竜斗「どうも、主人公の内の一人の木柴竜斗です。それにしても、何でこの作品を投稿しようと思ったんだ?」
政実「そうだね……強いて言えば、ファンタジー要素のある作品は何作か書いているけど、こういうRPGみたいな感じの作品はまだ書いた事が無かったから、興味もあったし書いてみたくなったからかな」
竜斗「なるほどな。さて……それじゃあ前書きはここまでにして、そろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・竜斗「それでは、第1話をどうぞ」
第1話 平和な日常と魔導書との出会い
「ふう……とりあえずこんなもん……かな?」
ギラギラと照りつける日差しの下、俺は町の中にある果樹園の中で足元に置かれた果物でいっぱいになっている木箱を見ながら小さく独り言ちた。木箱の中には、採れたての真っ赤なリンゴがたっぷりと入っており、その表面の皮が陽の光を反射して瑞々しい様子を見せた瞬間、俺の腹の虫が大きな鳴き声を上げた。
う……腹の虫がこれを食いたいと必死に訴え掛けてくる……。
「……いかんいかん。これは仕事なんだ、早く終わらせて完了の報告をしないと……!」
腹の虫の鳴き声を必死に無視し、足下の木箱を両手で持ち上げた後、俺は町の青果店の倉庫へ向かってえっちらおっちらと運び始めた。そして、その倉庫へと差し掛かった時、倉庫の前に誰かがいるのが見えたため、それを不思議に思いながらもそのまま近付いた。するとそこにいたのは──。
「……あっ、リュウト。やっぱりクレスさんのところのお手伝いがあったんだね」
倉庫の前にいたオレンジ色の短髪の少女──アイ・リヴィアは、不思議そうにクルリと振り返った後、俺の姿を見た瞬間、クスッと笑いながら声を掛けてきた。そしてそのままトトトッと近付いてくると、俺が持っている木箱の中身に目をキラキラと輝かせた。
「わぁ……! これ、今採れたリンゴ? スゴく美味しそうだね!」
「そうだな。だが、お前がいくらこの町の町長の娘だといっても、盗み食いだけはするなよ?」
「もう、リュウトったら……私がそんな事をするわけ無いでしょ?」
「……いや、それは分からないぞ? このリンゴの瑞々しさにお前がフラーッと惹かれる可能性は高いからな。現にこの前だって、似たような事があったばかりだろ?」
「う……そ、それは……」
これ以上の追求を避けるかのように視線を横へ逸らしながら言うアイに対して呆れ気味に息をついた後、そのままその横をスーッとすり抜けて小屋の中へと入った。そして、木箱を同じようにリンゴが入った木箱の上に置いた後、首に掛けていたタオルで汗を拭きながら後ろを振り向くと、俺に続いて入ってきたらしいアイがクスクスと笑いながら話し掛けてきた。
「ほんと……リュウトは働き者だし正直者だよね。この後だって、まだクレスさんのお手伝いがあるんでしょ?」
「まあな。その後、軽く昼飯を食って、午後からお前の親父さん、町長の手伝いをして、その後に門番コンビとの見張りの交代があって、それから──」
「も、もう大丈夫……! というか……よくよく考えてみたら、休む暇が全然無いじゃない!?」
「ん……まあな。だけど、この町の人達のためだし、これくらいへっちゃらだよ」
「いやいや、全然へっちゃらじゃないから! この暑さなのに休まなかったら、途中で倒れちゃうよ!? 」
「へーきへーき。昼飯を食いに行く時、飯屋のおっちゃんから午後の分の水分摂取用ドリンクを受け取る約束をしてるから、大して問題は無いって」
軽く笑いながら言う事で平気だという事を示したが、アイは怪しむようにジトッとした視線を向けてきた。
「……それ、量はどのくらい?」
「えーと……水筒一本分だな」
因みにその水筒というのは、東の方にあるという昔の日本みたいな国である『ヤマト国』で採れる竹で作られただいたい500mlくらいの水などが入る細長い物だ。最初の頃は中々その量を
「え!? そんな量で保つわけないでしょ!?」
「いや、昨日は普通に保ったぜ? まあ、水筒を返しに行った時、ルドアさん達にはそこそこ驚かれたけどさ」
「驚かれて当然よ! それで保たせられる人なんて殆どいないもの!」
「ふーん……そっか。まあ、ここにお世話になっている間は、このやり方を変える気は無いぜ? 記憶を失っていた俺の事を迎え入れてくれたこの街の人達には、まだまだ返すべき恩は残ってるからな」
「リュウト……」
「それに……お前にだって返すべき恩は色々とあるし、何かあったら遠慮無く言えよ? 知力は……まあ、そこそこだけど、体力には自信があるからさ」
アイの心配そうな顔へ向けてニカッと笑いながら言った後、俺はこの町に初めて来た日の事を思い出した。二ヶ月ほど前、俺はこの町から少し離れたところに一人で倒れており、偶然そこを通り掛かったこの『トスタ』の町長でありアイの親父さんであるリオ・リヴィアさんに助けられたのだが、前述の通り俺は記憶喪失という物になっていた。そのため、名前や出身地などの自分に関する記憶がごっそりと抜け落ちていたのだが、近くに落ちていた鞄の中にあったノートに『
