竜斗「どうも、木柴竜斗です。魔法剣士は便利な職業ではあるけど、器用貧乏にもなり得るからちょっと扱いが難しい感じがするよな」
政実「あはは、まあね。けど、主力にもサポーターにもなれる可能性を秘めているところを考えると、スゴく夢がある職業ではあるよね」
竜斗「んー……まあ、そうかもな。さて、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・竜斗「それでは、第3話をどうぞ」
「……ふう、ようやく着いたみたいだな……」
『トスタ』の町を出発してから二日後の朝、俺達は目的地である『王都クラッド』ヘと着き、無事に辿り着けたという安心感からそんな言葉が口から漏れた。すると俺の肩に乗っていたランドは、『……ふむ』と小さく声を上げた後、静かに俺の目の前へと飛び上がり、少し心配そうな様子で話し掛けてきた。
『リュウト、もし疲れているのなら、町の中にある宿屋へ先に行っておくか?』
「いや、まだそんなに疲れてないから大丈夫だよ。ここに来るまでに魔物とはよく遭遇したけど、お前のおかげで戦わずに来られたからな」
苦笑交じりにそう言うと、ランドは『……そうだったな』と、やや溜息を交じえながらそれに答えた。ここまでの道中、俺達はスライムやゴブリンといった様々な魔物と遭遇したのだが、向こうが戦う意思を見せたのに合わせてランドが魔力の気配を漂わせた瞬間、魔物達は突然とても怯えた表情を浮かべながらビクビクし始め、続けてギラリと睨みをきかせた頃には、魔物達は脱兎のごとくその場から逃げ去っていった。それを見た瞬間、ランド自身が本当に強い存在なのだという事を改めて思い知ったような気がした。
「まあ、この旅の最中は無駄な殺生をする気は無いから、あの時は正直助かったけどな」
『そうか……しかし、この先必ず戦わなければならない時は来る。その覚悟だけはしておくのだぞ?』
「ああ、分かってるよ」
俺の答えに対して静かに頷くと、ランドは再び俺の肩の上に戻った。この仔竜形態は、ランド自身が消費する魔力の量や俺から供給する分を減少させる他、体重なども減らせるらしく、ランドが少し疲れた時やただのミニドラゴンのように見せ掛ける時にはランドを肩に乗せるようにしている。もっとも、それでも肩にはズシッとした重さが掛かってくるので、恐らく5㎏くらいはあるのかもしれないが、この二日間で少しは筋力も増えたような気がするため、これも良い筋力トレーニングの一環だと思うようにしている。
「さて……と、そろそろ中に入るとするか」
『うむ』
鎧を纏った門番達がいる門番所を通り、『王都クラッド』の中に入った瞬間、住人達の活気溢れる様子と『トスタ』の町よりも遙かに多くの旅人の姿が目に入ってきた。
「へえー……これが『王都クラッド』かぁ……。何というか、王都って言うだけあって本当に賑わってるし、街自体もデカいみたいだな」
『そうだな……今までは魔王軍の侵略を行うためでしかこのような様々な種族が住む街を訪れる事は無かったため、こうして旅人として街を訪れるのは中々新鮮な気分だな』
「そうだろうな」
ランドの言葉に対して答えながら、俺は『王都クラッド』の綺麗で賑やかな街並みをぼんやりと眺めた。俺が住んでいた『トスタ』の町は、野山や滝といった自然に囲まれたいわゆる田舎町のような町だったが、『王都クラッド』はそういった物は無い分、先に述べたように旅人や行商人の数が圧倒的に多く、『トスタ』の町では見た事が無いような物が店先には並んでいた。その点だけを考えるなら、王都の方が便利で住みやすいと考える人は多いのかもしれないが、俺としては住み慣れたという点や恩義があるという点を除いても『トスタ』の町の方が良いと感じた。
『トスタ』はスゴくのんびりとした雰囲気の町だし、皆が手を取り合って生活しているのもあって、俺的には物凄く住みやすい町なんだよな……。まあ、王都にも王都の良いところはあるんだろうし、ここに滞在してる間は、それを探せるように努力してみるかな。
そんな事を考えながらランドと一緒に街の中を歩いていた時、酒場と思われる建物の壁に貼られた紙にふと目が行った。
