OVERLORD 不死者の王 彼の地にて、斯く君臨せり   作:安野雲

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今回は予定していた通り、アインズ様たちナザリック陣営のお話です。

それでは、どうぞ。


第4話「往くべき道」(後編)

ナザリック地下大墳墓・第九階層。この地を支配する者の執務室には今、二人の人物がいた。

いや、彼らの正体を鑑みると「人」という表現は間違っているかもしれない。

 

まず、支配者として君臨するアインズ・ウール・ゴウン。

死の支配者(オーバーロード)は執務机に座して、目前の配下からの報告を聞いていた。

 

その配下の名は、守護者統括・アルベド。

絶対なる王に対して崇拝にも近い尊敬の念と共に、「女として」の感情を強く抱いている彼女は、しかして時と場を弁えるだけの器量を持っていた。

 

「―――――まず、先日御身自らがお救いになられたエルフ達ですが、派遣したルプスレギナによれば集落の維持継続を正式に決定したとのことです」

 

「うむ、それは良かった。ホドリューはああ言っていたが、彼ら全体の意思がどうなるかはわからなかったからな」

 

そう言って頷いたアインズだったが、対してアルベドは「当然でしょう」と微笑む。

 

「集落の維持はアインズ様の御意思によるものですから。むしろ、それに反するような不敬を働くのであれば、相応の罰が与えられて然るべきかと」

 

その顔に微笑をたたえながら血も涙もないことを言うアルベドに内心戦々恐々としつつも、アインズは話を進める。

 

「そ、そうか....だが、あの集落のエルフらは、この世界において我々が初めて友好関係を結べた者達だ。軽率に手を出すことは控えよ」

 

「はっ。わかりました」

 

アインズの意思、決定はそれ即ちナザリック地下大墳墓の総意であり、異論を挟む余地などない。

主人の言に異を唱えるような愚か者がいたとすれば、即座に厳罰を下されることになる。

それはたとえ、至高の御方々によって創造されたNPCであったとしても変わることはない。

アルベドを含めた配下の者全てが、個人差はあれど似たような考えを持っている筈だ。まだ彼らと接して日の浅いアインズは、そこまでの忠誠心を向けられているとはいざ知らず、エルフの集落への対応を協議し始める。

 

「では、集落の維持に伴って我がナザリックからも支援を行なおうと思う。まず第一に、炎龍の襲撃によって不足している食料の配布。第二に、集落の復興に必要な労働力の提供。これについては、スケルトンを中心としたアンデッドを複数渡しておこうと思っている。それから....うん?どうしたのだ、アルベド?」

 

アインズは一連の支援策を説明しようとしていたが、アルベドがやや不満げな表情を浮かべているのに気づいて、続く言葉を止めた。

 

「アインズ様、御身のお考えに口を挟む無礼をお許し下さい――――――なぜ、あの集落にそこまでの御慈悲をおかけになるのでしょうか?」

 

そこでアインズは、双方の考えに齟齬があるのだとわかり、直ぐに訂正を入れる。

 

「あぁ、そうか。私としたことが、話をする順序を間違えてしまったようだ....そもそも、私は何も彼らに感情的に肩入れして、無条件に手を貸すというのではない」

 

「モッ―――――アインズ様に間違いなど御座いません!ですが....成程、そういうお考えなのですね....」

 

「....うん?わかったのか?」

 

黙して主の言葉に耳を傾けていたアルベドは、瞬時にその言の意味するところを理解して、主の明晰なる頭脳に目を細める。

 

つまり主はこう仰っているのだ。

 

『当然、我々の支援に見合うだけの対価は支払ってもらう。その上で、今後のナザリックの利益の為に多方面で尽力させる』と。

 

今後、ナザリックがこの世界に進出していくに当たって、この地で情報を集める為の拠点が必要だ。

それも、ナザリック地下大墳墓の存在が露見することのないような場所であることが条件となってくる。

 

新しく拠点を造った場合、どうしても今まで無かったものとして目立ってしまうが、元々この世界にあったものを利用すれば、直接ナザリックの存在が看破されることはない。そういった意味で、エルフの集落は手頃な隠れ蓑といえる。

