マリア様がみてる Another ~シスター&シスター~   作:夏緒七瀬

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16 取材と新聞部

 昼休み。

 思いもよらないお客様が一年桃組に訪れた。

 

「御園マリアさんはいるかしら?」

 

 クラスメイトに呼ばれて廊下に出ると、髪の毛を七三分けにしてヘアピンで止めた生徒がマリアを待っていた。

 この人、どこかで見たことある。

 確か、新聞部の前の部長さんだ――マリアは心の中でそう呟き、緊張で体を強張らせた。

 

「初めまして、御園マリアさん。私は新聞部元部長の山口真美(やまぐちまみ)よ」

「はっ、初めまして。御園マリアです」

「少しだけ、お話を聞かせてもらってもいいかしら」

 

 快活な調子で真美さまが尋ねる。

 

「お話ですか?」

「ええ。ずばり聞きたいことは一つだけ。マリアさんが、紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブウトン)松平瞳子さんの妹候補っていうのは本当かしら?」

「ええっ?」

 

 マリアはあまりにも単刀直入すぎるその質問に驚いて、悲鳴のような声を上げてしまう。

 同級生のみならず、まさか最上級生である三年生にまで自分の噂が出回っているのだと考えると、それだけでマリアは身がすくむ思いだった。自然と手足が震える。

 

「ちっ、違います。私なんかが瞳子さまの妹候補なんかなわけがありません。何かの勘違いというか、誤解です」

 

 マリアが弁解するように言うと、真美さまは腑に落ちないといった感じで顎に手を当てた。

 その仕草は、さながら名探偵のよう。

 

「でも、瞳子さんはマリアさんのことを、マリアと呼び捨て呼んでいるのよね?」

「はっ、はい」

「瞳子さんが下級生とそこまで親密になったという話は、今まで聞いたことがないのよねー。それに、マリアさんは昨日から薔薇の館に通って山百合会の手伝いをしているし。妹候補じゃないなら、他に何か理由があるのかしら?」

「そっ、それは、その――」

 

 マリアは真美さまの追及を受け、なんと説明すればいいのかと慌てふためいた。

 

 どうしよう。

 どうしよう。

 どうしよう。

 

「真美さま、私のクラスメイトに突撃取材はやめてもらえますか」

 

 すると真美さまの背中から覇気のある声が響いた。

 

「マリアさんは山百合会の大切なお客さまです。そのお客様を怯えさせるようなやり方を、お姉さま方は喜ばないと思いますけど?」

 

 真美さまの背中には、菜々さんが堂々と立っている。

 ヒーローのように颯爽と登場し菜々さんに、マリアは縋るような視線を向けた。

 

「あちゃー、剣道部の集まりだって聞いていたけど、ずいぶん早く戻ってきたのね」

 

 真美さまは、しまったと言った感じで額に手を当てた。

 

「ええ、簡単なミーティングでしたので。それで、この取材は瞳子さまや祐巳さまはご存じなんですか?」

「いいえ。私の独断よ」

 

 真美さまは、きっぱりと断言して続ける。

 

「私たち新聞部は、リリアンに通う全ての生徒にニュースを提供する為に存在しているの。別に山百合会の許可が無くても取材はできるのよ?」

「それは知っていますが、このようなやり方、お姉さま方は歓迎しないと思います。特に、マリアさんを薔薇の館に招待した瞳子さまは」

「やっぱり、瞳子さんがマリアさんを山百合会に誘ったのね」

 

 ずばり言い当てられて、菜々さんがしまったと口を噤んだ。

 上手く話し乗せられてしまった。

 

 菜々さんは恨めしそうに真美さまを見る。

 

「ごめんごめん。そんな顔しないで。大丈夫、直ぐに記事にしようなんて思っていないから。それに今日は、マリアさんに少しだけ話が聞きたかっただけだから。本当よ」

 

 真美さまは明るく笑って、マリアに向き直る。

 菜々さんは直ぐにマリアの隣に移動して、マリアを守るように真美と対峙した。

 その様は、さながらお姫さまを守る騎士。

 

「マリアさん、突然こんなふうに押しかけてごめんなさいね」

「いえ、そんな」

 

 マリアは突然の謝罪に大きく頭を振った。

 

「でも、このリリアン女学園の生徒にとって、山百合会や薔薇の館が特別なものだという事は分ってほしいの」

 

 真美さまは優しく言った。

 

紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブウトン)である瞳子さんの妹候補だと騒がれる事は、つまりこういう事なの。たくさんの生徒が、あなたと瞳子さんの関係に注目してしまう。噂話をしてしまったり、あなたに直接訪ねたりする。もしかしたら、嫌がらせのようなことをされるかもしれない。過去、私はそうした生徒を何人も目撃してきた」

 

 真美さまは、少しだけ過去を懐かしむように言った。

 

「だから、私は事実を正しく伝えたいの。たくさんの生徒に正しく知ってもらって、余計な詮索や勘繰りはなるべくなしたい。それが、今の新聞部の信条。だから新聞部に伝えてほしいことがあったら、気軽に言ってちょうだい。できる限り力になるから。それじゃあ」

 

 真美さまはそれだけ言うと、ひらひら手を振って廊下を歩いて行った。

 マリアと菜々さんの目には、その上級生の姿が途方もなく大きな人に――

 

 素敵なお姉さまに見えていた。 

 

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