因みに、何故こんな結論に落ち着いたかというと、実はこの世界には、古の魔導師が空間を超える魔法を用いて異世界から持ち帰ったとされる物や技術が数多く存在し、異世界へと繋がる『時空の穴』という物が至る所に存在するため、俺もその穴に偶然入り込んだ可能性があったからだ。そして、そういった事情もあるため、この世界では異世界という概念は広く知られているし、異世界の文化も件の『時空の穴』からたまに入ってくるのだという。尚、そういった背景もあってか、遠くの国では科学技術や生物学などもかなり進んでいるらしく、魔導と科学を組み合わせた『
そして、異世界から来たという結論に落ち着いたものの、結局行くあても無かったため、リオさんの申し出をありがたく受け、リオさんに連れられて『トスタ』の町を訪れた。その後、住人達と引き合わされたのだが、リオさんが俺が異世界から来たかもしれないと語った瞬間、住人達から
因みに、すぐにでも元の世界に戻りたいかというと実はそうでもない。まだこの町の皆には返しきれていない恩もあるし、帰りたいという気持ちよりもこの世界にあると言われている様々な物を見たいという気持ちの方が強いからだ。
まあ……『時空の穴』は、件の古の魔導師クラスじゃないとまず見つけられないし、どこに繋がっているかを判別する事も出来ないらしいから、もう少し気楽に考えても問題は無いもんな。
そんな事を考えつつ倉庫の中の野菜や果物の整理をしていた時、アイがふと何かを思い出したような声を上げた。
「あ、そういえば……記憶はどう? 少しは戻った?」
「いや、全くだな」
「そっか……ねえ、リュウト? 自分の事とか家族の事とかの記憶が無いのってやっぱり辛い?」
「うーん……正直な事を言うと、そんなに辛くは無いかな?」
「え、どうして……?」
「元の世界にいる状態で記憶が無いなら、まだ家族の辛そうな顔を見て罪悪感を覚えるんだろうけど、こうして異世界にいる状態で記憶喪失になったところで、そういう感情は全然無いからな。それに、俺にとってリオさんにアイ、そしてこの町の皆が第二の家族みたいなもんだから、辛さとか寂しさとかは一切無いんだよ」
「……そっか。そう言ってもらえるのは、やっぱり嬉しい……かな」
少し照れたようなアイの声を聞き、俺自身も今言った言葉に少し気恥ずかしさを覚えていたその時、倉庫の入り口の方から静かで落ち着いた声が聞こえてきた。
「……お疲れ様だな、リュウト」
「あ、クレスさん。お疲れ様です」
しっかりと振り向いた後、そこにいたこの青果店──『ルナライト』の店主、『
現在、この世界には俺やアイのような『
それこそ物語みたいに勇者の血を引く
そんな自虐的な事を思いながら苦笑を浮かべていた時、クレスさんの視線がアイへと向くと、クレスさんは「ほう」と少し驚いたような声を上げてからアイに話し掛けた。
「リュウトだけではなく、アイもここにいたのか」
「はい。リュウトがクレスさんのお手伝いをしてるって聞いたので、ちょっと様子を見に来たんです」
「ははっ、それなら幾らでもリュウトの働きぶりを見ていくと良い。お前の未来の夫は、とても働き者で我らも助かっているからな」
「え……ちょっ、クレスさん、突然何を言ってるんですか!?」
「はははっ、そう照れるな」
「べ、別に照れてるわけじゃ……!」
そうは言うものの、アイの顔はさっき収穫したリンゴのように真っ赤であり、必死になって大声を上げているため、誰がどう見ても照れているのは明らかだった。そして、そんな状態で俺の事をチラリと見てきたため、俺はふうと一度息をついてから、クレスさんに話し掛けた。
「クレスさん、アイをからかうのもそろそろ止めてやってくれませんか? 下手すると、この倉庫を
「はは、そうだな。商売人として、この倉庫を壊されてはたまった物では無いからな」
「全くですよ……」
クレスさんの軽い調子に対して溜息交じりに答えた後、今度は顔を真っ赤にしているアイの肩をポンポンと軽く叩きながら声を掛けた。
「アイ、冗談とかじゃなく、本当に倉庫を壊しそうだからそろそろ落ち着いてくれ」
「……う、うん……ありがとう、リュウト」
「どういたしまして」
アイが何とか落ち着いてくれた事に対して安心しながら答えた後、俺は再びクレスさんの方へと顔を向けた。
「クレスさん、それじゃあそろそろ次のを運んできますね」
「ああ、頼む。今日は思ったよりも収穫出来る数が多くて大変だと思うが、リュウトの体力と力なら問題ないだろうからな」
「ええ、俺にドーンと任せて下さい!」
自分の胸をドンッと叩きながらニカッと笑って答えた後、次の分を収穫するためにさっきまでいたクレスさんの果樹園へ向けて小屋から走り出た。
その日の午後、俺は町長であるリオさんの手伝いをするため、俺が居候させてもらっているリオさんとアイの家の中にある書庫にいた。俺とリオさんの目の前には、この『トスタ』の町に最近起きた事について纏められた書類や町民達から寄せられた意見書、他にも町の歴史書や町の施設整備についての計画書など様々な物が置かれていた。
……今日も中々数は多いけど、これも皆のためだし精一杯頑張っていこう!