 

また、情報を集める際にもナザリックの者を用いるよりも、元からこの世界の住人であるエルフ達の方が、この地の社会通念や一般常識にも精通している為に、何かと融通が利くことだろう。拠点の問題と同じく、ナザリックの正体を隠蔽するという意味でも良いといえる。

 

それらを総括すると、確かに一定の利用価値はあるように思われた。

 

加えて、金銭の問題もある。この地の社会へと入っていくのであれば、先立つものとしての通貨は欠かせない。

然したる金額ではないが、集落には幾らかの貯金があることはわかっていた。そこで、それらの蓄えを強制的に供出させるという手もなくはない。

ただ、そうすると当然のように集落の復興は困難となる。

主が救援に対する謝礼として受け取らなかったのも同様の問題があったからだろう。

 

そこで重要となって来るのが、ナザリックからの支援である。

ただ金銭を出させるではなく、その金額に見合っただけの物資や資源、人財と交換することで集落を再興できるようにするのだ。

主人の最終目標である「世界征服」を成す為の最初の一歩という名目であれば、ナザリックの決して安くはない財を提供することに対して、配下のシモベたちも不満を覚えることなく納得できる。

 

恐らく、我らが智謀の主はそこまで見越しているのだろう。

 

そこで、アルベドはハッとする。

 

―――――いや、もしくは最初からそう考えていたのではないか。

 

このような結果になると見通していたからこそ、エルフ達を助けたのではないか。

 

そう考えると、主の取られた行動全てが完璧に説明することができるのだ。

 

そうだ、きっとそうに違いない。アルベドは強く確信し、己の主への敬愛を一層深めるのだった。

 

「....畏まりました、アインズ様。あくまでも条件付き、というわけですね?」

 

「む?....あ、あぁ。そうだとも」

 

主の肯定を受けて、アルベドは自身の考えが間違っていなかったという確証を得られたことに悦びを覚える。

 

――――――だが実のところ、当のアインズの考えは全く異なるものであった。

 

アインズとしては、わざわざアインズ・ウール・ゴウンという自分にとって特別な名を使ってまで救ったのに、後になってみすみす死なせてしまうことが許容できなかったのだ。別に救ったエルフたちに肩入れしたわけではない。

 

アインズにとって重要なのは、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』という名を汚さないこと。

たったそれだけである。

 

助けたことに付随して色々と利用できそうだという考えもありはしたが、それも漠然としたもので具体的にどうするかなどは今のところ固まっていなかった。

 

なので、短い言葉で全てを悟ったような態度を示すアルベドを見て、アインズは若干の疑問を覚えていた。

かといって、下手に突っ込んで藪蛇になるのも怖かったので、何か追及するのは止めておく。

 

次いで、他にエルフに関して考慮しておくべきことはなかったかと考えたアインズは、ホドリューが言っていたことを思い出して「そういえば」と話し出す。

 

「精霊魔法、というものがあるらしい。ホドリューは位階魔法に属さない、この地特有の魔法の一つだとか言っていたな」

 

守護者統括という重役を担うアルベドは、「この地特有の」という箇所で鋭く反応を示す。

 

「精霊魔法....ですか」

 

「あぁ....位階魔法とは異なる以上、我々にはどういった原理で発動しているのかわからない。この地特有の魔法である以上、ユグドラシルの魔法による防御が機能しないと考えておいた方がいいだろう。今後はより厳重に注意しておくべきだろうな」

 

アインズは注意喚起の意味合いを込めて伝えるが、アルベドにしてみれば集落への対応の必要性をより強化するものとして提示されたのだと思い、改めて主の慧眼に感服していた。

 

「この世界には、今回知った精霊魔法のように、ユグドラシルとは異なる法則が幾つかあることだろう。差し当たっては、今後はそれらについても調査対象に追加すべきだろうが....そう考えると、やはりこの世界で最初に友好関係を築けたのが彼らのような存在であったのは幸運だったな」

 

「えぇ、まさにその通りです」

 

