マリア様がみてる Another ~シスター&シスター~ 作:夏緒七瀬
マリアが薔薇の館に出入りをするように一週間が経つ。
そろそろ本格的な梅雨が到来しそうで、空模様はいつも不安定。
それでも、マリアの心はとても弾んでいた。
毎日毎日薔薇の館で三薔薇さまの――そして瞳子さまのお手伝いをできることが嬉しくて、そして菜々ちゃんと一緒にいられることが楽しくて、こんな日々が毎日続いたらいいのになあ、そんなことを考えるようになっていた。
薔薇の館での仕事もほぼ問題なくこなせるようになり、今では瞳子さまに言いつけられる前に大抵のことは済ませられるようになっていた。瞳子さまや、ほかの山百合会メンバーのお茶の好みも全て把握した。
瞳子さまはローズヒップティーに角砂糖を一つだけ入れる。
それは直ぐにマリアの大好きのお茶の飲み方になった。自宅でも毎晩ローズヒップティーを飲んでいるくらい。
菜々ちゃんはほうじ茶を好んでいて、おばあちゃんみたいだと指摘したら複雑な顔を浮かべて笑ってくれた。
そんな毎日がとても楽しかった。
自分もこの特別な聖域の一員になれたみたいで、少しだけ誇らしかった。
「それじゃあマリア、私は演劇部に顔を出すから、今日は適当なところで上がって良いわよ」
「はい。分かりました」
放課後。
いつものように薔薇の館に顔を出すと、マリアは瞳子さまにそう言われる。
瞳子さまはそのまま演劇部に向ってしまい、他の山百合会のメンバーにも――今日は帰っても大丈夫だと言われた。
「マリアちゃん、今日はもう大丈夫よ。お手伝いは菜々がいれば事足りるでしょうし」
由乃さまが所在なさげなマリアにそう声をかける。
「お姉さまがもう少し動いてくだされば私も必要ないと思いますけど?」
「菜々、あんたねー」
「お茶のお変わりいれますね」
黄薔薇ファミリーはいつのものように楽しそう。
他の薔薇さまたちも特にマリアに仕事を振るということはなく、少し前のお客様扱いに戻ってしまったみたいで、マリアはそれが少し悲しかった。やっぱり、まだ自分はこの中の一員じゃないんだと、そう思った。輪の中じゃなく、輪の外にいるんだと。
それに、多分、私に気を使ってくれているんだ。
マリアは直ぐにそのことに気がついた。
「あの、私、今日もお手伝いをして行っていいですか?」
マリアがそう志願すると、山百合会のメンバーは少し驚いたような顔をした。
「それじゃあ、今日も手伝ってもらおうかな?」
そう言ってくれたのは、福沢祐巳さまだった。
瞳子さまのお姉さまで、
満面の笑みで微笑んだ祐巳さまを見て、マリアはとても嬉しくて大きく返事をして頷いた。
「はいっ。よろしくお願いします」