目の前の書類を見ながら強く決心した後、俺は先に作業をしているリオさんの後に続いて作業を始めた。どうやら記憶を失う前の俺は、こういう作業には向いていなかったらしく、最初の頃は目の前に並ぶ文字を見ているだけで頭が痛くなったが、慣れてしまった今となっては頭痛が起きるどころかこの作業を楽しんで行えるようになっていた。そしてそれの影響で趣味の中に読書が増え、文字を書く時のカリカリという音や資料を
アイや町の子供達と一緒に外で遊ぶのも良いけど、やっぱり今みたいに静かに過ごすのも良いもんだよな……。
そんな事を考えながら目の前の作業を黙々とこなしていた時、リオさんが作業の手を止めずに静かに口を開いた。
「リュウト君、そっちの棚から資料を取ってもらえるかな?」
「あ、はい。えーと……それについての資料というと──あ、これだ」
リオさんの目の前にある書類をチラリと見た後、椅子から立ち上がってから後ろにある棚からそれについての資料を取り出し、そのままリオさんへと渡した。
「リオさん、どうぞ」
「ああ、ありがとう、リュウト君」
「いえいえ」
そして、リオさんの言葉に答えながら椅子に座り、再び目の前の書類に取り掛かろうとしたその時、リオさんが作業の手を止めずに静かに口を開いた。
「リュウト君、ちょっと良いかな?」
「あ、はい。何でしょうか?」
「この前から武術や魔法の修行を始めたようだが、調子の方はどうかな?」
「はい、どっちも順調です。ただ……理論自体は分かるんですけど、俺に魔力が無いからなのか全く魔法や魔導が発動しないのがちょっと残念なくらいですかね……」
「そうか。まあ、まだ魔力が目覚めていないだけの可能性もあるから、焦る事は無いと思うよ」
「そうなんですか?」
「ああ。私達『人間族』にはよくある事だし、私も子供の頃はそうだったよ。確かに生まれつき魔力を持たない者もいるが、君からは魔力の気配を僅かに感じるから、何かきっかけがあればすぐにでも魔力は目覚めるだろう。だから、そのまま焦らずに修行も続けて良いと思うよ」
「……分かりました。それと……ありがとうございます、わざわざ気に掛けて頂いて」
「いや、礼には及ばないよ。君にはいつも仕事を手伝ってもらっているし、アイが世話になっているからね。それに──」
そこで一度作業の手をピタリと止めると、顔を上げながらリオさんはニコリと笑った。
「出会ってからまだ二ヶ月の君にこう言うのは変かもしれないが、君の事はもう息子も同然だと思っている。だからこそ、色々と気に掛かるし、もし困っているならその手助けをしたくなるんだ」
「リオさん……俺もリオさんとアイ、そしてこの町の皆の事を第二の家族みたいなものだと思っています。確かにリオさんの言う通り、俺は皆と出会ってからまだ二ヶ月しか経っていませんけど、皆と一緒に何かをして笑ったり協力し合ったりした事は、俺にとってとても大切な思い出として息づいています。もし……俺が元の世界に戻ったとしても、絶対に忘れられない思い出として」
「……そうか。そう言ってもらえると、町長として
「俺もこの世界に来て初めて会えたのがリオさんで、そしてこの町に来れて本当に良かったと思っています。リオさん、これからも色々と迷惑を掛けると思いますけど、今後ともよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく、リュウト君」
そして俺達は同時に手を伸ばし、そのまま固く握手を交わした後、ニコリと笑い合った。その瞬間、リオさんの手の体温という『身体的な温かさ』と優しさなどの『精神的な温かさ』の二つが伝わってきたような気がし、それらによって俺の心がポカポカとし始める同時に、町の皆のためになろうというやる気が静かに高まってきた。
俺はまだまだ皆から貰った分の恩を返せていない。だからこそ、これからも精一杯皆のためになるように頑張っていかないといけないな。
どちらともなく手を離した後、俺の中で静かに燃え上がるやる気と決意の炎を感じながら拳を軽く握っていると、リオさんはやる気に満ちた表情を浮かべながら静かに口を開いた。
「さて……それでは残っている作業も頑張って終わらせてしまおうか」
「はい」
小さく頷きながら答えた後、書庫内の静かな雰囲気と文字を書く音と資料などを捲る音、そして時計の音の三重奏の中で再び目の前の作業へと取り掛かった。
約二時間後、目の前の書類を書き終えた瞬間、リオさんが満足そうに声を上げた。
「……よし、今日はここまでにしておこう。リュウト君、本当にありがとう」
「いえ、これも俺が自ら望んでしている事なので」
「……そうか。ところで、この後は確か
