マリア様がみてる Another ~シスター&シスター~   作:夏緒七瀬

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30 ごめんなさいと罰

 マリア像の前まで逃げるように走ってきたマリアは、雨に打たれることも気にせずにマリア様に祈った。

 どうか、瞳子さまが傷ついていたり、ショックを受けいたりしないで下さいと。

 私なんかのために、涙を流したりしないで下さいと。

 

 そして――ごめんなさい。ごめんなさい、と。

 

 マリアは今でも信じられなかった。

 あの紅薔薇の(ロサ・キネンシス・)つぼみ(アン・ブウトン)の松平瞳子さまが、自分なんかにロザリオを渡そうとしたことが。

 姉妹(スール)の申し出をしてくださったことが。

 

 そんなことがあるわけないと――自分に言い聞かせてきた。

 それでも、瞳子さまが自分に向ける感情には気づいてきた。

 だって、マリア自身も同じ感情を抱いているのだから。

 

 それでも、ロザリオを受け取ることはできなかった。

 瞳子さまと姉妹(スール)になることはできなかった。

 

 マリアは雨に打たれなあらマリア様に拝み続ける。

 あれは、瞳子さまの気の迷い。

 

 そもそも、瞳子さまが自分を気にかけてくださったのも、同情から発したもの。

 瞳子さまは――私のことを、守ってあげると言った。

 

 でも、紅薔薇の(ロサ・キネンシス・)つぼみ(アン・ブウトン)が私なんかを守るためにロザリオを渡すなんて、あってはいけないことだ。

 誰かを守るために姉妹(スール)になるなんてあってはいけない。

 

 それでも、マリアは瞳子さまに身を委ねたくなった。

 そうできたならどんなに素晴らしいだろうかって、この期に及んでも考えしまう自分がいた。

 

 でも、マリアは瞳子さまを拒絶した。

 徹底的に。

 

 これで、薔薇の館に通うこともなくなった。

 菜々さんとお昼を食べることもないだろう。

 

 蘭さんだって、もう私を気にかけたりしないだろう。

 先ほどの会話で徹底的に軽蔑されてしまったのだから。

 

 マリアは、自分が完璧なひとりぼっちになってしまったことを理解した。

 もう、誰もマリアのことを追って来てはくれない。

 

 後ろを振り返りたい気持ちをこらえきれずに、目を開けて来た道を見つめる。

 だけど、そこには誰もいない。

 瞳子さまも、追って来てくれない。

 

 当たり前だ。

 

 マリアは、ようやく自分に罰が当たったんだと安堵した。

 これで良かったんだと、微笑んだ。

 大粒の涙を流しながら。

 

 自分が今、どんな顔をしているのかまるで分からなかった。

 これで良かったんだと思っているのに、大きな後悔していることには気が付いていた。

 気がつかないふりはできなかった。

 

 でも、どうすることもできない。

 もう、どうしていいのか分らない。

 ぐちゃぐちゃになったこの感情では、なにも考えられない。

 

 マリアは、雨に濡れながらひとりぼっちで帰って行った。

 家にたどり着くまでの時間が永遠に感じられた。

 


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