機動戦士ガンダムSEED DESTINY 〜僕の平和〜 作:自由の魔弾
「ボギーワン、離脱します!」
どこかホッとした声で、バートが告げた。続いてメイリンも報告する。
「インパルス、ザクルナマリア機、レイ機共にパワー危険域です」
次々と寄せられる報告は、全てタリアにひとつの事実を教えていた。これ以上、戦闘は継続できないと。
ミネルバのMS部隊は満身創痍だった。今動けるのはソーマのグローリーとミネルバのみ。ボギーワンを目の前にしながら、もはや打つ手がなかった。
「グラディス艦長、もういい。あとは別の策を講じる」
苛立つタリアを制するように、後部座席からデュランダルが声をかけた。その言葉は任務の失敗を意味していた。最新鋭の戦艦とMSを与えられておきながら、自国と友好国の元首をさっきは撃沈の危険にさらしてしまったのだ。しかも、その危険を救ったのは部外者たるアレックスもといアスラン・ザラと民間人のソーマ・アイリスだった。そんな自分の不甲斐なさが口惜しいのだろう。彼女は忸怩たる表情で頭を下げた。
「…申し訳ありません」
ほどなく彼女はデュランダルともう二人の客人に付き添い、艦橋をあとにした。
「アスラン・ザラ?アイツが!?」
「もしかしてとは思ったけど、本当だったとはねぇ…」
帰還したシンやルナマリア達は驚きの声を上げた。当直を終えたメイリンが艦橋で起こったことを告げたのだ。驚愕する二人をよそにレイだけは眉ひとつ動かさないが、一応の興味はあるのか黙ってメイリンの話を聞いている。
「だってぇ、議長が言ったのよ、『アスラン・ザラ君』って。それで彼、否定しなかったんだもの。でもでもっ!それだけじゃないの、もう凄かったんだからぁ!」
ルナマリアの妹のメイリンは、姉と正反対の女の子っぽい甘えた口調で話す。危機的状況においてアスラン・ザラが呈示した起死回生の案によって艦が救われたということを。
「…でもぉ、ホントに名前まで変えなきゃなんないもんなの?」
みんなでレクリエーションルームに向かう間も、メイリンとルナマリアはなおもアスラン・ザラの話題を続けていた。女は気楽なものだとシンは苛つきながらも、ふとさっきの戦闘が蘇る。まんまと敵に翻弄され、ミネルバの危機をアスラン、そしてもう一人の部外者であるソーマに救われた事実に不満だった。
その時、先を歩いていたルナマリアがぴたりと足を止めた。彼女に並んでいたメイリンが飛び上がり、後ろに続いていたレイの背後に慌てて隠れる。その理由はレクルームのベンチに腰かけていた二人の人物だった。共に艶のある黒髪の、自分たちより一、二歳ほど歳上に見える青年達が話していたのだ。
「さっき艦長さんから聞いたよ。君の機転がミネルバを救ったんだってな…本当に感謝してる」
「いや、俺は別に…あなたがミサイルを撃ち落としてくれなければ、損傷はもっと酷かったかもしれないし…作戦もしっかり練られていたおかげでしょう」
「…そうでもないよ。俺の立てた作戦は完璧なんかじゃなかった。もし完璧なら、きっと全員生還できたはず「アンタの言う通りだなッ!!」ッ!」
割り込むように発せられた言葉にその場に居た当人以外は、驚いて声の方を見やる。シンはズカズカと歩いてくると、座っていたソーマの襟首を掴んで立たせ、更に責め立てた。
「アンタの作戦の所為で、戦死した奴だっているんだ!ミネルバも沈むかもしれなかったんだ!アンタは自分だけ離れて俺たちを先行させた!それは俺たちを囮にして奴らを引きずりだそうとしたんだ!そうだろ!?」
「ち、ちょっとシン!?」
堪らず陰に隠れていたルナマリアとレイがシンをソーマから引き剥がす。ソーマは持っていたドリンクを落とした際に、中身が服にかかってしまったのを拭こうとするもちょうどいい拭くものを持ち合わせていなかったため、仕方なくそのまま言い返す。
「…どう受け止めてくれても構わない。さっき艦長さんと話して、暫く監視付きで営倉に入ることになった。いつでも文句言いに来てくれ。じゃ、そういうことで」
白々しく聞こえるくらい淡白に答えると、ソーマはレクルームを出てこうとする。
「なっ!?オイ、まだ話は終わってない!」
なおも摑みかかろうとするシンを、レイが制する。
「シン!それ以上は止めるんだ。彼は軍人ではない、あくまで一般人だ。それに作戦立案や戦闘指揮は議長が認めたことだ。それを否定することは、議長を否定することと同義だ」
ぐうの音も出ないほどの正論を並べられ、カッとなっていた考えも次第に冷静さを取り戻していくシン。
その場にいた全員が安堵の表情を浮かべると共に、一つも反論しないで全てを受容したソーマの行動を不審に思った。特に作戦前の彼の行動や性格を少しでも知っていたメイリンは、その激しい落差を不思議に感じていた。
「おい起きろ、お前に客人だ」
