OVERLORD 不死者の王 彼の地にて、斯く君臨せり   作:安野雲

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オーバーロード原作13巻発売記念!(一日遅れ)

というわけ、どうぞ。


第2話「特地緒戦」(後編)

転移門(ゲート)を通った先に、先程まで遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)で見ていた光景が広がっていたことに、モモンガは安心する。

 

一応、転移阻害対策の魔法も展開していたが、それがこの世界において必ずしも有効かどうかはわからなかったし、ユグドラシルでは奇襲戦法の一つとして、転移直後を狙われることもあったので警戒していたのだ。

 

今のところは、どうやらそれらの危険はないようだが、それでも周囲への注意は怠らない。

当然、目の前にいるドラゴンにも、背後にいるであろうエルフの二人に対しても、何か動きがあれば、即座に対応できるように目を光らせている。

 

しかし、両者共に、どういうことか、微動だにせず此方を見ていた。

エルフの二人組については、驚きと警戒から身体が動かないのかとも考えられるが、この場における上位者であろうドラゴンの方まで、モモンガから距離をとっているのは何故なのか。

 

思い当たるフシがあったモモンガは、すぐに自分の身体を見て、気づく。

知らず知らずのうち、対象を固定することなく、≪絶望のオーラ・Ⅰ≫を発動させていたことに。

 

(―――――し、しまった...!また同じことを...)

 

守護者と忠誠の儀を行った時のことを思い出して、また同じことをしてしまったと慌てて解除する。

目下の敵であるドラゴンに対して発動させておくのは良いとしても、一応は助けるつもりのエルフ達まで怯えさせてしまうのは流石に不味い。

 

心中の動揺を気取らせない為にも、眼前のドラゴンに意識を向け、観察してみる。

炎を吐いていたことや、その見た目の特徴を鑑みても、その姿はユグドラシルのモンスターである『炎の魔竜』に似ていた。

ただ、見たところ、その強さ...レベルに関しては異なるようだったが。

 

絶望のオーラを受けたドラゴンは、本能的な警戒心から、低く唸り声をあげて後ずさりしていた。

この世界の住人との一時接触としては少し問題があったかもしれないが、図らずも、この世界のモンスターのレベルを知ることができたという意味では、かなりの収穫だといえる。

 

「―――――さて、今のオーラで怯んだことで、お前のレベルがどの程度なのかは大体見当がついたな。それにしても、この世界の竜種というのは、実は見掛け倒しで大して強いわけではないのか?」

 

想定していた最悪の事態―――――この世界のモンスターや人種が、自分達よりも強者であるという可能性がなくなったことに安堵しつつ、ドラゴンを挑発してみる。

 

おそらく炎龍には、モモンガが何を言っているのか、言葉の意味を理解できていなかっただろう。

それでも、自分を挑発しているということだけは、鋭敏な感覚によって察することができた。

沸々と怒りが湧き上がってきたドラゴンは、全身を震わせると、強烈な感情が込められた咆哮を上げる。

 

圧倒的強者である自分に恐怖を与えたことと、同時に自分を侮っていること、それらの事実を認識して、最早、殺意を向ける相手はエルフ達から、モモンガへと変わっていた。

 

モモンガもそれを分かった上で、骨だけの右手を掲げて、掛かってこいと誘う。

 

その仕草を開始の合図と捉え、怒りの咆哮と共に炎竜は、尻尾をモモンガ目掛けて叩き付けた。

 

この時、炎龍は自身の持つ鋭利な牙による攻撃ではなく、尻尾による叩き付けを行ったのは、相手の特徴を知っているからこその選択だった。

スケルトンのようなアンデッドは、物理攻撃において、斬撃攻撃への耐性が強い代わりに、打撃系の攻撃が弱点となっているのだ。

そういった、他種族の情報などを蓄え、激情に支配されていても即座に適切な手段を選べる能力には、炎龍の持つ知性の高さが窺える。

 

尻尾を叩き付けられた接触面からは、火花が飛び散り、鈍い音が響く。

確かに直撃した、そう確信しそうになるが、どうしてか、炎龍には当たったとわかる感触がない。

 

それもその筈、打撃を正面から受けたモモンガには、傷一つ付いていなかったのだから。

 

≪上位物理無効化Ⅲ≫

魔力量の少ない武器や、およそレベル60以下のモンスターによる、一切の物理攻撃を無効化する常時発動型のスキルである。

 

