マリア様がみてる Another ~シスター&シスター~ 作:夏緒七瀬
「少しは落ち着いたかしら?」
「はい。突然、驚かせてしまい申し訳ありませんでした」
テーブルに向かい合って座った――瞳子と蘭さん。
薔薇の館には二人だけ。
乃梨子と菜々ちゃんは温かい紅茶を二人に出した後、静かに部屋を出て行った。
蘭さんを見つめる瞳子は、困ったように眉を寄せる。
最近は、なんだから謝られてばかりな気がするわね?
瞳子は、自分が薔薇の館のお
「それじゃあ、話しの続きをしましょうか? 謝罪だけをしにきたのではないんでしょう?」
瞳子が尋ねると、蘭さんは意を決したように口を開く。
「瞳子さまは、マリアさんと
瞳子は、いきなりそれを尋ねられて口ごもってしまう。
まさか、ここまでストレートにそのことを尋ねられるとは思っていなかったから。
この質問も、いったい何度目だろうか?
瞳子は再び苦笑いを浮かべそうになった。
「私なんかが、立ち入って良い話じゃないのは分かっています。無礼な質問だっていうのも分っています。でも、瞳子さまがマリアさんと
蘭さんは、真剣そのものだった。
彼女の張りつめた、そして切実な表情の名前を瞳子は知っている。
それは――心配いう名の表情だ。
「蘭さん、あなた――もしかしてマリアのことを心配しているの? それに、マリアに姉ができてほしいって思っているの?」
瞳子は、思わずそう口にした。
そして、それを言葉にした後で、瞳子は――自分は大きな勘違いをしていたのではないかと考えた。
確かに、マリアとクラスメイトは揉めていた。
その当事者には――三守蘭さんも混じっていた。
この話題を最初に薔薇の館に持ち込んだ菜々ちゃんも、それを聞いた瞳子を含む山百合会のメンバーも――マリアが
けれど、三守蘭さんは違うのではないか?
もっと別の、複雑な事情や感情があるのではないか?
瞳子は、そんな結論に至った。
「いえ。今さらマリアさんを心配する資格なんて――私には、ありません。私は、マリアさんにずっとひどいことをしてきたんです。マリアさんに嫉妬して、それで、彼女から距離を取ってきた。彼女に嫌がらせをする生徒たちと一緒になって、マリアさんに嫌がらせをしてきた」
蘭さんは自分のことを肯定することなく、正直な気持ちを吐露しはじめた。
自分の罪を告白するように。
「私のお姉さまは――最初、マリアさんに
「それは、あなたも複雑な気持ちだったでしょうね?」
瞳子が蘭さんを
「マリアさんは、その後も
それは、瞳子も感じていたことだった。
マリアは明からに誰かとの繋がりを求めている。
関係を築こうとしている。
それなのに、
そのことが、瞳子にも蘭さんにも分らなかった。
だから、不安になったり、心配になったり、やきもきしたり、苛立ったり、悲しんだりしてしまうのだ。
分からないから。
分りたいから。
「だから私、マリアさんが瞳子さまの
蘭さんは、悔しそうに体を震わせながら言葉を続ける。
「中庭で、マリアさん、瞳子さまとも
蘭さんは、いつの間にか泣いていた。
大粒の涙をこぼしながら、必死に自分の怒りや悲しみを瞳子に訴えかけていた。
これまで押し殺し、抱え込み、積み上げてきた彼女のを思いを、罪を、懺悔を全て吐き出すように。
「だって、マリアさんは――瞳子さまが好きなんです。私たち、二人で何度も瞳子さまについて話したんです。
瞳子は、いつの間にか立ち上がって蘭さんの隣に寄り添っていた。
そして、大粒の涙を流し彼女の頭を優しく撫でる。
瞳子は、蘭さんを見てとても胸が温かくなった。
こみ上げるものを感じた。
瞳子は思った。
マリアと蘭さんは、これから先、友人関係を築き直せるはずだ、と。
かつて、自分にもそんな反目し合った友人が――ライバルがいた。
「そうよね? そんなの、あんまり過ぎるわよね?」
瞳子は、可南子さんのことを思い出しながら言葉を続ける。
かつて同じ人に――
「こんなにも心配してくれる友人がいる――マリアは幸せものね」
「友達なんかじゃないです。もう、友達なんて言ってもらえる資格はありません。私はマリアさんを追い詰めて、それで。でも、このままじゃ悲し過ぎます。マリアさんが、本当にひとりぼっちになってしまう」
「友達に資格なんていらないのよ? あなたは十分すぎるほどにマリアの友達だわ。今は、少しだけ仲たがいをしてしまっただけ。また仲直りをして、一からやり直せばいい」
「でも、マリアさんがこのままリリアンに戻ってこなかったら?」
蘭さんは心からそのことを恐れているように、小さくそう尋ねた。
まるで、夜に怯える子供のように。
二人の絆を、もう一度結び直さなければいけない。
瞳子はそう強く決意した。
だって、三守蘭というロザリオの数珠は――もう瞳子という薔薇の花冠を彩る一輪の花なのだから。
だからこそ、その輪を完成させる最後の一つがどうしても必要なのだ。
「大丈夫。マリアは私が連れ戻すわ。そうしたら、三人でお茶をしましょう。それは、きっと――素敵なお茶会になるわ」