫の友人を名乗る童女が風見邸に突撃してきたことからだった。

 

 

 

    ◇◆◇◆

 

 

 

 昼食も終え、まったりとした時間帯。

 幽綺は今、姉の幽香と共に、少し前に外国から仕入れた……確か、向日葵と言う花の世話をしに庭に出ていた。幽香は大層この花を気に入ったらしく、何かある度にこうして様子を見に来ている。

 向日葵達もその愛情は分かっているのか、幽綺や幽香が近付くと、一様に嬉しそうな声を掛けてくれるのだ。それがまた何ともくすぐったい。

 

「……ん」

「? どうかしましたか、幽香姉さん」

 

 唐突に顔を上げた幽香。不審に思い、幽綺は声を掛ける。

 幽香は不機嫌そうに溜息を吐くと、

 

「……はあ。隠れてないで出てきなさい。散らしても、そこに植物がある限り私には分かるわよ」

『ハハッ。なんだ、情に絆されたと思ったが、いやなに、やっぱあんたは強いよ』

 

 どこからともなく、声が聞こえた。

 若干呂律の回ってない声の調子。それはどこか、幽綺の記憶の限りで言うならば、酔っている、と言うのが一番適切なように感じる。だが、酔うと形容するにはその声は幼く聞こえる。

 誰かがいる。

 それを認識した瞬間、幽綺は懐に手を伸ばした。

 だが、術を発動する前に、幽香に尋ねる。今の調子だと、どうやら幽香とその誰かは面識があるようだが……?

 

「幽香姉さん?」

「警戒しなくていいわ。面倒だけど、敵ではないから」

「わかりました」

 

 そう言われ、素直に幽綺は懐の札から手を離した。

 

『しししっ。私は別にそのまま戦ってみてもいいんだけど?』

「馬鹿言うんじゃないわ。一本でもここの花を折ってみなさい。いくらお前だろうと私は殺しきるわよ?」

『お、いいねえ。ならちょいと一本適当に折ってみ――」

「――見つけましたよ」

 

 幽綺の傍らの空間が裂け、そこから無数の簡易的な人形の式神が飛び出してきた。

 それらはこの花畑に散らばったかと思うと、幽綺達の目の前で再度集いだす。

 

『おおう? 何だ何だ、何だこの紙切れ。っとと、あら? あらららら?」

 

 次第に声が実体を帯びていく。

 集まった式神が縄のように繋がり、ある存在を縛り上げる。

 童女のように小さな体躯。近くにいるだけで酔いそうになる程の強い酒気。頭から生える、大きな角。

 幽香はその姿に、やはりか、という思いで再度溜息を。

 幽綺は、初めて見るその妖怪の姿に驚きを。

 圧倒的妖力と共に、彼女はそこにいた。

 

「――へえ。私を縛り上げるなんざ、やるじゃないか。混じり物」

 

 その赤い瞳は、獰猛に幽綺を見据えていた。

 

 

 

 

「最近、風の噂で聞いてね」

 

 あの大妖怪風見幽香が男を作った――っていう噂。

 

「しかし正しくは、男じゃなくて姉弟。直接血を分け合った同胞ってことかい。実力は相応にあるみたいだけど」

「何しに来たの。ここには貴方の望むものなんて無いわよ」

 

 観察するような、面白がるような萃香の視線を受け流し、幽香は直接本題を切り出す。

 この酔っ払いには、根本的に話は通じない。

 彼女は鬼だ。

 自由で、豪胆で、驕っていて、見下している。何もかもを自分達より弱い者と断ずるこの種族に話を聞いてもらおうと言うのならば、相応の強さを見せるか、それ以外の何かで気に入られる他ない。

 だが、彼女らは鬼であるが故に、その強さは絶大だ。

 まあ間違いなく、下手な態度を取ろうものなら殺されかねない。

 そんな彼女達相手に実力を示し、対等だと認められた数少ない存在が、風見幽香や八雲紫といった大妖怪のさらにごく僅かの者達だ。

 幽香にとってすればどちらが上だとか下だとかに頓着はあまりしないとはいえ、見下すように『認められる』と言う彼女達鬼の認識に多少なりとも思う所はあるのだが。

 

