竜斗「どうも、木柴竜斗です。日本刀か……前回で日本に似た国の存在を明らかにしたわけだし、日本刀が武器の仲間もいずれ出てきそうだな」
政実「それは後々のお楽しみという事で」
竜斗「わかった。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・竜斗「それでは、第2話をどうぞ」
『……ーい』
『……んぅ……?』
暗い中で声が途切れ途切れに聞こえてくる中、俺はゆっくりと目を開けた。すると、何故か俺はさっきまでいた自室にはおらず、辺りが山や花畑などの自然で囲まれた秘境と呼ぶに相応しい場所に立っていた。
『……え? ここ、どこだ?』
そんな事を独り言ちながら周囲を見回していたその時、『あ、ようやく起きたね』という後ろから声が聞こえ、俺は背後を振り返った。すると、そこには白いローブ姿の同い年くらいの金髪の中性的な顔立ちの人物が立っていた。
『えっと……君は?』
『僕はリオン。君は……木柴竜斗君で間違いないよね?』
『そうだけど……どうして俺の名前を?』
『……それは今は話せないかな。けど、また会えた時には話してあげられるから、その時まで待っててよ』
『……わかった。それで、どうして俺はここに?』
『それなんだけどね……実は君に用があって僕が呼んだんだ』
『呼んだ?』
『そう』
リオンはクスリと笑いながら答えると、晴れ渡たった空へ視線を移した。
『竜斗、君は行商人から魔導書とブレスレットをもらったよね』
『ああ、もらったぜ?』
『あれらとの出会いで君の運命は大きく変わる事になる。あのままだと君は一人の町人に過ぎなかったけれど、あの魔導書とブレスレットがある事で、君はかつての勇者達のように大いなる力を手に入れるんだよ』
『勇者達のようにって……』
『嘘だと思うでしょ? でも、本当の事だよ。そして、その力の使い道は君次第……と言いたいところだけど、力の使い道は実は既に決まっている』
『既に決まっているって、じゃあ何に使えって言うんだ?』
『それは──』
その時、晴れ渡っていた空が徐々に曇り出すと、リオンは残念そうな顔をしながら小さく溜息をついた。
『……どうやら時間切れみたいだね。竜斗、この話は次に会えた時にしよう』
『次に会えた時にって……』
『まあ、会えそうな時は今回みたいに僕から呼ぶから大丈夫だよ』
『……わかった』
『うん。それじゃあ、またね』
その声を最後にリオンは姿を消した瞬間、俺の意識はスーッと落ちていった。
「……んぅ?」
瞼の裏に光を感じて静かに目を開けると、そこは昨夜眠りについた自室だった。
「……夢、だったのか。でも、夢にしては妙に現実味を帯びていたし……」
ベッドから体を起こしながらさっきの夢について色々考えてみたものの、いくら考えても何もわからなかったため、その内に俺は考える事を止めた。
「……とりあえず、この事もアランさんに相談してみよう。一人で考え続けるよりもずっと良いだろうし」
独り言ちながらコクンと頷いていると、部屋のドアがコンコンとノックされ、それに続いてアイの声が聞こえてきた。
『リュウトー、朝だよー』
「ああ、今行くよ」
ドア越しに聞こえるアイの声に答えた後、俺はベッドから体を出し、靴を履いてから部屋の外に出た。
「ふむ……この魔導書とブレスレットも不思議だけど、その夢の内容も中々不思議だね」
「やっぱりそうですよね」
昼過ぎ、俺は魔導書の件が気になるというアイを連れて『亜人族』の一つであるエルフのアランさんの家を訪れ、件の魔導書やブレスレット、そして今朝の夢の話をした。朝食の際にアイとリオさんにも夢の話はしたが、二人にも何故そんな夢を見たのかわからないとの事だったので、当初の予定通り、アランさんにも相談をする事にしたのだった。けれど、アランさんの表情を見る限り、アランさんでも何故そんな夢を見たのかがわかっていないみたいだった。
「夢の中で出会ったリオンは、俺は魔導書とブレスレットがある事で、かつての勇者達のような力を手に入れると言っていたんですが、そんな事はあり得るんでしょうか?」
「それに関してはまだわからないかな。ただ、力を手に入れるという事は、それを扱うだけの責任と痛みを伴う事になるだろうね」
「責任と痛み……」
「ああ。恐らく、力を手に入れるというのは、本来君の中に無かった力をブレスレットか魔導書を通して取り入れるという事だと思う。もしそうだとしたら、君はそれを取り入れるために肉体的にも精神的にも痛みを感じる事になる。徐々に成長するのと違って、一気に力を得ようとするわけだからね」
「でも、それは必要な事なんですよね?」
「そうだね。けれど、それがいつになるか……それは私にもわからない。だから、それがいつになってもいいように心の準備だけはしておくんだよ?」
「はい」
俺の答えに真剣な表情を浮かべながらコクンと頷くと、アランさんは魔導書をゆっくりと開き、俺とアイはさんの横から魔導書を覗き込んだ。するとまず目に入ってきたのは、様々な名前と数字が書かれた目次のような物、そして妙な大きさの空白だった。
「目次がある辺り、古の召喚術士という人はこれを自分以外の人が読む事も想定していた気がしますよね」
「そうだね……」
アランさんは興味深そうな声で答えると、魔導書のページを静かに捲った。すると今度は、左側に大きなドラゴンが描かれ、右側には魔法陣のような物とこのドラゴンに関する説明文らしき物が書かれていた。
「……『グリッタードラゴン』か」
「『グリッタードラゴン』……太古から生き続ける銀色に輝く鱗を持つ竜で、口から吐き出す炎は浴びた者を骨も残さぬほどに焼き尽くすと言われる奴だね。そして、その体に秘める魔力も膨大で、伝承の勇者が使ったとされる『光』の魔術と魔王が持つとされる『闇』の魔術を除いた全ての属性を操る事が出来る事から、他の種の竜をも統べる存在とされ、別名『竜皇』と呼ばれている種。だが……他の竜よりも私達『人間族』に対して友好的では無いらしく、現在はどこかの秘境にひっそりと身を潜めているだとか魔王軍に加わっているだとか様々な憶測が飛び交っている種でもあるんだったかな……」
「そうなんですね……」
それにしても……ここまで詳細な絵が描けるくらいまで『グリッタードラゴン』に近付けた辺り、この魔導書の持ち主だった古の召喚術士とやらは、だいぶスゴい人だった事になるな……。
そんな事を思いながらふとページに描かれた魔法陣に右手が触れたその時、魔法陣が突然光り出すと同時に右腕に嵌めたブレスレットも青白い光を放ち始めた。
「な、何だ……!?」
「ぐっ……リュウト君! 早く右手を魔導書からはな──」
アランさんの声が聞こえた瞬間、ブレスレットに嵌まった石が虹色に染まると同時に、石から魔導書に描かれた魔法陣と俺に向かって虹色の光が伸び、突然ハンマーで頭の中を殴られているような強い痛みが俺を襲った。
「ぐっ……!? 何……だ、これっ……!?」
強い頭痛と倦怠感から俺が膝を付く中、石から伸びた虹色の光が体の中に入り込み、体内をスゴい速さで駆け巡ると同時に、その箇所が虹色に染まっていくイメージが頭の中に浮かんできた。
ぐ……頭も痛い上、何だか体も内側から熱くなって来た気がする……! くそっ……いつになったらこれが終わるんだよ……!
