東方心届録   作:息吹

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 男と女、少年と少女なら、幼女の対比は何なんでしょう。

 主人公のことを少年と書きながら、でも少年と言うには幼いんだよなあという思考のもとこんな疑問を持ちました。
 尚、ある友人曰くショタと答えられました。
 ちなみに調べる気は特にありません(オイ)

 それでは、どうぞ。


第3話

 今のは何だ。

 自分は今目の前の少年に関心を寄せている。

 寄せているのに、興味を持てない。

 どうでもいいと思う気持ちと、まだ少年のことが知りたいという相反する思いが衝突する。

 

「……そろそろ帰るわ」

「はい、分かりました。どうかお気を付けて」

 

 自分が道中に気を付けることなど有りもしないが。

 意志とは裏腹に少年への関心が急激に薄れていく。少年のことを思えば思うほど、それ以上に思いを向けることが出来なくなってしまう。

 そこで幽香はこの違和感の正体に見当が付いた。

 少年へと興味を持つことが出来ない、つまり、少年へと踏み込むことが一定以上出来なくなってしまうということは、それ以上を少年が拒絶したということか。

 少年の能力が、幽香の物理的な攻撃だけでなく、内面的な部分にまで作用したのだ。

 

(そうまでして自分に関心を持ってほしくなかった? いや、()()()()()()()……むう)

 

 なかなか厄介なことをしてくれる。

 自分はまだまだ知りたいことがあるというのに、少年の能力の所為でそれ以上踏み込む気が強制的に失われてしまう。

 なんなら明日にでもまた少年の元へと行けばいいのだが、今の自分は行く気が起きないし、明日よしんば行ったとして、また同じように能力を使われてしまっては話すことも出来るか怪しい。

 

(あのスキマならなんとか出来るかしら。向こうから振ってきたんだし話位は聞いてもいいわよね。いや、別にやらなくて……チッ)

 

 なんとまあ面倒なことか。

 

 

   ◇◆◇◆

 

 

 風見幽香と名乗った妖怪はもう目の届く範囲にはいない。

 少年は玄関を出たところで離れていく幽香を見送っていた。

 能力を操作してこれ以上関心を持つことが出来ないようにしたので、もうここに来ることはないだろう。ここに来るということを実行する程の意志も持つことは出来まい。

 これでいい。

 久方振りの他人との会話に思うことが無い訳ではないが、それ以上に自分と関わってほしくなかった。

 自分と一緒にいれば必ず傷付いてしまう。傷付けるのはまた別の誰かからもしれないし、自分かもしれない。

 誰かが傷付くのはもう嫌だ。誰かが傷付いてしまうくらいなら自分が傷付くことを選ぶ。

 大妖怪だから傷付くことはないだとか、そんなことを気にする程弱い存在などではないだとか、そういう思考は少年にはなかった。

 良くも悪くも、少年にとっては世界は自分と他人しかいなかった。

 そういえば。

 

(何で僕と一緒にいると傷付くんだろう……?)

 

 今までそういうものだと勝手に思っていたが、はて、自分にそんな経験はない筈だが……?

 

「久しぶりの他人との関わりは如何でしたか?」

「えっ?」

 

 後方、家の中から声がした。

 不思議に思い振り向くと、見たことのない鮮やかな金髪を持った少女がこちらを見つめながら座っていた。

 有り得ない。

 自分は今、というより常時能力を発動している。物理的にも精神的にも自分にある程度近付けなくなるものだが、その範囲は今家の中全体を含んでいる。

 それに、今しがた幽香に使ったように、今は自分に興味を持つことも殆ど出来なくなっている筈なのだ。

 なのに今目の前にいる少女は何時の間にか家の中に侵入しているし、わざわざ自分に会いに来たということは興味もそれだけ持っているということだ。

 色々と疑問は残るが、

 

「……初めまして、ですよね」

「はい、初めまして。ふふ、思った通り変な子ね。最初に出る台詞が挨拶だなんて」

 

 興味を持たれないようにするには悪感情も持たれてはいけない。

 故に少年は誰に対しても敬語であり、礼儀正しい。相手が人間でも、妖怪でも。

 そんな態度こそ人間に忌避されることの一因であったり、余計に目の前の妖怪等から興味を持たれる原因であったりするのだが、悲しいかな、少年がそこまで行き着く程思考は成熟していなかった。

 

「ふふ、そんなに警戒なさらずともよろしいですわ。(わたくし)は貴方とお話ししたいだけですのよ? ささ、お座りくださいな」

「先程も同じような言葉を聞きましたね」

 

 なるべく距離を取りながら家の中へと戻る。

 どうにも信用できないのは何故だろうか。しかし、変に反発してしまっては悪い意味で興味を持たれてしまうので、素直に話す体勢へと移行する。

 

「私の名前は八雲紫。先の風見幽香と同じく、大妖怪と言われる者です」

「紫さん、ですか」

「はい。ああ、貴方は名乗らずとも結構です。名前をお持ちでないのは把握していますので」

 

 何が可笑しいのか扇で口元を隠してくすくすと笑いながら、少女は自身の名前を告げた。

 自分に名前が無いのを知られているのは少し意外に思ったが、どうやって知ったのだろうか。自分のことを話すことなど、それこそ先程の風見幽香という妖怪が初めてだというのに。

 それに、どうやって能力の効果の影響下にある筈の家の中に侵入したのだろうか。

 少女のサイズでは窓からというのは考えにくいし、玄関は自分がいたのだから有り得ない。

 何も分からない。

 

「意味不明、という顔ですわね」

「あ、いえ……」

「お気になさらず。意外でしょうが、幽香が『拒絶する程度』と名付けた貴方の能力は、私には効きません。こう、ちょちょいと貴方の私に対する拒絶と許容の境界を弄らせていただいたのですわ」