ユグドラシルでは強力なモンスターだった竜種であるという点を考慮して、もしも無効化を貫通する威力の物理攻撃を受けた場合は、安全策をとって即座に転移の魔法でナザリックに撤退するつもりだったが、案の定の結果に終わった。

それも、尻尾を一度当てただけで追撃してこない様子を見るに、ドラゴン自身にとっても相当に自信のある攻撃だったのは間違いない。

 

「…どうした、お前の全力の攻撃とやらは、この程度なのか?」

 

何の痛痒も感じていない余裕に満ちた声を聴いて、炎龍は再び怒りを覚えそうになるが、一度冷静になって、己の認識を改めることにした。

自分に相対する存在、魔導師のような風体のアンデッド―――スケルトンは、強敵だと判断したのである。

 

ならば今度こそ、一切の加減をせず、己の全力で以て叩き潰してやろう、

そう決断して、腹の奥から有りっ丈の炎を集める。

超至近距離でかつ、上方から浴びせる高熱の火炎噴射。

回避不能なその攻撃によって、一撃のもとに焼き尽くす腹積もりだった。

そして、相手が次の行動に出るよりも早く、せり上がってきた炎を一気に吐き出す―――――――

 

直前。

 

ぐしゃり、と何かが砕けるような鈍い音をたてて、炎龍は地に倒れ伏した。

最初、一体自分の身に何が起こったのか理解できなかったが、朦朧とした意識の中、いつの間にか目の前に漆黒の騎士が佇んでいることに気がついた。

騎士は、巨大なバルディッシュを片手に、炎龍を見下ろしている。

頭部から感じる鈍痛から、炎龍は、突如現れた騎士に自分は頭を殴りつけられたのだと認識できた。

だからこそ、炎龍には解せない。

そもそも、頭の高さまで飛び上がって来ること自体が自身の全長を考えれば、尋常ならざることだ。

加えて、眼にも留まらぬ速度で打ち出された一撃。

弱い生物である、竜種以外の種族によって成し得ることとは思えなかった。

 

「...お前如き虫けらが、至高の御方を見下ろすとは、恥を知りなさい」

 

不快気に吐き捨てた騎士は、何の警戒もせずに背を向けると、己が主の元へと歩いていく。

 

「...申し訳ございません。少々準備に時間がかかってしまいました」

 

先程の見下し冷たく言い放った様子とは打って変わって、モモンガに対しては申し訳なさそうに謝罪の意思を示す。

 

「いや、問題ない。実に良いタイミングだ、アルベド」

 

ちらりと、自分の背後に転移門が展開されていることを確認したモモンガは、鷹揚に答える。

漆黒のスリムな全身鎧に身を包んだアルベドは、表情こそわからないものの、主人からの労いの言葉に身を震わせているようだ。

 

「ありがとうございます。それで―――――」

 

アルベドは一度そこで言葉を区切ると、モモンガの後方に視線を向ける。

それに連られて、モモンガも振り返ると、そこには呆気にとられた表情のエルフ二人が蹲っていた。

アルベドの意図するところを理解したモモンガは、一度頭を振って、ドラゴンの方に視線を戻す。

 

「目下の敵は、目の前にいるドラゴンだ。それ以外の者達については、此方に敵対的な行動や意思を示すようなことがない限りは、手を出さない様にせよ」

 

「畏まりました」

 

躊躇うことなく首肯して、アルベドも前方にバルディッシュを構え直す。

見れば、頭から血を流しながらも何とか這い上がってきたドラゴンの姿があった。

だが、その眼にはもう闘志は感じられない。

ただひたすらに、圧倒的な存在に対する混乱と恐怖に染まっていた。

 

このままでは殺される、一度態勢を立て直さなければ。

そうだ、自分は逃げるのではない。一度退いて、再戦の為に力を蓄える必要があるのだ。

そう、逃避という屈辱的な行動をとることに、何とか口実をつくって自分を納得させる。

 

炎龍は、残り少ない余力を振り絞って両翼を羽ばたかせ、同時に尻尾の遠心力も使って、身体の向きを90度反転させる。

丁度、モモンガ達に背を向ける格好となるが、当の炎龍はそんなことなど気にも留めず、一目散に空へと浮かび上がった。

 

「...何だ、もう逃げるつもりなのか?」

 

ドラゴンの行動を見ていたモモンガは。信じられないといった風に驚いた声をあげる。

 