だんだんぼんやりとしてきた頭でそんな事を考えていたその時──。
『大丈夫。君の中にある物はしっかりと目覚めたから、もう安心していいよ』
その声……もしかしてリオン、か……?
夢の中で出会ったリオンの優しい声が頭の中で響き渡ると、俺を襲っていた強い頭痛や倦怠感、体内の熱が突然綺麗さっぱり無くなり、その代わりに気力と今まで感じた事が無い力などが俺の中に満ち溢れてきた。俺はそれを不思議に思いながらも静かに安堵の息を漏らし、スッと顔を上げた。すると、アイとアランさんの他にリオさんやムサシさん達といったさっきまでいなかったはずの皆が不安そうに俺の事を見つめており、場所も家の中から外へと移動していた。
……え? 皆……いつの間に集まっていたんだ……?
その様子に俺が面食らっていると、目を涙で潤ませたアイが声を震わせながら俺に話し掛けてきた。
「リュウト……大丈夫……? 話は出来そう……?」
「あ、ああ……一応大丈夫だけど……?」
「……そっか、うぅ……良かったぁ……!」
そのアイの声と同時に、町の皆から大きな歓声が上がり、皆の顔には安堵と歓喜の笑みが浮かんでいた。
えーと……喜んでくれるのは嬉しいけど、当の本人がまだ状況が飲み込めてないんだけど……?
その状況に俺が困惑していると、心から安心した表情を浮かべたアランさんが説明を初めてくれた。
「リュウト君が魔導書から手を離して膝を付いた後、私達は君に向かって必死に声を掛けたんだが、君はそれが聞こえていない様子で目を見開きながら荒い息づかいをし始めたので、アイに頼んで町の皆を呼んできてもらったんだよ。もしかしたらこの状況について何か知っている人がいるかもしれないと思ってね。だが、誰に訊いてもこの状況について何も分からず、私達は苦しむ君をただ見ているしか無かった。ところが──」
「俺の荒い息づかいが止み、自分から顔を上げてアイの問い掛けに答えた事で皆の不安が一掃された、という事ですね」
「その通りだ。リュウト君、あの時君の中では一体何が起きていたんだ?」
「それが──」
俺の身に起きていた事を話そうとしたその時、魔導書の方から突然強い気配を感じ、俺は弾かれたように魔導書へと視線を向けた。すると魔導書は独りでに宙へと浮きあがっており、ページに描かれた魔法陣から鱗に被われた『何か』が徐々に姿を現そうとしていた。
え……嘘だろ? まさか『グリッタードラゴン』をここに召喚しようとしてるって言うのか……!?
その俺の疑問に答えるかのようにページに描かれた魔法陣が強い光を放った瞬間、『何か』──『グリッターシドラゴン』の一部は魔導書が放つ白い光に包まれると、白い光の球体となって俺の目の前へと現れた。そして球体は眩いほど強い光を放つと、徐々に元の姿──銀色に輝く鱗を持つ体長5メートル程の竜の姿へと変わっていき、光が消えた頃には静かに眠った状態で俺達の目の前に姿を現した。
おいおい……これは流石にデカいって……!
その大きさに俺が息を呑んでいると、他の皆も『グリッタードラゴン』の存在に気付き、一部の住人達からは大きな悲鳴が上がった。すると、『グリッタードラゴン』は『む……?』と不思議そうな声を上げながらゆっくりと目を開け、まだ少し眠そうな様子で俺達の事をしげしげと眺め始めたかと思うと、その緑色の眼を妖しく光らせながら楽しそうにニヤリと笑った。
『ほう……アイツらも中々気が利くではないか。我が仮眠を取っている間にこのような
そしてその大きな体を揺らしながら二本足で立った後、辺りに響き渡るほど大きな咆哮を上げていると、一部を除いた町の皆は再び大きな悲鳴を上げながらその場から逃げ出していった。
マズい……このままじゃ『トスタ』の町がコイツに壊され、町の皆が殺されてしまう……。くっ……こうなったら覚悟を決めるしか無いか……!
