GWは実家に帰省してぐうたらしていたら気が付いたら終わってしまいました。でも、たまにはそんな期間があったっていいはず。
というわけで前回からの続きです。
設定だけあるのにストーリーが大分行き当たりばったりな所為できちんと書き上げれるのかマジで不安。
それではどうぞー。
「は……?」
一瞬、思考が止まった。
今、少年はなんと口走った?
「え、何か驚くようなことがありましたか? 虫か何かでもいたんですか」
「違う、違うわ。貴方、あんな呼び方をされていたの?」
見当外れな少年の質問に頭を横に振りながら答え、再度先の質問を訊き返した。
聞き間違いでなければ、少年は先程肯定していてように聞こえたのだが……?
何を焦っているのかは自分でも分からない。当たるとは思っていなかった情報がまさか本当に少年のことである可能性が濃厚になったことに対しての驚きだろうか。
「今は人のいるところには滅多にいきませんし、会うこと自体も殆どありませんので、現在もそう呼ばれているかは分かりませんが、昔は、はい。そんな呼び方もされていましたね」
「どのくらい前なの?」
「……さあ、具体的な年数は分からないですね……」
少年は少し考えたが、頭を振ってそう答えた。その表情からは嘘を吐いている様子はなく、どうやら本当に分からないようだ。
すこし不審に思ったものの、取り敢えず後回しにして、御阿礼の子から聞いた情報を少年に尋ねてみることにする。
「昔、陰陽師とかがこの森にやって来たことはなかった?」
「そもそも人間に会うことがあまりないので、それが陰陽師かどうかと言われましても……」
「複数人、もしくはもっと多数の人数で行動してて、変な恰好してる人間達のことよ」
「み、見覚えはないと思います……」
あまりにざっくりした説明だったからか、少年は少し困り気味だったが、とりあえず見たことはないようだ。
そう言えば、あの時言っていた討伐隊とやらは目標、今のところ可能性として高いのは少年へと行き着く前に妖怪の群れに襲われて壊滅したのだったか。もしそうなら、少年が見たことないのは当然かもしれない。
人間そのものを見たことはないと言うのなら、他はどうだろう。
「ある日、人間の血の匂いが濃くなったり、妖怪達がやけに活発化したりしたことはなかった?」
「いや、知らないです、ね……?」
突然、少年は首を傾げた。
「……いえ、多分、知って……? でも、僕にそんな記憶はない……じゃあ、この景色は……?」
ぶつぶつと少年は虚空を見つめて何か呟く。聞こえる単語から推測するに、どうやら幽香の言ったような光景に覚えがあるようだが……?
その様子に妙な違和感を覚えた幽香は少年を呼んだ。
「人間?」
「え、あ、はいっ。ごめんなさい。やっぱり、多分知っていると思うんですけど、なんだか妙に気分がざわついちゃって」
「ふむ。よければ、もう少し詳しく話してくれるかしら。無理にとは言わないわ」
大丈夫です、と少年は返し、作り終えたらしい軽食を手にこちらへ戻ってきた。
ことりと置かれたそれを一瞥し、ありがとうと礼を言ってから一口手を付ける。手抜きという訳ではないが、言葉通り軽く作っただけだというのに、結構美味しいものだ。
嚥下して、少年を見据えた。
少年も取り敢えず落ち着いたのか、幽香の視線を受けて身動ぎをする。
「えっと、先程も言いましたが、幽香さんの言ったようなことに覚えはありません」
「でも、知っているのね?」
「はい。少なくとも僕が経験したことは無い筈ですが、確かにその言葉に当て嵌まる光景が記憶にあります」
少年は途切れ途切れながらも、頭に思い浮かんだらしいその光景を語りだした。
「そこは森の中だと思います。木が一杯あります。それに、赤い……真っ赤です」
「ふんふん」
森の中だというのに赤いというのなら、それは血液の色に違いないだろう。
それが人の血液なのか妖怪の血液なのかは定かではないが、残っているというのなら人間の方が可能性は高いか。
「見渡す限り赤いです。咽るような、臭い……血の臭い……唸り声、悲鳴、怒号……色々聞こえます。色々感じます……」
「?……ねえ」
少し、少年の空気が変わったような気がした。
少年の口から漏れたように、赤い色とはつまり血の色で間違いないだろう。唸り声や悲鳴といった単語が気になるが、丁度戦闘中だとでも言うのだろうか。
だが、今はそれより。
虚ろな目で虚空を見詰める少年の姿に、幽香は妙な不安感を覚えた。
「これは、死体……? 人の手でしょうか……足も、内臓も、首もありますね……ああ、誰がこんな……違う、僕じゃない…………私じゃない…………っ!」
「ねえってば」
幽香の呼び掛けに、少年は応えない。
「違う……誰がこんな……僕じゃない……気持ち悪い……私じゃない、こっちに来ないで、皆死んでる、誰も殺さないで、こっちを見ないで、人間がした、妖怪がした。痛いよ。何も知らない。何も分からない。全部分かってる。痛い、痛い痛い痛いいたいいたい……あ、あぁぁぁ――」
「ねえ!」
再三の呼び掛けにようやく応じてこちらの顔を見遣る少年は、ひどく憔悴した表情をしていた。
何かに怯えるような。何かを恐れるような。そんな表情に、幽香は驚く。
こんなに表情を露にする少年を、彼女は初めて見たのだ。
少年はいつも、どこか儚げに、薄く笑みや困惑した表情をするばかりで、今のように大きく感情の揺れ動いたような顔を見たことがない。
少年がここまで取り乱した原因は何だ。
そして、少年が途中から人が変わったように呟いていた内容も気になる。
おそらく、推測通りに討伐隊の人間が妖怪に襲われた名残の風景ではある筈だ。
内容は物騒ではあるものの、それなりの規模の戦闘になり、尚且つ妖怪側が勝ったというのなら、その後が凄惨な光景になるのはおかしくはあるまい。
では、何に少年はこうも取り乱しているのだ?