「はい。ムサシさん達とは昨日から約束をしていたので、これから門番の仕事の交代をしに行きます」
「分かった。だが、今日はいつもより暑いみたいだから、無理をしない程度に頑張ってきてくれ」
「はい。ありがとうございます、リオさん」
「ふふ……どういたしまして。さてと……後片付けは私が後でやっておくから、まずは一緒に外まで行こうか」
「はい!」
俺は昼食時に町の中にある定食屋の店主──『
「うっ……やっぱり眩しいな……」
「はは、そうだろうな。さて……それでは気をつけて行ってきてくれ」
「はい。それでは──」
行ってきます、と言おうとしたその時、家の中から急いで走ってくる足音が聞こえ、俺達は同時にそちらへ顔を向けた。そしてその足音の主の姿が見えた瞬間、同時に溜息をついていると、足音の主──アイは目の前でピタリと止まり、息を切らしながら話し掛けてきた。
「はぁっ、はぁっ……リュウト、これから門番の仕事の交替に行くんだよね……?」
「そうだけど……お前も来るのか?」
「うん……もし、リュウトが良ければだけど……」
「俺は別に良いけど、たぶん門番の仕事は、お前にとってそんなに面白く無いと思うぞ?」
「ううん……私は大丈夫。だからお願い!」
「うーん……そうだなぁ……」
アイが良いなら別に連れて行っても良いけど、門番の仕事はあくまでも外から来る人や外に出掛ける住人達の応対をするくらいだし、最悪何も起こらずに終わるから、アイにとって面白いとは思えないんだよなぁ……。
そんな事を考えながらどうしたものか決めかねていたその時、リオさんが半ば諦め気味に「……仕方ない」と言った後、真剣な表情を浮かべながら声を掛けてきた。
「リュウト君、アイの事を連れていってやってくれないかな?」
「え、でも……良いんですか?」
「ああ。こうなった時のアイは、自分から引こうとはしないからね。それに門番の仕事は、これから町を治める者として良い勉強になるかもしれないからね」
「そう言われれば……確かにそうですね。門番の仕事は外から来る人と出会う機会になりますから、自分の見識を広げる事にも繋がりますね」
「その通りだ。そしてこの仕事の最中は、一人でいるよりも話し相手がいた方がやりやすいと思う。いつも門番を頼んでいるムサシとクズノハも二人一組で行っているが、話し相手がいた方が張り合いがあると言っていたから、これは間違いない」
「確かにムサシさん達が言うなら間違いないですね」
リオさんの言葉に頷きつつ答えながら門番であるムサシさん達の事を思い浮かべた。門番のムサシ・イスルギさんはヤマト国出身の『人間族』の男性で、クズノハ・ヤナギさんはムサシさんの知り合いの妖狐なのだが、ムサシさんが武者修行をするためにヤマト国から出る時に『面白そう』という理由だけでクズノハさんも一緒についてきたのだという。そして俺が来る少し前にこの『トスタ』の町へと辿り着いた時、様々な種族がこよなく暮らす町の様子に興味を持ち、この町にしばらく住む事を決め、今では二人一組の門番として働いてもらっている。尚、ムサシさんには俺の剣術──主に刀の師匠をしてもらい、クズノハさんには妖術や相手の裏をかく方法などを教えてもらっている。もっとも、俺には妖力は無いので妖術に関しては形や仕組みだけ教えてもらっている。
それに、アイが一緒にいる時に何かあったら、俺が何とかしてる間に誰かを呼んできてもらえるわけだし、そういう意味では誰かが一緒にいるのは助かるかもしれないな。
アイが一緒にいてくれるメリットについて考えた後、俺はチラリとアイの事を見てからリオさんに返事をした。
「分かりました。そういう事でしたら、喜んでお引き受けします」
「うん、ありがとう、リュウト君」
リオさんがニコリと微笑みながら答えると、アイはとてもホッとしたように大きく息をついてから、満面の笑みを浮かべながら話し掛けてきた。
「リュウト、本当にありがとう!」
「どういたしまして。けど、ついてくる以上は何かあったら手伝ってもらうぞ?」
「うん、任せて! 私だってお父さんや町の人達から色々な魔法は教わってるし、ちょっとだけなら剣だって扱えるからね!」
「あはは、それは頼もしいな。まあ、そういう手伝いが必要にならないのが一番だし、頼む事になるのは行商とか他の国や町から来た人について訊いてきてもらう事だと思うけどな」
「もちろん、そういう時も任せてよ。精一杯リュウトの助けになってみせるからね」
「ああ、任せた。さて……それじゃあそろそろ行きますか」
「うん!」
そしてアイが俺の隣に立った後、俺達は同時にリオさんへ向かって声を掛けた。
「「それじゃあ、行ってきます」」
「ああ、行ってらっしゃい。二人とも、心配はいらないと思うが、気をつけて行ってきてくれ」