俺は町の皆が避難していく様子を見た後、ゆっくりと『グリッタードラゴン』へ向かって歩を進めていると、リオさん達から次々と声が上がった。
「リュウト君、何をしているんだ……!? 速く逃げるんだ!」
「リュウト! 危ないよ!」
「リュウト! ここは私達に任せて、お前は早く逃げろ!」
その声を背に更に歩を進めた後、俺はクルリと振り向いてニコリと笑った。
「コイツは俺の持ち物から出てきた奴なので、俺が責任を持ってどうにかします。だから皆こそ早く逃げて下さい」
そして視線を戻した時、独りでに宙へ浮いていた魔導書がスーッと俺の方へと飛んでくると、そのまま俺の手の中へと収まった。
そうだ……この魔導書が呼び出してしまったからには、持ち主である俺が何とかする必要がある。だからこの命に代えても、絶対に皆の事は護ってみせる……!
魔導書を強く握りながら決心をした後、俺は『グリッタードラゴン』へと声を掛けた。
「おい、そこのお前!」
『む……? 『人間族』の小僧か。生き餌風情が我に何の用だ?』
「何の用……? そんなの決まってるだろ! この町や町の皆を護るためにお前の事を倒すんだ!」
『我を倒す、だと……? この魔王軍幹部が一体、『竜皇ドラグランド』を相手にお前のような小さき者が一体何が出来るというのだ?』
「さてな……魔力も武器も無い俺に何が出来るかは俺にも分からない。けど、お前がどんなに強い奴だろうと、様々な手を用いて俺はお前の事を倒してみせる!」
「ほう……面白い事を言うではないか。ならばその言葉、嘘か誠か試させてもらうとしよう!」
『竜皇ドラグランド』が眼をギラリと光らせ、前足を上へと大きく振り上げた事から、いつでも避けられるように注意を払っていたその時、その前足は思っていたよりも速い速度でそのまま勢い良く俺へと振り下ろされた。
くっ……避けられ──。
避けられないと悟り、攻撃の衝撃と痛みに耐える覚悟を決めていたその時、振り下ろされていた前足が急に俺の頭上でピタリと止まり、それと同時に『竜皇ドラグランド』が信じられないといった表情を浮かべた。
『ぐっ……!? 何故だ、何故これ以上足を下ろすことが出来ない……!? 貴様……まさか不可視の障壁を張っているのか……!?』
「いや、俺には魔力は無いみたいだからそれは無いよ」
『魔力を持たぬだと……そんなはずは無い! 魔力を持たぬ者が、我の攻撃を触れずに防ぐなどありえん!』
「そんなはずは無いって言われてもな……」
『竜皇ドラグランド』の言葉に困りながら答えていたその時、『竜皇ドラグランド』の視線が不意に俺の手の中にある魔導書に注がれると、目を丸くしながら俺に話し掛けてきた。
『……小僧、その書をどこで手に入れた……?』
「え……行商人の人からもらったんだよ。確かどこかの塔で見つかった物って言ってたな……」
『そうか……なるほど、そういう事ならばこの状況にも納得がいく……』
何がなんだか分かっていない俺をよそに、『竜皇ドラグランド』は一人納得顔で静かにうなづくと、前足をゆっくりと俺の頭上から避け、首をグーッと俺へ向けて伸ばしてきた。
『小僧、名は何と言う?』
「……木柴竜斗、異世界から来たただの人間だよ」
『リュウト……か。ならばリュウト、今より我はお前を我が新たな主と認め、お前の召喚獣となろう』
「お前が俺の召喚獣……?」
『む……その魔導書──『
「目覚めさせたというか……俺が魔法陣に触れたらいきなりこうなった感じだから、正直まだ何がなんだか分かっていないんだよなぁ……」
『なるほどな……リュウト、お前は己の中に満ちる力に気付いてはいるか?』
「俺の中に満ちる力……?」
『ああ、そうだ。その『召友書』を目覚めさせるには、それ相応の魔力が必要となる。つまり、先程お前は魔力を持たぬ者だと言っていたが、現在お前の中には膨大な魔力が宿っている事になる。それも並大抵の魔導師や魔術師とは比べ物にならない程のな』
「俺の中に魔力が……でも、どうして……」
『さてな、そこまでは分からん。だが、お前の右腕に嵌まっているそのブレスレットが関係しているのは間違いないだろうな』
「……ふーん、そっか」
そういえば……このブレスレットも古の召喚術士の持ち物だったんだっけ。つまり、俺はこのブレスレットと『召友書』に
降って湧いたような出来事を未だ飲み込めずにいると、俺達の話を静かに聞いていたリオさんが警戒した様子で『竜皇ドラグランド』に話し掛けた。
「『竜皇ドラグランド』、先程自らを魔王軍幹部が一体と称していたが、それは本当なのか?」
『本当だ。遙か昔、我が一族の祖先が当時の魔王と盟約を交わして以降、我が一族は魔王に仕える身となり、彼の者に与する竜を統べる役目を担っている。もっとも、その役目を放棄し一族から離反した者も中にはいるがな』
「つまり……世に広く知られている『グリッタードラゴン』の詳細の一部は、お前の一族の事を指しているという事か」
『その通りだ。まあ、我も長兄であった事からその役目を果たしてきたが、我自身はその役目に興味は無い上、魔王への忠誠心などは全くと言って良いほど無い。そしてこうしてお前の召喚獣となった以上、魔王軍の幹部を務める理由は無いため、近い内に魔王軍の幹部の座から降りる事を魔王に伝える気だ』
「そうなのか……でも、さっき俺達の事を玩具とか生き餌とか呼んだ辺り、『人間族』や他の種族に対して友好的じゃないのはその通りみたいだな」
『まあ、そうだな。だが、我が唯一友と認めた者──古の召喚術士と新たな主であるお前、そして魔王などはそういった対象からは外れるがな』