「ん……何だこれ? 『勇者誕生記念武闘会開催要項』……?」
『ほう……どうやら我らが知らぬ内に、女神の祝福を受けた勇者が誕生していたようだな。となれば、その勇者は例の古の勇者の血筋の者と言ったところか』
「かもな。えーと……開催は今日の午後からで、優勝者は王様から直々に勇者の旅に同行する権利が与えられるみたいだな」
『ふむ、なるほどな……」
ランドは武闘会の開催要項を興味深そうにしばらく眺めた後、顎に手を当てながら話し掛けてきた。
「リュウト、これは好都合かもしれぬぞ?』
「好都合って……ランド、どういう事だ?」
ランドの言葉に疑問を抱いていると、ランドは開催要項を見ながらその説明をしてくれた。
『我らは今、『トスタ』の町に魔王の手の者が来る事を避けるため、そして失われた『時空転移』の魔法を見つけるために旅をしているだろう?』
「そうだな」
『……旅の最中に思ったのだが、いくら我らが『トスタ』より遠くへ行こうとも、我らとは関係なく魔王の手の者が来る可能性もある。となれば、この武闘会で優勝を果たす事で勇者の旅に同行し、こちらから魔王に会い、討ち果たす事が出来たなら、その脅威に怯える必要も無くなる』
「……なるほどな」
『後は、お前が優勝すれば良い話だが……まあ、この大会に出ようと考える者の大半は、勇者の旅に同行したという栄誉だけが欲しいという者や単なる腕試し程度にしか捉えていない者だろうから、お前が負ける事は恐らく無いだろう。もっとも、我は手助けをする事は出来んがな』
「それは別に良いよ。俺も自分の力だけでどこまでやれるかを知っておきたいからさ」
『……そうか。そして受付は……ふむ、どうやらこの先にて出来るようだな』
「よし、それじゃあ早速受付に行くか」
『うむ』
そして、武闘会へ参加するために受付へ行くと、そこはかなり多くの参加者の声で賑わっており、その中には『
「へえ……思ったよりも参加者が多いみたいだな」
『ふむ……どうやら、この街の者以外にも我らのような旅人や勇者の噂を聞きつけた者までが参加しているみたいだな』
「だな。ざっと見ただけでも、剣士や武闘家だけじゃなく、魔導師や騎士みたいなのもいるし、色々な戦い方を考える必要はありそうだな」
『ふん……その必要は無い。相手が余程の使い手でなければ、無駄な傷を負う前に速攻で勝負を決めてしまえば良いだけだ。お前には、それを可能にするだけの力があるのだからな』
「ふふ……お前のお墨付きがあるなら、俺も安心してこの武闘会に臨めるよ」
『そうか。だが、油断だけはするなよ? 油断などしていては、勝てる試合も勝てなくなってしまうからな』
「ああ、もちろん。さて……それじゃあ早速――」
受付をしに行こう、と言おうとしたその時、後ろから肩を少し強めに叩かれ、思わずその衝撃と突然の事に「えっ……!?」という声を上げてしまった。そして肩にジーンとした痛みを感じながら振り向くと、そこには同い年くらいに見える短い銀髪の『人間族』の青年が立っており、その青年は碧眼をキラキラと輝かせながらランドを指差した。
「なあ! このドラゴン、もしかしてお前のペットなのか!?」
「あ、いや……ペットじゃなくて友達だよ」
「そっか、友達かぁ! 俺、ドラゴンの友達はいないから、お前がスゴく羨ましいよ!」
「いや、ドラゴンが友達っていう奴の方が珍しいだろ……ところで、お前は?」
「俺はヒイロ、ヒイロ・グリフィン。この王都に住んでるんだ」
「ヒイロ、か。俺は竜斗でこっちはランド、俺達はここからちょっと離れたとこにある『トスタ』の町から来たんだ」
「へえ……そうなのか! 『トスタ』って確かスゴく自然豊かなところだったよな!」
「ああ、滝も野山もあるし、あの町で獲れる物は全部美味いぜ?」
『トスタ』の町での生活を思い出しながら言うと、ヒイロは更に目を輝かせた。
「へー……何か話聞いてたらスゴく行きたくなってくるなぁ!」
「ははっ、それなら良かったよ 。ところで、ヒイロもこの武道会に出るのか?」
「んー……まあ、それもあるけど……」
「あるけど?」
