東方心届録   作:息吹

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 最近運動量が全然無くなってしまったからか、太りました。

 高校までは日常生活での消費があったからか、筋肉量がそこまでなくてもある程度体型維持していたんですが、独り暮らしを始めて、近くに大体のものが揃っているからか、全然動かなくなりましたねえ。
 どうにかしないといけないとは思っているんです。思っているだけ。

 それでは、どうぞ。



第5話

 豪邸であった。

 広大な敷地に、壮大な屋敷。家の内外を問わず忙しなく働いている何人もの使用人。

 今幽香が居る場所は、そんな身分の高そうな人間が住んでいる所であった。

 刺さる警戒と恐怖の視線。同室にいるのは一人だけだが、部屋の外に何人も待機させてあるようだ。どうやら隠れているつもりなのだろうが、幽香の前ではあまりにも無意味過ぎた。

 一口、出されたお茶を口に含む。ふむ、どうやら毒は盛られてないらしい。どうせ効きはしないが。

 

「それで、本日はどのようなご用件で?」

「ここって、色んな妖怪の情報を収集、書物として編纂しているのでしょう?」

「ええ、まあ。それが御阿礼の子に課せられた使命ですから」

 

 ここは稗田という一族の屋敷だ。

 稗田という家系は特殊な立場にある。

 幽香も詳しくは知らないが、妖怪の辞典のようなものを編纂してるだとか、転生して何代もその作業を続けるだとか、求聞持とかいう能力を持っているだとか、その程度だ。

 幽香がそのような場所に訪れたのには理由がある。

 先日、あの月のような白銀の毛色をした狼にあの少年を頼まれて以降、気になっていたことを調べようと思ったのである。

 その内容とは、少年の素性のことである。

 これまで接してきていて、既に幽香は少年を人間ではないと断定していた。

 確たる証拠はないが、どうもあの少年には人間という要素がどうにも薄いような気がしたのだ。

 

「少し、情報が欲しい妖怪がいるのだけど」

「情報が欲しい……?」

 

 不審な目を向けられたが、それも致し方ないだろう。

 今の構図を分かりやすく言えば、妖怪が人間に頼み事をしている図である。風見幽香という大妖怪が、あまりにも弱い存在である人間に。

 本来ならば、わざわざ遠出してまでここに来ずとも、何か事情を知っているだろう八雲紫から聞き出すつもりだったのだ。

 それなのに、アイツはそんなに気になるなら自分で調べるといい的なことを言って、稗田という一族の話だけして何も語りやしなかった。

 頭を下げてまで教えを請いたくはなかったので、こうして自ら足を伸ばしたというのが、ことの詳細である。

 一切の連絡を入れずに来たからか、まず都の近くに来たところで退魔師達が何人も退治しに来たが、妖力で威圧しただけで半分が脱落。残り半分も軽く黙らせて、紫から得ていた情報を頼りにここまでやって来た訳だが、道中、そしてここに着いてからも色々と悶着があったとはいえ、結果的にこうして御阿礼の子と二人で対面できているのだから良しとしよう。

 死人はいない筈だ。重傷まではいるだろうが。

 

「名前は分からないわ。特徴を言えば、貴方なら分かる?」

「ものにも拠りますが……どのような妖怪ですか?」

 

 幽香は、あの白髪の少年の姿を思い浮かべながら、彼を特定できそうな情報を伝えていった。

 

「一番大きな特徴と言ったら、白い髪を持っていることかしら」

「白い紙……いや、髪? ということは、その妖怪は人の形を?」

「ええ。それも言った方が良かったわね」

「いえ、お構いなく。どうぞ、続けてください」

「他には、幼い男の姿をしていること。森の中に住んでいること。近付くものを拒む能力を持っていること……といったところかしらね」

「幼い男性、森林でよく見かける、拒む能力……ですか」

 

 言って御阿礼の子は後ろの書棚を探し始めた。他に特別伝えるような特徴も無かったと思う。

 それにしても、自分という存在に背を向けているということがどれ程危険な行為なのか理解しているのだろうか。声の調子から判断するに、自分に恐怖していないということは無いと思うのだが。

 忙しなく右に左に、書棚と此方を移動して自分が述べた特徴に合致する妖怪について書かれた書物を集める姿に、どこか少年に似た何かを感じた。

 

(……単純に、お人好しなのかもしれないわね)

 

 そういえば、同じ丁寧な物言いだというのに、少年とどこか受ける印象が違うのは何故だろう?