「……そっか」
コイツが唯一友達と認める辺り、古の召喚術士は本当にスゴい人だったんだな……。
そんな事を考えながら古の召喚術士の凄さに圧倒されていた時、『竜皇ドラグランド』は突然とても眠そうに大きな欠伸をした。
「ん……何だ、眠いのか?」
『……ああ。先程まで眠っていたはずなのだが、何故か体が重い上、強い眠気が襲ってきているのだ……』
「そっか……それじゃあ一度戻るか? もしかしたらいきなり出てきた事で疲れたのかもしれないし」
『……そうだな。恐らく『召友書』に描かれた魔法陣に魔力を注ぎ込む事で戻れるだろうからな。では、頼むぞ、リュウト』
「ん、了解」
返事をした後、俺は『竜皇ドラグランド』が描かれたページを開き、魔法陣にもう一度触れながら体に力を入れて魔力が魔法陣へと流れ込むように念じた。しかし、いくら念じても魔法陣がさっきのように光る事は無かった。
「え……何でだ? 『竜皇ドラグランド』、何でなのか分かるか?」
『いや……全く分からんな。リュウトよ、試しに『召友書』の中を始めから探ってみろ』
「あ、うん……分かった」
そして『召友書』の目次をもう一度開いたその時、空白だったはずの場所に幾つかの文章が浮かび上がっていた。
「ん……何か空白の所が埋まってるな。えーと……『この魔導書には案内役が定められている。その案内役とは『グリッタードラゴン』の事だ。案内役は、この魔導書の主となった者を導く者であり、案内役はこの魔導書を介して出て来る事は出来るが、戻る事は出来ない』」
『……は?』
「『尚、案内役は常時魔力を消費するため、魔導書の主より魔力の供給を受ける必要があり、それにはお互いの体の一部を合わせる事で魔力を一度繋げ、それによって生じた『
……後は、召喚獣の召喚方法と他の奴の戻し方みたいなのしか書いてないな」
『何だと……!?
自分が唯一の友達だと思っていた人からのまさかの仕打ちに『竜皇ドラグランド』が怒りを露わにする中、俺は恐る恐る話し掛けた。
「えーと……その古の召喚術士は、初めて会った時からこんなに意地悪な事をしてくる人だったのか?」
『……いや、彼奴はそれとは真逆の性格だ。常に正直で騙されやすく、人助けを趣味とするような奴だったため、見ているこちらがヒヤヒヤとする時が幾度となくあった』
「そっか……でも、そんな人がどうしてこんな事を?」
『……恐らくだが、このような形を取らねば、我が案内役を引き受けぬと思ったからなのだろう。まったく……少しは成長したかと思えば、まさかこのような真似をしようとはな……』
『竜皇ドラグランド』は、少々呆れた様子で溜息をついたが、その表情には安心や懐かしさといった物が浮かんでいたため、さっきまでの怒りはどうやら収まったようだった。その事にホッと一安心した後、俺はちょうどある事を思いつき、その事について『竜皇ドラグランド』に話し掛けた。
「なあ、『竜皇ドラグランド』」
『む……何だ、リュウトよ』
「このドラグランド、っていうのはお前の名前なんだよな?」
『……正確には少々違うな。ドラグランドの名は、先代──我の父上より役目を引き継いだ際に付けられた『竜皇』としての名であり、その際に本来の名は捨て去ったからな』
「そっか……」
『だが、それが一体どうしたというのだ?』
「あ、いや……実はさっきから思ってたんだけど、一々『竜皇ドラグランド』って呼ぶのはちょっと長い気がしたし、これから仲間になるっていうのに他人行儀過ぎるかなと思ってさ」
『そうか。しかし、先程も言ったが、我は本来の名は捨てた身だ。そのため、それを今更名乗る気は我には無いぞ』
「そうだろうな。だから、お前さえ良ければお前の呼び名を付けさせて欲しいんだよ」
『ふむ……呼び名か。まあ、正式にお前の召喚獣となった上、『召友書』を介して我が領地に戻る事が出来ぬ以上、魔王軍の幹部としての役目を捨て、お前の事を導くしかないからな。それであれば、簡易的にでも呼び名があった方がお互いにやりやすいか』
「ああ。という事で、早速付けてみたんだけど、聞いてもらっても良いかな?」
『……無論だ。して、その名とは何だ?』
「それは……ランド、だよ」
『……ラン、ド……か』
「ああ。お前の『竜皇』としての名前のドラグランドをちょっと縮めただけで悪いけど、そういう名前の人は普通にいるし、ランドには『陸地』とか『土地』っていう意味があるから、そういう意味で雄大で皆の事をどっしりと支えられる存在になって欲しいと思ったんだけど、どう……かな?」
恐る恐るそう訊くと、『竜皇ドラグランド』は少し考え込むような仕草を見せた後、ふうと息をついてから静かに口を開いた。
『悪くない……いや、我にとって勿体ないほど良い名だ。感謝するぞ、我が主』
「ふふ、どういたしまして。それと……一応お前と俺は召喚主と召喚獣の関係に当たるけど、俺はお前と友達になりたいかな」
『ほう……我と友人になりたいとな?』
「ああ。お前が友達と認めたのは古の召喚術士だけなのは分かってる。けど、お前とこうして出会えたのも何かの縁だし、お前が『召友書』を介して戻れない以上、これから一緒に過ごす事になるわけだから、召喚主と召喚獣の関係よりは友達の方が良いかなと思ってな。それに──」
そこで言葉を一度切った後、ランドの目を真正面から見ながらニカッと笑った。
「竜と友達になれる機会なんてそうそう無いし、お前とは親友になれる気がするんだ」
「しん、ゆう……」
