マリア様がみてる Another ~シスター&シスター~ 作:夏緒七瀬
お互いの気持ちを確かめ合い、理解し合い、そして一仕切の涙を流し終えた後――二人は心を穏やかにして、互いを見つめ合った。
マリアはゆっくりと窓際まで歩いて行き、そして晴れ渡る空を眺める。
その表情は、遠くの空に虹を見つけたように晴れ晴れとしていた。そして、視線を下のほうに移して――足元に素敵な花を見つけたように微笑む。
色とりどりの薔薇の花を。
瞳子は、首から下げたロザリオがカチャリと鳴る音を聴いた。
あと二人に残されたのは、ロザリオの授与だけ。
瞳子は、今がその時かと思ってマリアに一歩近づいた。
すると、マリアが振り返って言う。
「瞳子さま、一つ提案あるんですけど――」
その提案は、瞳子にとってとても納得できるものだった。
それ以上に、とても嬉しいものだった。
薔薇の館を二人で手を繋いで出ると、そこには小さな人だかり。
瞳子は、心の中で――「ああ」と呟く。
私たちは、こんなにもたくさんの人たちに見守られてここまで来たのだなあと、瞳子はしみじみと思った。
マリアもそう思ったのか、瞳子を握る手がいっそう強くなる。
手を繋いだ二人が薔薇の館から出てくるのを見た人だかりは、小さな歓声をあげる。
そして、息を飲んで二人を見つめる。
菜々ちゃんはもう泣いていた。
乃梨子も目に涙を溜めている。
由乃さまと志摩子さまは、そんな妹たちの後ろで微笑んでいる。
祐巳さまは、瞳子とマリアを見て力強く頷く。
祐巳さまの隣には可南子さんが立っていて、可南子さんもその瞳に涙を溜めていた。
少し離れたところには、新聞部の真美さまと日出美さん、そしてもう一人、見覚えのない生徒が一人。おそらく、日出美さんの妹だろう。さらには写真部の蔦子さまと、笙子さんまで。二人は早速カメラを向けている。
スクープとスクープ写真は逃さないという完璧な布陣だった。
そして、さらに少し離れたところには、蘭さんが立っていた。
蘭さんの後ろには、おそらく彼女のお姉さまだろう。蘭さんを支えるように立っていて、瞳子と目が合うと優しく微笑んでくれた。
今この場所には、今日まで瞳子とマリアを支えてくれた、そして見守ってくれた人たちが一堂に会して――二人の言葉を待っている。
「マリア、いいわね?」
「はい」
二人は一歩踏み出して集まって人たちに向き合った。
「私とマリアは、これから晴れて
瞳子とマリアが頭を下げると、「もちろん」という声が聞こえ、小さな拍手などが続いた。
「瞳子さま、マリアさん、まだおめでとうございますじゃないけど――おめでとうございます」
菜々ちゃんがそっと駆け寄ってきて、マリアの手を取る。
「瞳子、やったね」
乃梨子が、泣き虫神さまのドロップをボロボロ、ボロボロこぼしている。
祐巳さま、由乃さま、志摩子さまの三薔薇さまは、手を取り合っているはしゃいでる。
可南子さんが顔を背けて泣き顔を瞳子に見せないようにすると、直ぐに祐巳さまが駆け寄ってその手を取った。
なんて素敵な光景だろう。
瞳子の目がこみ上げるもの滲んだけれど、もう涙は流さない。
マリアも同じように涙をこらえながら、大切な友人を真っ直ぐに見つめていた。
「マリア、あなたにはまだやることがあるでしょう? 行ってらっしゃい」
「はい」
瞳子はマリアの背中を押して、マリアを送り出した。
向こうのお姉さまも、蘭さんの背中を押して送り出す。
二人は互いに歩み寄って、そして会話をはじめた。
二人は直ぐに手を取り合って、そして涙を流し合った。「ごめんね」という言葉が何度もなんども二人の間を行き来して、これまでのわだかまりや、これまでの不和を、ゆっくりと取り除いていって。
ふたたび絆を繋ぎ直すように。
蘭さんのお姉さまが瞳子に小さく頭を下げて、瞳子も頭を下げる。彼女とは、これから先も長い付き合いになりそうだと――瞳子は暖かいもので満たされた心の中でそう思った。
「それじゃあ、みなさんそろそろ場所を移しませんか? ここから先は――写真部と新聞部が主導させていただきます」
シャッターチャンスは逃さないと、静かに写真を取りづける蔦子さまに変って、笙子さんがそんな提案をする。
きっと、蔦子さんの代わりを演じているのだろう。
そんな似合わないことをする笙子さんの言葉を聞いた一同はドっと笑い、ぞろぞろとマリア像へと向かって足を進める。
「『
マリア像までの道すがら、真美さまが瞳子に鼻息を荒くして言う。
隣で日出美さんがやれやれと首を横に振り、瞳子に「ごめんさないね」と謝罪する。
こんな光景がひどく嬉しい。
「ええ、素晴らしい記事をお願いします。私も、号外が出るのを楽しみにしています」
瞳子が受けて立つという返すと、真美さまは拍子抜けした顔を浮かべた。
「笙子さんも、素敵な写真をよろしくね」
続いて、瞳子は笙子さんに声をかけた。
「もちろんよ」
笙子さんは、首から下げたカメラを掲げて頷く。
瞳子は笙子さんに近づき、こっそりと耳打ちをした。
「一つ聞きたいことがあるんだけれど」
「なあに」
「いつかの朝、笙子さんが撮ってくれたマリアのタイを直した写真って、まだ残っていたりするかしら?」
「ふふふ。ええ、実はデータは残してあるの」
瞳子は表情を明るくする。
「よかったら、一枚現像していただけないかしら?」
「もちろんかまわないわ。ただし、条件があります」
「条件?」
「ええ。学園祭の写真部展示コーナーにパネルで飾らせること」
それを聞いて、瞳子は「はぁ」と小さな溜息をついた。
こんなところまで蔦子さまに似てきて。
しかし、瞳子は背に腹は代えられないと頷く。
「のったわ」
「ありがとう」
まぁ、それも悪くないだろう。
一同が図書館のわき道を歩いて別れ道の手前まで来たとき――瞳子はふと、後ろを振り返った。
マリア、菜々ちゃん、蘭さん、そしてもう一人、日出美さんの妹のユリカさんが、四人並んでついて来ている。四人はとても楽しそうに会話をしていて、それが嬉しかった。
しかし、どこを見回してもお姉さまの祐巳さまがいらっしゃらなかった。
お姉さまは、どこに?
瞳子が考えると、隣から声が聞こえた。
「祐巳さまなら、どうしても連れてきたい人がいるって走って行ったわよ」
可南子さんが澄ました顔で言った。
「連れてきたい人?」
瞳子は誰だろうと首を傾げようとしたけれど、今は置いておくことにした。
「可南子さん、わざわざ来てくれてありがとう」
瞳子は、素直にお礼を言った。
こんな日があったっていい。
だって、それは瞳子の心から言葉なのだから。
「あたりまえよ、そんなこと。あたりまえ」
可南子さんも、素直にそう言ってくれる。
その目は赤く腫れていて、先程から全く瞳子と目を合わせないようにしている理由が、ありありと見て取れた。
「なんだか私たち気持ちが悪いわね」
「そうね、私たちらしくないわね」
「ふふふ」
「ふふふ」