戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー   作:風花

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 ある読者様に数多くのご意見をいただき、設定に色々課題がある事が分かりました。
 なので、用語解説Ⅰは消去させていただきました。
 ご理解のほど、お願いします。


Fine2 狭間の標Ⅳ

「おい、そこの馬鹿ップル」

 

 ヴァンはフードの奥から浜崎病院の敷地内に入ってきた男女に声を掛けた。

 掛けられた男女は怪訝そうにコートに隠れたヴァンを見る。黒のコートに隠れたヴァンの姿は少しだけ怖かった。

 

「ここは今、特別立ち入り禁止区域だ。季節遅れの肝試しならば、よそでやれ」

「はあ? いきなり何? 何なのボク?」

「もしかして正義の味方のつもりー? 超ウケルー」

 

 髪を染め、ピアスを付けた男女は馬鹿にしたようにヴァンの事を嘲笑う。

 正直、こいつらがどうなってもヴァンは構わないのだが、そこからバレたら面倒なのだ。特に今回は奇襲任務なので一課や二課職員を使って封鎖をする事もできない。仕方なく、ヴァンが後から合流する事にして見張り役を買って出たのだ。

 しかし、約三十分で辞めたくなった。

 ここ、浜崎病院はだいぶ昔に閉鎖され、立ち入り禁止になったのだが、怪人出没の噂が近隣で流れ心霊スポットとなってしまい、おかげで肝試しに来るカップル、暴走族、不良達が後から後から湧いてくるのだ。

 一応、潜入して相手が仲間達に気付けば、すぐさま職員が代わりに来てくれるのだが、

 

(少し先走り過ぎたな……)

 

 監視カメラは生きていると考えるのが妥当だ。これ以上、騒ぎ立てば潜入する前にバレるかもしれない。

 無意識に舌打ちを打つ。

 

「おいお~い、自分から話し掛けて置いて無視してんじゃね~よっ」

 

  ―打

 

 舌打ちが自分に向けられたものだと勘違いした――当たり前だろうが――男はヴァンに指輪をいくつもはめた拳で顔面らしき場所を殴った。(男にはフードに隠れてしっかりと見えてないのだ)

 女は「出た! タカシの必殺パンチ!」と喜んでいる。

 まあ――大した一撃ではないのだが。地味に指輪が痛かった。

 出来る限り穏便に済ませろ、と云うのが弦十郎からの指示だったがムカッときたヴァンにその言葉はすでになかった。

 一歩踏み出し、自慢気に今の一撃を語っている男の、所々破けたもうお洒落でも何でもない服の腹部へ――軽めに掌底を打ち込んだ。

 音もなく打ち込んだはずなのに――男の身体は一、二メートル“飛んだ”。

 

「……は?」

 

 打ち込んだ側であるヴァンも驚いた。この三ヶ月、鏡華や双翼、響に弦十郎、緒川、同僚の警備員と何度か素手だけで模擬戦をやった事があったが、今の一撃で飛ぶ奴なんて誰一人いなかった。

 ――ギアの影響、でもあるまい。

 と云う事は、目の前の男が弱すぎるだけ?

 

(ま、どうでもいいか)

 

 男に駆け寄っている女へ見下ろすように言葉を発する。

 

「さっさとその男を連れて家に帰れ。三度目はないぞ」

「ひぃぃっ!」

 

 しかし、女は情けない悲鳴を上げると男を置いて逃げ出した。男は女の名前を呼ぶが、女は脇目も振らずに一目散に地平線の彼方に消えた。

 最近鏡華や奏に借りて読んだ本にそんな描写があったが、まさか実際にあるとは思わずヴァンは驚きを隠せなかった。

 一先ず、呆然としている男を気絶させ、数分して音なくやって来た緒川に任せて、銃声や爆音の聞こえる内部へ駆け出すのだった。

 

 

  ~♪~♪~♪~♪~♪~

 

 

 内部へ入ると、すぐさまヴァンは身を潜めた。

 病院内から普通とは違う空気を感じ取り、口許を袖で覆う。

 

「オペレーター、内部の空気はどうなっている」

『詳細は不明、だけど奏者の適合係数を下げるものが充満しているみたいです! 先行した三人共、バックファイアを受けてます!』

 