そう呟くように繰り返すと、ランドはとても驚いた様子で俺の事を見つめた。そのランドの目には俺の言葉に対する拒絶や嫌悪の色は浮かんでいなかったが、その代わりに驚愕の色が強く浮かんでいた。
「ランド……どうかしたのか?」
『……いや、気にするな。少し昔の事を思い出しただけだ』
「ふーん……まあ、それなら良いけどな」
『……ああ。それよりもリュウト、早々に我々の魔力を繋げ合うぞ。ここまではどうにか耐え抜いていられたが、そろそろ限界が近いのでな……』
「あ、そうだな……えっと、それじゃあ……手を合わせる事にするか」
『そうだな』
そして俺の右手とランドの右前足を合わせたその瞬間、お互いの右手を通じてランドの中にある少し暗めな虹色の魔力が俺の中へ流れ込み、俺の中にある虹色の魔力と混ざり合っていくイメージが浮かび、それと同時に俺とランドの心臓付近から透明な綱のような物が伸びると、それはしっかりと繋がり合った。
ふう……これで良さそうだな。
繋がり合った『主従の誓綱』を見ながらふうと息をついた後、ランドの方へ視線を向けてみると、ランドには先程から見せていた眠そうな様子は無く、力に満ち溢れたような視線を俺へと向けていた。
「……どうやら、しっかりと魔力は回復できたみたいだな」
『おかげさまでな。まったく……彼奴も面倒な事をしてくれたものだ』
「ははっ、お前からすればだいぶ困った状況だったもんな」
『その通りだ。……さて、お前が膨大な魔力を有しているとは言え、供給できる魔力も限りはある。そのため、少々姿を変えさせてもらうぞ』
「え、姿を変えるって──」
どういう事だ、と訊こうとした瞬間、ランドの姿が突然白い光に包まれ、俺達の視界はその光に遮られた。そして光が止んだ時、そこにいたのは──。
『……この姿も久々だな』
仔竜を思わせるような手乗りサイズに縮み、翼を使ってその場に滞空するランドの姿だった。
「……ランド、だよな?」
『その通りだ。我は自らの姿を変える術が使えるため、この仔竜の姿の他に『竜人族』や『人間族』を模した姿もある。そして、予想通りこの姿の間はお前から供給される魔力量も抑えられるため、有事の際以外はこの姿でいる事としよう』
「うん、分かった。それじゃあ改めて……これからよろしくな、ランド」
『ああ、こちらこそよろしく頼むぞ、リュウト』
あの夢の中と同じように晴れ渡った空の下、俺達は笑い合いながら固く握手を交わした。そして握手を終えた後、ランドの口から信じられない言葉が飛び出した。
『さて……それでは、そろそろこの地を発つ手筈を整えるぞ』
「ああ、そうだ──え? ランド、お前今……ここを旅立つって言ったのか……?」
『何を驚く必要がある、リュウトよ。我と今のお前がここにいては、この町に災いが降りかかるだろう?』
「わ、災い……?」
『先も言ったが、我は現在魔王軍の幹部であり、魔王に与する竜達を統べる存在だ。そのような存在が忽然と消えた今、奴らはその
「そっか……確かに脅威になり得そうな物は早めにどうにかした方が良いもんな」
『うむ。リュウト、お前にとってこの地から旅立つのは辛い事かも知れぬ。しかし、これもこの町を救うため、そして住人達の平和を守るた──』
「……何で?」
『む……?』
「アイ……」
ランドの言葉に被せるように疑問の声を上げた人物──アイへと俺達が視線を向けると、アイは俯いて悲しみに声を震わせながら再び口を開いた。
「貴方は『竜皇』なんでしょう……? それならリュウトがこの町を出ていかなくても良い方法くらい思いつくんじゃないの……!?」
『一つだけ──一つだけなら、方法はある』
「なら、その方法を──」
『その方法というのは、魔王を討つ事が可能な存在──古の召喚術士と共に当時の魔王を討ったとされる勇者の血を引き、女神の祝福を受けた者をこの地へと呼ぶ事だ。しかし……勇者の血を引く一族が『王都クラッド』にいるという話は聞いた事があるが、女神の祝福を受けた者が現れたという話は未だ魔王軍へ入ってきてはいなかった。つまり、その者が見つかっておらぬ以上、その策を使う事は出来ぬという事になる』
「そ、そんな……!」
アイの表情に絶望の色が浮かぶ中、ランドは心から申し訳ないといった様子で再びアイに話し掛けた。
『アイ、と言ったか。お前がリュウトの事を想い、そのような発言をしたのは分かる。しかし、リュウトが『召友書』と巡り会った事、そして目覚めさせた事は事実であり、それによってリュウトという存在の意味が変化した事もまた事実だ。心苦しいが、こればかりは仕方の無い事だと諦めてくれ』
「諦めろって……それじゃあ、リュウトの意志は──」
「アイ。俺はこの町を旅立つ事に賛成だ」
「リュウト……でも、リュウトはこの世界に来てまだ二ヶ月なんだよ? それに過去の記憶も元の世界に戻る方法だってまだ見つかってないのに……」
「だからこそだよ。確かに旅立つのは俺自身辛いし、今の俺の実力では難しいかもしれない。けど、俺が旅立つ事で皆の安全が守られる可能性が高まるのは本当だし、旅の最中に何か記憶を取り戻すためのきっかけとか古の召喚術士が作ったって言われてる『時空転移』の魔法の手がかりだって見つかるかもしれない。そう考えれば、旅立つのは別に悪い事ばかりじゃないんだよ」
「で、でも……」
「それに……俺はまだまだこの町の皆にお世話になった分を返しきれていない。だから、その恩返しのために必ずこの『トスタ』の町に戻ってくる。それは約束するよ」
