Fate/Grand Order IF 星詠みの皇女   作:ていえむ

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絶対魔獣戦線バビロニア 第23節

それはまるで神話の英雄になったような気分だった。

冥界の加護のおかげで、一足で宙を駆け、望めば空を歩くこともできる。

魔術回路もすこぶる快調に回っており、いつも以上の魔力をアナスタシアに供給することができた。

今ならば、何が来ようと負ける気がしない。

向かうはビーストⅡ。その霊基核がある頭頂部だ。

 

「おりゃぁっ! 今日は大盤振る舞いじゃぁっ!」

 

「ラフムは私達が押さえます! カルデアの勇者達、あなた方はティアマトを!」

 

群がるラフム達はエレシュキガルの雷撃や槍の斉射で次々と滅されていき、味方を盾にして生き延びた個体も戦場を縦横無尽に駆けるジャガーマンによって駆逐されていく。

千の軍勢に対してたったの二人。しかし、何よりも心強い援軍だ。

彼女達が背中を守ってくれているから、自分達はまっすぐにビーストⅡのもとへと目指すことができる。

後ろは気にせず、ただひたすら前に。

立ち塞がる全てを凍てつかせ、踏み砕き、前へと進む。

その様子を見たマーリンが、ふと小さな声で呟いた。

 

「女神エレシュキガルの加護で空中歩行もできるのか! いや、待て。藤丸君やカドック君もか?」

 

「どうしたんだ、マーリン?」

 

「いや、何でもない。それが彼女の選択なら仕方あるまい」

 

今は気にするなと首を振り、マーリンは再び宝具を展開してケイオスタイドを中和する。

状況が切迫していることもあり、カドックもそれ以上は追求しなかった。

 

『ベル・ラフム接近! 速いぞ、飛行に特化した新タイプだ! しかも――この魔力量、魔神柱を上回る!』

 

ロマニの警告に遅れる形で、先陣を切るマシュがベル・ラフムと衝突する。

激しい鍔迫り合い。マシュは存在しない大地を踏み締めるように力を込め、構えた盾を押し込んでベル・ラフムを突き飛ばそうとする。

マーリンとエレシュキガルによる強化もあり、今のマシュは大英雄とでも渡り合えるほどの筋力を獲得している。

如何に強化された個体といえど、その剛腕に敵うはずもなかった。

だが、真の恐怖はここからだった。

 

「なっ……」

 

マシュが渾身の力でベル・ラフムを押し返した瞬間を見計らうかのように、死角から新たな一体が攻撃してきたのだ。

更に頭上からもう三体。二時の方向から四体。七時からは二体。

魔神柱を上回る力を秘めたラフムが、全部で十一体。

それが四方八方からこちらをかく乱し、嘲笑うかのように飛び回っている。

 

アナスタシア(キャスター)!」

 

即座にアナスタシアに指示を出し、目についた三体を凍結させる。だが、魔力の通りが悪い。

ヴィイの魔眼に射抜かれ、確かに冷気は伝わっているはずなのに、今までのラフムよりも凍り付くのに時間を要する。

再生能力も桁違いだ。マシュが頭部を潰しても息絶えることはなく、そのまま戦闘を続行している内に新たな頭が生えてくるのだ。

これまでもラフムは日を追う毎に力をつけていったが、この十一体は今までの個体とは明らかに強さの次元が違う。

ロマニは魔神柱を上回る個体だと言っていたが、正にその通りだ。

故に焦りが生まれる。

ベル・ラフムは魔神柱のように魔力量にものを言わせた波状攻撃こそしてこないが、小型であるが故に素早く、また他のラフムよりも賢かった。

闇雲に向かってくるのではなく、挟み撃ちや時間差攻撃でこちらを翻弄する。

アナスタシアとマシュが合流できないよう、分断を狙う。

同じ姿なのを利用し、重なり合う事で数を誤認させる。

ゴリラがチーター並みの速度で動き、人間のように連携して襲い掛かってくるとでも言えば伝わりやすいだろうか。

このまま数の利を覆す事ができなければ、ビーストⅡを取り逃がしてしまう。

 

『魔力量更に増大! くそっ、計器が振り切れそうだ! こいつらはビーストⅡの直属の使い魔、本当の十一の子ども達という事か!』

 

「ドクター! 何か弱点は!?」

 

『ない! 再生し切る前に倒すしかない!』

 

これだけの数を、一気に殺し切る。それは不可能だ。

連中はこちらに宝具を使わせぬように、巧みに動き回っているため狙いをつけられない。

アナスタシアの宝具は視るという動作を挟む以上、素早く動いているものを狙撃するのには向いていない。

そして、どちらかが残って足止めしようにも、頭上を押さえられていたのでは包囲網を抜けることも難しい。

救援を望もうにも、ジャガーマンやエレシュキガルは足下のラフムを押さえるのに精一杯だ。

ここに来て切れる手札がない。

悔しさで奥歯を噛み締める。

後少し。

後少しでビーストⅡまで辿り着けるというのに。

死神が囁いたのは、その時であった。

 

「カルデアの魔術師よ、暗殺者の助けは必要か?」

 