「参加者がどんな奴らなのかを見ておきたかったのが本音だな。これから旅に出る予定わけだし、
「ふーん……? まあ、確かにその意見には俺も同意だな」
「へへっ、だろ?」
俺の返答に対してヒイロは嬉しそうな笑みを浮かべた後、注意深く周囲を見回した。そして、再び笑みを浮かべたかと思うと、クルリと踵を返した。
「んじゃ、俺はそろそろ行くぜ。
「ああ」
そして、ヒイロが去って行くのをそのまま見送っていた時、肩に乗っているランドが『うむ……』と、どこか難しそうな顔で小さな唸り声を上げた。
「ん……どうした?」
『……あのヒイロという小僧、内に何やら強い力を秘めているようだな』
「何やら強い力って……具体的にはどんな力なんだ?」
『そうだな……強いて言うならば、『聖なる力』と言ったところか。だが、奴自身がまだ己の力を引き出しきれておらぬせいなのか、今はこの程度しか感じる事が出来んがな』
「そっか……でも、そうだとすると……」
『奴は女神の祝福を受けた勇者本人か光の魔力を生まれながらに持つ種族――『
「……というと?」
『勇者は魔王を倒す力を持った貴重な存在であるため、この武闘会が終わるまでは国王の元にいる方が安全だ。つまり、あのようにブラついているわけ――ましてやこの武闘会自体に出るなどあり得ぬからな』
「確かにそうだな。ただ……そう考えると、一緒に旅立つなら良い奴の方が良いって言ってたのは気になるよな」
『確かにそうだが、その言葉も何か別の目的のための道連れを捜していたからとも取れる。よって、奴が勇者である可能性は無いとは言えないが、明らかに低いだろうな』
「そっか……」
もし、ヒイロが勇者だったらそれはそれで楽しそうだなとは思ったんだけど……まあ、ランドの言う通りヒイロが勇者じゃなかったとしても、アイツとの旅は何だか楽しそうだし、この旅の仲間として誘いたいところだな。
そんな事を考えた後、俺は武闘会の受付を済ませるために受付へと向かった。そして、簡単なルール説明を受けた後、武闘会の時間が来るまでランドと一緒に王都の中を見て回った。
数時間後、俺達武闘会の参加者は会場である闘技場の中で、他の参加者の様子を窺いながらその時が来るのをただ待っていた。
「……さっき、思ったより参加者がいるのかと思ったけど、何だか少なくなってないか……?」
『恐らくだが、あの中で多数を占めていたのは、我のように付き添いとして共にいた者や参加者を見に来た者、そして参加する気で来たものの直前で諦めた者達だったのだろうな』
「そっか。まあ、それならそれでも良いかな。参加者が少ないという事は、参加者達のレベルも高いわけだし、たとえ途中で負けても良い訓練にはなるからな」
『確かにそうだが……これから先の旅では、その者達よりも遙かに強い相手と戦う事になる。つまりこれは、そのための実戦訓練のような物とも言え、この程度で負けていては先の戦いで命を落とす可能性は高くなる。無理をしろとは言わないが、相手が誰だろうと気を抜かず、極力勝ちを狙いにいけ』
「ああ、分かった」
ランドの言葉に頷きながら答えていた時、他の参加者から突然ざわめきが起こり、何事かと揃って周囲の様子を探っていると、他の参加者達の視線がある一点に集中している事に気付き、俺達もそちらへ視線を向けた。すると、そこには豪華な服に身を包み頭に王冠を載せた大柄な男性と同じく豪華な服に身を包んだ活発そうな印象を受ける少女の姿があり、二人は俺達の視線を受けながら闘技場に特設された席へゆっくりと歩いていき、席の前でピタリと足を止めた。そして、とても嬉しそうな目で闘技場を見下ろすと、闘技場中に響き渡るほど大きな声を上げた。
「私の呼び掛けに応えここに集った勇敢なる者達よ、まずは諸君らのその行動に敬意と感謝を表したい。本当にありがとう。私の名はセシル・クリード、この王国を治める王であり、この武闘会の主催者だ。今回諸君らに集まってもらったのは他でも無い。現在この世界を支配下に収めようとしている魔王を討伐するに相応しい力と勇気、そして知恵の持ち主をこの場で決め、その者に我が国にて生まれた勇者の旅に同行してもらいたいからだ」