アインズの考えを正しく理解していると思っているアルベドは、「わかっております」というメッセージを込めて満面の笑みで同意する。

ついては今アインズから指示された通りに、この世界特有の法則や力について速やかに調査計画を立案しようとアルベドは心得た。

 

「―――――さて、取り敢えず集落のエルフ達については今のところはこの辺りでよいな。アルベドよ、次の報告に移ってくれ」

 

「承知いたしました。それでは、ご命令の通り調査して参りました―――――――『ジエイタイ』について、報告させていただきます」

 

 

 

アインズは玉座の間で宣誓の儀を行った後、一時間と経たぬ内に再び動き出していた。

理由は、言うまでもなく「自衛隊」である。

 

突発的に姿を現したそれに、早急に対策を講じるべきという結論に達していたアインズは、集落にいる間に炎龍との戦闘時にコアンの森に送り込んでいた隠密能力に長けたシモベ複数体を使って、森から離れていく自衛隊を追跡させていた。

ナザリックに帰還した後は、この地を支える頭脳であるアルベドとデミウルゴスの両名を呼んでどうすべきかを相談する。

 

その際にアインズは自分が自衛隊について知っているということは話していない。二人を呼び出す前にはどうしようかとかなり悩んだが、最終的には「謎多き集団」という形に収まっていた。

言わなかった理由は色々とあるが、一番は配下のNPCらの混乱を招くことになるかもしれないという危惧である。

もし自衛隊に付いて説明するのであれば、それに連なってアインズの正体、さらにはユグドラシルについて説明をする必要も出てくるだろう。

そうなった場合、自分達の正体や明かされた事実を前にして、NPCたちが平静を保っていられるとはアインズには思えなかったのだ。

 

そういった複雑な事情を抱えながら、アインズは智者二人と対応策を討議した。

その結果、まず自衛隊には「威力偵察」を実行して、次いでその結果を見ながら「監視」もしくは「掃討」へと切り替えていくこととなった。

 

しかし、未だこの世界に来て分からないことの方が多い状況では、余りにも慎重さを欠いた策だというしかない。

何より、自衛隊と直前に接触していたアインズが事の首謀者として怪しまれるのは自然な流れである。

それでも、そんな下策を取らざるを得なかったのは、自衛隊についての情報をこの世界の者達がほとんど持っていないと考えられたからだ。

この世界の多くのものを見てきたと語っていたホドリューでさえ、全く聞き覚えがなかったのが何よりの証拠である。

同時に、今この時自衛隊に接触する機会を逃せば、次に情報を得られるのは一体いつになるかもわからない。

もしもアルヌスでの自衛隊と諸王国軍の戦いが流れてきていれば状況は変わったかもしれないが、当然アインズ達にはそんなことなど知る由もない。

そして、知らないのであれば、知っている情報の中で最善を尽くすしかない。

だからこそ、多少のリスクを冒してでも、此方から仕掛ける必要に迫られたのだ。

 

しかしアインズとしては、本物の自衛隊である可能性が高いことを考えると「掃討」を選ぶのはどうしても躊躇われる。

別に自衛隊がどうなろうが知ったことではないが、その結果として日本という国家と敵対することになれば、どのような結末になるかがわからない。

 

結末といっても、それが指しているのは戦闘の勝敗ではない。

 

アインズが恐れているのは、戦闘、戦争の先にある未来。

 

改めて言うことになるが、アインズ達41人がナザリック地下大墳墓を築き上げた『ユグドラシル』は、日本で発売されたゲームである。

 

では、もしもその日本が荒廃し、多くの人々が死に絶えてしまったら―――――果たして、そんな国でユグドラシルというゲームが制作されることなどあるのだろうか。

 

そして、制作されなかった場合――――――――自分達は、どうなるのだろうか。

 

ユグドラシルがあった自分がいた世界と彼ら自衛隊のいる世界が、同じ世界であるという確証があるわけではない。

だが一方で、同じではないといえるだけの保証もまた、ない。

 

再度、自衛隊の正体も含めて自分の知り得る事実全てを守護者たちに明かすという仮定もしてはみたが、やはりどうしても「最悪の可能性」にばかり囚われてしまい、結局言い出すことができなかった。