「何も無いってことは無いさ。鬼が興味を示すと言ったら、酒か、肴か、強者と決まっているだろう」

「お生憎様、貴方が満足する程の強い酒は置いてない。花見酒と言うにも季節は過ぎた。強者が望みなら、私じゃなく他をあたりなさい」

「いやいや、アンタとの闘いも心惹かれるものはあるけど、今回の目的はお前じゃない。横に居るソイツさ」

 

 その言葉に、内心舌打ちをする。

 萃香が視線を向けるのは、未だ警戒を解いていない幽綺。一応捕縛は解いたものの、いつでも何かしらの術式を発動できるように備えてはいる。

 彼の実力は、幽香や紫でも認めるところだ。

 その才故に、彼の持つ手札は数多い。陰陽術、式神、妖術に体術武術。霊力も妖力も持ち、さらにその総量も多い。妖怪も混じっている、さらに言えばその混ざった妖怪部分の元が幽香という大妖怪であるため、肉体の頑丈さ回復力も極めて高い。

 流石に肉体面や妖怪としての一側面だけでは幽香達に劣るものの、彼の強さをそれ以外もひっくるめて評するなら、彼はもう幽香達と同じ域にまで達している。

 ただ、性格故に幽綺は幽香に手を上げないし、紫は能力との相性上どこかで負けざるを得ないのだが。(そもそも紫の能力を前に相性が良いと言えるようなものは存在するかどうかすら怪しい)

 だが、だからと言って鬼に目を付けられるのは良くない。

 彼女達は加減を知らない。もしくは、知っていても無視している。

 そんな相手に、新しい強者を――獲物を――放てばどうなるか。

 

「さあ半端者。私と勝負しよう。さっきから血が騒いで仕方ないんだ」

「そんなに強い奴と戦いたいなら、神無にでも挑みなさいよ」

 

 言った瞬間、萃香の動きが止まった。

 

「あ、あは、ははは。冗談がきついよ、花妖怪。そんなことしたら次こそ殺されかねん」

 

 先までの威勢はどこへやら。本気で怯えた様子の萃香に、幽香はまたしても溜息を溢すのであった。

 萃香は、鬼という種族の中でもさらに強い部類に入るが、決して一番ではない。

 さらにその上に、彼女よりもさらに力のある鬼が存在するからだ。

 名を、神無(かんな)

 萃香達鬼の四天王の中でもずば抜けた実力を持つ、妖怪の中でも随一の強者。

 時折、妖怪達の間でも誰が一番強いのか、という話題になることがある。すると当然、風見幽香や伊吹萃香などの名も挙げられるのだが、その中でさらに、()()()()()()()()()()()()()という存在が居る。

 それが鬼子母神こと、神無。

 彼女は人外達の間では有名だが、こと人間達にはあまり知られていない。

 彼女は人間を相手にしないからだ。

 彼女の在り方は、鬼としては異端だ。

 確かに、強者との闘いは好む。酒も好きだし、嘘を嫌う。

 だが、彼女は理性的だ。

 人攫いをしてまで人との闘いをしようとは思っていないし、強いと噂されれるのならば自分から手合わせに行く。力を過信せず、油断も慢心もせず、正々堂々としている。

 萃香を含めた鬼という種族が騒げれば良し、という性格であるのに反し、彼女だけは純粋に力を求めていた。

 

「……実は連絡手段を持っていたりしないよね?」

「そこまで怯えられたら私としても流石に困る。本当に冗談だから、安心しなさい」

「本当だね? 信じるよ? こんな所で嘘を吐いたら本気でお前の首を獲るよ?」

「鬼相手に嘘なんて吐かないわよ」

 

