マリア様がみてる Another ~シスター&シスター~ 作:夏緒七瀬
空模様が怪しくなるにつれて、瞳子の胸騒ぎも大きくなっていった。
マリアは、まだ薔薇の館に顔を出していない。瞳子が薔薇の館を訪れた時、二階の部屋には菜々ちゃん一人だけ。瞳子が「マリアとは一緒に来なかったの?」と尋ねると、菜々ちゃんは表情を少しだけ困らせて「はい。少し遅れると言っていました」と言った。
明らかに何かを迷っている表情。
瞳子は、直ぐにそのことに気がついた。
でも、瞳子はあえてそのことを追及したりはしなかった。
おそらく二人の間で何かしらかの会話かやり取りがあったのだろう。
でも、それを私に告げては欲しくない。
そんなところだろうとあたりをつけた。
ならば、余計な詮索は野暮というものだ。
しっかり者の菜々ちゃんが、私に告げる必要がないと判断したのだから。
しかし、マリアは一向に薔薇の館にやってこない。時間が経つにつれて菜々ちゃんの様子もおかしく、ちらちらと窓の外に視線を送り、時折ためらいがちに瞳子を見つめる。その表情があまりにも切羽詰っていたので、瞳子はこれ以上の静観は後手に回り過ぎなのではと、席を立ち上がろうかと思案した。
幸い、今は山百合会のメンバー各々がそれぞれ抱えた仕事を片付けている最中で、話し合いなどは行われていない。
瞳子の仕事もほぼ片付いているので、私用で席を立っても問題はなかった。
すると、先に席を立ったのは菜々ちゃんだった。
菜々ちゃんは困った顔のまま瞳子を見つめる。
瞳子も小さく頷いて席を立った。
「瞳子さま、ごめんなさい。実はマリアちゃんの件で」
「私のほうこそ、尋ねるのが遅くなってごめんなさい。もっと早くに気にかけておくべきだったわ」
「そんな。私の方が先に話すべきでした」
瞳子は真面目で素直な、そして友達思いな菜々ちゃんを見て微笑んだ。
本当に頼りになるつぼみだと、心から思った。
「それで、話しを聞かせてもらっていいかしら?」
「はい」
瞳子が尋ねると、菜々ちゃんはまだ悩んだような表情のまま口を開く。
「実は、マリアさんがクラスメイトに呼び出されて、その生徒と話をするために一人で裏庭に行ってしまったんです。私が付き添おうかと言ったんですが、断られてしまって。それに、山百合会のメンバーには内緒にしてほしいと言われて、それで――」
菜々ちゃんは後悔を口にするよう告白する。
自分の判断のミスを悔やんでいるみたいだった。
「いいのよ。菜々ちゃんはマリアとの約束を守って口を
「はい。その通りです」
菜々ちゃんは驚いたように目を広げて頷いた。
「マリアを呼び出したクラスメイトっていうのは、マリアに嫌がらせのようなことをしていた生徒なのね?」
「はい。でも、マリアちゃんと一番仲が良かった生徒だと思います。いつも一緒にいたので。でも、こんなに長い時間かかるなんて、少しおかしいというか、何かあったのかも」
「分ったわ。ありがとう」
瞳子はそう言うと、菜々ちゃんの肩をポンと叩いた。
後は任せておきなさいと言うように。
「お姉さま、私、少しばかり席を外してよろしいでしょうか?」
瞳子がそう言うと、席に座って仕事をこなしていた
「いってらっしゃい」
お姉さまに送り出された
大きな胸騒ぎを抱えながら。
菜々ちゃんに――後は任せて起きなさいというポーズをとって見せたものの、瞳子は大きな不安を抱えていた。いろいろなことが手遅れになってしまったような、マリアがどこか遠くに行ってしまうような、そんな気がした。
灰色の絵の具を分厚く塗りたくったような曇り空は、まるで嵐の訪れを告げているようだった。