なので今は、少しでも「掃討」という結果に流れないようにとアインズ自身が努力するしかない。

 

アインズは、誰にも打ち明けることのできない恐怖を胸に秘めながら、それでも強い意志を滲ませる。

これからどのようなことが起ころうとも、仲間たちが残したナザリックだけは、絶対に守り切ってみせると。

 

 

―――――しかし、事態はアインズ達の思わぬ方向へと動くことになった。

 

 

まず、第一段階として自衛隊に対して行う「威力偵察」では現地の魔獣などのケモノを用いることになった。

この世界の生物とはその姿形も力量も大きく異なるナザリックのシモベは、そこからナザリックまでの足がついてしまうという危険性から即時除外されている。

その点、この地に元々いる生物であればナザリックに繋がる証拠にはなり得ないし、何より唐突に襲われたとしても不自然さは遥かに少ない。

多少の面倒はあるだろうが、獣などに襲われてもおかしくないような状況を整えてやれば、アインズを含めた何者かによる計画的な襲撃ではなく、自然の内に起こってしまった不慮の事故と認識させることもできる筈だ。

 

その考えがまとまったところで、ビーストテイマーを取得しており魔獣の扱いにも精通しているアウラに、適当なケモノを見繕って捕まえてくるよう命じた。

場所はナザリックからも近いコアンの森で、その奥深くには危険度の高い様々な種類のケモノが棲息しているとホドリューらから聞いている。

アウラがレベル80以上のシモベ複数体を伴いナザリックから離れて捕獲作業をしている間、アインズ達は自衛隊を追跡している配下の者達に随時報告させながら、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)でも並行して監視を続けた。

 

アウラが何体かのケモノを確保して戻ってくるのとほぼ同じタイミングで、自衛隊の面々が人間の集落に入っていく。報告によれば「コダ村」という人間の村であるらしい。

どうやらコアンの森に行く前にも立ち寄っていたようで、その目的はこの世界に関する情報収集だった。

 

これで一つ判明したのは、自衛隊がナザリック側と同じくこの地について余り情報を持っておらず、恐らく来て間もないということ。

何らかのブラフという可能性も、その必要性を考えると無意味だと思われる。

 

自衛隊がおよそ自分達と大差ない立場にあるという確信と共に、先日エルフの集落で彼らからの助力の申し出を断った選択に、改めて間違いはなかったと安心する。

 

情報とは、力だ。

知っている者、つまり「持っている者」はそれだけで「持っていない」者との間に明確な差をつけることができる。

 

――――――世界では、『持っている者』が勝者だ。

 

それは、アインズがユグドラシルのゲーム内で学んだことの一つであり、ギルドの軍師であった、ぷにっと萌えからもよく言われていたことだ。

 

そんなことを回想していたアインズだったが、デミウルゴスから襲撃をかける場所として、コダ村を離れて暫く行った道沿いの林近辺ではどうかという提案を受け、すぐに採用した。

また、可能であれば、裏での工作等がバレにくい夜間が望ましい―――――――そう、考えていた時であった。

 

 

コダ村が、水龍に襲撃されたのだ。

 

当然、アインズ達にとっても全くの予想外の出来事である。

だが、一方で都合がいいのも確かだった。

 

幾つかの策を用いることで此方の情報を掴ませることなく「威力偵察」を行うつもりだったが、それでも直接何もせずに済む方が良いに決まっている。

たとえ疑われようが此方の身の潔白は保証されていて、また証拠隠蔽の為に面倒な手間をかける必要がないというのもありがたい。

 

期せずして自衛隊の戦闘能力を確認できる機会が訪れたわけだが、アインズ達もただ観察しているだけではない。

水龍との激戦を繰り広げている間のどさくさに紛れて、追跡させていたシモベらの内、シャドーデーモンの何体かに伊丹を含めた数人の自衛官の影に潜り込むよう命じる。

当たり前の如く伊丹達はそれには気づけず、なお必死に水龍との戦いを続けていた。

 