その言葉に参加者の多くがその勇者の姿を見ようと周囲を見回し始めたが、セシル王達がいる特設席や観客席にそれらしい人物の姿は無く、その様子を見ていたセシル王が大きな笑い声を上げた。
「はっはっはっ! まあ、
セシル王がそう言葉を締め括ると、闘技場中から次々と拍手が上がり、それと同時に参加者達から闘志に満ちた声が上がった。そして、セシル王はその様子にコクリと頷くと、静かに座っていた姫と一緒に闘技場から出て行き、参加者達も次々と闘技場の中にあるここの控え室へ向かって歩いていった。そんな参加者達の姿を眺めながら、俺は肩に乗っているランドにこっそりと話し掛けた。
「……あの王様、立ち居振る舞いからもただ者じゃない感じがしたよな」
『……そうだな。あの静かに立ち上る魔王への闘志や国を想う心は、どうやら本物のようだからな。本当ならばあの者と一戦交えたいところだったが、今の状況でそのような事をしては、様々な事に差し障りが出てしまうからな……』
「ははっ、確かにな。まあ、世界が平和になった後にでも、王様の所に行って話してみれば良いんじゃないか?」
『……うむ、ではそうするとしよう』
ランドが静かに頷きながら答えていたその時、突然目の前に何かがヒョコッと現れ、それに対して思わず「うおっ!?」という声を上げると、それ――ヒイロはクスクスと笑い出した。
「リュウト、その変な声は何なんだよ?」
「……ヒイロか。まったく……いきなり出てきて驚かせないでくれ」
「ははっ、悪ぃ悪ぃ。それにしても……本当にこの武闘会に出場してたんだな」
「ああ、俺達には絶対に勇者の旅に同行しないといけない理由があるからな。だから、たとえ途中でお前と当たる事になっても、絶対に俺が勝ってみせるさ」
「……へへ、そっか。まあ、その時はお互いに悔いが残らないようにしながら全力で楽しもうぜ? お前から感じる闘志や魔力はスゴいみたいだし、他の参加者をざっと見たところ、お前くらいしか戦いがいのある奴はいないみたいだしさ」
「ん、そうか?」
「ああ。相手が強いに越した事は無いけど、
「期待、ねぇ……まあ、そう言うならその期待には全力で応えてやるさ」
「へへっ、約束だぜ? んじゃ、
ヒイロは楽しそうに笑いながら意味深な言葉を口にすると、他の参加者と同じように自分の控え室へ向かって歩いていった。
また後で、か……。まるで自分が勝ち上がれる事が分かってるかのような感じだったな……。
「ランド、今の言葉をどう思う?」
『そうだな……余程自身の腕に自信があるか力の使い方を知らぬ阿呆、それか――』
ランドは何かを言いかけたが、『……いや、そう考えるのは早計だな』と静かに独り言ちると、何事も無かったかの様子で話を続けた。
『……まあ彼奴が何であろうと、我らの目的は変わらん。そして、ヒイロがお前に期待を掛けていると言うのなら、その期待には全力で応えながら彼奴を打ち破り、その上で優勝を決めるほか無い。リュウト、『トスタ』の町にて鍛練を続けてきた者の力をこの場にいる全員に見せつけてやれ』
「ああ、もちろんだ」
ランドの言葉に頷き、リオさんから餞別として貰ったロングソードの『重み』とヒイロやランドが掛けてくる期待の『重み』の両方を改めて感じた後、ランドと一緒に控え室へ向かってゆっくりと歩き始めた。
それから約十数分後、控え室で『トスタ』の町の皆の顔を思い浮かべながら闘志を静かに燃やしていると、突然ドアが軽くノックされ、それと同時にドアの向こうから大会のスタッフらしき人物の声が聞こえてきた。
「リュウト・キシバさん、間もなく試合がはじまりますので、準備をお願い致します」
「あ、はい」
その声に答えながらゆっくりと立ち上がり、傍らに置いていたロングソードを手に取ってからランドと一緒に控え室を出て、そのまま呼びに来た男性と一緒に闘技場へ向かって歩き始めた。そして、闘技場へ出た瞬間、観客達から大きな歓声が上がり、それに対して思わず耳を塞いでしまった。
「……思ったよりも歓声が大きいから、ちょっとびっくりしたぜ……」
