マリア様がみてる Another ~シスター&シスター~   作:夏緒七瀬

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エピローグ ごきげんようとごきげんよう

「マリア」

 

『『紅薔薇の(ロサ・キネンシス・)つぼみ(アン・ブウトン)逆指名事件』がひと段落して、一週間後の月曜日。

 

 瞳子は、マリア像の手前で立ち止まっている妹を見つけて声をかけた。

 

「瞳子さま、ごきげんよう」

「ごきげんよう。何を立ち止まっているの?」

 

 瞳子が尋ねると、マリアはちらとマリア像の先を見つめる。

 マリア様のお庭では、今日もロザリオの授与を行っている一組の生徒。

 

 

「邪魔をしては悪いかなと思いまして」

「そうね。大切な瞬間だものね」

 

 瞳子はなるほどと頷きながら、妹の胸元に手を伸ばす。そこにはほとんど乱れていないタイがあって、瞳子はそのタイを優しく撫でて直した。

 

「瞳子さま、ありがとうございます」

 

 二人は、にっこりと笑って頷き合った。

 

「さぁ、行きましょう」

 

 ロザリオの授与が終わるの見届けた瞳子とマリアは、薔薇の館に向おうとした。

 

「あ、祐巳さま」

 

 すると、マリアが歩いてきた並木道を見て呟いた。

 

「お姉さま?」

 

 瞳子も視線を向けると、確かにお姉さまの姿が。

 そして、その隣にはもう一人別の女性。

 

「でも、隣にいらっしゃるのは誰でしょう? 私服ということはリリアン女子大?」

 

 白のブラウスにジーンズ姿のラフな格好をしているのは、瞳子も良く知る大切な人だった。

 

「小笠原祥子さま。お姉さまのお姉さまよ」

「祐巳さまのお姉さまですか?」

 

 マリアが、急に緊張したように姿勢を正す。

 瞳子は、これはいい機会だと少しだけ意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「マリア、せっかくだから祥子さまに挨拶に行きましょう」

「ええっ、心の準備が」

「なにを言っているの? 先代の紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)なんだから、『紅薔薇の(ロサ・キネンシス・)つぼみ(アン・ブウトン)の妹であるあなたが挨拶をするのは当然でしょう?」

「そうですけれど」

「それにマリア、いずれ、あなたが紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)になるかもしれないのよ」

 

 瞳子は、そう言ってマリアを真っ直ぐに見つめた。

 

「もちろん、私は次期紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)になるわよ。そうなれば、次はあなたの番かもしれない」

 

 無理強いをするつもりはない。

 紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)になりなさいと言う気もない。

 

 それでも、私たちはそうやって絆と伝統を繋いできた。

 これまでも。

 そして、これからも。

 

 マリアは、瞳子の思いを受け取ったように――

「はい」と小さく頷いた。

 

 二人はゆっくりと歩きだす。

 

「ごきげんよう」

「ごきげんよう。『紅薔薇の(ロサ・キネンシス・)つぼみ(アン・ブウトン)

 

 たくさんの生徒たちが、瞳子とマリアに「ごきげんよう」と声をかける。

 絆を繋いでいくように。

 

 隣には、大切な妹がいる。

 目の前には、お姉さまと祥子さま。

 薔薇の館には大切な仲間たち。教室にはたくさんの学友。

 そして――

 

 

 遠くの方でも「ごきげんよう」が聞こえてくる。

 

 瞳子は、マリア様のお庭に咲き誇る「ごきげんよう」の挨拶に背筋を伸ばした。スカートのプリーツは乱さないように、白のセーラーカラーは翻らせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。

 

「瞳子さま、今日も素敵な朝ですね」

 

 瞳子の気持ちを感じ取ったようなマリアがそう言って微笑む。

 瞳子は「やれやれ」と首を横に振って、これまで引っかかっていたことを口にしておくことにした。

 

 なんと言っても、これから祥子さまの前に立つのだから。

 

「マリア、今後、私は『瞳子さま』って呼ばれても返事しないわよ。いい加減――お姉さまと呼びなさい」

「えっ」

 

 瞳子は、そのままツンと澄まして歩きだす。

「――えさま」

「聞こえなーい」

「お姉さまっ」

 

 そう呼ばれて、瞳子は満面の笑みを浮かべて振り返った。

 

「よろしい」

「あっ、瞳子。それにマリアちゃん」

 

 そんな姉妹水入らずのやり取りをしていると、祐巳さまが瞳子を見つけて声をかける。

 

「お姉さま、ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 

 また、「ごきげんよう」が咲き誇る。

 マリア様の心のように澄んだ青空の下で。

 

 そんな何気ない子羊たちの日常を、マリア様が微笑んで見守っている。マリア様の胸の中には、きっとサファイアのように美しい赤い薔薇の花かんむり。

 

 それは、大きな大きな輪を描く素敵なロザリオ。

 これからも続いていく絆の道。

 

 

「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 

 

 了

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