長い間投稿が止まってしまいましたが、次話以降からは投稿を再開します。更新ペースは落ちてしまいますが、定期的に投稿していきたいと思います!!
––––––痛い。
そこから始まった。
––––––熱い。
全身を駆け巡る熱が、一息に溢れ出す。
回転する世界の中、人々の歓声を耳にして、私の記憶は途切れている。
目覚めた時、長い夢が終わった後に似た感覚だった。身体はふわふわするし、頭はぼうっとして動かない。停滞した思考のまま、私は全てを思い出そうとして––––––全てを失ったことに気がついた。
キ––––––ン。
「うっ………」
脳内では、金属と金属を擦り合わせたみたいな金切り音が響き、心の中では何かが私を焦らせる。そのどれも、私は覚えていなかった。
「大丈夫かい?昨日、ジャガールの前に倒れていたからすごい心配したんだよ」
そう言って笑ったのは、初老を過ぎた夫婦だった。その夫婦は、
例えば今降っている綺麗な枯葉たちは、〈枯雪〉と言って、しばしば起こる現象らしい。子どもたちは、この〈枯雪〉を固めて、人一人が入れるくらいの〈
平和な、暖かい家庭の中で、私は時々ここではないどこかへ意識が飛んでいくのを感じる。
暗闇で、方向感覚もない。けれど、身体の感覚ははっきりしていた。何かに濡れ、それが乾いて動きづらい事や、ボロボロの服の隙間から入る風が冷たい事。
そしてそのうち、どれくらいその暗闇にいたか分からなくなった頃、私は急に懐かしさを覚える。今までずっと探していた人に会ったような、そんな懐かしさだった。
「みつけた」
それだけを呟くと、遠くにあった私の意識は現実に引き戻される。
何回かそれを経験するうちに、それは私の記憶だと思った。そう思ってからしばらく経った頃。
「あらあら、ミルキィ。どうしたんだい?今日は両手一杯にお花を抱えて」
「おばさん………なんだか、こうすればまた会える気がして」
「何か思い出したのかい?」
「その………」
家の玄関で迎えてくれたおばさんにポツリポツリと語り出したのは、私の記憶。初めて思い出せた、「ミルキィ」という私の名前。それ以外の、二つ目に思い出した私の大切な大切な記憶の話。
小さい頃、同じ年頃の男の子と一緒に、手を繋いで花畑を歩いた事。
その時感じていた暖かさや優しさ、嬉しさも一緒に思い出して、おばさんに話すうちにいつしか私はその男の子を求めるようになった。
私がジャガールで目覚めてから数週間が経ったくらいだったか、私はおばさんとおじさんに告げた。
「私………自分の生きる理由が知りたいんです。どうして倒れていたのか、私はどこから来たのか、何も覚えていないから。あの、男の子のことも。だから私は、この世界を旅に出ようと、思います」
「そうかい………ねぇ、あなた」
「ああ。ミルキィ、少し待っていてくれるかい?」
そう言うと、おじさんは部屋の奥に行き、何かを取って戻って来た。
「私たちはねぇ、昔、シャトルを回る旅芸人だったんだよ。その時に使っていた、舞いの衣装さ。………これを、ミルキィにあげようと思ってねぇ」
「そっ、そんな大切な物を、私に」
「いいんだよミルキィ。おじさんとおばさんの代わりに、ミルキィが、色んな世界の姿を見つけて来ておくれ」
「あっ、ありがとうございます………!」
そうして貰ったのが、可愛らしいひらひらのついた貴族の令嬢が着るような服だった。太ももを露出する、上下一体となった衣装。私はそれを着て、旅に出る。
分からないままの自分を見つける、この止まったままの世界の時を進めるための旅。
今思い返すと、それは運命だったのだろう。そうなる運命ではなく、
私は旅をすると告げてから数日後に、ジャガールの端に位置するおばさんたちの家から離れ、このシャトルを門へと歩いていた。そんな時、遠くの方で馬車が見えた。馬二頭に引かれた小さな馬車だったけれど、その荷台にある荷物で、その馬車の持ち主が商人だと分かった。つい一週間前、このシャトルに商人と聖歌隊が来たと噂になっていたからだ。
「聖歌隊………」
口の中で終始した言葉が、〈枯雪〉の間に溶け出す、その一瞬前。馬車の後ろに、人影二つ。
すぐに聖歌隊だと分かった。聖歌隊は子どもがなるものだと聞いていたから。でも、それだけじゃなかった。
「あっ………!!!」
目頭が熱かった。胸が痛かった。心臓が身体を震わせていた。足が震えた。唇が揺れる。目が痛い。懐かしい、会いたかった、探していた、急にそんな感情が氾濫して、私は訳も分からないうちに走り出していた。
今走らなければ。今声を出さなければ。今じゃなければ、全てに意味がなくなる。そう、どこかからか言われている気もして、私は焦燥と共に叫んでいた。
「商人さんっ!!待って!お願い、商人さん––––––っ!!」
止まった馬車から走って来た彼を見て、ジャガールで目覚めたミルキィは、彼の言葉に驚いた。
けれど。
私を動かしていた私は、あの記憶と同じ暖かさと優しさと嬉しさを感じていた。
––––––結局、二人に私が外の世界から来たという事を話す間際になっても、その暖かさや優しさ、嬉しさが何だかは分からない。ただ、レィジさんと過去に会った事があるという事実を思い出しただけなのだから。
幻獣との戦いで意識が遠のいていたというモーブルさんの言葉。私はその間の事はあまり覚えていないけれど。
レィジさんとのこと、私がどこから来たのかということ、そして。
私が、
それが、私の何を表しているのか、私はまだ分からない。
でももし、この力が誰かを傷つけるものならば。
私はその時、自分を許せないだろう。