マリア様がみてる Another ~シスター&シスター~ 作:夏緒七瀬
「わからないわよね?」
瞳子が、マリアの問いに答える。
かつての自分の姿をマリアに重ねながら。
「わかっていても、わかりたくない。わかろうとしているのに、最後の部分で信じきれない。私も、以前はそうだったから――あなたの気持ちが痛いほどわかるわ」
「瞳子さまが、私と同じ?」
マリアは、驚いたように言う。
信じられないと言うように。
「ええ。私も、お姉さまからの
「ええっ、祐巳さまからの
マリアは、やはり信じられないという顔。
でも瞳子は、そこに少しずつ別の色が加わるのを感じた。
興味や好奇心とはまた別の、もっと純粋な気持ち。ただそれを知りたいという、そんな感情が見て取れた。
「ええ。それはもう、手ひどく断ったわ。今思い出しただけでも後悔と申し訳なさしか浮かばない。『聖夜の施しならよそでなさってください』って――」
瞳子は恥ずかしそうに言って、頬を赤らめる。
マリアは、そのあまりの手ひどさに言葉を失っていた。
「でも、そんな私を、祐巳さまは見捨てずにいてくれた。最後まで向き合い続けてくれた。だから、恥ずかしい過去も今では素敵な思い出。この話をしたのは、マリアがはじめてだけど」
瞳子は、暗に内緒話だと言って先を続ける。
「祐巳さまが最後まで私を見捨てずにいてくれたから、私は、私がどうしても譲れなかったものを、抱えていたものを、全てさらけ出すことができた」
「瞳子さまが、譲れなかったもの? 抱えていたもの? それってなんですか?」
マリアが、静かに尋ねる。
瞳子の譲れなかったもの、抱えていたものを心から知りたいと、
瞳子はマリアを真っ直ぐ見つめて、そして微笑みを浮かべながら言う。
自分の胸の扉を開くように。
「私は――松平の家の子ではないの」
「えっ? そんな――」
マリアの顔色が一瞬にして変わる。
なんてことを聞いてしまったんだと、青ざめた顔になる。口元を手で覆い、後悔で押し潰れてしまいそうに体を大きく震わせる。
「私を産んでくれた父と母は交通事故で亡くなって、赤ん坊だった私一人だけが助かった。私は、母のクラスメイトだった松平の両親に引き取られたの。私は、祐巳さまがそのことを知っていて、その憐みから私を妹にしようと思ったのだと勘違いしてしまった。そのことで祐巳さまに酷いことを言って――強く拒絶してしまった。全て、私の勘違いなのに」
「瞳子さま、ごめんなさい。私、なにも知らずに。そんなつらい過去があったなんて」
マリアは、呆然としたまま言う。
瞳子に向ける顔がないと俯いて涙を流した。
「マリア、こっちを向いて。しっかりと、あなたの顔を見せて」
マリアは、おそるおそる瞳子を見つめる。
頬をつたう涙を瞳子はとても愛おしく思った。
「ねぇ、マリア、どうして謝るの? 私はマリアに、私のことを知ってもらいたくて話をしたのよ。むしろ、聞いてもらえてうれしいわ」
瞳子は、穏やかにそう言う。
瞳子にとって、その過去はもう乗り越えたものだ。
だから、今さら誰かに話したところで胸が痛んだりはしない。
祐巳さまと二人で過去と向き合った時――バレンタインデー企画の賞品で瞳子の祖父の病院にデートに行ったときに、瞳子の過去は全て終わっているのだ。
だからこそ、マリアに知ってもらいたかった。
瞳子の全てを。
「祐巳さまは、純粋に私を妹にとの望んでくれた。何の打算や憐れみもなく、心から
瞳子は、マリアに語りかける。
本当に大事な言葉を。
本当の気持ちを。
「マリア、あなたのことが好きなの。だから、私はあなたを妹にしたいと思ったのよ。マリア像の前で、はじめてあなたを見つけた時から、名前も知らない下級生のタイを直してしまった時から――私は、あなたのことがずっと気になっていたの」
好き。
たった二文字のその言葉を言うためだけに、ずいぶんと遠回りをしてしまった気がする。
だから、瞳子は心からの気持ちを込めてもう一度その言葉を口にした。
「マリアのことが好きだから。だから私は、あなたに