「はい」
「はーい!」
その返事にリオさんが満足そうな様子で頷いた後、俺達は他愛ない話をしながら町の入り口へ向かって歩き始めた。そして数分後、俺達が町の入り口にある門番所に着くと、突然近くから「ほう」と言う声が聞こえ、それと同時にアイの隣に一人の女性が現れた。
「小僧だけかと思えば、アイまで来るとは相変わらず仲が良いのぅ……ここまで仲が良いとなると、これはいよいよお前達の祝言を挙げる手筈を整えなくてはならぬかの?」
「ひゃあっ!? ク、クズノハさん! もう……いきなり現れないで下さいよぉ……!」
「ほっほっほっ……悪い悪い。そこまで驚くとは思わなくての」
キツネ耳の赤い和服姿の長い黒髪の女性──クズノハさんは口元を袖で隠しながら上品に笑うと、そのままの格好で俺に話し掛けてきた。
「それにしても……リュウト、お主はまったく驚いておらぬようじゃのぅ?」
「ええ、まあ。これまで幾度となくその方法で驚かされてきましたから、耐性が付いてるんです」
「むぅ……つまらぬのぅ。ならば、新たな手段でも──」
「それも止めて下さい」
「はあ……しょうがない。まあ、可愛い弟子からのせっかくの頼みじゃし、ここは止めておいてやるかのぅ……」
クズノハさんがやれやれといった様子でそう言っていると、門番所の方から呆れたような声が聞こえてきた。
「クズノハ……また
「おや、ムサシ。寝ておったように見えたが、起こしてしまったかのぅ?」
「寝てはおらん。目を閉じながら少々周囲の気を探っていただけだ」
少し長い黒い髪を麻紐で一本に結った青い和服の男性──ムサシさんは、凛とした声で答えながら俺達へ向かって歩いてくると、俺の目の前でピタリと足を止め、とても真剣な表情を浮かべながら静かに口を開いた。
「リュウト、此度の私の頼みを聞いてもらった旨、心から感謝する」
「いえいえ。俺もこういった仕事は一度やっておいた方が良いと思っていたので、お気になさらないで下さい」
「……では、その言葉に甘えさせてもらうとしよう。さて……早速だがリュウトよ、門番としての職務について、予め幾つか言っておく事がある」
「あ、はい」
「まずは一つ目、職務中に行商人または他の国や町から来た旅人の応対についてだが、これはこの町に入る理由があるか否かで変わってくる。もし、この町に入る理由が無く、ただ通り掛かっただけならそのまま何をする必要も無い。だが、町に入る理由がある場合は、一人がその者の応対をする間にもう一人が町長殿のところへと向かい指示を仰げ。この町にはそうそう来ないとは思うが、善良な者を装った悪人が悪事を働こうとする可能性もあるからな」
「分かりました」
「続いて二つ目、これもそうそうないとは思うが、魔物が入り込もうとしてきた場合だ」
その瞬間、俺とアイに緊張が走ったが、「落ち着け」というクズノハさんの言葉で少しだけ肩の力が抜けた後、ムサシさんは落ち着いた様子で再び話し始めた。
「この場合は、相手が何かを見定めてから行動に移してくれ。低級な魔物であればお前達でも対処は容易だが、昨今は魔王軍とやらが各地にいると聞くからな、もしこれは己の手に負えぬと判断する事があれば、迷わず近くの者に助けを求めろ。良いな?」
「「はい」」
「そして三つ目、これは一つ目と似ているが、もし職務中に行商人と出会った時に何かを売ろうとしてきたら、それを買おうとするのは問題ない。出会いは一期一会、どのような物と巡り会い、そしてそれがお前達の力となってくれるかもしれないからな」
すると、クズノハさんが「ほう?」と少し不思議そうに声を上げた後、小首を傾げながらムサシさんに話し掛けた。
「生真面目で石頭のお主にしては、中々珍しい物言いでは無いか」
「……先程も言ったが、出会いというのは一期一会であり、何がリュウト達の助けになるかは神のみぞ知るといったところだ。であれば、その出会いの機会を初めから奪ってしまうわけにもいかないだろう?」
「ふむ……確かに一理あるのぅ。加えて此奴らは、どのような形になれど、この町の未来を背負って立つ事になる者達じゃしな。その出会いがいつか此奴らの大きな助けにならんとも限らんからのぅ」
「その通りだ」
ムサシさんはコクンと頷きながら静かに答えた後、再び俺達の方へと顔を向けた。
「よって、その辺については問題は無いが、自分にとって必要な物はしっかりと見定めるのだぞ」
「「はい」」
俺達が声を揃えて返事をすると、ムサシさんは満足そうに頷いた後、クズノハさんの方へと顔を向け、真剣な表情を浮かべながらクズノハさんに話し掛けた。
「……では、行くぞ。あまり遅くなるわけにもいかぬからな」