 彼女が、というより彼女達鬼が神無を恐れるのには理由がある。

 かつて、神無が妖怪の山で萃香達と一緒に四天王と呼ばれるよりも前。

 強き者を求める故か放浪癖のある神無は、偶然か運命か、既にその山を根城にしていた萃香達鬼の集落へと足を踏み入れた。

 勝負好き同士が邂逅したのだ。こうなることは誰もが容易に想像できるだろう。

 彼女達は戦った。

 呑み比べに知恵比べ、最後は力比べまで、あらゆる勝負事を行った。

 当時の様子を知るある天狗に(今は天魔と言われていたか)その時の様子を語らせると、遠い目をして、

 

『地獄。ただ、それだけしか言いようは無いよ……ありゃ律する者がいない分、本物の地獄より質が悪い……』

 

 そして乾ききった笑い声を上げるのだ。いつもはおちゃらけた態度の彼が、それすら無くしてただただ虚空に笑いかけるその姿はあまりに痛々しかった。

 ともかく。

 彼女達の勝負は、一週間の間夜通し続けられた。

 結果は、神無の圧勝。自らの力を信じていた鬼の中には、その圧倒的実力差に心をすっかり折られた、どころか砕かれた者もいたとかなんとか。

 神無は、その場に居た萃香含む鬼全員と同時に相手した上で、事も無げに勝ってみせたのだ。

 呑み比べでは、一人で他の鬼達全員分と同じ量を飲み干し、

 知恵比べでは、何人もの鬼が突き付ける難題に全て答えてみせて、

 力比べでは、一対全で暴れまわって一人残らず投げ飛ばし、

 言ってしまえば。

 『彼女は規格外。鬼どころか妖怪という括りで語られるものではない』――というのが、結果残った彼女への認識であった。

 恐ろしき鬼がたった一人の鬼に敗けるという噂はたちまち全国に知れ渡り、今ではもう、鬼子母神の名を知らぬ妖怪はいなくなったのだった。

 彼女と相対した者は口を揃えてこう言う。

 規格外。理解不能。歩く災厄。そして――最強。

 ちなみに、幽香は彼女と戦ったことはない。戦うだけ無駄だからだ。……だって、勝てる未来が見えないのだし。

 

「と、とにかく! 今山には神無はいない。ここ暫く暇だったんだし、私と勝負してくれよ!」

「嫌よ。私も幽綺も、アンタ達程酒に強い訳でもなんでもないのよ」

「そんなことないだろ? 事実お前は私となら張り合えるだけの強さを持ってる。そんな奴の血を引いてるんだ。ソイツが弱い訳がない! それに、お前だけじゃなく、紫も目を掛けてるんだろ? なら尚更引けないねえ!」

 

 こうなってしまっては、彼女は言うことを聞かないだろう。

 

「……幽綺、貴方はいいの? コイツと、鬼と戦うことになっても」

「そもそも私は鬼という種族を見ることすら初めてなんですが……」

「そう言えばそうだったわね」

 

 少し考えて、

 

「大体こんな感じよ」

「私らの説明雑や過ぎないかい!?」

「分かりました。覚えておきましょう」

「お前さんもお前さんで納得しないでくれよ!」

 

 不服なのか、萃香は自分達鬼のことを、そして、鬼子母神のことも幽綺に教えていた。

 意外と誇張なく教える萃香と、それを真面目に聞いている幽綺を尻目に、幽香はある妖怪を呼ぶ。

 

「見てるんでしょ? 出てきなさい」

「……ねえ、本当に何で分かるの? まだ理解出来ないんだけど」

「感覚と慣れね」

「お、紫も来たのか! なあ、お前からも言ってくれよう。私と勝負しろってさぁー」

 

 なーなーと紫の服の裾を引っ張る萃香の姿はまさしく童女のそれだが、なまじ鬼の膂力で引っ張ているが故に紫の身体はぐらぐらと大きく揺れ動いていた。

 その手を軽く叩いて離させると、するりとスキマから身体を出して、疲れた様子で萃香を睨む紫。その視線の意図が分からないのか、呆けた表情の萃香。

 