「……それなら、約束は絶対に守ってよ?」
「ああ、もちろんだ」
微笑みながら答えると、アイは目に涙を浮かべながらも静かにコクンと頷いた。我ながらとても大きな約束をしてしまったとは思うけど、口にした言葉に嘘偽りは無い。
俺にとって第二の故郷と言えるこの町の事は大好きだし、この町の皆の事も大好きだからこそ、この町を旅立つんだ。もし元の世界に戻る方法が見つからなかった時、この町に戻って俺達の力でも守っていけるようにするためにも。
心の中で決意を新たにしていると、リオさんがランドの事を見ながら静かに口を開いた。
「ランド、出立はいつ頃にするつもりなんだ?」
『今すぐが望ましい所だが、今は何も準備が出来ていない状況だ。なので、旅立ちは明日の早朝にしようと思う』
「なるほど……分かった」
リオさんは何か考えがある様子で答えると、今度は皆の事を見回しながら大きな声で呼び掛けた。
「皆、今夜はリュウト君の旅立ちを祝した宴を開こうと思う。急なのは分かっているが、全員で協力して準備を頼む」
『はい!』
『おう!』
リオさんの言葉に俺やアイを除いた全員が答えた瞬間、それによって生まれた声の波動は近くの窓を震わせるほど大きく、いかにリオさんがこの町の町長として皆から慕われているのかが改めて分かったような気がした。
ふふ……やっぱりリオさんはスゴいな。俺もこれ並みとまではいかないまでも、近いレベルになれるように頑張ってみるのもありかもしれないな。
すぐさま作業に取り掛かり始めた皆を見ながらそんな事を思った後、俺はその様子を静かに眺めていたリオさんに声を掛けた。
「リオさん、俺も作業を手伝いますね」
「いや……リュウト君は別に休んでいても──」
「いえ、俺もこの町の住人ですし、何より皆の作業を手伝いたいんです」
「リュウト君……分かった、それでは何を手伝えば良いのかを皆に訊いて、それを無理をしない程度に手伝ってくれるかな?」
「はい! よし……行こうぜ、ランド!」
『……ああ、分かった』
ランドの返事にコクンと頷いて応えた後、俺はリオさんの隣で未だに寂しそうな表情を浮かべていたアイの手を取りながら声を掛けた。
「アイ、お前にも手伝いを頼んで良いか?」
「リュウト……うん、もちろん!」
「よし、それじゃあ行こうぜ、二人とも!」
「うん!」
『うむ』
そして俺達は、町の皆が作業をしている中へ向かって一緒に走り出した。
宴も終わり、皆で後片付けをし終えた午後9時頃、俺はランドと一緒に夜の町中を話をしながら歩いていた。
「……ふう、それにしても……宴、スゴく盛り上がったな」
『そうだな。多種族が暮らす街や村があるというのは話に聞いた事はあったが、まさかあそこまで心を通わせあえる物だとはな……』
「ははっ、まあそうなるよな。俺も『トスタ』の町に来たばかりの頃は、向こうの世界の物語だと険悪な関係として描かれている種族同士が仲良くしている様子を見てスゴく驚いたよ」
『そうだろうな。お前も知っている通り、種族間の軋轢というのは非常に根深い事が多い。しかし、この町ではそのような様子は一切無く、皆が笑顔で暮らしている。『人間族』に友好的で無かった我が言うのも変な話だが、この町のような国や町が増えれば、この世界は今よりも豊かな世界となるだろうな』
「ああ、俺もそう思うよ。けど……それにはまず、例の魔王をどうにかしないといけないよな」
『そうだな。しかし、魔王は我らよりも『人間族』を忌み嫌っている節がある。もし我らが旅の最中に魔王と出会う事があれば、衝突は避けられない。出会わない事がベストにはなるが、もし我々が旅の最中に勇者の血を引く者に出会い、魔王討伐に力を貸す事になる事もあり得るな』
「そうだよな……でも、いつそうなっても良いように自分の実力を上げておく必要は出てくるよな」
『ああ。期待しているぞ、我が友よ』
「うん、期待を良い方に裏切れるように頑張るよ」
ニカッと笑いながらそう返事をしていた時、ふと前方に誰かがいるのが見えた。
「あれ……誰だろ?」
『さてな……気になるのなら着いていってはどうだ?』
「そうだな……町の誰かだとは思うけど、気にはなるし行ってみるか」
『うむ』
そして、謎の人物の後をこっそり追っていくと、謎の人物は町の外れにある墓場へと入っていった。
夜の墓場か……何か用事が無い限り、中々入っていけない場所の上位に入りそうな場所だな。
「墓参り……にしては遅い時間だよな」
『そうだな。まあ、たとえ死者に会おうとしていた場合は早い時間だがな』
「死者に会おうとする人なんてそうそういないと思うけどな……よし、とりあえずこのまま着いて行ってみるか」
『リュウト……お前は思っていたよりも物好きのようだな』
「物好き、と言うよりは、好奇心に任せてる感じだけどな」
呆れ気味なランドの言葉に微笑みながら答えた後、俺はランドと一緒に再び謎の人物の後をこっそり追った。それから歩く事約数分、謎の人物はある一基の墓石の前で立ち止まり、持っていた物を置くと、そのまま静かにしゃがみ込んだ。
「……もしかして、本当に墓参りだったのかな?」
『あの様子を見るにそうだったようだな。しかし、この時間に墓参りとはな……』
「そうだな……まあ、何をしているかは分かったし、とりあえず俺達はかえ──」
そう言いながら来た道を戻ろうとしたその時、足下から突然パキッという音が響き、謎の人物が弾かれたようにこちらへと顔を向け、ゆっくりとこちらへと近付いてきた。
くっ……こうなったら逃げずに立ち向かうしかないか……!
