マリア様がみてる Another ~シスター&シスター~   作:夏緒七瀬

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43 遠回りとたった二文字の言葉

「わからないわよね?」

 

 瞳子が、マリアの問いに答える。

 かつての自分の姿をマリアに重ねながら。

 

「わかっていても、わかりたくない。わかろうとしているのに、最後の部分で信じきれない。私も、以前はそうだったから――あなたの気持ちが痛いほどわかるわ」

「瞳子さまが、私と同じ?」

 

 マリアは、驚いたように言う。

 信じられないと言うように。

 

「ええ。私も、お姉さまからの姉妹(スール)の申し出を断ったことがあるから」

「ええっ、祐巳さまからの姉妹(スール)の申し出を断ったんですか?」

 

 マリアは、やはり信じられないという顔。

 でも瞳子は、そこに少しずつ別の色が加わるのを感じた。

 興味や好奇心とはまた別の、もっと純粋な気持ち。ただそれを知りたいという、そんな感情が見て取れた。

 

「ええ。それはもう、手ひどく断ったわ。今思い出しただけでも後悔と申し訳なさしか浮かばない。『聖夜の施しならよそでなさってください』って――」

 

 瞳子は恥ずかしそうに言って、頬を赤らめる。

 マリアは、そのあまりの手ひどさに言葉を失っていた。

 

「でも、そんな私を、祐巳さまは見捨てずにいてくれた。最後まで向き合い続けてくれた。だから、恥ずかしい過去も今では素敵な思い出。この話をしたのは、マリアがはじめてだけど」

 

 瞳子は、暗に内緒話だと言って先を続ける。

 

「祐巳さまが最後まで私を見捨てずにいてくれたから、私は、私がどうしても譲れなかったものを、抱えていたものを、全てさらけ出すことができた」

「瞳子さまが、譲れなかったもの? 抱えていたもの? それってなんですか?」

 

 マリアが、静かに尋ねる。

 瞳子の譲れなかったもの、抱えていたものを心から知りたいと、

 

 瞳子はマリアを真っ直ぐ見つめて、そして微笑みを浮かべながら言う。

 自分の胸の扉を開くように。

 

「私は――松平の家の子ではないの」

「えっ? そんな――」

 

 マリアの顔色が一瞬にして変わる。

 なんてことを聞いてしまったんだと、青ざめた顔になる。口元を手で覆い、後悔で押し潰れてしまいそうに体を大きく震わせる。

 

「私を産んでくれた父と母は交通事故で亡くなって、赤ん坊だった私一人だけが助かった。私は、母のクラスメイトだった松平の両親に引き取られたの。私は、祐巳さまがそのことを知っていて、その憐みから私を妹にしようと思ったのだと勘違いしてしまった。そのことで祐巳さまに酷いことを言って――強く拒絶してしまった。全て、私の勘違いなのに」

「瞳子さま、ごめんなさい。私、なにも知らずに。そんなつらい過去があったなんて」

 

 マリアは、呆然としたまま言う。

 瞳子に向ける顔がないと俯いて涙を流した。

 

「マリア、こっちを向いて。しっかりと、あなたの顔を見せて」

 

 マリアは、おそるおそる瞳子を見つめる。

 頬をつたう涙を瞳子はとても愛おしく思った。

 

「ねぇ、マリア、どうして謝るの? 私はマリアに、私のことを知ってもらいたくて話をしたのよ。むしろ、聞いてもらえてうれしいわ」

 

 瞳子は、穏やかにそう言う。

 

 瞳子にとって、その過去はもう乗り越えたものだ。

 だから、今さら誰かに話したところで胸が痛んだりはしない。

 祐巳さまと二人で過去と向き合った時――バレンタインデー企画の賞品で瞳子の祖父の病院にデートに行ったときに、瞳子の過去は全て終わっているのだ。

 

 だからこそ、マリアに知ってもらいたかった。

 瞳子の全てを。

 

「祐巳さまは、純粋に私を妹にとの望んでくれた。何の打算や憐れみもなく、心から姉妹(スール)の申し出をしてくれた。マリア、私も同じよ」

 

 瞳子は、マリアに語りかける。

 本当に大事な言葉を。

 本当の気持ちを。

 

「マリア、あなたのことが好きなの。だから、私はあなたを妹にしたいと思ったのよ。マリア像の前で、はじめてあなたを見つけた時から、名前も知らない下級生のタイを直してしまった時から――私は、あなたのことがずっと気になっていたの」

 

 好き。

 

 たった二文字のその言葉を言うためだけに、ずいぶんと遠回りをしてしまった気がする。

 だから、瞳子は心からの気持ちを込めてもう一度その言葉を口にした。

 

 

「マリアのことが好きだから。だから私は、あなたに姉妹(スール)の申し出をした――これが、私の本当の気持ちよ」

 

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