延々続くかと思われたその戦闘は、最終的には水龍を追い払う形で決着したが、結局自衛隊の戦闘力を見極められたかというと、やや微妙な結果になっていた。

 

それというのも、水龍を追い払う決め手となった攻撃には別の手が関与していたのだ。

 

真っ黒の奇抜な衣装を身に纏った幼い少女である。

彼女は巨大なハルバードをまるで棒切れのように振り回し、束の間水龍の動きを止める程強力な一撃を浴びせたのだ。

後に、彼女の正体はロゥリィ・マーキュリーという、特殊な力を持つ亜神なる者だということがわかった。

ただ、報告の内容には「神の恩恵」やら「神託」といった眉唾ものも含まれており、要確認する必要がありそうではあったが。

とはいえ、その戦闘を一見しただけでも彼女がどれだけ人間とはかけ離れているかは容易に理解することができ、自衛隊の大きな助力となったのは間違いない。

 

そして、自衛隊当人らに対しても、その装備に疑問が残った。

乗っていた車両もうそうなのだが、各種の武装を見ても、明らかに時代遅れな代物ばかりなのである。

アインズがいた時代も、100年前も自衛隊がどのような装備であったかは詳しく知らないが、それにしても歴史の授業で出てきても不思議でないくらい旧式に見える、というのが率直な感想だった。

ナザリックでは、プレアデスのシズ・デルタが類似する装備を持っているが、その性能は天と地ほどの差があるように感じる。

故に、果たしてこれが自衛隊の本当の実力かどうかと問われればかなりの疑問が残るし、アインズ本人には否であろうと思われた。

そう思う理由には幾つかあったが、確信を得るには自衛隊が何処から来たのか、また現在どのような状況に置かれているのかといった情報も必要となってくる。

 

その為、第二段階では「掃討」ではなく「監視」を継続する方針で決まった。

 

また、監視対象には自衛隊以外にも、水龍との戦闘で驚異的な実力を発揮したロゥリィも追加されている。

いや、むしろ戦闘能力という意味では、場合によっては自衛隊よりも重要視すべき対象になるかもしれない。勿論、「掃討」を選択しなかったのは彼女の存在も大きかった。

保有レベルがどの程度のものか調べようとすると、何らかの対策が施されているのか正確に判断することができなかったのだ。

そこで監視方法は、そういった不明な点を考慮して間接的なものに留め、シャドーデーモンを潜ませるのは一端止めておくことに決まった。

幸い、ロゥリィは自衛隊に付いていくことになったらしく、これで調査の手間もぐっと抑えられることになった。

自衛隊と別れていたら、独自で調査する対象として隠密能力に長けた高位のシモベを複数監視に割かなければならないところだった。

 

こうして結果的には此方から手を回すことなく戦闘データを取ることができたので、アウラが用意していたケモノを嗾ける当初の作戦の方は中止させ、シャドーデーモンの密偵を中心とした「監視」へと本格的に動くことになったのである。

 

 

それが今、報告としてまとまり、アインズまで上がってきたところだった。

 

「ジエイタイの拠点は先日に連中が申していた通り、アルヌスという丘陵地帯にありました。既にかなり大規模な陣営を構築していますが、今もなお拡大増設を続けているようです」

 

「ふむ、そうか....では、今後は既存の施設や設備にどのような種類があるかと、今建設されている施設の情報などを調べるように通達せよ」

 

「はっ、畏まりました。....次はジエイタイが所属している国なのですが、少々気になる点が御座いましたので、優先してご報告させていただきます」

 

「....む。何か、あったのか?」

 

アルベドが「気になる点」と言ったところで、アインズはピクリと反応しかけたが、どうにか勘付かれずに済んだ。

 

「はい。ニホンという国名だったのですが....ジエイタイの連中の話によると、この世界とは別の場所(・・・・)に国土があるというのです」

 

「....ほう、面白い話だ。続けよ」

 

はっ、と威勢よく返事をするアルベドは、敬愛する主人に面白いと仰ってもらえたことに歓喜していたのか、普段と違って冷静さを欠いていた。

だからであろうか。報告を聞いた時、ナザリックの支配者の声が僅かに震えていることにアルベドは気づかなかった。

 

