マリア様がみてる Another ~シスター&シスター~   作:夏緒七瀬

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15 心配と同情

 菜々さんと一緒に教室に入ったマリアは、ほとんど心ここに在らずで席に付き、ぼんやりと薔薇の館でのことを思い出していた。

 

 瞳子さまの前で居眠りをしてしまうという失態はあったが、それでも夢のように素敵な出来事ばかりだった。瞳子さまにもらったレモン味ののど飴を口の中でコロコロと遊ばせながら、マリアはその甘酸っぱい思い出に浸っていた。

 

 しかし、そんな夢見心地な気分のマリアは、直ぐに現実へと引き戻されることとなった。

 

 クラスメイトの大半がマリアに視線を向けて、何やらこそこそ話をしているみたい。

 かすかに聞こえてくる会話には――瞳子さま、薔薇の館、姉妹(スール)紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)などに単語が混じっていて、考えるまでもなく会話の内容を理解することができた。

 

 つまりクラスメイトの多くが、マリアのことを瞳子さまの妹候補であると思っており、その為に薔薇の館に呼ばれたのだと勘繰っていたのだ。

 

 どうして私が薔薇の館にいたことを知っているのだろう? 

 

 と、マリアは思ったが、菜々さんと一緒に教室に来たことや、昨日の出来事に尾ひれがつけばそんな話もなるだろうと納得した。それに教室の端の方では、菜々さんが蘭さん、杏さん、美南さんの三人に詰め寄られて、何やら説明を余儀なくされていた。おそらく、自分のことをあれこれ説明させられているんだと考えると、マリアは申し訳なさと共に、先程まで甘酸っぱい気持ちが一瞬で消え去ってしまい、今は憂鬱な気持ちに沈んでしまう。

 

 マリアは思った。

 自分は誰とも姉妹になる気なんてなく、ましてや瞳子さまの妹候補になんてなるわけがない。

 そもそも自分にはそんな資格もないし、自分と瞳子さまとでは釣り合わなすぎる。

 

 そう真っ直ぐに伝えられた良いのに。

 

 マリアは、どうしたらクラスメイトたちの誤解が――特に蘭さんへの誤解やわだかまりが解けるだろうと考えたが、その答えはどうしても見つかりそうもなかった。

 

 マリアは溜息を一つ落とした。

 

「マリアちゃん、今朝薔薇の館にいたって本当?」

 

 すると、前の席のユリカちゃんが振り返って尋ねてきた。

 いつもはマリアの身を案じてくれる優しい友人だが、今回は興味津々と言った感じだった。さすがに薔薇の館絡みとあっては、心優しい友人も好奇心を抑えられないといったところ。

 

「うん。本当だよ」

「どうして薔薇の館にいたの?」

「えっとね、瞳子さまに薔薇の館で山百合会のお手伝いをするように頼まれて、それで今朝少し早めに登校して、薔薇の館でお手伝いをしたての」

 

 マリアは詳細を省きながら必要なことだけを告げた。

 

「すごーい。薔薇の館で山百合会のお手伝いなんて。どんなことをしたの?」

「たいしたことはしてないよ。お部屋のお掃除とか、山百合会の人たちにお茶をお出しするとか、雑用の雑用みたいな感じ。それに、それも上手くできなかったし」

「でも、すごいよー。あの瞳子さまに頼まれたんだもん」

「うーん、頼まれたって言うよりは、命じられたってかんじなんだけど。すごくは無いと思う」

「じゃあ、瞳子さまがマリアちゃんのことを、マリアって呼び捨てにしたって言うのも本当?」

 

 マリアはそんな話まで出回っているのかと驚いた。

 

「本当と言えば本当だけど」

「じゃあ、瞳子さまはマリアちゃんを自分の妹にって考えてるのね。マリアちゃんが紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)の妹(・プティ・スール)かー」

「それは絶対ない。瞳子さまが私を妹にだなんて。それに薔薇の館に呼ばれたのだって」

 

 マリアはその先を呑み込んだ。

 

「とにかく、私は瞳子さまの妹にはならないから」

 

 マリアは断固として言い張った。

 

 マリアは瞳子さまの考えを分っていた。

 自分がクラスで孤立し、クラスメイトに嫌がらせのようなものを受けいてることを案じて、気を聞かせて薔薇の館に誘ってくれたんだということを。

 

 それには菜々さんや、他の山百合会のメンバーが関わっているのだろうという事も。

 多分、菜々さんが山百合会の人たちに話をして、それで瞳子さまが私に声をかけてくれんだ――マリアは自分の中でそう結論付けていた。つまり自分は心配され、同情されて薔薇の館にお呼ばれしただけなのだ。自分が情けないせいで、山百合会の方々に入らぬ心配をさせて気を使わせているだけ。

 

 そんなことを考えると、マリアは自分にうんざりしてしまうともに、今朝の瞳子さまとの素敵な思い出も苦々しいものに感じられてしまった。

 

 口の中の甘酸っぱいはずの飴玉が、今は何故か味気なかった。

 

 


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