機動戦士ガンダムSEED DESTINY 〜僕の平和〜 作:自由の魔弾
〈あんまり成績よくないんだけどね、デブリ戦って…〉
ルナマリアが通信機越しにぼそりと呟く。彼女が言っているのはシミュレーションでの戦歴の話だ。小惑星やコロニーの構造材らしき破片が時折視界を遮るのを不安に感じているらしい彼女に、シンが発破をかける。
「向こうだってもうこっちを捉えてるはずだ。油断するな!」
それに負けじと言い返すルナマリア。
〈わかってるよ!レイみたいなこと言わないでよ。調子狂うから!〉
彼らと僚機のゲイツR二機、その少し後ろをレイのブレイズザクファントムが追従している。破壊されたコロニーの破片が漂う前大戦の墓場のようなデブリの海を進んでいくと、戦艦の位置を示す大型の熱量が手元のモニターに光点として表示されている。敵艦のボギーワンだ。その光点は先程からずっと同じ地点にとどまり、こちらを待ち構えているかのように動かない。
〈…妙だな。これほどまで接近しているにもかかわらず、護衛のMSの影すら見えないとは〉
〈奴さんの作戦通りにアイツらの裏を取れたってことでしょ?さっさと例のMS、回収しようぜ〉
レイの言葉にゲイツRを操縦するショーンが楽観的に捉えるが、シンは徐々に不審を抱き始める。
(何でだ?何でまだ手を打ってこないんだ…まさか!?)
シンは一拍遅れて事態を悟った。それと同時に付近のコロニーの残骸の陰で何かが動いた。
「不味いッ!囮だ!!」
シンが味方機に向かって叫んだのとほぼ同時に、デブリの陰から飛び出したのはカオス、ガイア、アビスの三機だった。シンは息をのみ咄嗟に回避運動に入る。残りの四機も散開し、アビスのビーム斉射がその間を駆け抜ける。しかし、カオスから分離した兵装ポッドで一機のゲイツRを両側から押し包みビームで串刺しに、もう一機のゲイツRを不意をついたガイアの放ったビームライフルが逃さなかった。戦闘開始後、僅か数秒で味方の機体が二機も炎に包まれた。
〈ショーン!デイル!あっという間に二機も…。そんなッ!〉
ルナマリアが悲痛な声を上げ、シンも苦いものを堪えて歯をくいしばる。
「くそっ!動きが無いからって油断してた…。まさか待ち伏せされてるなんて!」
交錯するビームをかわしながら、シンの脳裏にふとある思いが浮かんだ。
ーーーなぜ、ソーマはこの場に居なかったんだーーー
ーーーまさか最初から知っていたのかーーー
発進して間もない頃、気づけばいつのまにか彼のMSだけが自分たちの集団から消えていたのだ。シンは苛立ちと不信感を抱きながらモニターの光点を睨みつける。すると、その光点が画面上から消えると同時に自分たちの旗艦ミネルバの後方付近に再度光点が表示された。
〈ボギーワンがミネルバの後ろに!?私たち、まんまとハマったってわけ!?〉
ルナマリアもそれを見て驚愕の声を上げる。
「あぁ、そういうことだね!」
カオスの兵装ポッドから放たれたビームを回避しながら、ヤケになったように叫び返す。
「散開して奴らを振り切る!ミネルバを援護するんだ」
レイが冷静に命じ、赤いザクとインパルスがその言葉に従って離れていく。シンは次々と追いかけてくるビームを避けながら悔しげに叫んだ。
「けどこれじゃ、戻れっていったってッ!!」
自分たち主力MSを引き離されたミネルバが叩かれる、と焦る気持ちと裏腹に、戦況は不利なままだ。敵機を振り切って帰還するどころか、撃墜されたゲイツRのあとを追わずにいるのが精一杯だった。
「後ろを取られたままじゃどうにもならないわ!回り込めないの!?」
グラディス艦長が苛立ちを露わに尋ねるが、ミネルバの操舵士は首を振る。
「駄目です!今は回避だけで手一杯です…!」
「小惑星に阻まれているんじゃ、こちらの火器の半分も…!」
艦長が悔しそうに呻く。主砲などの射角では背後の敵を捉えることが出来ない。ミサイルも周囲に浮遊している岩の破片やデブリに当たり、敵艦まで届くことは望めないのが現状である。
「ミサイル接近!数六!」
その時、索敵担当兵が敵艦からの砲撃を告げ、「迎撃!」とグラディス艦長が反射的に命じる。が、ブリッジに入っていたアスランがミサイル群の予想コースを見て思わず席を立って叫んでいた。
「…不味い!艦を小惑星から離して下さい!」
グラディス艦長が振り返りかけるが、だが既にミサイルが眼前に迫ってきていた。もう遅いと確信した矢先、次の瞬間には自分たちが思い描いていた光景とは違う景色が広がっていた。艦に向かって放たれたミサイル群は直撃はおろか、全て撃ち落とされていたのだ。
〈彼の言うとおりです!直ぐに艦を離脱させて下さい。後方の敵機は僕が引き受けます〉
ソーマからミネルバへ通信が入る。彼が駆るMSが飛来するミサイル群を狙撃して撃ち落としたのだ。
「一体どういうこと!?」
グラディス艦長がソーマに問いただす。ソーマの駆るグローリーはミネルバに向かってくるダガーLのメインカメラをビームライフルで潰しながら答える。
