戦姫絶唱シンフォギアG ーAn Utopia is in a Breastー 作:風花
「クリスちゃんッ! ヴァンさんッ!」
上空から聞こえた声に視線を向ける。建造物や突き出ている地面を飛び移り近くに降り立ったのは響。喪ったはずのギアを纏っているが、二人は何の疑問も浮かばなかった。響ならばそれぐらいやってのけると云う信頼の証か呆れているのか、それとも両方か。
着地した響はクリスの手に握られたソロモンの杖を見ると、
「やったねクリスちゃん! ソロモンの杖を取り返しに行ってたって思ってたよ!」
「お、おう。ったりめーだ。……まあ、心配をかけたのは、わ、悪かった、けどよ……すまん」
クリスの両手を自分の両手で包んで、自分の事のように喜んだ。
無防備なまでの喜びように、クリスは照れて視線を逸らしながらも、包まれた手を払う事なく答えた。
クリスの返事に響は驚いて、すぐに眼を輝かせた。
「——」
「……な、なんだよ?」
「クリスちゃんがデレたーッ!」
わーい、と抱きつこうと飛びつく響。
もちろん、手を振り払わなかったとは云えクリスはクリス。ソロモンの杖の先端を響のおでこにブスリと突き刺した。
「いだぁッ!? ちょっ、クリスちゃん!? 先端は痛いって!」
「調子に乗んな! まだ決着がついてないんだからな」
「うぅ……そういえば翼さんや奏さん、遠見先生は?」
「あいつらは自分達の決着をつけに行ったんだろう」
様子を見守っていたヴァンが答える。
同時に、先程から続く地鳴りがより大きく響く。
「だから、戻ってくるまでこの場は俺達でなんとかするぞ。クリス。立花」
地鳴りだけの地面が急激に盛り上がる。崩れたりせず土人形のように形を形成されていく。
完成されたモノは響達の何十倍もありそうな怪獣だった。
「こいつ……いつかの化物、か!」
かつて響の腕を喰らった自立型の完全聖遺物ネフィリム。大きさやフォルムは違うが、姿に若干の面影が残っている。
「お、大きくなり過ぎじゃないですかッ!?」
「はッ、栄養が行き届いてるみてぇだが、おつむの方はどうだかなッ!」
その場から飛び去り距離を取る三人。咆哮を上げるネフィリムを見上げる。
「まずは前菜喰っとけ——ッ!」
――CUT IN CUT OUT――
―発ッ!
腰部アーマーから放たれた小型のミサイル。十数個の弾幕はネフィリムの顔へ突撃していき、
―爆ッ!
「■■■■■ッ!!」
「——はあッ!?」
顔の周りに着弾した。ただ、半分近くのミサイルはネフィリムの開かれた口に吸い込まれて、“食べられた”。
「確かに喰らえって言ったけど、ほんとに食う奴がいるかぁッ!?」
「内部で爆発してない所を見ると、エネルギーに変換できるみたいだな」
「そんな暴飲暴食は、この馬鹿だけで十分だ!」
「クリスちゃんひどい! 量だけなら未来の方が食べるのに!」
「お前はお前で、親友の秘密暴露ってんじゃねぇよ! ……今度、メシ誘うか」
どうにも空気が締まらない。
それもこれも鏡華と奏のせいだとクリスは思った。あの二人のせいで、どうしてもいつもの調子で会話を挟んでしまう癖ができていた。良いか悪いかで言えば、悪い、はず。きっと。多分。メイビー。
「……」
「どうしたクリス? ダメージが残ってるのか?」
「……思い出し頭痛が痛いだけだよ」
頭を抱えてしまったクリスは悪くない。
「ああもう……ったく、遠距離はあたしが撃ち落とす! 好きにやりやがれッ!!」
「
「うん!」
突撃していく二人を後ろから見ながら、武装をボウガンに変えクリスタル状の矢を一本
近付く羽虫の如く響とヴァンへ、ネフィリムは腕で叩き潰さんと腕を振り下ろす。
もちろん、そんな事を許すクリスではなく、
――GIGA NADEL――
―発ッ!
―貫ッ!
撃ち放った矢が狙い違わず腕を貫いた。
軌道が逸れ響の横に叩き付けられた腕に、響が飛び乗り更に跳躍。腕部をオーバースライドさせた一撃を放つ。
―撃ッ!
「——、ッ!?」
一撃は間違いなくネフィリムの体内を抜けて背中まで届いた。にも関わらずまるでダメージを負った素振りを見せない姿に、響は一瞬呆然とするも、すぐにネフィリムから離れた。
―閃ッ!