「これこれ……そんなに急がすでないぞ、ムサシ。あまり急がすと腹のややこに障るからの」
「……涼しい顔で嘘をつくな。俺はもちろんの事、お前と契りを交わす相手などおらんだろう……」
「……やれやれ、せっかくの冗談なのだから、少しはノってくれても良いと思うがの……」
「……お主は昔から冗談ばかり言っていると思うが?」
「さて、どうかのぅ? 中には冗談では無く、真も隠れておったかもしれんぞ?」
クズノハさんは愉快そうにクスクスと笑う中、ムサシさんは腕を組みながら呆れたような表情を浮かべた後、少し疲れた様子で俺達に話し掛けてきた。
「……とりあえず、二人とも頼んだぞ」
「「はい」」
俺達が同時に返事をすると、ムサシさんはクズノハさんと話をしながら一緒に町の方へ向かって歩いていった。
何だかんだ言ってもあの二人は仲も良いし、夫婦になってもおかしくは無さそうだよな。もっとも本当にそうなったら、自由奔放なクズノハさんにムサシさんがもっと振り回されそうだけど。
そんな事を考えながらクスリと笑っていたその時──。
「……あの、少々お時間よろしいですか?」
背後から突然声を掛けられ、俺達はビクッとしながら振り向いた。するとそこにいたのは、優しい笑顔を浮かべながら俺達の事を見ている眼鏡を掛けた黒髪の男性と二頭立ての荷馬車だった。男性はとても柔らかな雰囲気を醸し出しており、その笑みは見ている人全員を安心させるような物だった。
……え、というかこの人は、いつからそこにいたんだ……?
そんな疑問がふと浮かんだものの、男性からの問い掛けに答えないわけにもいかなかったため、まずは男性からの問い掛けに答える事にした。
「はい、大丈夫ですけど……えっと、貴方は……?」
「私はジーン・アシュレイ。ただのしがない行商人ですよ」
「行商人……という事は、この町でご商売を……?」
「あ、いえ。実は王都の方に知り合いがおりまして、その知り合いから少々来て欲しいという手紙をもらったので、向かっている最中なんです」
「そうだったんですね」
ジーンさんの答えに俺は静かに納得した。ジーンさんが言う王都というのは、『トスタ』の町などが属する王国──『クラッド王国』の王宮がある街──『王都クラッド』の事で、そこはこの『トスタ』と同じように様々な種族が暮らしており、とても活気に溢れた街なのだという。
話を聞く限りとても楽しそうな場所だし、一度は行ってみたい所だな……。
そんな事を思っていると、荷馬車を珍しそうに見ていたアイが突然不思議そうな表情を浮かべた。
「あれ……でも、さっき馬車の音なんてしたっけ……?」
「おや……鋭いですね。えーと……」
「あ、私の名前はアイ・リヴィアと言います」
「そして俺は、リュウト・キシバと言います。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。実は私、魔石や魔導書といった物を専門で取り扱っている行商人でして、さっきも魔石の力を使ってここへと移動したんです。因みに『王都クラッド』まで行かなかったのは、知り合いとの約束まで少し時間がありそうだったので、ちょっとだけ馬車に揺られていこうと思ったからですね」
「あ、なるほど……」
確かに『王都クラッド』に繋がる転移の魔石があれば一発で行けるけど、荷馬車に揺られていく旅っていうのも何だか憧れるよな……。
ジーンさんの話からそんな事を考えていた時、「あ、そうだ」と突然言ったかと思うと、ジーンさんは荷馬車の中へと入っていった。そして程なくして荷馬車の中から出てくると、その手には一冊の本と青い石が嵌まった銀色のブレスレット、そして紫色の石が嵌まったペンダントが握られており、再び俺達の目の前まで歩いてくると、本とブレスレットを俺へと、そしてペンダントをアイへと差しだした。
「お近づきの印にこちらをどうぞ」
「え、でも……これって売り物じゃないんですか?」
「いえ、これらは違います。実はこの魔導書達は仕事の都合でとある塔を探索した際に見つけた物なので、遠慮無く受け取って頂いて大丈夫ですよ。それに……あなた方ならこれらを使いこなしてくれそうな気がしましたので」
「……分かりました」
「それじゃあ、ありがたく頂きますね」
「ええ、どうぞ」
ニコリと微笑むジーンさんからアイがペンダントを受け取った後、俺が魔導書とブレスレットを受け取った瞬間、初めて触ったはずの魔導書が何故か手にスゴく手に馴染み、まるで前から持っていたかのような錯覚に陥ったと同時に、ブレスレットに嵌まっている青い石がキラリと輝いたような気がした。
こういう感覚を覚える時って大抵はそれに『選ばれた』事になるんだろうけど、俺の場合はたぶん偶然……だよな?