 目の前の人間が書物を集め終えるのを待つついでに、少し幽香は考えてみた。

 声色や声の調子というのは中々惜しい所を突いているような気がする。

 しばらくして、ああそうか、と答えに行き着く。

 

(あいつには、恐怖が無かった。警戒はあっても、決して私を恐れていなかった)

 

 それなりの時間を少年と過ごしていて忘れていたが、本来なら自分は恐れられるべき存在なのだ。

 先程の自分に向けられていた恐怖をどこか懐かしく感じていたのは、自分がそれだけ少年と一緒にいたということだろうか。

 この思考に何故か若干の気恥ずかしさを感じながら、もう一度お茶を啜って気を紛らわせることにした。

 全く、自分に恐怖を感じない方が異常だということを、異常な存在である少年と出会っていたからこそ忘れるなど。

 

「――お待たせしました。人の姿をしているとのことでしたので、大分情報は絞り込めたと思いますが、能力については省いています。似たようなことができる妖怪も入れてはいますが、そうでないものも含まれています」

「十分よ。感謝するわ。……中を見ても?」

「え、ええ……あ、私が該当する箇所を開きます」

 

 どうしてそこで驚いた顔をするのか。

 自分と対面することでその恐怖が再度呼び起こされたのか、手も声も震えて、こちらになるべく近付かないようにしながら、目の前の人間はその書物を開いて寄越した。

 指差された妖怪の姿を見て、幽香は即断した。

 

「コイツじゃないわ」

「え……では、こちらは?」

 

 続いて出されたものを見て、再度否定。

 

「それでは――」

 

 またしても違う。

 

「こちらは――」

 

 やはり、違う。

 

「どうでしょう――」

 

 違う。

 そして。

 

「……こちらで、能力以外の該当する情報を持つ妖怪は全てですが……」

「……いえ、違うわ」

 

 収穫は無かった。

 どれもこれも、少年と同じ特徴はしているものの、決してその姿は少年ではなかった。

 それに、厳密に全ての特徴を持つというのも殆どいなかった。例えば、髪色は白ではなく灰色だとか、白く見せるだとかばかりだったし、幼い少年というのも、そういう姿に化けることが多いだとかばかりで、本当にそんな特徴を持つものはいなかった。

 それについて文句を言うつもりはない。むしろ、たったあれだけの情報でよくここまで絞ったものだ。

 もう一度、提示された妖怪の書かれた所を読み直し、やはり違うことを確認して、書物を閉じた。

 

「世話を掛けたわね。情報が得られないなら長居するつもりはないわ。あまり貴方に気苦労をかけるのも忍びないし、私は帰るとしましょうか」

「ま、待ってください!」

「?」

 

 近くに置いていた日傘を手に取り、立ち上がろうとしたところで呼び止められた。

 はて、自分をわざわざ呼び止めるなど、まだ何かあるのだろうか。

 

「実際に目にしたことも、媒体も見たことも無いのですが、先程の特徴と似たような特徴を持つ妖怪の噂話を一つ、聞いたことがあります」

 

 ふむ、とは立ち上がりかけた姿勢を元に戻した。

 中々興味深い話を知っているではないか。

 それが少年のことであるという確証はないが、聞いてみるだけなら悪くないかもしれない。

 

「いいわ。話してみなさい」

「はい。では――」

 

 

 

   ○●○●

 

 

 

 その子供は、普通の人間とは違う姿をしていました。

 新雪のように穢れなく、月のように不気味な、白い髪を持っていたのです。

 人間達は口を揃えて言います。

 

『ああ忌み子だ。触れるな近付くな』

『こっちへ来るな呪い子よ』

 

 実際にその子供を目の前にして言う度胸は人間達にはありませんでしたが、皆、影でその子供を恐れ、忌み、避けたそうです。

 その子供は白い髪を持つというだけで、時には女にも、時には男にも見えました。

 人間達は思います。

 これは祟りだと。

 これは呪いだと。

 かつて討伐隊が組まれたこともありましたが、その人達は殆ど帰ってこなかったそうです。数少ない生き残りの言葉によると、その子供の元に辿り着く前に、何体もの人外の存在に襲われ壊滅したのだとか。

 この結果は、人間達に共通の認識を持たせることになりました。

 

 あの存在は触れてはいけないものだ、と。

 

 幸いなことに、その後白い髪の子供の姿は殆ど見ることはなくなったそうですが、今でも、時折森の中で、その子供を見ることがあるとかなんとか。

 

 

 

   ○●○●

 

 

 

「――と、私が聞いた話をまとめるとこうです」

「ふうん……」

 

 取り敢えず話だけ聞いてみたものの、目ぼしい情報は得られなかった。

 まあ噂話と最初から言っていたし、何か得るものがあるかと思っていた訳でもないのでそれは別にいい。

 

「すみません。何分、私もあまり詳しくは知らないのです……」

「いえ、気にしなくていいのだけれど」

 

 今聞いたものと、少年の特徴とを比較してみる。

 白い髪というのは一致している。あくまで見たという人間の主観だが、大きくかけ離れているということは無いだろう。

 男にも女にも見えると言われれば、少年は髪を結わえていないので、遠目に見れば女に見間違えることもある……かもしれない。

 しかし、忌み子だとか、呪いだとか、祟りだとか。随分と物騒だが、それが少年に当て嵌まるだろうか?