自分が犯してしまった失敗に対して悔やむ間もなく謎の人物を待ち構え、目の前まで近付いてきた瞬間、その人物の正体に俺は驚きの声を上げた。
「……リオ、さん……!?」
「……何だ、リュウト君にランドだったのか。二人とも、どうしてこんな所に?」
『それはこちらの台詞だ、リオよ。墓参りをするにしては、あまりに遅い時間だと思うが?』
「はは、まあ確かにそうだな。だが、今夜は特別だったから、こうしてこんな時間にここへ来たんだ」
「特別……ですか?」
「ああ。よし……せっかくだ、二人もこっちに来てくれるかな?」
「あ、はい」
『承知した』
そして、リオさんの後に続いてある一基の墓石の前で立ち止まった時、リオさんは少し哀しそうな表情を浮かべながら静かに口を開いた。
「これは亡くなった妻の墓なんだ」
「奥さんのお墓……そういえば、亡くなっているのは聞いた事がありましたけど、詳しい事はまだ訊いてなかったですね」
「ああ、そういえばそうだったか。妻──サクラ・コノエは、元々東の方の生まれで、私がまだ旅人だった頃に出会ったんだ。サクラの両親は既に亡くなっていたが、それでも一人で頑張る彼女の姿に惚れ、私が一度旅を止めて彼女の手伝いをしていく内、私達は夫婦となり、共にこの町へと戻ってきたんだ。そしてそれから一年後、私が父から『トスタ』の町長としての役職を受け継ぎ、アイも生まれて私達はとても幸せな毎日を過ごしていた。しかし……アイが5歳になった頃、サクラは病に倒れて息を引き取り、父と母も程なく病で亡くなった。それからはアイと共に二人三脚で頑張っていたんだが、家族の死が重なったせいか、アイは少しずつ元気を無くしていった。そして二ヶ月前に君──リュウト君に出会った時、アイは久しぶりに顔を輝かせながらハキハキとした様子で声を掛けた。恐らく、明るく接する方がリュウト君が不安にならずに済むからだと思ったからだとは思うんだが、それがきっかけでアイにも以前のような笑顔が戻ってきた」
「アイにそんな事があったんですね……」
「ああ。そして君が旅立たないといけないという話になった時、アイが必死に止めようとしたのは、その旅が原因でリュウト君という家族を失う事を恐れたからなのかもしれない。アイは何かを失う事に関して、人一倍辛さを感じているだろうからね」
『……そのような事情があるならば、あのような反応を示したのは致し方ない事かもしれぬな』
「そうだな……」
アイはいつも明るく、病気の時でも俺達の事を心配させないように元気があるように振る舞っていた。けれど、そんなアイにもやっぱり辛い過去があり、それを耐え忍んできた期間があった。恐らく、昨日記憶の事や家族の事について訊いてきたのは、そういう事情もあったからなんだろう。
……俺はアイからいつも元気を貰い、アイは恐らく俺から元気を貰っていた。言ってみれば、俺達はいつでも持ちつ持たれつな関係を保っていた事になるんだろうな。
俯きながらそんな事を思っていた時、「リュウト君」と俺の事を呼ぶリオさんの静かな声が聞こえ、俺が顔をゆっくりと上げると、リオさんはとても真剣な表情を浮かべながら静かに口を開いた。
「昼頃にも言ったが、私達にとって君はもう家族も同然だ。だからリュウト君、絶対に無事に帰ってきてくれ。アイと同じく、私ももう家族を理不尽に失う哀しみを味わいたくは無い」
「リオさん……はい、もちろんです。生きて帰るのは当然ですけど、たとえ『次元転移』のような元の世界に戻る方法が見つかったとしても、まずはこの『トスタ』の町へ、そしてリオさんとアイの元に絶対に帰ってきます。それだけは絶対に約束します」
儚げな青白い月明かりが俺達を照らす中、その言葉を言い終えた瞬間、リオさんの顔からさっきまでの心配と哀しみの入り交じった様子は消え、その代わりに安心と喜びに満ちた物へと変わった後、俺はリオさんと一緒に微笑み合った。何があってもこの場所、そして皆の元には帰ってこないといけない。リオさんの顔を見ながらそう強く決心していると、リオさんは不意に真剣な表情を浮かべながら空を見上げ、1度コクンと頷いた後、再び俺達の方へと顔を向けながら静かにニコリと笑った。
「さて、そろそろ家に帰るとしよう。早朝に旅立つのなら、早めに眠った方が良いからな」
「はい」
『うむ』
青白い月が静かに見守る中、俺はリオさん達と一緒に家に向かって歩き始めた。そして家に帰った後、軽く旅立ちの準備をランドと一緒に行い、それなりに準備が出来た頃にベッドへ入り、そのまま静かに眠りについた。
翌日の早朝、軽く朝食を済ませた後、自室で旅の荷物の最終チェックをランドと一緒に行っていた時、ドアを軽く二度ほどノックする音と「リュウト君、入っても良いかな?」というリオさんの声が聞こえ、俺は作業の手を一度止めてドアの方を向きながらそれに答えた。
「はい、どうぞ」
「それでは失礼するよ」
そう言いながらリオさんが部屋に入ってくると、リオさんは綺麗な銀色に輝く鉄の鎧──プレート・メイルと鞘に入ったロングソードといった装備一式を載せた台車を押しており、プレート・メイルやロングソードは新品のような輝きを放っていたが、どこかかなり使い込まれた雰囲気を醸し出していた。
「リオさん、これは……」
「せめてもの餞別として君に贈ろうと思ってね。これらは私がリュウト君と同じ歳の時に使っていた装備一式なんだが、いつかこういう時が来るだろうと思って、鍛冶屋に簡単な修理をしてもらったり私が毎日手入れをしていたんだ。そして、野営用のテントなども町の皆の力を借りてしっかりと玄関の方に揃えているよ」
「……リオさん、本当にありがとうございます」