『……この程度、魔物や竜の咆哮に比べれば大した事は無い。さて、お前の相手は――どうやらあの大男のようだな』
ランドの声を聞きながら前を向くと、そこには大振りの両刃斧を持ち重厚そうな鎧を纏った『人間族』の大男が立っていた。そして、緊張から早く打ち始めた心臓の鼓動を抑えながらそっちへ向かって歩いていくと、大男は俺の姿を一瞥してからとても余裕そうな笑みを浮かべた。
「へっ……どんな奴が相手かと思えば、そんなひょろひょろとしたガキが相手だとはな。何を思ってこの武闘会に参加してるかは分からねぇが、痛い目を見ねぇ内にそのちっこい奴と一緒に帰った方が身のためだぜ?」
「……へえ、だいぶ余裕そうですけど、 『トスタ』の町に住む師匠達に稽古をつけてもらった俺を簡単に倒せると思ったら大間違いですよ?」
その瞬間、大男は見ていてとても気分が悪くなるほど侮蔑的な笑みを浮かべると、俺にとって我慢ならない言葉を口にした。
「『トスタ』……ああ、
「……負け組、だと……?」
「ああ、そうだ。魔王軍に恐れをなした奴らが逃げ込み、お互いの傷を舐め合うだけの
「……黙れよ」
大男の言葉を遮る形で言葉を口にすると、大男は少しイラッとした様子を見せた。
「……あ? 今、何つった?」
「黙れって言ったんだよ、薄汚い筋肉ダルマ。俺達の事をどう言おうと勝手だが、日々助け合いながら生きてる『トスタ』の町の皆の事を悪く言ってんじゃねぇよ!」
「はあ? 負け犬達に何を言おうと俺の勝手だろ?」
「……そうかよ。なら、見せてやるよ……お前が馬鹿にした人達が、どれだけの強さを持っていたかを。そして、どれだけ悔しい思いをしながら『トスタ』の助けを求めなくてはいけなかったかを!」
心の底から湧き上がる怒りの感情を露わにしながら声を上げた後、俺は肩に乗っているランドに声を掛けた。
「……ランド、
『……分かった。しかし、そのままではあの男を
「…………」
「あの男の言いようが癪に障るのは分かるが、少しだけ落ち着け』
「……ちっ、分かったよ」
小さく舌打ちをしながら少しだけ怒りを抑えると、ランドは満足げに頷いた。
『それで良い。では――これよりあの愚か者に我らの力を示してやるとしよう』
「ああ、もちろんだ」
ランドに返事をしながら手にしたロングソードを鞘から抜き、大男が両手斧を握り直した後、審判役の男性は俺達の様子を一度窺ってから、闘技場中に響き渡る程の大きな声を上げた。
「それでは、試合……始め!!」
その声と同時に、大男は大きな足音を立てながら俺に向かって走り出すと、程良く近付いてからその両手斧を勢い良く振り下ろしてきた。しかし、俺が瞬時に「……『
「ぐっ……!? ま、魔法だと……!?」
「……ああ、それも元王宮魔導師直伝のな。そして、教わっている魔法はそれだけじゃない!」
目の前の膜が光となって消えた瞬間、俺は瞬時に大男の懐へと飛び込み、その鎧に向かって左手を翳した。
「……食らえ、『
その言葉と同時に、大男の鎧は大きく破裂すると、その衝撃が俺達を襲った。しかし、ロングソードを翳す事でその衝撃から身を守った後、今度は「『
「……少なくとも、さっきよりは速いが、あまりにも隙が多すぎるな」
その大男の姿にそんな評価を下した後、その攻撃をいとも簡単に躱し、瞬時に「『
「これで終わりだ、『
炎の魔力を乗せた赤い斬撃で大男の体を鎧もろとも切り裂くと、大男は「ぐはっ……!?」という疑問の色が浮かぶ声を上げながら徐に天を仰ぎ、そのまま切り裂かれた鎧が崩れ落ちると同時にその体も大きな音を立てながらその場に倒れ込んだ。その瞬間、闘技場中がシーンと静まり返ったが、俺がロングソードを鞘へ戻した音が響くと、審判は我に返った様子で再び大きな声を上げた。
「し、勝者……リュウト・キシバ!!」
その声で観客達からは大きな歓声が上がり、それと同時に闘技場内には倒れた大男を運ぶための担架を持った男達が次々と現れると、そのまま大男を担架に乗せて運んでいった。
「……これで、とりあえずは一勝か」
『うむ、やはりあの大男は大した事がない相手ではあったが、この先の相手はそうとは限らん。ここからも油断はせず、全力で当たるぞ』