 バックファイアを受けていると聞いた時点で、ヴァンは空気の事などお構いなしに駆け出した。完全聖遺物なので上がる事はあれど下がる事はないのでヴァンには関係ないのだ。

 ノイズはあちらに集中しているのか、出現する気配はない。嫌な汗が伝うのを感じながらオペレーターの指示に従って内部を駆ける。

 

『そこを左に曲がっておよそ百メートル先に……』

「クリス達か!」

『違う! 敵だぁっ!』

 

 オペレーターの言葉を勘違いして左に曲がるヴァン。その瞬間に弦十郎の叫びが届くがもう遅かった。

 

  ―迅ッ!

 

 曲がったヴァンを出迎える触手のような軟体。だがその速度は尋常ではなかった。

 弦十郎の叫びによって足を止められなかったヴァンは、逆に加速させ壁を蹴って宙に跳ぶ。躱し、戻ろうとする触手の隙を狙い、

 

  ―抜ッ

  ―閃ッ!

 

 エクスカリバーを抜きつ一閃。

 斬り捨てられた触手の先が床を転がり幾度か脈打つと炭化するように姿を消した。

 着地と同時に防護服と鎧を纏い、切っ先を闇へと向ける。

 

『無事か!? ヴァン』

「ああ。だが厄介だぞ、紛れている毒薬(ポイズン)は」

 

 ボロを出さないよう気を付けているが、今の動作だけでほんのわずかだが重さを感じた。これは聖遺物との適合を係数を阻害していると云うより“繋がり”を阻害しているようであると、完全聖遺物を使うヴァンには感じられた。

 だが完全聖遺物となれば阻害するのは困難なようで、先程感じた重さ以上は感じない。――尤も、現時点で、だ。

 短期で決める、とヴァンは決断し、闇へと駆けた。闇と云っても常夜灯程度の灯りは点いているので近くまで接近すれば闇は晴れる。

 

「はっ――!」

 

 動く気配のなかった存在に向かってエクスカリバーを振り下ろす。

 途端、存在は動き――剣を弾き飛ばした。

 その一撃の感触にヴァンは少なからず驚いた。驚くも弾かれた反動を使って横薙ぎに振るう。

 

「――――」

 

 闇から出てきた異形の全身鎧を纏った奏者は小さく呟き歌い出す。片腕だけで刃を防ぎ、爆発的な速度でヴァンへと迫った。

 その速度と技法にヴァンはまた驚いた。技法自体は知っている、《闊歩》と呼ばれる歩法だ。

 

  ――弓歩架冲拳――

 

  ―撃ッ!

 

 アキレス腱を伸ばした状態で片腕で剣を防ぎながら、もう片方の腕で拳を打ち込んだ。

 反動を利用した一撃だったのが致命的だった。放たれた拳を防ぐのが間に合わず、正拳突きは脇腹辺りに直撃し――ヴァンを吹き飛ばした。

 曲がり角だったのですぐに壁にぶち当たり、古びた壁が半壊した。

 

「ぐ……うっ、く……!」

 

 鎧を纏っていたが、今の一撃はヴァンの内蔵を存分に掻き乱してくれた。学祭準備の時に食べた食事が喉元まで迫るが、気力で押し止める。

 ーーなんて馬鹿力。

 よく見れば、拳を打ち込まれた箇所がごっそりと抉られるように砕け散っていた。生身で受ければ、確実に死へと誘う一撃だとはっきりと教えてくれたようなものだ。

 

「ブーストなしで立花以上か……」

 

 しかも、距離が離れると腕部や脚部にくっ付いている突起が変形し触手のように襲い掛かってくるのだ。

 斬ってもすぐに再生して襲い掛かる始末。面倒な事この上ない。

 

「ならば――!」

 

  ――天降る(シュテル・ザ)星光の煌めき(・シューティングスター)――

 

 物量で勝るこれならばどうだーー!

 数多の星剣を具現し、一斉に射出。流れ星が如く閃光の尾を引きながら星剣は奏者へ降り注がれる。

 ――にも関わらず、

 

「――……」

 

  ――喰らえよ巨人、百の腕を持つ者の如く――

 

  ―迅ッ!