「どういたしまして。さて……それでは、早速これらを着けてみるとしようか。防御力はそのままにしながら軽量化はしているとは言え、少しでも早く慣れておいた方が良いからね」
「はい!」
そして俺は、リオさんの手を借りてプレート・メイルを身に付け、ロングソードを右腰へと差した。リオさんの言う通り、プレート・メイルは想像していたよりも軽かったが、それでも常に重さは体に掛かってくる上、普段とは違う感覚から少しだけ動きづらさを感じた。
うーん……まあ、仕方ないと言えば仕方ないけど。いつまでもそうは言ってられないし、早めに慣れるようにならないといけないな。
そんな事を思いながらこれから旅を共にする装備達の感触を確かめていた時、リオさんとランドが同時に「ほう」と少し驚いたような声を上げた。
「よく似合っているよ、リュウト君」
「そ、そう……ですか?」
『うむ、『格好』だけなら立派な戦士──いや、我を召喚し我と共に戦場を駆けるならば、見習い召喚士兼見習い竜騎士と言ったところか。まあ、見習いである以上は、まだまだ半人前というところだがな』
「あはは……確かにそうかもな。けど、こうして旅に出る以上、絶対にお前に俺が一人前だって言わせてやるからな。覚悟してろよ、ランド!」
『ふん……いつまでその威勢が続くか見せて貰うぞ、我が主兼友よ』
そんな事を言い合った後、俺達はニカッと笑いながらお互いの拳をコツンとぶつけ合っていた時──。
「リュウト、ランド、入るよー」
静かな声でそう言いながらアイはそうっと部屋へ入ってきた。そして俺の方へ視線を向けると、アイはとても驚いた様子で話し掛けてきた。
「あっ、その鎧って……確かお父さんのだよね?」
「ああ、旅の餞別として貰ったんだ」
「そうなんだ……ふふ、何だかスゴく似合ってるからか、リュウトがスゴく立派な戦士か騎士みたいに見えるね」
「そっか、ありがとさん。ところで……俺達になんか用事だったのか?」
「……あ、そうだった。えっとね……町の皆がリュウト達の事を見送ろうとしてるみたいで、どんどん町の入り口に集まってるのを見掛けたから、それを伝えに来たんだ」
「町の皆が……そっか、何かスゴく嬉しいな」
『そうだな。だが、これも全てお前自身が紡いだ絆が生み出した物だ。それに関しては、自信を持っても良いと思うぞ』
「ああ、そうさせてもらうよ。さて……それじゃあそろそろ行くとするか!」
「ああ」
「うん!」
『うむ』
そして俺は、他の荷物──食糧などが入ったリュックやテントといった物をランドと分担して持った後、皆が待っていると思われる町の入り口に向かって歩き始めた。それから数分後、町の入り口に着いてみると、そこにはアイが話していた通り、町の皆が門番所の傍にズラリと並んでいた。そしてその近くをおれたちが通る度に皆が笑顔で次々と声を掛けてくれた。
「リュウト、ランド、精一杯やってこいよー!」
「どんな事になってもお前達ならきっと大丈夫だって信じてるからな!」
「二人の旅の無事をこの『トスタ』の町から祈ってるからね!」
「二人とも頑張ってきてねー!」
その声に手を振って応えながら歩き続ける中、他の皆と一緒に並んでいたクレスさんやムサシさん達がスッと俺達の目の前へと出て来た。
「リュウト、ランド、お前達の旅がより良い物になる事を心から祈っているぞ」
「旅は道連れ世は情け。時には意見をぶつけ合うのも良いが、旅の最中はお互いに思いやりを持つのだぞ」
「ふふ……お主らならば問題ないと妾は確信しておる。二人とも、精一杯やるのじゃぞ?」
「はい、ありがとうございます!」
『かたじけない』
俺達の答えにクレスさん達はコクンと頷いて再び並び直した後、俺達は静かにまた歩き始めた。そして町の外に出た後、俺達はクルリと後ろを振り返り、皆の顔をしっかりと見ながら大きな声で呼び掛けた。
「それじゃあ……皆、行ってきます!」
『では、行ってくる!』
『行ってらっしゃい!』
その皆の声を背にしながら、俺とランドは『トスタ』の町を後にした。
さて……ここからどうしようかな……?
「なあ、ランド。まずはどこに行ったもんかな?」
『ふむ……では、『王都クラッド』はどうだ?』
「『王都クラッド』か……でも、どうしてだ?」
『昨日も言ったが、『王都クラッド』には勇者の血を引く一族が住んでいると聞く。加えて、『王都クラッド』は『トスタ』同様に様々な種族が住んでいる上、旅人も多く訪れるという。つまり、各地の情報も入ってきやすいというわけだ』
「なるほど……各地の情報も入ってきやすいという事は、魔王軍の情報や古の召喚術士についても何か分かるかもしれないな」
『そういう事だ。まあ、歩いていくならば最低でも一日は掛かるが、旅とはそういう物だからな』
「そうだな。よし……それじゃあ『王都クラッド』に向かって頑張って行こうぜ、ランド!」
『うむ』
爽やかな風が吹き抜ける快晴の空の下、異世界から来た俺と魔王軍幹部の竜という中々無いコンビである俺達の旅は、こうして幕を開けたのだった。
政実「第2話、いかがでしたでしょうか」
竜斗「謎の人物であるリオンの存在が今回で明らかになったわけだけど、この様子だとリオンはこれからも度々出てくるみたいだな」
政実「そうなるね。謎の人物、リオンは一体誰なのか。それは乞うご期待ってところかな」
竜斗「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしてますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて、それじゃあそろそろ締めていこうか」
竜斗「ああ」
政実・竜斗「それでは、また次回」