〈今ミネルバが居る小惑星はMSならともかく、戦艦の退路を確保する余裕がないんです。今のミサイルも艦を狙ってではなく付近の岩石や破片で動きを封じるのが目的なんです。戦艦は足を止められたら終わりですからね〉
ソーマのあまりにも的確な判断に、グラディス艦長以外の乗員が驚きの表情を浮かべていた。
「…なるほどね。分かったわ、ミネルバはこのまま離脱する!上げ舵十五!」
艦長の声が指示を飛ばす。次第にゆっくりと動き出すミネルバを守るようにグローリーが迫り来るMS部隊を撃墜していく。その実力は前大戦で災害と呼ばれた謂れを感じさせる。
「旧式の機体であそこまでの動きが…」
グローリーの動きを見ていたアスランは、その巧みな操縦技術に魅せられていた。パイロットの腕次第で限界以上の力を発揮するMSを知っている。かつて何度も対峙した親友の機体を。
アスランは内心自分を責めた。ソーマと自分はお互いの立場も境遇もそう変わらないはず。なのに彼は持てる力を発揮して今も戦場に身を投じている。対して自分はと言えば、戦う力を否定しながら戦いの中に身を置いて、やはり力を欲している自分の矛盾を。
「よしッ…ミネルバは上手く離れてくれたみたいね。あとはあのMAを…クッ!?」
ボギーワンから発進したMS部隊を全滅させたソーマは指揮官機と思われるMAの迎撃に向かおうとした最中、後方からMSが接近している警告アラームが鳴る。
廃コロニーの陰から飛び出してきたのは、振り切ってきたレイを追ってきたガイアだった。その振り切ったレイはと言えば、指揮官機と思われるMAのみをまるで執着するように狙撃していた。遊び相手を失ったガイアはまるで新しいおもちゃを見つけて気が変わったかのようにビームサーベルを抜き放ってグローリーに肉迫してきた。
「クッ…!連戦とはね。手当たり次第にってか?」
対するグローリーもビームサーベルを抜き放って対峙する。互いの太刀筋をシールドで受け止め、隙をついて斬りかかる。ソーマはこのガイアのパイロットがかなり出来ると感じていた。機体に触って数時間でここまで機体を自分のものにできるなんて。
「連合の艦ってことは、パイロットもナチュラルのはずだよな…。天性の才能なのか、はたまた俺と同じか…」
機体の回収を命じられてるミネルバに従っている以上、なるべく無傷で手に入れなくてはならない。手っ取り早い話はコックピットだけを潰せばいいわけだ。
「この獣みたいな動きの奴を相手にか…?」
愚痴を漏らしながら、ソーマは衝動に突き動かされるまま機体ごと急旋回させて、付近のデブリに向けて小型のグレネード弾を炸裂させる。次の瞬間、その空間は爆発に包まれ一時的にセンサー類を狂わせていく。多数の熱源と爆音によりメインカメラ以外の計器を使わせないためだ。さらにこの状況でビームサーベルを使用するのは暗闇でペンライトを振るようなもの。相手に自分の位置を知らせることになるし、機体の回収を考えると不用意に振るって間違っても機体を破損させるなんてことはあってはならない。よってここで使うべき戦法は一つだった。
「効いてくれよ!」
ビームサーベルを手放し、そのままメインカメラに向かって掌底、コックピット部にエルボーと膝蹴りをくらわせる。衝撃を与えることでパイロットの気絶を促すつもりだ。まぁ、たかだか二、三発の衝撃で気絶するほどそう上手くはいかないのだが。
「ぜ、全然ピンピンしてるじゃないか…。本当に獣かよ」
ザフトの最新鋭機と旧世代の機体。その性能は月とスッポンほどの差があることは言うまでもなく、シールドと頭部バルカンのみの兵装しか残されてないグローリーにとってはまさに死闘と言えるものになろうとしていたが、不意に信号弾が三つ打ち上げられ宇宙の闇を彩った。
「あー…」
ガイアの動きが糸の切れた操り人形のように、急に大人しくなる。コックピットの中では、さっきまで殺気立った表情を浮かべていたステラの顔から跡形もなく拭い去られ、彼女はうっとり光を見上げていた。この光が彼女はとても好きだ。帰っておいでという意味だということもあるが、ただ純粋に綺麗だと思っているからだ。
ガイアの傍らにいつのまにかカオスとアビスの姿があった。通信機からアウルの声が入る。
〈チッ、二点勝ちで終了かよ〉
〈仕方ない。ステラ、ネオが呼んでるぜ。帰ってこいってさ!〉
「うん…。次は、負けないもん…」
ステラは複雑な気持ちのまま頷く。彼女も自身の戦績には不満だった。前回も現れた白いヤツをまた堕とせなかったし、赤いのも目障りだった。しかし、それ以上に今回新しく現れた古いヤツだ。アイツには一太刀も当たらなかったし、素手でも勝てなかった。まるで大人が子どもをあやすかのように。
でも次はきっと堕とせるだろう。今はもう帰る時間だ。ネオも待ってる。彼女たちは遊び疲れた子供のように、喜び勇んで母艦を目指した。