  ―喰ッ!

 

 歌うのをやめた途端、四肢の突起から伸びた触手が肥大化し、

 あろう事かーー喰ったのだ。

 偽物であれ、星が鍛えし騎士王の星剣をーー!

 

「う、嘘だろ……! 聖遺物を喰らう、だと!?」

 

 流石のヴァンも同様を隠しきれない。聖遺物は現存している金属とは別格の未知の代物で作られている。完全聖遺物となればその防御力・耐久力は桁違いのはず。

 なのに、奏者の触手はいとも簡単に、まるで奏者の制御を離れた途端に野生の獣と化したように星剣を貪り喰らい尽くす。

 

「ッ――だからと云って!!」

 

 吠え、星剣をブンと頭上から振り、青眼に構える。

 歌を再開した奏者の気配は変わらず読み取りにくい。触手も威嚇するように口をわずかに開いて口内を見せる。

 汗が頬を伝い、雫となって瓦礫に落ちた瞬間――

 

  ―爆ッ!

  ―轟ッ!

 

 地面が突然爆発し床を崩す。ヴァンと奏者の間も轟音を轟かせて爆煙が視界を隠す。

 

「ッ、オオッ!!」

 

  ――今際に抱(ヴァルアヴル)く貴き夢(・ファンタズム)――

 

  ―煌ッ!

  ―閃ッ!

  ―裂ッ!

  ―波ッ!

 

 最大の隙をヴァンは見逃すわけがなかった。

 光の刃を奏者へと放つ。瓦礫を消失させ相手の確認をする事もなく階下へと飛び降りる。

 瓦礫が崩れて落ちてくる前にその場を駆け抜けた。

 逃げる事に羞恥などなかった。あのまま逃げず正体の分からない奏者と戦っていたら――確実に敗北し、聖遺物ごと喰われていただろう。

 

「ッ……そんな事は後だ。それよりも……!」

 

 今の爆発は現代兵器によるものだ。この病院にそんな火器が置いているとは考えにくく、一番想定出来るのはクリスのイチイバルの重火器である。しかし、重火器の扱いは奏者の中でトップクラスだ。がむしゃらに撃つなんて事はよほど大勢のノイズと戦っているか、何かあったかの二つしかない。

 前者ならばいい。響と翼が一緒にいるのだから。だがもし後者だとしたら――

 

「――クリスッ!!」

 

 果たして、答えは後者であった。

 全壊と云っても差し支えない場所で、クリスは響に肩を貸された状態だった。

 この場に翼はいない。代わりにいるのは――米軍基地で行方不明となったウェル。

 その彼が手に持つのは、アークセプター、サクリストS――ソロモンの杖。

 

「ヴァンさん!」

「おっせーよ……馬鹿ヴァン……」

「後で謝る。風鳴翼は!?」

「追い掛けました!」

 

 主語が抜けていたが、今のヴァンにはどうでもよかった。

 響からクリスを受け取り、自分に凭れさせながら切っ先をウェルに向ける。

 

「風鳴翼を追え、立花! この場は俺が受け持つ」

「分かりました!」

 

 クリスに比べダメージの少ない響を翼の救援に行かせ、ヴァンはウェルを睨む。

 彼は既に両手を挙げて降参の意を示している。ソロモンの杖も二歩先の地面に突き刺していた。

 クリスが荒い息を吐きながら状況を説明してくれた。

 ノイズが出現し倒しながら進んでいると、翼が追い掛けたよく分からないモノが現れたようだ。交戦していると今度はウェルが現れた。ウェルは護衛任務の時に既にソロモンの杖をコートの下に隠し、ノイズに教われるのを演出していたらしい。米軍基地も同様に。

 そして、ギアからのバックファイアを受けて自分はボロボロだと云う。

 

「少し休んでいろ」

 

 ソロモンの杖を抜き、クリスを近くの瓦礫に凭れさせソロモンの杖を渡す。

 抵抗する素振りさえ見えないウェルを拘束し、クリスを背負って翼と響の後を追い掛けた。

 日の出を迎える中、途絶えた橋に響はいつの間に来たのか、奏と一緒にいた。翼は海上で鏡華にお姫様抱っこされている。

 そして――鏡華と翼の目の前には、空中に立つガングニールの柄に乗ったマリアとその下には護衛任務の際に現れた黒装飾の男が。

 