「ふむ...それでは仕方ないな―――――<魔法最強化(マキシマイズマジック)龍雷(ドラゴン・ライトニング)>」

 

一瞬どうしようかと迷ったものの、このまま見逃すのも癪だと思い、空中に向けて魔法を発動させる。

魔法強化されたとはいえ、第5位階程度を選択したのは、ただ単純に、足止めすることが目的だったためだ。

ユグドラシルの魔法がどのように発動されるのかや、この世界での強さを確かめるのもその一つである。

モモンガには、この世界の竜種との戦闘で、その他にも色々と試したいことがあったのだ。

 

モモンガの肩口から生じた白い雷撃は、龍の如くのたうちながら荒れ狂う。

その一拍の後、宙へ逃げるドラゴンへと突きつけた指の先から、放電を発しながら雷閃が中空を駆け抜けた。

何かに遮られることもなく、一直線に背部に命中した魔法は、勢いそのままにドラゴンの肉体を貫通し、白い筋となり虚空へと消える。

鮮烈な一撃を受けた炎龍は、苦悶の叫びすら上げる間もなく、糸が切れたように頭から墜ちていく。

直後、地響きと共に、この世界における「自然災害」とまで畏れられた炎龍は、大地へと伏した。

 

「...ん?」

 

魔法の威力に納得し、万事、想定通りに事が進んでいると思いかけていたモモンガは、首を傾げる。

地面に縫い付けられたドラゴンが、暫く待っても起き上がってくる気配がない。

よく見ると、赤みがかっていた鱗はブスブスと黒焦げ、かなりの電量を帯電しているのか、身体のあちらこちらからは白い火花が散っている。

身じろぎもせず転がっているその身体からは、生気というものが感じ取れない。

 

(...え?まさか、今ので死んだのか!?)

 

声に出さずモモンガは驚愕する。

確かに、アルベドから頭部に強烈な一撃を浴びせられてはいたが、それでも強化された第5位階魔法程度で絶命するとは予測できていなかった。

 

「...弱いな」

 

我知らず、呟いたその言葉には、呆れと驚きが綯い交ぜになっていた。

 

だが、こうなってしまった以上は致し方ない。

転移門(ゲート)を開いて、アルベドにドラゴンの死体を持ち帰らせることにする。

ユグドラシルでのドラゴンは、非常に多くの素材、しかも普通には手に入らないような貴重なものをドロップするモンスターだった。

この世界のドラゴンも、恐らくは様々な用途に使えることだろう。

今回は一体しか手に入らなかったので、幾つかの実験に用いる為にも、有効に使わなければならない。

今後の使い道を考えて、モモンガはくくっと嗤う。

そうこうする内に転移門(ゲート)から戻ってきたアルベドから、死体の置き場所について第5階層でよかったかと確認を受けて、同意する。

 

大方の用事を済ませたモモンガ達は、それまで一切声も出さず、じっとしていたエルフの親子に、漸く声を掛けることにした。

そこでふと、この世界で重要な問題について考えていなかったことに思い至る。

 

(...そういえば、この世界で日本語が通じるのか?いや、そもそもこの世界の言語って何語なんだ?)

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)は音声までは拾わないので、何を喋っているかもわからなかった。

モモンガの今の身体では、汗をかくことなどないのだが、冷や汗が流れたような気がした。

だが、アルベド、エルフ達の目がある以上、黙っているわけにもいかない。

ままよ、と覚悟を決めたモモンガは口を開いた。

 

「...さて、随分待たせてしまったな?」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「――――さて、随分待たせてしまったな」

 

抑揚のない声で話しかけられたテュカは、その言葉に直ぐに反応することができなかった。

つい今しがたまで繰り広げられていた、余りにも信じられない様な出来事の連続に、未だ放心してしまっているのだ。

 

突如、目の前に出現した黒い靄から、姿を現した骸骨の魔導師。

その風貌も異様としかいえなかったが、それ以上にテュカ達を恐怖させたのは、その者から発せられる目に見えない圧力だった。

その威力は甚大で、テュカは息をすることさえ困難になる程の混乱に襲われ、かつて「十二英傑」と呼ばれた弓の名手である父ですら、その場で立ち竦み、一歩も動けなくなってしまった程なのだ。