 少年の気質を考えれば、どうも違うような気もするが……人間から見れば、髪色が違うというだけでそう呼ぶのもおかしくはないか?

 もしかすると、ここらに少年の出生に関わる事項が隠れているのかもしれないが、如何せん情報が無さすぎる。

 

「ど、どうでしょう……? 何か、お役に立てたでしょうか……?」

「……そうね。なかなか面白い話だったわ」

 

 ほ、と分かりやすく安堵の息を吐く御阿礼の子。別に、面白くなかったからと言って取って食う訳でもないのだが。

 まあ人間からすれば、自分のような大妖怪なんてそんなものだろう。今こうしてたった二人で対峙し、あまつさえ会話、なんなら先みたく行動を阻害してまで呼び止める豪胆さを褒めてしかるべきだ。

 

「ありがとう御阿礼の子。私はこれで帰るけど、何かあったら、あのスキマ妖怪に言いなさい。どうせ知り合いなんでしょう?」

「分かりました。外まで見送りします」

「いいわ、そんなの。あんまり私みたいなのと居る所を見られたくないでしょう? 気紛れな妖怪が気紛れに稗田の家に来た。そういうことにしときなさい」

 

 御阿礼の子は暫く呻っていたが、結局は分かりました、と言って座り直した。

 その姿を見て軽く微笑み、幽香は部屋を、そして屋敷を後にした。

 

 

 

 

    ◇◆◇◆

 

 

 

「あっ、こんばんは、幽香さん。今日は遅かったですね」

「ええ、まあね」

 

 稗田家の屋敷を後にして、都からも大分離れた所で紫に会った。

 出てきて早々、あの胡散臭い笑みに腹が立ったので一発妖力を込めて気持ち強めに殴ってみた。スキマに逃げられたが、スキマごと破壊したら出てきたのでとりあえずもう一発殴っといた。

 傷を負わせることは出来なかったが、まあ気分は晴れたので良しとしよう。

 そのまま近くにスキマを繋がせ、折角だからと少年の家に寄ったのである。

 それなりの時間を稗田家の屋敷で過ごしたらしく、出る頃には既に日は沈みかけていた。

 ちなみに、やはり紫は少年について、どころか今回の幽香の行動について話にさえ出さなかった。

 幽香の方からも、別に話そうという気は起きなかったので口にしなかったが、今思うと、何か知っている筈のあのスキマ妖怪をもう一発くらい殴るべきだったかもしれない。

 

「待ってくださいね。今何かお出ししますから」

 

 そう言って台所に立つ姿に恐怖は無く、最早警戒心さえ無くなっていた。

 

「…………」

 

 どことなく嬉しそうに軽食の用意をする少年の姿と、先程御阿礼の子から聞いた噂話に出てくる妖怪とが一致しない。

 いや、そもそもその噂の妖怪の正体がこの少年だという証拠は一切ないのだから、一致しないのは当然なのだ。

 しかし、それでも。

 ――なんとなく、気にかかる。

 

「? どうかしましたか、幽香さん?」

 

 視線に気付いたのか 少年が振り返ってこちらを見る。

 丁度良い、と思った。

 

「ねえ、人間」

「はい。何ですか?」

「――貴方、忌み子とか、呪い子って呼ばれたことあるのかしら?」

 

 果たして、答えは、

 

「ええ、ありますよ?」

 

 あまりにもあっさりと、あっけらかんと、拍子抜けする程に。

 少年はごくごく普通に頷いた。

 




 でも大学生の間に筋肉だとか色々対策しとかないと将来苦労するのは目に見えてるんですよねえ……。

 ということで、ほんの少しだけ少年の情報が明かされました。
 まあ、あれだけでどんな奴か分かるかと言われても困るとは思うんですけど。
 もう暫くは、ある日のこと~みたいな時系列で動くと思います。
 ちなみに、今回御阿礼の子が出ましたが、明確に何代目とかは想定していないです。まあ阿一以降ということで。
 主人公の原作時点での想定している年齢から逆算すれば出るとは思うんですが、メンド――えふんえふん。明確にこの時代とするのを避けるためにこのような形になりました。

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

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