「時間通りですよ、フィーネ」

「フィーネ、だと……!?」

 

 拘束されたウェルの呟きにヴァンとクリスから驚きの声があがる。

 

「終わりを意味する名は、組織の象徴であり彼女の二つ名である」

「そんな……それじゃあ、あの人が……!」

「新たに目覚めし再誕した――フィーネですッ!」

 

 

  〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 時は少し遡る。

 ノイズが運んで行った謎の生物を翼は追い掛けていた。ウェルが病院内に撒いた謎のガスのせいでギアを纏う身体が重く、技を放てば逆にバックファイアがこちらに跳ね返ってきてしまう。クリスを一番バックファイアの少ない響に任せたが、いつ響が同じバックファイアを受けるか分からない。

 そう考えていると、後ろから足音が聞こえた。すぐに隣に追いつく。

 

「翼さん!」

「立花!? 雪音はどうした!」

「ヴァンさんが見てくれてます!」

「そうか!」

 

 遅れた理由がどうであれ、ヴァンがクリスを護衛するならば何の憂いもなく目の前の事に集中出来る。

 翼は謎の生物を運ぶノイズとの距離を把握しながら橋の先を見る。後数百メートルで橋は崩れ、行き止まりとなっていた。

 

『聞こえるか翼! そのまま飛べっ!』

「――立花、すまないが先行して踏み台になってくれるか?」

「わっかりましたっ!」

 

 腰のブーストと脚部のパワージャッキを使用して、一瞬だけ加速させて響は翼の前を行く。滑るように橋の崖ギリギリで止まると翼に向き直った。

 翼は止まる事なく距離を合わせて跳ぶ。着地地点には響がいる。地面に落ちる足を響が重ねた両手で受け止め、

 

「よい――っしょおっ!!」

 

 全力で翼を投げ飛ばした。

 翼の希望通りノイズへ投げ飛ばしたが――それでも距離が足らず、半ばで落下を開始する。

 だが、“それでよかった”。

 

『仮設本部ッ! 急速浮上ッ!!』

 

 弦十郎の声が通信機から聞こえた途端、海中から海上へ飛び出してくる巨大な物体――否、潜水艦。

 これがリディアン地下から移った二課の新たな本部である。

 先端が天を向いている間に翼は先端に着地し、そこからさらに飛んだ。

 しかし、それでもなお届かない。

 歯噛みした時だった。

 

「――翼ッ!」

 

 目の前に突然、防護服を纏った奏が手を翼に差し出しながら現れた。

 

「奏ッ!?」

 

 何故こんな所にいるんだ。いやしかし――

 理由がどうあれ、これ以上ないほどのグッドタイミングだ!

 間に合わない前に差し出された手を掴む。

 奏は器用に身体を捻り、

 

「飛んで、けぇっ!!」

 

 空中とは思えない膂力で翼を天へと飛ばす。自分は反動で落下するが、気にしていない。

 仲間の助力でノイズに届いた翼は、天ノ羽々斬を構え――ノイズを一刀の下に斬り伏せる。

 謎の生物を入れたケージは落下を始め、それを追うべく翼は脚部に付いたアームのブーストで追い掛ける。

 海に落ちる前に届き、手を伸ばした――瞬間、

 

  ―迅ッ!

  ―裂ッ!

 

 空を裂いて何かが飛来する。

 直前に気付いたが、回避は間に合わず翼は弾き飛ばされた。

 海に落ちる――と思ったが、その前に誰かに抱き締められるような衝撃を受けた。

 

「ッ……ギリギリセーフ、かな?」

「遅い。奏と共に遅刻だ」

「ごめんごめん。帰る時、方向間違えてオーストラリアに着いちまってな」

「どうしてそこでオーストラリアに着くのか腰を据えて話し合いたいところだが……」

「話は後で、だろ」

 

 お姫様抱っこのまま、前方を見る。

 朝日が昇ろうとする中、そこには空中に静止したガングニールの柄に乗るケージを持ったマリアと、

 足元の海上に、鏡華と同じように立っている黒装飾がいた。

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