「ああ、了解」
すっかり落ち着いた気持ちで答えた後、次の試合へ向けての準備を整えるために控え室へと戻った。
その後、様々な種族の相手と当たったが、魔法と剣術や格闘術を組み合わせた戦法で次々と勝利し、遂に俺は決勝戦へと上り詰めることが出来た。
「さてと……これで後は決勝戦だけだけど、決勝戦の相手はたぶん……」
『ああ、ヒイロだろうな。我らは直近の試合の対策を練るために試合の直前までこの控室にいたが、彼奴の神出鬼没さを考えるなら、お前の戦い方は既にバレていると考えても良いだろう。よって、不利な戦いを強いられる可能性は高いが、奴にもどこかに弱点や隙は必ずある。相手の攻撃や動きに注意を向けながら戦闘を行うのがベストだろう』
「そうだな。この先の戦いでも同じパターンが普通に考えられるわけだし、ここらでそういう事には慣れておかないとな」
『その通りだ』
ランドは深く頷いた後、『……気になる点は他にもあるがな』と心配そうな様子でポツリと呟いたが、すぐにいつものような落ち着いた様子を見せた。そして、控え室のドアがノックされる音が聞こえた後、俺達は静かに頷き合ってから決勝戦へ向かうためにロングソードを持って控え室を出て、呼びに来た男性の後に続いてそのまま闘技場へ向かって歩き始めた。
闘技場へ出た瞬間、ここまでの戦いとは比べ物にならない程の大きな歓声が上がり、その音の圧と観客達からの視線を身体中に浴びながらそのまま前へ進み、楽しそうに笑いながら静かに立っている対戦相手――ヒイロ・グリフィンに話し掛けた。
「……やっぱりお前だったか、ヒイロ」
「おう、もちろんだぜ! だからあの時も言っただろ?
「そうだったな。ところで、お前はここまでの俺の戦いって見てたりするか?」
「いや、見てないな。ほら、楽しみはその時まで取っときたいもんだろ?」
「楽しみ……か。その気持ちは分かるけど、楽しむ事に気持ちを向けすぎてると、すぐに負ける事になるぜ?」
「ははっ、そうならないようには気をつけるよ。それじゃあ――」
ヒイロは右手のロングソードと左手の盾を構えると、ニヤリと笑いながら言葉を続けた。
「お互いに悔いが残らない試合にしようぜ、リュウト!」
「ああ、もちろんだ!」
ヒイロの言葉に答えながらロングソードを構えると、審判役の男性が静かに俺達の様子を一度窺い、お互いに準備が出来た事を確認してから闘技場中に響き渡る程大きな声を上げた。
「それでは、決勝戦……始め!」
その声と同時に、俺はヒイロに向かって走り出しながら「『風援魔法』!」と大きな声で口にし、自分のスピードが徐々に上がるのを感じながらロングソードをヒイロへと振るった。しかし、「……ははっ、甘いぜ!」と余裕綽々な様子で言いながらヒイロは盾を構えると、ロングソードによる攻撃を容易く防いでみせた。
「くっ……流石にそう簡単にはいかないか……!」
「へへっ……そりゃあそうだろう? 俺だってここまで上がってきた一人なんだからな……!」
「そうだな……けどっ!」
俺はロングソードに力を込めたまま左手をヒイロのロングソードへと翳し、そのまま「
「氷結系の魔法……! へぇ、そんなのも使えるんだな……!」
「ああ、これでお前もだいぶ戦いづらくなったはずだ……!」
「ふふ……
ヒイロがニヤリと笑いながら凍り付いたロングソードを握り直したその瞬間、ヒイロの右手から炎の魔力の気配を感じ、俺は瞬時にヒイロから距離を取った。すると、「
「……やっぱり、お前も魔法は使えるんだな」
「へへっ、当然だろ? ここまで勝ち上がるには、様々な戦い方に対応できないといけないからな。俺をただの剣士と一緒に考えてると、足元を掬われちまうぜ?」
「そのようだな……だったら、ここからは同じ魔法が使える者として全力でやらせてもらうぜ!」
「おう、望むところだ!」
ヒイロの声を聞いた後、俺は再びヒイロへ向かって走り出しながら、持っているロングソードを勢い良く上へと放り投げた。その俺の行動にヒイロは「へぇ……!」と楽しそうな笑みを浮かべると、ロングソードの方へと
マズっ……!?
