マリア様がみてる Another ~シスター&シスター~   作:夏緒七瀬

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34 真美さんと日出実ちゃん

 昼休み。

 

 薔薇の館に向わなかった祐巳と由乃さんは、新聞部の部室にいた。

 たくさんの資料や写真、書きかけの原稿が山積みになった部屋の中には、新聞部の真美さんだけでなく、真美さんの妹ので新聞部部長の高知日出実(たかちひでみ)ちゃん、写真部エースの蔦子(つたこ)さん、蔦子さんの妹ではなく弟子の笙子ちゃんまでいて、ちょっとした秘密の会議めいている。

 

 表向きは二学期の行事のスケジュールの確認とお手伝いのお願いのために集まったのだけれど、目的はそれだけじゃないんだろうなと、祐巳は薄々気が付いていた。

 

 ホワイトボードに必要事項を記入して、各自がそれを確認し終えたところで、この会議は終了した。

 すると、やはり真美さんが口火を切る。

 

「祐巳さん、瞳子ちゃんの件だけど――少しだけ話を聞いてもいいかしら?」

「それって、この会議に必要なこと? リリアン瓦版に載せようってんならそうはいかないわよ」

 

 祐巳が反応する前に、由乃さんが食って掛かる。

 昨日の今日ということで少しナイーブになっているのが見て取れた。

 

 由乃さんは、瞳子があんなに落ち込んで目の周りを真っ赤にしたのを見たのははじめて。少なからずショックを受けただろうし、どうにかしてあげたいって思ったんだと思う。

 

 なにより、由乃さんは菜々ちゃんのお姉さまなのだ。

 菜々ちゃんの友達であるマリアちゃんの問題ということもあって、黙ってはいられなかったのだろう。

 

「由乃さま、誤解です。実は、この件でお話を聞きたいと言ったのは、私なんです」

 

 由乃さんの言葉に反応したのは、以外にも真美さんではなく妹の日出実ちゃんだった。彼女は言いづらそうに表情を困らせる。

 

「由乃さん、私は大丈夫だから」

 

 祐巳は由乃さんに断りを入れた後、日出実ちゃんに向き直る。

 

「日出実ちゃん、話を聞かせてくれる?」

「はい。実は――」

 

 日出実ちゃんはほっと一息をついた後、話しをはじめた。

 

「私の妹の話なんですけれど」

「日出実ちゃん、妹いたの?」

「えっ? あっ、はい」

 

 祐巳の意外な反応に、日出実ちゃんは驚いて答える。

 

「おめでとう」

 

 祐巳がおめでとうと言うと、日出実ちゃんは頬を赤く染めて「ありがとうございます」と返した。その後で、由乃さんも「おめでとう」と祝福をする。

 日出実ちゃんに妹がいたことを知っていたであろう残りのメンバーは、黙ったままその光景を見送った。

 

「はい。それで、私の妹が――瞳子さまの妹候補と噂されている御園マリアさんと、同じクラスなんです。実は、そのクラスの雰囲気が少し良くないと、以前から相談を受けていました。はじめは、マリアさんが姉妹(スール)の申し出を断り続けていることで、やっかみのようなものを受けているという相談だったのですが、薔薇の館に招かれるようになってから噂の質も変わってきたようで。それで、お姉さまに相談したら、マリアさんに独断で話を聞きに行ったりしてしまって――そのことでご迷惑をかけたのではないかと思って、まずはそれを謝罪したくて。ごめんなさい」

 

 日出実さんは、深々と頭を下げて謝罪する。

 驚いた祐巳は、目を丸くして口を開いた。

 

「日出実ちゃん頭を上げて。日出実ちゃんは何も悪くないし、真美さんがマリアちゃんに話を聞きに行ったことも、とくに問題にはなっていないから」

「私も先走ったんじゃないかって、申し訳なく思っていたの。祐巳さん、ごめんなさいね」

 

 続いて真美さんも謝罪する。

 