「……貴方、彼のこと、どこで聞いたの?」

「うちの山には耳が早い奴は一杯いるからね。風見幽香が男を連れているって噂は前から聞いてたけど、ここまで強くなったのなら自然、私の耳にも入ってくるさ」

「彼をどうするつもり?」

「言ってるだろ? 私は戦えさえすればいいんだ。他の奴らがどうするか、戦いの中でどうなるかは知らないけど、どうこうするつもりはないよ」

 

 鬼は嘘が嫌いだ。だからこそ、彼女の言葉に裏はあろうとも、嘘はない。彼女が戦いたいだけと言うのならば、事実それが主目的なのだろう。

 だが、と幽綺を見遣る。

 彼の気性はとても穏やかだ。半妖になったばかりの頃こそその血に振り回されていたものの、今ではそれを抑えれるようになっているし、彼の怒りの琴線にさえ触れなければ争い事を起こすことはまずない。

 ただ、それを萃香に伝えた所で、彼女が引き下がるかと言われればそんなことはないだろう。あの手この手で彼を戦いの場に連れ出そうとしてくるのは簡単に想像できる。

 

「もし、断り続ければ?」

「諦めるまで、何度も。妖怪の生は長いんだ。何回だって来てやるし、なんなら、戦わざるを得ないようにだってしてやる」

「例えば?」

「ここの花を折ってやれば、花妖怪も混じり者も、どっちも怒ってくれるだろう?」

「死にたいのならそう言いなさい」

 

 何よりも早く、幽香が殺気を纏った。その圧力に、さしもの萃香も冷や汗を垂らす。

 だが彼女は、それでも獰猛に笑って、

 

「じゃあ勝負しようじゃないか。最初からそう言っているだろう?」

 

 隠しもせずに舌打ちをする。

 幽綺を戦わせたくはない。だが、戦わなければ大事な花々に被害が出る。

 そう、両挟みになって懊悩する幽香を見て、幽綺は、一つ息を吐いて覚悟を決めた。

 

「いいですよ」

「……ほう?」

「いい、って……でも、幽綺。貴方、鬼という種族がどれ程強いのか――」

「負けたのなら負けてしまったで構いません。私が強くなったのは、護りたいもののためですから。決して、誇示するためではありません」

「よし! 本人がこう言っているんだ。もう文句は言わせないよ!」

 

 我が意を得たりと、萃香は笑った。

 言質は取った。あとは、勝負の内容や規則を決めればもう準備は終わる。

 今から戦うのが楽しみで仕方がないという雰囲気を全身から発する萃香を見て、幽香と紫は顔を見合わせた。

 口を開いたのは、紫だった。

 

「……時間を頂戴。鬼を相手に、それじゃいますぐ、なんて無謀に過ぎる」

「いいよ。そのくらいは強者の余裕の見せどころってね。慣例に則って、どんな勝負をするかもそっちが決めて良いさ」

「三日後。三日後に、私が伝令役として妖怪の山に向かいましょう。その時に、内容や日時、決まり事を伝えるわ」

「あんまり待たせるんじゃないよ? 私が待つことに飽きたその日の内に、ここは更地になるぞ」

「そんなことになれば貴方を現世から消してやる。相応の覚悟を持って来なさい」

 

 妖力を滾らせ睨む幽香に、酒を呷って嗤う萃香。

 申し訳なさそうに謝る紫に、変わらぬ笑みで返す幽綺。

 向日葵が咲き誇るある夏の日。

 こうして、幽綺が初めて遭遇した鬼は、闘争を連れて来たのだった。




 逆に短すぎて不安になる。

 ということで、まずは鬼編。
 鬼を出すなら、というか、新キャラ出すなら基本的に戦闘させた方が何かと話が作りやすい。
 でも主人公は本来争い事を好まない性格なのです。今回は花畑が人質……花質?に取られたので致し方なくです。ええ。仕方ないのです。
 オリキャラとして、鬼子母神と天魔を出しました。名前だけですが。
 この話の舞台が舞台なだけに、その内二人とも出します。

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 自分知ってますから。鬼子母神はどれだけ強くしてもいいって知ってますから。(中二病の詰め合わせみたいになりそう)
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