マリア様がみてる Another ~シスター&シスター~   作:夏緒七瀬

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41 心の扉と小さな鍵

「お待たせしてごめんなさいね」

 

 リビングのソファーに座っていると、マリアの母親がやって来て言う。

 瞳子は首を振って口を開いた。

 

「いえ、休日に突然押しかけてしまって、こちらこそ申し訳ありませんでした。マリアさんのご迷惑でなければ良いのですが?」

「迷惑なんかじゃぜんぜんないわ。あの娘、松平さんのお手伝いをするようになって。薔薇の館? に、通うようになってからすごく明るくなって、家でもいつもあなたの話ばかりしているのよ。とても素敵先輩で――憧れの人だって」

「ありがとうございます。それは、とても光栄なことです」

 

 瞳子は、そう言いながら微笑を浮かべた。

 そして、ほっと胸を撫で下ろした。

 

 マリアが、瞳子のことを家族にそのように話していてくれたことがなによりも嬉しかった。憧れだと言ってもらえたことが、今の瞳子にはなによりも励みだった。

あの娘、引っ込み思案で内気なところがあるでしょう? だから松平さんみたいに堂々とした先輩がバシバシしごいて、厳しく指導してくれると、とても助かるわ」

 

 マリアの母親は冗談めかせて言った後、瞳子をマリアの部屋に案内した。

 

 瞳子は、『マリア』と描かれた札のぶら下がった部屋の前に立つ。マリアの部屋の前、廊下を挟んだ向かいの部屋にはもう一つの部屋があって、その部屋には何の札もかけられていなかった。

 

 瞳子は息を整える。

 まるで、舞台に上がる前のような気分と緊張感だ。思わず身がすくむのを感じるくらい。

 

 でも、これから立つ舞台には演技は必要ない。台本も存在しないし、仮面をかぶる必要もない。

 ただ、瞳子の気持ちを真っ直ぐに伝えるだけでいい。

 

 しかし、それが一番難しいことだった。

 以前の瞳子は、それができずにずっと苦しんだ。仮面をかぶり、なにものかを演じることで、必死に自分という存在を保ってきた。

 

 祐巳さまが、瞳子の仮面を外してくれるまで。

 だからこそ、瞳子は絶対に譲れなかったものを、喜んで譲り渡すことができた。

 

 祐巳さまに自分を知ってもらうという、本当のことを話すとういう――

 一番難しかったことを、やってのけることができた。

 

 難しいからこそ、それが一番大切なのだ。

 お互いを理解し、分り合う上では。

 

 あの時は、祐巳さまが瞳子を探しに来て――見つけてくれた。

 

 今は、瞳子がマリアを探して――

 そして、見つける番なのだ。

 

「マリア、入ってもいいかしら?」

 

 瞳子は、意を決してマリアの部屋の扉をノックしながら言う。

 

「はい。どうぞ」

 

 直ぐに緊張したマリアの声が聞こえてきて、瞳子は自然と微笑んだ。

 そして、扉を開けて中に入る。

 

 できることなら――マリアの心の扉も開けられますようにと願って。

 自分が、マリアの心の扉を開く小さな鍵を持っているかは分らない。

 それでも、その扉を叩くことはできる。

 

 瞳子はそんなことを思いながら――

 

 マリアと再会した。

 


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