予測していなかったヒイロの動きに即座に反応が出来ず、眼前にまでロングソードの切っ先が迫ったその時、『……
え……? 今のって、まさか……?
肩に乗っているランドに視線を向けると、ランドはやれやれといった様子で静かに口を開いた。
『直接的に手を貸すのは、この一度だけであり、次は無いからな』
「……ああ、ありがとうな、ランド」
『……ふん』
ランドがふいっとそっぽを向く中、俺は未だに不思議そうに周囲を見回すヒイロへと声を掛けた。
「ヒイロ、俺達はここだぜ?」
「……え? うわっ、本当だ!」
「あはは……やっぱりいきなり後ろにいたら驚くよな」
「そりゃあそうだろう? と言うか、お前って転移魔法まで使えたんだな……」
「あー……うん、それについては後で説明するよ。それよりも戦いを続けようぜ、ヒイロ!」
「おう!」
ヒイロの返事を聞いた後、ヒイロの動きに注意を向けながら再びロングソードを構えていた時、ランドがこっそりと俺に声を掛けてきた。
『リュウト、お前は属性魔法と補助魔法以外の魔法は使えるか?』
「……具体的には?」
『対象に幻惑や麻痺をもたらす妨害系の魔法や先程の転移魔法のようなものだ』
「うーん……一応は使えるけど、俺が使えるのは初級程度の奴だけだぜ?」
『問題ない。では、リュウトよ。ここからは時折出す我の指示にも従ってもらうぞ』
「ん……それは別に良いけど、もしかしてランドも戦いたくなってきたのか?」
『半分はその通りだが、もう半分は
「見極めたい……?」
『ああ。だが、今は説明をしている暇はない。よって、この件については後で説明をする』
「……分かった。それじゃあ――ここからは魔法剣士兼竜騎士として一緒に頑張ろうぜ、
『うむ!』
そして、ロングソードを握り直してから「『風援魔法』!」と大きな声で再びスピードアップの魔法を唱えた後、ヒイロへ向かって一直線に走り出した。その様子に、ヒイロが余裕そうな笑みを浮かべながら盾を構えると、ランドは『……短絡的だな』と冷たい声で言い放ち、そのまま俺に指示を出してきた。
『リュウト、その場で歩を止めた後、ヒイロの足下へ目がけて水の魔法を使え』
「水の魔法だな……分かった」
ランドの指示に従ってその場で足を止めた後、俺はヒイロの足下へ意識を集中しながら「行け、『
「リュウト、再びヒイロへ斬り掛かるフリをしながら『氷結魔法』を唱える準備をしておけ」
「今度は『氷結魔法』だな……分かった」
ランドの指示に頷きながらロングソードを再び握り直し、俺は静かに足に力を込めた。そして、飛び出すようにしてヒイロへ向かって走り出しながら剣を振り抜こうとするような動きを見せた。すると、ヒイロはその俺の動きに注目しながら魔法を唱えようとする動きを見せたため、俺はニヤリと笑いながら剣をもう一度上へ放り投げるフリをした。そして、ヒイロの視線がそれに合わせて上へ向いた瞬間、意識をヒイロの足下にある水溜まりへと集中させながら後ろへと飛び退き、そのまま「『氷結魔法』!」と大きな声で唱えた。すると、水溜まりがパキパキッという音を立てながらみるみるうちに凍り付きだし、ヒイロはその音で自分の足下に何が起きているのかに気付いた様子を見せたが、程なくヒイロの足も氷に覆われた事で、ヒイロはその場から動く事が出来なくなった。
「くっ……!? け、けど……凍ってるなら溶かしてしまえば……! 『
ヒイロがすぐに『炎熱魔法』を唱えると、ヒイロの左手から炎が放たれ、その炎が当たった衝撃で氷は砕け散りながら次々と溶けていった。そして、それを静かに見ていたランドは『……そろそろ終いだな』と呟くような声で独り言ち、ゆっくりと目を閉じながら次の指示を出してきた。
『リュウト、雷の魔法でヒイロを仕留めろ』
「ああ、分かった!」
頷きながら答えた後、『炎熱魔法』の影響で再び水溜まりと化した氷へ向かって「『
「くっ……うわあぁーっ!!」