「大丈夫かしら? 酷い顔をしているわよ」
「ゆう、か……さん」
どうも虚ろな目で幽香の顔を見る少年。
じっと見詰め合っていると、徐に少年は立ち上がり、覚束ない足取りで幽香のもとに歩いて来た。
これまで少年と幽香は、最初の頃に比べれば格段に縮まったとはいえ、一定の距離を取っていた。何度か幽香の方から近付こうとしてみたものの、全て阻まれた。少年の方から一定以上近付くこともなかった。
そうであったというのに、こうして少年の方から近付くことがあるとは、幽香は思いもしなかった。
ましてや、こうやって抱き付かれるなんて。
「…………」
「ゆうかさん……私は、ここに……」
「――ッ!?」
幽香、再びの思考停止。声が出なかっただけ自分は頑張った。
え? 今これはどういう状況だ? 今まである程度距離を取り続けていたというのに、何故急にこうやって距離を縮めてきた? いや、それが嫌なのかと言うとそんなことはないが、では嬉しいのかと言われれば違うと思う。そう、急なことで、不審なだけだ。そうだ、きっとそうだ特に深い意味は無いに違いないいやでも傍に来るだけならともかく抱き付くとは一体どんな理由が――
「ぅぁぁ……ぁ、ぁぁ……ぅぇ―――」
「――うん?」
少年は涙を流していた。
普段はあまり感情の分かりにくい少年が、こうも感情を露にしている。
それがどれほど異常なことか、いくら幽香でも分かるくらいには短くない時間を過ごしてきたつもりだ。
それに、少年が見せるのは、それこそ薄い笑みや困惑顔ぐらいなもので、今のように明らかな感情表現というのは少年の普段の様子からは想像出来ない。少年がその見た目程度の人間の子供と比べて精神年齢が高く思えるのもその一因だとは思うが、それを差し引いてもこの状況は異常だと言えるのではなかろうか。
「違う……私は、僕は、こんな……こんなこと……」
幽香の服を硬く掴む少年の手は震えていた。力んでいる故の震えではないことは、流石に幽香にも分かった。
鳴き声は小さくも聞こえるが、顔を埋めているためその表情は伺い知れない。しかし、この震えから、先程見せたあの表情の通り、何かに怯えているようである。
何に怯えているのかは分からない。ただ、先程から一人称が何度も崩れていることから、その程度はなんとなく予測は出来る。
だから、こうする。
恐怖に震えているのなら。こうして抱き締められているのなら。
こうするのが普通なのだろう。
「大丈夫。私はここにいるわ」
「ぅ……」
強く。そして、優しく。全力だと壊れかねないから。
抱き締め返した。
頭を撫で、その恐怖を和らげるように、背を軽く、トントンと等間隔で叩く。
大丈夫だと、何も怖がる必要はないのだと。
「貴方が何に怯えているのかは分からないけれど。私に吐き出すことで薄れるというのなら、いくらでも吐き出しなさい。貴方がどれだけ泣こうとも、私は貴方を責めたりしないし、全部受け止めてあげる」
「ゆう、か……さん」
「辛いことがあったのね。悲しいことがあったのね。全部、吐き出しなさい?」
一瞬、間が開いて。
少年は、容姿の年齢相応に大声をあげて泣いた。
「……よし、よし?」
どうにも慣れない子守りだと。
幽香は少年の頭を、彼が落ち着くまで撫で続けた。
◇◆◇◆
泣き疲れたのか、幽香の腕の中で眠ってしまった少年に膝枕をして、幽香は一人息を吐いた。
今まで子供の面倒など見たことなかったので、ああいう状況でどうするのかいまいち不明だったが、間違った方法を取ってはなかった筈だ。
手持無沙汰なのでぽんぽんと頭を軽く撫でていたら、少年はむずがるように僅かに身動ぎをした後、余計に自分の体に擦り寄せてきた。
くすぐったいが声を我慢して、今度は柔らかそうな頬を突いてみることにする。
「随分と楽しそうですわね」
「うっさい。張り倒すわね」
「開口一番暴力宣言は流石に酷いと思いますの」
スキマからするりと体を出した紫は、幽香と角を挟んで隣に座った。
まあ、どのみち少年が膝で寝ているので、動くことはできないのだが。
紫が突然現れることに、今更驚きはしない。それに、なんとなくスキマが開く予兆みたいなものもなんとなくだが感じ取れるので、言う程不意を突かれるということもない。
全く、昨日の今日で、またコイツと顔を合わせないといけないなんて。