「境界、ですか?」

 

 聞き慣れない単語に鸚鵡返しで問い返してしまった。

 

「私の能力は『境界を操る程度の能力』と言いまして。自分のことながら、神にすら届き得ると自負しております」

「は、はあ……」

 

 そう言われても、どれ程凄いことなのかイマイチ理解出来ないのだけれど。

 まあ、それならこの不可解な状況にも説明付けることが出来る。

 

「と言いますと、この家の中に入ってきたのも、僕が気が付かなかったのも、その能力があったから、ということですか」

「……驚いたわ。こうもすぐにその答えに辿り着くなんて」

 

 なにか小声で呟いたようだが、少年には届かなかった。

 境界を操ると言われたところで何が出来るのか、どうやって使うものなのかなど皆目見当もつかないが、きっと出来るのだろう。むしろそれしか説明付けることが出来るものも無いし。

 しかし、参った。

 少年にとって能力が効かないというのは、深刻な問題となり得る。

 少年は誰にも興味を持たれず、独りでありたいと願っているのに、これでは彼女には関心を持たれてしまうではないか。

 

「……僕と話したいこととは何でしょうか」

「うーん……硬いわねえ。もっと楽にしていいのよ?」

「そう言われましても。僕にはこれが普通です」

 

 紫は困ったように苦笑しているが、変えろと言われたところで変えるようなものもない。

 まあいいでしょう、という言葉と共に紫は真っ直ぐにこちらの目を見つめながら口を開いた。

 

「話というのは他でもありません。――――貴方には、これからも風見幽香に会っていただきます」

「……はい?」

「幽香には、私が動いて貴方の能力の影響を受けないように致しましょう。それでこれからも幽香と会い、会話し、親密になって―――――」

「いやいやいや、待ってください。僕は誰かと仲良くなんて、」

「知っています」

 

 言葉を被せて紫は言った。

 言葉にできない迫力に呑まれ、少年は口を噤んだ。

 紫の今の一言には、そうさせるだけの圧力があった。

 

「貴方が自分と関わることで誰かが傷付くことを恐れていることも。傷付けない為に自分が孤独になることを選んでいるのも。誰かが傷付いてしまうなら自分が傷付きくことを選んでしまうことも。全てなどと大それたことは言えませんが、ある程度は貴方の心情を理解しているつもりです」

「ならどうして」

「それでも」

 

 それでも、

 

「……貴方には、幽香と関わりを持ってほしい」

「……どうしてですか」

 

 少年は理由を問うた。

 目の前の少女は少年の健気で歪な願いを理解していると口にした。

 なのに、彼女が告げた言葉はその願いと相反している。

 少年は分からなかった。

 彼女がそう言う理由が。

 少年は嫌だった。

 当然だ。自分は孤独でありたいのだから。

 しかし、少年は。

 

(…………?)

 

 何かが少年の心に浮かんだ。

 それはまるで泡沫のように浮かんではきたものの、形になる前に消えてしまうような儚いものであった。だが、少年の心をざわつかせるには十分なものであった。

 だが、少年にはそれを言葉にする術を持っていなかった。

 

「私にも目的があります。それを実現する為に、貴方を利用させてもらうのです」

「……それは、僕に直接言っていいものなんですか?」

 

 考え事をしていた所為で少し反応が遅れてしまったが、不自然にならない程度のものであった筈だ。

 言葉にすることができない泡はやがて少年の心の隅へと追いやられてしまい、いつしかそのまま消えてしまうだろう。

 果たして、少年がその正体に気付くことが出来る時が来るのだろうか。

 

「最初から教えることで信頼を得られるのなら構いません。それに、貴方の意思に関わらず無理矢理利用させてもらうつもりですので」

 

 くすり、と紫は笑みを溢した。

 少年は彼女の真意を探るようにじっと目を見つめていた。

 彼女の意図はどこにある? 目的とは? 自分と幽香が親密になることで何にどんな影響があるというのか。自分と関わったら傷付くだけだというのに、わざわざ近付く必要などないだろう。

 しばらくそうして見つめあっていた二人だが、先に折れたのは少年の方だった。

 溜息を一つ漏らす。

 

「……はあ。僕に拒否権は無いようですね」

「あら、目的の中身とかは訊かないの? 理解が早くて此方としては助かるけれど」

「訊いて教えてくれるようなものなんですか?」

「いえ、お断りさせていただきますわ」

「ならいいです」

 

 少女から感じる胡散臭さにそんなことだろうと予想はしていたが、全く、強引な妖怪(ヒト)だ。

 少年は再度溜息を漏らすと、紫を見据え、

 

「ご自由にどうぞ。ですが、僕は独りでいたいということを忘れないでくださいね」

「ええ。私の目的に抵触しない範囲では最大限貴方の意思は尊重します。それは私の名前に誓って絶対に守ります」

 

 

 

    ◇◆◇◆

 

 

「どうだったかしら、私の言っていた少年は」

「……今私に能力を使おうとしたわね」

「何で分かるのよ」

「分かるからよ」

「……まあ、いいけど。ほら、悪いことはしないから大人しくする。貴方だって、まだあの子と話してみたいのでしょう?」

「……ふーん。なら早くしなさい。どうも気分が悪くて苛々するのよ」

「おお怖い怖い――――はい、終わったわ」

「そうみたいね。はあ、ようやくあの気持ち悪さが消えた。今日は……もう遅いか。また明日行こうかしら」

「……ふふっ」

「気色悪い」

「直球ッ!?」




 少しくどい感じがします。

 主人公が見た目の割に言動が冷静過ぎて書いてて違和感しか感じません。下手にこういう性格にした所為ですね。
 つまるところの自業自得。
 そして紫さまの能力が便利過ぎる。

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

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