「どうやら『門』(ゲート)と呼ばれる特殊な通路を介することで、此方側の世界に渡ってきているのであるとか....証拠として、実際にその『門』(ゲート)なる場所から物資が運び込まれていく一部始終の様子を確認することができたとも報告されております」

 

「そ、そうか....であれば、彼奴らの本国はやはりその向こう側にあると考えるのが、現時点では妥当か。その『門』(ゲート)の構造についても気になるところだな。マジックアイテムなのか、もしくは別で、この世界特有の法則が関わっているのか....」

 

「まさしく、仰る通りです。付きましては『門』(ゲート)についても、より詳しい情報が入り次第報告させようと思います。それでは、次に――――――」

 

その後、水龍の襲撃によって帰る場所がなくなったコダ村の住人を避難民として受け入れ、連れてきた伊丹の隊の者が中心に対応していること、この世界のことを「特地」と呼称していること等が報告されたが、その中でも注視すべき情報が一つだけあった。

 

「....成程、伊丹らは上層部に我々のことを報告したか....」

 

言いつつ、アインズはその骨も皮もない、すべすべとした顎骨を右手で触る。

口止めなどはしなかったので、当然報告されるだろうとはわかっていたので、特に驚きなどはなかった。

どちらかというと、気を付けなければいけないのは、その報告を受けて自衛隊上層部がどのような判断を下すかだ。

 

「....やはり、あの時消しておくべきだったでしょうか」

 

「止せ、アルベド。まだ我々と敵対すると決まったわけではない。軽率な行動によって我々自身の首を絞めることにもなり兼ねないのだ、消すかどうかは慎重に見極めた上でなければならん」

 

物騒な事を提案してくるアルベドを、アインズは慌てて諫める。

絶対的支配者からの命令を受けて「申し訳ございません」と謝罪するアルベドは、叱られたくせに口角をつり上げている始末だった。

 

「兎に角、今後は自衛隊が我々の存在をどのように認識して、対応するつもりであるのかを最優先で調査して、報告させるのだ。よいな?アルベド」

 

「勿論で御座います、アインズ様」

 

アルベドの承諾を受けて納得したアインズは、早速次の報告に移らせる。

 

この報告を始めてから既にかなりの時間が経過しているが、アインズは休みを取る気はない。

アンデッドの種族特性により疲労も睡眠の必要もないという身体的な理由もあるが、それ以上にいち早くこの世界の有用な情報を聞いておきたかった。

 

アルベドの報告を聞きつつ、分厚い書類に目を通していたアインズは、ある単語を聞いて眼窩の炎を揺らした。

 

「....オーステン大陸か」

 

オーステン大陸。

今ナザリックがあるファルマート大陸の東部にあるもう一つの巨大な大陸。

ファルマート大陸とは幾つかの点で異なっているということ以外にほとんど情報が入っていなかった地である。

 

「はい。大陸の東端、港湾地区と帝都近辺を中心に調査させました。まず、オーステン大陸の人間の国家と交易を行っている拠点は、【レイムス港】。国家間で交易を行っているのは【リ・エスティーゼ王国】と呼ばれる国だけだそうです。ただ、民間での交易はそれ以外の国ともある程度行っているようで、【バハルス帝国】、【スレイン法国】といった名称の国々がありました」

 

「ホドリューからの情報にあった通り、此方側とは違って幾つかの国家があるのだな....それ以外ではどうだ?」

 

「言語はファルマート大陸とは厳密には異なるようですが、類似している部分が多く、実際に日常的な会話をする際にはほとんど誤差の範囲内に収まるので、問題ないようです」

 

アインズは、例えるならスペイン語とポルトガル語みたいなものか、という認識で納得した。

 

通貨は異なっていたが、国家間での交易をしているのでその辺りの問題はない。

ロムルス帝国とリ・エスティーゼ王国の交易港には両替所があり、交金貨も発行されていた。

通貨のレートなどは流石にまだわからなかったが、それ以外にもファルマート大陸とは異なる特徴が幾つも見つかった。

 