正直なところ、そういった状況に置かれていたせいで、その後の炎龍との戦いを、一から十まで全て見届けることはできなかった。

それでも、魔導師と女性と思われる黒騎士の力が炎竜を上回っているということは、成す術なく殺され何処かへ運ばれていく炎竜を見て、何とか理解できた。

そして、彼らに逆らうということは、自分達にとっては死に直結するということも。

 

『...弱いな』

 

テュカは、逃走する炎竜を撃ち落とした後の、あの言葉を思い出す度に、全身の肌が泡立つのを感じる。

怖い。

ただ只管に、純粋に、恐怖していた。

確かに骸骨の顔をしていたということも、テュカ達を動揺させはしたが、なまじアンデッドという種族について詳しく知らなかったし、話の通じる相手であるということから、その点において強い恐怖を抱くことはなかった。

本当に恐ろしかったのは、魔導師の持つ考えの方である。

何故、炎龍を前にしてあれ程の余裕を持って、発言することができるのか。

とても、自分には理解の及ばない領域に立っているとしか考えられない。

 

確かに、形だけ見れば自分達を助けに来てくれたと見ることもできるが、彼らがそのことについてまだ何も言及していない以上、断定するのは早計が過ぎる。

彼らの目的が、必ずしも自分達を助けることではなかったとしたら、場合によってはこれからの行動次第で自分と父の運命が決まるかもしれない。

放心状態から、次にその考えに行き着いてしまうと、下手なことを言えない上に、何を言えばいいのかわからなくなってしまう。

 

魔導師は、返答がないことを詰問しようとした騎士を片手で制すると再び言葉を発する。

 

「...返答がない、というのは少し寂しいものだな」

 

魔導師の言葉には、特に強い怒りの感情は見えず、先程と同じく抑揚のない平坦なものだった。

その一方で、彼の背後に佇む黒騎士からの無言の圧力は、より一層強くなったように感じる。

相変わらず此方からの応答がないことに痺れを切らしたのか、背後の圧力など介してないような雰囲気の魔導師は、ゆっくりとテュカ達に歩み寄ってきた。

 

「ひっ...!」

 

テュカはその動きを見て、一気に逃げ出したいという欲望に駆られそうになるが、逃げればどうなるかと考えて、何とか踏み止まる。

父、ホドリューはそんな娘の心情を案じてか、自分も相当の恐怖に晒されているだろうに、前に出てテュカを庇うような位置を取った。

そこで魔導師は何かに気づいたように立ち止まり、父の方に視線を移す。

 

「うん?火傷をしているのか?」

 

魔導師は、ホドリューの焼け爛れた右腕を見て、少し驚いているように見えた。

二人は、何故この魔導師がそのことを気にしているのかわからなかったが、次に取った行動には更に混乱することになる。

 

「そうだな...では、これを使うといい」

 

そう言って投げて寄越してきたのは、一本の水薬(ポーション)だった。

テュカがすぐにそれとわかったのは、父が街に行った時に買ってきたものを見せてもらったことがあったためだ。

当然、高価なものであるということは知っているが、テュカが最も驚いたのは、その水薬(ポーション)が赤かったことである。

テュカが知っている水薬(ポーション)とは、透き通るような水色をしていたが、魔導師が渡してきたものは、まるで血のような真紅の色に染まっていた。

水薬(ポーション)を詰めた瓶に施された意匠も、自分が見たものとは比べ物にならない程に精緻で美しく、その道の素人であっても、一目見て高級品だということがわかる。

では、そんなものを事も無げに寄越してきたこの魔導師とは、一体何者だというのか?

多くの時を生き、見てきたホドリューにも、勿論テュカにも、見当がつかなかった。

 

「どうした、早く飲まないのか?」

 

「こ、このような水薬(ポーション)を頂いても大丈夫なのですか!?」

 

水薬(ポーション)を持ったまま固まっていたホドリューは、魔導師から話し掛けられて、弾かれたように慌てて応答した。

それが、目の前の魔導師に対して初めて口にした言葉だったのだが、言葉の裏には「この薬は本当に水薬(ポーション)なのか」、そして「このまま使っても自分達には支払えるものがない」ことを含んだものだった。

 

「...ん?あぁ、勿論、問題などないとも」

 