ヒイロは鎧や顔に付いていた水飛沫から感電し、そのままその場にガクッと膝を付いた。そして、「く……まだ、だ……!」と力を振り絞りながらロングソードを使って立ち上がろうとしたが、『……限界、だな』とランドが冷たい声で独り言ちると、それが合図だったかのようにヒイロの体はグラリと揺れ、そのままその場に倒れ込んだ。審判役の男性は、倒れ込んだヒイロの様子を窺いながらジッと見つめた後、一度大きく頷いてから闘技場中に響き渡る程の大きな声を上げた。
「ヒイロ・グリフィンの気絶により、この試合はリュウト・キシバの勝利! よって、この武闘会の優勝者は、『トスタ』出身のリュウト・キシバとなる!!」
その瞬間、観客席からは大きな歓声と俺やヒイロの健闘を讃える言葉が次々と上がり、俺は疲れや魔力の減少によってボーッとする頭でそれを聞いていた。すると、ランドから仕方ないといった様子の溜息が聞こえたかと思うと、『……
「……ランド、ありがとうな」
『礼には及ばん。指示を出したのは我だが、ここまで頑張っていたのは間違いなくお前だからな』
「……そっか。さて、とりあえずヒイロを起こしに行くか」
『うむ』
倒れているヒイロへ向かって静かに歩いていった後、再びランドが『回復魔法』を掛けると、「うっ……?」という声を上げながらヒイロはゆっくりと目を覚まし、静かに体を起こしながら不思議そうに周囲を見回した。
「あれ……俺、気絶してた、のか……?」
「そうだよ。まあ、雷と水のコンボを喰らったわけだし、しょうがないとは思うけどな」
「そっかぁ……つまり俺は、お前に負けたんだな……」
ヒイロは悔しそうな様子で天を仰いだ後、何かを思い出したように再び俺の方へ視線を向けた。
「そういえば……俺のダメージがだいぶ回復してるみたいだけど、お前がやってくれたのか?」
「いや、やってくれたのはランドだよ」
「ランドが……? でも、ソイツはミニドラゴンなんじゃ――」
『……少々誤解をしているみたいだが、たとえミニドラゴンだとしても、簡単な回復くらいは出来るのだぞ?』
ランドが呆れた様子で口を開くと、ヒイロはとても驚いた様子でランドの事を見つめた。
「……え、今……ランドがしゃべった、のか……?」
『それ以外にあるのか?』
「え、いや……リュウトが腹話術でもしてるのかなぁ……と」
『……ふん、我はそのような道化の真似事など断じてせん。まあ、お前の実力を見極めるためにリュウトに指示を出していた事を考えるならば、人形遣いのような事をしていたとは言えるかもしれんがな』
「リュウトに指示を出していた……え、つまり俺は……お前とリュウトのタッグに負けた事になるのか?」
『そうなるだろうな』
ランドが頷きながら答えると、ヒイロはポカーンとした表情を浮かべたが、やがてその表情は楽しそうな物へと変わった。
「……あははっ! そっかぁ、道理でスゴい戦い方をするわけだ!」
『む……我らの事を卑怯だとは思わんのか?』
「良いや、思わないよ。むしろ、良い経験をさせてくれた事に感謝したいくらいだぜ!」
『……そうか』
ヒイロの言葉にランドが小さく息をつきながら答えていたその時、審判を務めていた男性が俺達のところへ向かって歩いて来るのが見え、揃ってそちらに体を向けると、男性はとても真剣な様子でペコリと頭を下げてから静かに口を開いた。
「優勝者のリュウト・キシバ様。国王様が直接優勝を祝いたいと仰っていますので、共にお城まで来て頂けますか?」
「あ、はい」
少し緊張しながらそれに答えると、それを聞いていたヒイロがニカッと笑いながら俺の肩をポンッと叩いた。
「まだ色々と話したい事はあるけど、そういう事なら仕方ないよな。それじゃあ、
「ああ、また後でな」
「おう!」
そして、ヒイロに見送られながら俺とランドは男性の後に続いて闘技場を後にした。
政実「第3話、いかがでしたでしょうか」
竜斗「今回は新キャラ登場回兼バトル回だったな。ところで、もう一人の主人公はこっちには参加しないのか?」
政実「参加はするけど、次回の後書きからの参加になるかな」
竜斗「了解した。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします 」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
竜斗「ああ」
政実・竜斗「それでは、また次回」