そこへ続くヴァンのガラティーンによる一閃。
斬撃は通るが、すぐに再生し元の状態に戻ってしまう。
「面倒な……!」
「だったら、全部マシマシだぁッ!!」
クリスの叫びにヴァンと響は後ろへ下がる。腰部のミサイルと、持ち替えたガトリング砲からフルバーストで叩き込む。爆風で見えなくなり、もう一度ボウガンを天へ構えた。
「おまけにトッピングもサービスしてやらぁッ!」
――GIGA ZEPPELIN――
―発ッ!
―煌ッ!
放たれた一射。天へと撃ち上げられたクリスタル状の矢は、減速するにつれて分裂していき重力によって一瞬だけ停滞した時には何百何千と分かたれていた。
降り注ぐ矢の雨。ほとんどの矢がネフィリムに突き刺さり、全身がハリネズミのようになっていた。
だが、それでもネフィリムは健在だった。いや、むしろ突き刺さった矢を吸収するかのように体内へ呑み込み、咆哮を上げる。
「……効いてないね」
「むしろ
身体を揺らし「ファッファッファッ」とでも笑い声を上げそうなネフィリムを前に、響とヴァンも攻撃の手を止めざるをえなかった。
クリスはクリスでまったく通らなかった事にショックを隠せない様子だった。
「——」
「お、落ち込まないでクリスちゃん!? 皆攻撃通らなかったから!」
「おっ、落ち込んでなんかないやいッ! これはあれだ、思い出しショックって奴だ!」
「言ってる事全然分からないよ!? クリスちゃん最近そんなんばっかりだよ!?」
「るせーッ! 次だッ、次はマシマシから気合いマシにしてやらぁッ!!」
半ば自棄気味にドッカンバッカン撃ちまくるクリス。
爆風と巻き添えが恐ろしくて見ているだけしかできない響とヴァン。
「あわわ、ヴァンさん! クリスちゃんを止めてくださいよぉッ!」
「無理だ……むしろやらせておいた方がいいかもしれん。ネフィリムも動けないでいるし」
「そうかもしれないけど……って、ああッ!? クリスちゃんがミサイルに乗ってライフルで殴りに行った!?」
「…………大丈夫だ」
「大丈夫そうに見えないんですけどぉッ!?」
「……何やってんデスか、あんた達」
背後から急に声をかけられ、驚きながら振り向く。
そこにいたのはジトッとした視線を向ける二人の奏者の姿が。
「シュルシャガナと」
「イガリマ到着デス……っと、派手に決めたかったんデスけど、あんなかに突撃するのは無理デス」
「じー……戦闘中に何を遊んでるの?」
「来てくれたんだッ!」
切歌と調の登場に響は喜ぶ。
同時に爆発音。ネフィリムの咆哮と共にクリスが吹き飛ばされて戻ってきた。
「ははッ! どうだ、デカブツ! 馬鹿盛りの味はッ!!」
「満足した? クリスちゃん」
「おうよ!」
「ならよかった!」
「……二課の奏者ってこんなのばっかりなんデスか?」
「世界の危機なのに、凄い余裕」
「そうでもないがな」
ヴァンは静かにネフィリムに視線を飛ばす。切歌と調もそれに釣られて視線を移す。
爆風に隠れていたネフィリムの姿が徐々に明らかになってくる。遠目から見てもオーバーキルな攻撃を受けたにも関わらず、ネフィリムの身体に傷らしい傷は付いていない。ノーダメージな訳がないが、それでもダメージを与えられているとは思えなかった。
「相変わらず非常識」
「あいつを相手にするのは骨が折れそうデスね」
ネフィリムの脅威は、恐らく二課所属の響達よりもF.I.S.の切歌達の方が知っている。
溜め息をこぼすが、そこに負の感情はない。
「ええそうよ切歌」
「ッ、その声——!」
「だけど、私達には歌があるッ!!」
誰もが声の方へ顔を向ける。
段々と宇宙空間へ近付いているせいなのか、宙に浮いた岩の上に立つ一人の女性。
切歌と調が一目散に跳び上がる。響達もそれに続いた。
「マリアッ!」
「ごめんなさい、切歌。調。でも、もう迷わない。マムが命がけで月の落下を阻止してくれてるもの」
胸元に揺れるギアを握り締めながら、切歌と調へ微笑む。
「マリアさんッ!」
「今はまだ無理でもいずれ。後悔がないように戦いましょう、立花響」
「……はいッ! 負けませんから! でも今はッ!」
「ええ」
交わす言葉はこれでおしまい。だが、今はこれでよかった。
ネフィリムから放たれる灼熱の爆炎。直撃すればギアを纏っていても無傷ではいられない業火の塊。
―爆ッ!
奏者達は躱す姿を見せず、爆炎に呑み込まれた。