一瞬首を傾げるような素振りを見せるが、ホドリューの意図を察したであろう魔導師は、特に逡巡することもなく快諾した。

確認を取ったホドリューは、それでも恐る恐る蓋を開けて、まず匂いを嗅ぐ。

途端、微かに香ってきたのは爽やかな果実水にも似た香りだった。

ホドリューは、以前使ったことのある水薬(ポーション)との違いに、別の意味で驚きつつも、今度は躊躇することなく一気に飲み干す。

喉の奥に流れ込んでいく程よい甘さの後、身体の奥から何か生命力のようなものが、湧いて来るのがわかった。

気づけば右腕は、ジクジクとした痛みが消えて、火傷跡一つもない元の状態になっていた。

 

「うむ、元に戻ったようだな。これで大丈夫かな?」

 

「あ、ありがとうございます!炎竜から助けてもらった上に、こんな水薬(ポーション)まで、何とお礼をすればよいのか...」

 

「何、気にすることはない。まぁ私からの好意だとでも思ってくれ」

 

魔導師は「この世界でも――――」「――――使える」などと小さな声で呟いていたが、自分達に話し掛けているようでもなかったので、何も言わないことにする。

じっと見ていると、視線に気がついた魔導師は思案するのを中断して、此方に向き直った。

 

「あぁ、悪いな。少し考え込んでしまったようだ...それで、一つ君達に訊きたいことがあるのだが、問題ないかな?」

 

テュカとホドリューは顔を見合わせてから、どんな質問がされるのかと不安に思いつつ頷く。

 

「うむ。では、君達は魔法というものを知っているか?」

 

「...魔法、ですか。位階魔法のことを仰っているのであれば、私達は使えませんが...」

 

魔導師は「位階魔法」と言ったときにピクリと反応したが、何かを言いたそうにも見えなかったので、そのまま言葉を続ける。

さらに、自分達はエルフの中でも精霊種なので、精霊魔法は使えると言うと「ほう」と魔導師は関心ありげな素振りを見せた。

 

「魔法について知っているのなら話は早いな、私は魔術詠唱者(マジックキャスター)でね、この集落がドラゴンに襲われていると知って来たのだよ」

 

魔導師ではなく、魔法詠唱者(マジックキャスター)と名乗ったことにホドリューは一瞬違和感を覚えたが、そういえば「東」の大陸では魔法を扱う者をそんな風に呼んでいると聞いたことがあった。

それより最も重要だったのは、彼らの目的がどうやら自分達の救出であるとわかったことだ。

 

「わかりました。炎竜は去りましたが、私たちは今から皆の救助に向かいたいと思います。ただ――――――」

 

「―――――無論、我々も手を貸そう。元より、此処にはそのために来たのだから」

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)が即座に返答してくれたことに、ホドリューはほっと胸を撫で下ろす。

髑髏の顔面を持った異様な存在に、最初、自分達はどうされてしまうのかと恐れていたものの、話をしてみれば実際にはとても寛大な人物であるようだ。

そこで、ふとホドリューはまだ大事な事を聞いていなかったと気がつく。

余りの出来事の連続で、こんな大切なことを尋ねるという余裕さえなくなっていたということなのだろう。

 

「あの、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「ん?何かな」

 

これから集落に向かおうとしていた魔導師は、ゆっくりと振り返る。

 

「まだ、貴方のお名前を伺っていなかったので、お聞きしたいのですが――――」

 

ホドリューの質問に、魔法詠唱者(マジックキャスター)は立ち止まって考え込む。

少しの間を置いてから、口を開いた。

 

「では、我が名を知るがよい。我こそが―――――――」

 

 

 

貴方の名前は何か。

モモンガはその質問にどう答えるべきか、迷っていた。

ここは素直にそのまま、「モモンガ」と名乗るのがいいだろうか。

 

いや、違うのではないか。

それでは、と考える。

この世界での自分の目的は、一体何なのか。

そう考えると、自ずと答えは決まっていた。

そして、この世界で自分が名乗るべき名も、

 

視線を落とすと、何時の間にかエルフだけでなく、アルベドも自分の言葉を待っていた。

 

僅かに頷いたモモンガは、己の覚悟と矜持を懸けて、その名を宣言する。

 

 

「我こそが―――――――アインズ・ウール・ゴウンである!」

 

 




はい、というわけで第2話終了です。
オバロお約束の現地の人々との一時接触、どうだったでしょうか?
あと、今後についてなのですが、取り敢えず今のところは一週間で1話以上を目安にしていきたいと思います。

それでは次回、第3話「超越者との邂逅」をお待ちください!

遂にあの二人が出会うか...?

4/29 炎竜 → 炎龍に変更しました。

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