「あらあらあら。今日はまた、随分と懐かれたようで」
「懐かれた、と言うより、私以外に縋るものが無かったんでしょう」
「いいえ。彼は、貴方だから縋ったのよ」
少年から視線を外し、紫の方を見ると、彼女は普段見ることのない慈愛に満ちた表情で少年を見ていた。
その顔に一周回って不気味ささえ覚えたので、一言、顔が気色悪いとだけ言っておく。
「あら酷い。大体、そう言う貴方だって、さっきは似たような顔してたでしょうに」
「さあ。知らないわね。残念ながら私は自分の顔を見れないもので」
鼻で笑って一蹴する。
丁度その時、少年が軽く唸ったので、幽香と紫、二人して口を噤む。
しばらくしてただの寝言だと判断した二人は、同時に深く息を吐いた。
「……何か、あったのね」
「……ええ」
言っていいものなのだろうか。
紫の言葉では、少年は自分だからこそこうして感情を爆発したのだと言う。もしそれが真実であるならば悪い気はしない。
しかし、本当に自分だからこそだと言うのなら、先程の少年の様子を第三者である紫に伝えていいものなのかは判断しかねる。
暫くそうやって迷っていたが、自分だけでは解決出来ない問題だと判断し、起こさぬよう小声で少年に謝ってから紫に向き直った。
「さっき、御阿礼の子から聞いた噂話についてこの子に訊いてみたわ」
「……続けて」
「結果は十中八九、当たり。ほぼ間違いなく噂の妖怪とこの子は同一人物……いえ、人ではないか」
そうして、それからの経緯をなるべく細密に紫に伝える。
噂について詳しく訊いてみたところ、どうやら記憶がある様子であったこと。しかし、経験には無く、両者間の混濁があること。
そして、急に精神的に動揺し、不安定になったこと。
原因は分かりきっている。その謎の記憶だ。
その詳細については少年に聞いてみなければ分からないが、しかし、こうして精神的な負荷になるらしいその記憶について、少年に問い質していいものなのだろうか。
いくら傍若無人な幽香とはいえ、気が引けるものがある。
「でも、それがこの子の傷だというのなら……」
癒してあげたい、治してあげたい、と。
そう、切に願う。
……よし。
「――八雲紫」
「何でしょう、風見幽香」
決意した。
どんなに辛いものであっても、決して少年を見捨てないと。
覚悟した。
その先に少年が自分から離れようとも、決して後悔はしないと。
「手を貸しなさい。私は知らなければならないの。この子がこんなになる程の辛い何かを、私は知らないままで過ごしたくない」
「……それは、どうして?」
どうして?……はて、何故だろうか。
確かに、これはもう、興味があるという範疇を超えている。こうも深くまで相手のことを知りたくなる程、自分は少年に対して強い関心を持っていた訳ではなかった筈だ。
だと言うのに、今こうして、この胡散臭いスキマ妖怪に頼んでまで少年のことを知りたがるなんて。
ああ、これを、言葉にするのなら。
「――さあね。なに、少し情が移ったのよ」
「……ふふ」
その言葉に、紫は軽く噴き出した。
その反応にそこはかとなく馬鹿にされたような気がしたので、殺意を視線に込めて睨む。
「おお怖い怖い――いいわ。力を貸しましょう。いえ、力を貸すだけじゃない。これは協力よ。一方的な手助けではなく、相互的な助力関係なの」
「どうだっていいわ。私の力が必要だと言うのなら、いくらでも言いなさい。貴方、こういうことは得意でしょう?」
いくら信用ならないとはいえ、彼女の実力は本物だ。
彼女の力があれば、或いは。
幽香は一人、強く拳を握った。
いつの間にゆうかりんはヒロインになっていたのか。いいえ、最初から。
あまり得意な方はいらっしゃらないと思うんですけど、この短い話数の中で早くも幽香がヒロインになっています。
いやまあ、作品内ではそれなりに時間が経っていますし、その間毎日顔を合わせていたら、そりゃ精神的な変化とかもありますよね……? え、ない、かなあ……?
そして始まる幽香&紫の無双。ヒロインとしての立ち位置を確立しつつある幽香と、チート能力な紫様が合わさることで最強に見える。
尚、どんな内容にするか実はまだ全く案がないという。
それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。
文章にもっと深みが欲しいと願う今日この頃。