手の中の魔導書とブレスレットを見ながらそんな事を考えていた時、ジーンさんが俺達の様子を見てクスリと笑った。
「さて、それではそちらの品々の説明をさせて頂きますね。まず魔導書の方ですが、そちらは近くに建っていた石碑の説明によると、古の召喚術士が使っていた物らしく、中には召喚術の術式や説明文のような物が書いてあるのですが、残念ながら私にはそれを扱う事は出来ませんでした。ですが、もしその魔導書を読み解く事が出来れば、並大抵の術者よりも強い力を手に入れられるはずです。次にブレスレットですが、そちらも古の召喚術士が使用していた物らしいのですが、何やら封印のような物がされているようです。そしてペンダントの方ですが、そちらはどうやらある魔術が付与されていまして、それというのが『大切な人を護ろうとする時に力を貸してくれる』という物のようです。因みにそちらのペンダントも古の召喚術士に縁がある物のようですよ」
「これって……そんなに貴重な物だったんですね……」
「ええ。ですが、私のように扱えない者が持つよりもあなた方のように扱える可能性が高い方々が持つ方が良いと思っていますし、こうした方が道具達も喜ぶと思いますから」
「ジーンさん……本当にありがとうございます。この魔導書は絶対に大事にします」
「私もちゃんと大事にしますね、ジーンさん!」
「ふふ……やはりあなた方にお渡しして正解だったようですね。使いこなすには少々骨が折れるかと思いますが、お二人ならば大丈夫だと思います。リュウトさん、アイさん、頑張って下さいね」
「「はい!」」
俺達が声を揃えて返事をすると、ジーンさんは優しい笑みを浮かべながら満足げに頷いた。そして荷馬車の方をチラリと見た後、ニコリと微笑みながら静かに口を開いた。
「それでは、そろそろ私は出発しますね」
「はい、分かりました。ジーンさん、お元気で」
「ジーンさん、お元気で!」
「はい、ありがとうございます。では……」
ジーンさんはとても丁寧に一礼をした後、荷馬車の御者台へと乗り、そのまま『王都クラッド』がある方へ向かって荷馬車を走らせていった。そしてその様子を静かに見送っていると、アイが口元を綻ばせながら話し掛けてきた。
「ジーンさん、スゴく親切な人だったね」
「そうだな。この世界中が魔王軍の脅威に怯える中でもあんなに良い人がいると思うと、何だか嬉しくなるな」
「ふふっ、そうだね。さてと……それじゃあそろそろ門番の仕事を始めよっか!」
「ああ」
アイの言葉に頷きながら返事をした後、俺達は当初の目的である門番の仕事を開始した。
それから約二時間後の夕方、戻ってきたムサシさん達と門番を交替した後、俺達は話をしながら歩いている人の姿も殆どない町の中を歩いていた。
「ん……それにしても、今日もいっぱい頑張ったら疲れたねー……」
「そうだ──って、アイがそんなに疲れる理由が全く分からないんだけど?」
「ふふっ、リュウトが気付いてないだけで私だってちゃんと疲れてるんだよ? と、いう事で──」
アイは俺の目の前まで出てくると、上目遣いで言葉を続けた。
「私の事を負ぶって帰ってくれるとスゴーく嬉しい……かな?」
「アイ、お前なぁ……」
「えへへ、じょうだ──」
「分かったよ」
「……え?」
不思議そうに首を傾げるアイをよそに、俺は魔導書が入ったリュックを体の前面へと移動させた後、アイに背中を向けながらゆっくりとしゃがみ込み、しっかりと背負う体勢を整えてからアイに声を掛けた。
「ほら、早く乗れ。さっさと帰るぞ」
「え、え……? 本当に良いの?」
「ああ、もちろんだ。それにいつも言ってるだろ? 俺は体力には自信があるって」
「そ、それはそうだけど……リュウト、本当に倒れちゃうよ……?」
「安心しろ、俺はそう簡単に倒れな──いや、倒れるわけにはいかないからさ。少なくともお前を無事に家へ帰すまではな」