「やはり、ファルマートとオーステンでは文化が異なるよう―――――――む?」

 

アインズは斜め読みでぺらぺらと資料を捲っていたが、一つの項目が目に付き、その手を止める。

そこには三つの文字が記されていた。

 

「....『冒険者』、だと?」

 

アインズは、アルベドの方を見て詳しく説明するようにと促す。

 

「それは....依然調査中ですが、オーステン大陸のみにある職業の一つだと報告されています。どうやら、個人である程度以上の戦力がある者が請け負うことが多い職業のようですが....それ以外の情報に関しては憶測の域を出ないので言及を控えさせていただきました」

 

そこまで報告すると、アルベドは急に表情を曇らせて頭を下げる。

 

「冒険者の件も含め、力及ばず申し訳ないのですが....その他にも各国々の政治状況、体制、生活状況とその水準などの部分は未だ調査中です。魔法についてもどのように扱われているのか、ファルマート大陸と異なっているのかなどはまだわかっておりません」

 

「ん?あぁ....気にするな、アルベドよ。今回は調査時間も短かったし、報告までに裏が取れる情報に限定させたのだ。無理もないだろう。むしろ、この短時間でよく情報を集めてくれたな」

 

アインズは、よくやったと笑いかけようとするが、よくよく考えると顔は骸骨なので笑いようがないということに気づく。

それでもアルベドには伝わったのか、アインズの言葉を聞くと、それまで曇らせていた顔色が、ぱぁっと晴れるのが見えた。

 

「ア、アインズ様....!勿体なきお言葉です!」

 

改めてじっと見ると本当に可愛いな、などと暢気なことに気を取られそうになるのを何とか抑えて、アインズはまだ仕事は終わっていないことを思い出し気を引き締め直す。

 

「う、オホン!ア、アルベドよ....それでは、オーステン大陸の調査は今後も継続して行ってくれ。では、次の報告を頼むぞ」

 

「はい!アインズ様!」

 

それからのアルベドは、アインズから直々に褒められたことで終始上機嫌で報告を続けていた。

 

 

 

「....ふぅ。や、やっと終わった....」

 

アインズは椅子にもたれ掛かって、大きな溜息(のようなもの)をついた。

 

あれから数時間に渡って続いた報告が漸く終わって今は、一度アルベドには退出してもらったところである。

それでもお付きのメイド―――――今日はフォアイルが、アインズから少し離れた扉の近くで控えているので一人というわけではなかった。

 

何処に行くにも誰かがついて回る現在の状況は、「鈴木悟」という一介のサラリーマンの精神が残るアインズには――――――はっきり言って、苦痛である。

 

正直なところ、少しの間でもいいから誰にも近寄られず一人でリラックスできる時間が欲しい。とはいえ、そのままシモベ達にそれを伝えるわけにもいかず、こうして悶々とした感情を内に溜め込むことになっているのだ。

それこそ真っ当な理由でもない限り、配下の者達から構われることなく外に出るのは難しいだろう。

 

今後もこんな状況が続くのかと陰鬱な気分になりながらも、アインズは自分がこのナザリックの支配者として振る舞わなければならないという使命感も忘れることはない。

 

(さて、どうしたものか....)

 

報告の内容をゆっくりと再び飲み込みながら、これからどのように行動していくべきかを考える。

 

執務室の天井を見上げ、少しの間己の思考の中へと入っていく。

自分達を待つこの世界での未来のこと、ナザリックとNPC達のこと―――――――そして、この世界の何処かにいるかもしれない友たちのこと。

自分はどのような道を歩んでいくべきなのか。

一つの見方だけでなく、これからの大局的な見地からも考える。

 

 

そして、アインズは決断した。

 

 

 

「うむ。行くか――――――オーステン大陸へ」

 

 




これにて、第4話は終了です。如何だったでしょうか?

取り敢えず次回の方針は決まっているのですが、特に自衛隊の方を原作とどう変えて展開していくのか、中々悩み所です...
次回までにはどうにかしないと。


それでは、次は第5話「いざ戦場へ」でお会いしましょう。

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