マリア様がみてる Another ~シスター&シスター~   作:夏緒七瀬

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6 ひとりぼっちとマリア様

 瞳子さまに背を向けて、逃げるようにその場を去ったマリアは、ぐちゃぐちゃにこんがらがった頭のままで、とにかく一目散に駆けた。

 

 瞳子さまに、なんて失礼なことをしてしまったんだろう? 

 

 だけどそれ以上に、瞳子さまに話しかけられているところをクラスメイトに目撃されてしまった。明日、何て声をかけられるか分らない。また、姉妹(スール)の申し出を断ったことを責めたてられるだろうか?

 

 マリアは混乱していた。

 その混乱を振り切るようにマリアは走り続けた。

 

 先ほどまで調べものをしていた図書館の脇を通り抜けた後、ようやく立ち止まって肩で息をした。乱れた呼吸を整えることもせず、その場に立ち尽くして空を仰ぎ見る。そこには、どんよりとした曇り空がそこにはあり、マリアは憂鬱な気持ちに押しつぶされてしまいそうだった。

 

 リリアン女学園に姉妹(スール)という制度があると知ったのは、入学式の後――

 一年桃組になったばかりのクラスメイトたちと、他愛もない会話をしている時だった。

 

 その時の会話のメンバーには、今朝マリアに心無い言葉を浴びせかけた蘭さん、美南さん、杏さんも一緒だった。

 誰かが「みなさん、もうお姉さまになって下さる方はいて?」と、尋ねたのが切っ掛け。

 

「お姉さまって、何?」

 

 姉という単語に敏感に反応してしまい、マリアが首を傾げて尋ねると――優しく微笑んでその意味を教えてくれたのは、蘭さんだった。そして姉妹(スール)のことを知ったマリアは、それに憧れると同時に――それは自分に縁のないものだと決めつけてしまった。

 

 自分は、お姉さまを持つことないだろうと。

 

 だからクラブ活動を見学に行った際、手芸部の上級生から――良かったら、自分の妹にならないかと姉妹(スール)の申し出をされた時には、マリアは驚きのあまり即座に断りを入れて逃げ出してしまったほどだった。

 

「ごっ、ごめんなさい。私、その申し出は受けられません。ごめんなさい」

 

 短い時間だったけれど、マリアに優しくせっしてくれた素敵な上級生だった。

 素晴らしいお姉さまになることは間違いないだろうと、マリアには思えた。

 

 それ以来、手芸部には顔を出していない。

 そして、クラブ活動に入ることも止めてしまった。

 

 しかし、それからもことあるごとに上級生から――自分の妹にならないかという申し出は続き、その度にマリアは胸が張り裂けそうな気持で、その申し出を断り続けた。気が付けば、自分はクラスメイトから好奇の目を向けられ、噂話の対象にされていた。

 

 それも当然のことだと、マリアは納得していた。

 何も理由も言わずにせっかくの申し出をただ断り続けるなんて、どうかしている。

 

 初めは「お高くとまっている」「上級生の先輩方を馬鹿にしている」「リリアン女学園への冒涜だ」などと、お決まりとも思える誹謗中傷がマリアに浴びせかけられたが――しだいに、こう嘲笑されるようになった。

 

「マリア様は全ての人に平等だから、マリアさんもきっと全ての生徒に分け隔てなくせっしているんだわ。だから、どの方とも姉妹(スール)にならないのよ」

 

 マリアの名前を皮肉り、まるで遠くから石を投げつけられるように、そんな言葉がマリアに向けて囁かれるようになった。

 

 ひとりぼっちのマリア様と。

 

「はぁ」

 

 ようやく少しだけ気持ちを落ち着けることができたマリアは、大きな溜息を落した。

 そして気が付くと、マリアの目の前にはマリア様がいた。

 

「あーあ。どうして、こんなことになっちゃったんだろう?」

 

 マリアはそう呟きながら、マリア様に手を合わせてお祈りをした。

 いったい何を願い、何を祈ればいいのかも分らず、ただただ何かに縋り付くような気持で――

 


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