数時間後、営倉で仮眠をとっていたソーマは監視を命を受けている士官に扉越しのブザーで起こされる。その扱いはまるで捕虜に等しいものだった。手錠をかけられていないのが唯一の救いだが、四六時中監視されていてはそれもまるで意味を成さなかった。
「誰だ…?まぁいいか。どうぞ〜…」
寝起きだった所為かほとんど生返事をしたソーマ。すると扉が開き、訪ねてきた人物が明らかになる。
「あ、お休み中のところすみません。食事と替えの服を……って!!な、何で裸なんですかァ!?」
訪ねて来たのはメイリンだった。どうやら仮眠をとっている間にとっくに夕飯と時間を過ぎていたらしく、いつまで経っても食堂に来ないのでちょうど食堂に来ていた彼女が頼まれたというわけらしいが…。
「いや、濡れたの乾いてないし、寝る時いつも裸だし…ちゃんとパンツは履いてるし。その割には全然視線をそらす気配が無いじゃん。メイリンちゃんはエロい子だな〜」
ハッハッハ〜と特に気にもとめずメイリンが持ってきた夕飯を受け取るソーマ。羞恥心が頂点に達したのか、メイリンは顔を真っ赤にしながら持ってきたザフトの軍服(緑)を強引に手渡す。
「は、早くそれ着てください!もぉ〜、本当はお姉ちゃんが行くはずだったのに…」
ぶつぶつと消え入りそうな声で一人、押し問答を続けているメイリン。勿論ソーマが服を着ている際も彼の肉体をチラチラ覗き見していた。
ーー閑話休題ーー
「それで、何か用があったんじゃないかな?」
流石にお粗末な営倉で何時間も少女を監禁するわけにはいかないので、メイリンの部屋に招かれた。危機感を感じたソーマは最後まで抵抗したが「子どもじゃないんですから、言うこときいて下さい!」と歳下の女の子に本気で説教され見事に撃沈したのは余談だ。
ソーマが切り出すと、メイリンは何か意を決したのか体の前でぐっと小さな拳を握りしめて話し始めた。
「…一つ、聞いてもいいですか?さっきシンに責められた時、何で言い返さなかったんですか?シンが怒るのも分かりますけど、“アイリスさん”だけが悪いわけじゃないのに…」
「作戦が悪かったのは事実だよ。相手の手の内を明かしたかったのは本当だし、その為にシン達を利用したのも認める。チームって感じ、慣れなくてさ…」
苦笑しながら食事に手をつけるソーマ。メイリンは話を聞いているうちに、先程との何とも言えない違和感をひしひしと感じていた。
「君たちと別れてから、一緒に出撃したショーンとデイルの供養をしてきたよ。話したことはないし、よくは知らないけど俺の作戦の所為で二人が戦死したのは事実だ。だから、俺だけは絶対忘れちゃダメなんだよね…ん、ご馳走さまでした」
「…どうしてですか?」
ソーマは飲み物を飲み干して手を合わせた後、静かに、そして確固たる意志を持って答えた。
「俺は、あくまでも自分の意思で戦場にいるから。戦場で生きることは、誰かを殺すこと。そこにはルールも秩序も存在しない。だからこそ考えの中心に“自分”を含まなきゃいけないんだ。組織に属していると、何が正しくて何が間違いなのか分からなくなるから」
ソーマの強い意思の宿った言葉を受けたメイリンは、その緊張を次第に緩めるように溜息をついた。
「ハァ〜…何か心配して損した。やっぱり私の思い違いだったのかなぁ」
いきなり年相応な少女の反応に変わり、思わず呆気にとられるソーマ。
「だって、あの時の“アイリスさん”スッゴイ怖い目してたんですもん!こーんな感じで!」
メイリンはそう言って、自分の指で目をつり上げて彼女なりの怖い目つきを再現してみせた。勿論怖くなんかならず、どちらかといえば悪戯っ子のような…。最初は笑うのを我慢していたソーマだったが、その笑いの堤防はすぐに決壊した。
「…ふッ、ふふふ、ちょ、メイリンちゃん…その顔、ダメだッ…ハハハハハハッ!?」
「な!?何で笑ってるんですかぁ!!酷いですよ…むぅ〜!」
ソーマの爆笑により、自分が辱められている事に気づき不満げな頰を膨らませて態度で示すメイリン。が、その顔は次第に自然な笑みに変わり、お互いに二人で笑い合った。
彼女の中でソーマという得体の知れない存在は、自分たちとそう変わらない等身大の男の子という認識に変わりつつあった。
同時刻
「ていうか、そろそろソーマって呼んでよ。あと早く連絡先を交換してほしいな」
「な!?…ダメですダメです!どっちもダメですから!?」
「えぇー、んじゃせめてミネルバの中、案内してよ。暇なときでいいからさ?」
「…本当に暇な時だけですよ?」
「うんうん、全然オッケーさ。ハァ、今からデート楽しみだなぁ〜」
「で、デートじゃありませんから〜!!」
「な、何この甘々空間は…」
メイリンの同室の女性士官が部屋に入るタイミングを完全に見失っていたのは言うまでもない。