「二人とも、本当に気にしないで」

「お姉さまは、本当に反省してください。直ぐに取材したがるのは悪い癖です。もう三年生なんですから、そろそろ引退と進路のことも考えて頂かないと」

「分ってるわよ。もう、口うるさい妹ね」

「『リリアン瓦版』の編集長の座だって部員の誰かに譲って」

「私の生きがいを奪おうっていうの? なんてひどい」

「そんな、大袈裟な」

 

 軽い言い争いをはじめた二人を見て、祐巳は何だか由乃さんと菜々ちゃんに似てるなと思った。

 姉妹(スール)には色々な形がある。

 それを改めて感じて、少しだけ胸が温かくなる。

 

「はい。この話は、もうおしまい。それで、そろそろ本題に入りましょう」

 

 手を叩いてそう提案したのは蔦子さん。

 新聞部のエースは眼鏡の奥の瞳をきらりと光らせて、この場に集まったメンバーを見回す。

 

「瞳子ちゃんとマリアさんの噂話が少しばかり大きくなりすぎてるから、みんな心配してこの場に集まっているんでしょう? 二年生のところにも話は広がっている。でしょう?」

「はい」

 

 視線を向けられて頷いたのは、笙子ちゃん。

 

「笙子ちゃんがこの話し合いに参加したいって言いだしたのも、瞳子ちゃんのことが気になっているからなのよね?」

「そうです。私も、瞳子さんのことが少し心配で」

 

 蔦子さんが尋ねて、この場にいる全員が――現在、リリアン女学園に広まっている噂を懸念して集まっていることを確認した。

 

 祐巳は、笙子ちゃんが瞳子のことをそこまで気にかけていることを意外に思った。

 真美さんの日出実ちゃんは、自分たちが噂を広める一因になってしまったかもしれないという懸念と申し訳なさがあってのことだけど、笙子ちゃんは?

 しかし、今はそれを気にしている場合じゃない。

 

「祐巳さん、私たちは別に祐巳さんからこの噂の真相を聞き出そうってわけじゃないの。ただ、この噂を払拭するのに、私たちが何か力になれないかってそう思っているだけ」

 

 蔦子さんが話をまとめると――真美さん、日出実ちゃん、笙子ちゃんが黙って頷く。

 

「今では話がエスカレートしてしまって、いつの間にか瞳子さまがマリアさんに姉妹(スール)の申し出を断られたなんて話になってしまって、それで、私――」

 

 日出実ちゃんが困った顔で言う。

 おそらく、真美さんが取材に行ったしまったことがその噂に拍車をかけたと思い込んでいると、祐巳は察した。

 

 瞳子が、マリアちゃんに姉妹(スール)の申し出を断られたこと自体は本当のことなのだけれど、それを今どのように扱うべきか、祐巳は思い悩んだ。当事者である二人に断りもなく、その事実をここで話すわけにもいかず、今は事実は伏せてただの噂ということにしておくしかない。

 

 祐巳は噂がそこまで広まっていることに驚くとともに、マリアちゃんのことを心配した。

 

「マリアちゃんは、どうしているか分る?」

 

 日出実ちゃんに尋ねる。

 

「マリアさんは、今日は病欠していると聞きました」

「病欠?」

「はい。私も妹から少し話を聞いただけなので、詳しくは分からないのですが」

 

 祐巳は、その話を聞いて顔色を変える。

 

「祐巳さん?」

 

 由乃さんも顔色を変えて尋ねる。

 

「早合点はできないけど、でも――」

「うん。わかってる」

 

 祐巳は、由乃さんの言葉にただ頷くことしかできなかった。

 

「みんな、ありがとう。姉妹(スール)の問題は瞳子とマリアちゃんの問題だから、今は私たちは静観することしかできない。でも、これから先、力を借りることもあると思う。その時は――よろしくお願いします」

 

 祐巳が深々と頭を下げると、残りのメンバー全員は力強く頷いた。

 

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