ニッと笑いながらそう言うと、アイは頬を微かに赤く染めながら少し怒ったような声を上げた。
「もう……そういう事を平気で言えるのは本当にズルいよ……」
「ははっ、やっぱりちょっとキザな言い方だったか?」
「ちょっと、ね。でも……リュウトのそういう所、私は嫌いじゃないよ」
「……そっか」
「うん♪」
夕焼け空の下でニコッと笑うアイに対して俺が微笑み返していたその時、先の方からリオさんが歩いてきたのが見え、それに対して俺がスクッと立ち上がっていると、俺の視線に気付いたアイが何事かと後ろを振り向いた。そしてリオさんが歩いてきているのに気付くと、ぱあっと顔を輝かせながらリオさんに声を掛けた。
「お父さん、どうしたの? 散歩?」
「いや、二人を迎えに行こうと思ってね。リュウト君、アイ、二人とも門番の仕事はキッチリとこなせたかな?」
「はい、もちろんです。な、アイ」
「うん! あ、それとね……仕事を始める前に王都にいる友達に会いに行く途中だった行商人さんと会ったんだけど、その人から私はこのペンダントを貰って、リュウトは魔導書と右腕に嵌まってるブレスレットを貰ったんだ」
「ほう……それは珍しい」
「最初は遠慮したんですけど、行商人さん──お名前はジーンさんと言うんですが──は別に売り物では無いし、俺達なら使いこなせそうだと思ったから遠慮しないで受け取って欲しいとの事だったので、しっかり感謝の言葉を述べた上で受け取りました」
「なるほど……リュウト君、帰ったらその魔導書というのを見せてもらっても良いかな?」
「はい、もちろんです」
「ありがとう。よし……それでは家に帰るとしようか、二人とも」
「はい」
「うん!」
そして俺達は、夕暮れ空の下を話をしながら歩いていった。
その日の夜、リオさんとアイの家に作ってもらった自室で俺はベッドに寝転がりながらジーンさんから貰った魔導書のページをペラペラと捲っていた。
「……あらゆる魔法を跳ね返す銀色の鱗を持ち、太古より生き続ける竜、『グリッタードラゴン』に様々な傷病を治す力を持った角を持ち、『天使族』にのみ懐くとされる『ヘブンズユニコーン』か……。この魔導書、ジーンさんは古の召喚術士が使っていた物だって言ってたけど、その古の召喚術士は一体どんな人で、これを読む事が出来る俺は一体何者なのかな……」
魔導書をパタンと閉じながらポツリと呟いた後、俺は家に帰ってきてからの事を想起した。帰宅後、俺は約束通り、リオさんにこの魔導書を見せた。すると、この魔導書は伝承に出てくる古の召喚術士やその仲間である勇者などが生きていた頃に使われていた古代文字で書かれている事が分かり、リオさんとアイが読めない中で俺だけはこの魔導書を読む事が出来た。ただ、読めるというよりは文字を見た瞬間、頭の中に書いてある内容が浮かんできて、まるで頭の中に誰かがいてその人が何て書いてあるのかを教えてくれているような感じであり、そういう形でも何故俺が読む事が出来るのかは結局わからなかったため、翌日俺の師匠の一人である元王宮魔導師のアラン・サザーランドさんに相談をしに行く事にしていた。
これで全てがわかるとは思ってないけど、何かわかれば良いなぁ……。
そんな事を考えながらごろりと寝返りを打ったその時、不意に口から欠伸が出た。
「ふあ……さて、そろそろ寝るか。アランさんのところにも行くけど、明日だって皆の手伝いがあるからな」
魔導書をベッドの横のサイドテーブルの上に置いた後、俺は天井に吊られたランタンの火を消し、再びベッドに寝転んだ。そして、ゆっくりと目を閉じた瞬間、俺の意識は静かに落ちていった。
政実「第1話、いかがでしたでしょうか」
竜斗「魔導書の詳細がわかるのは次の話か」
政実「そうなるかな」
竜斗「了解。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
竜斗「そうだな」
政実・竜斗「それでは、また次回」