いつから側にいたのか、幽鬼の暗殺者が青白い炎を揺らめかせながら立っていた。

 

「ツァーリ!?」

 

「力を貸してくれるのか、山の翁?」

 

「汝が正しき道を歩む限り、我が剣は人理の礎となろう。だが、一度でも誤ればその首、落ちるものと思うがいい」

 

相変わらず手厳しい。

下手な手を打てば容赦なく首を断つ。この暗殺者はそう言っている。

さすがは冠位の英霊(グランドクラス)、言う事が違う。従わせたければ己の命を賭けろということか。

上等だ。ここまで来たのだ。もう神も悪魔も怖くはない。

人理修復を担うマスターとして相応しくないというのなら、いつでもこの首を断つがいい。その覚悟は、あの霊廟で相対した時からとっくにできている。

 

「ああ、力を借りるぞ、アサシン!」

 

「承諾した。これより我が名、我が剣は汝との縁を繋ごう。冠位の銘は原初の海への手向けとしたが、我が暗殺術に些かの衰えもなし。契約者よ、告死の剣、存分に使うがよい――――願わくば、末永くな」

 

山の翁が剣を構え直す。

瞬間、呼吸が止まった。

何故、自分が生きているのかが不思議なほどの重圧だ。ベル・ラフムなど話にならない。山の翁が発する剣気が周囲の大気そのものを殺したのだ。

呼法によって間合いを崩す技術が東方世界には存在するというが、彼は身に纏う気配だけでそれをやってのける。

まるで鉛を喉に流し込まれたかのような重圧感だ。

そんな重い空気の中を、山の翁は無造作に歩いていく。

華やかさとは無縁の無骨な足取り。手にした剣には必殺の意思。

近づいて斬る。

誇張も何もない。彼の暗殺とは即ち、真正面からの剣戟抜刀。

ベル・ラフムが無尽蔵の魔力によって強靭な肉体を獲得しているというのなら、彼はそれ以上の膂力と技術で以て不死の肉体を凌駕する。

炎を纏った剣戟は一度。だが、相対したラフムの胴には七つの傷が刻まれた。

更に返す刀で首を一太刀。マシュが全力で叩き潰しても即座に再生していたそれは、何故か復活することなくそのまま地面に落下していった。

 

「いくがいい、魔術師よ。ここは山の翁が引き受けた」

 

「すまない、頼む!」

 

「どうかご武運を、ツァーリ」

 

翁に黙礼し、立香達と合流してビーストⅡを目指す。

当然、ベル・ラフム達が立ち塞がるが、瞬間移動したとしか思えない速度で頭上を取った翁の刺突がラフムの一体を屠り、その隙にカドック達は包囲網を抜け出すことに成功した。

見上げた先にはビーストⅡの巨体。獣はほぼ垂直の崖に爪を突き立てながら地上を目指しており、残すところ数百メートルというところまで昇り詰めていた。

ギリギリのところで、何とか間に合った。

多くの犠牲と仲間の協力により、遂にここまで辿り着いたのだ。

 

 

 

 

 

 

裂ぱくの気合と共に、マシュが盾を叩きつける。

岩石をも容易く砕く一撃を眉間に受け、ビーストⅡは僅かに怯んで歩みを止めた。

すかさず、アナスタシアが無数の氷柱を生み出して追撃を仕掛ける。

精霊の魔力によって生み出された氷柱の豪雨はさながら機関銃の嵐だ。分間600発以上、分厚い鉄板ですら貫通しうる恐ろしい威力を秘めたそれは、強靭なビーストⅡの表皮すら抉り確実にダメージを与えていった。

 

「Aaaa、aaaa――――」

 

痛みを訴えるかのようにビーストⅡは叫び、右足を無造作に叩きつけてくる。

大振りな一撃だが、受ければ即死は確実だ。アナスタシアはヴィイに牽引されて安全圏まで離脱し、逆にマシュはビーストⅡに食らいつく事で攻撃を回避する。

懐に入ってしまえば、巨大なビーストⅡの攻撃手段は非常に限られる。

巨体という最大のアドバンテージを活かせず、ビーストⅡの攻撃は先ほどから何度も空振りを繰り返していた。

 

「いける、いけるよ!」

 

「ああ、だが……」

 

確かに攻撃は通っている。

マシュの打撃は確実に傷を増やし、アナスタシアの冷気は四肢を凍てつかせる。

頼みのケイオスタイドもマーリンによって無力化されているため、ビーストⅡはこちらに対して有効打を打てずにいた。

だが、それだけのことだ。彼女はこちらを倒す必要はない。

崖を昇り切り、地上に戻ればその時点で彼女の勝利が確定する。

だから、この状況は決して楽観視できない。

怒涛の如く畳みかけてはいるが、ビーストⅡの歩みは僅かに遅れるばかりで止まらず崖を昇り続けているのだ。

既に地上までの距離は三百メートルを切った。

あの巨体なら昇り切るまで数分とかからないだろう。

 

「何て奴だ。これだけ打ち込んでまだ倒れないなんて」

 

「マーリン、私に強化を! 一か八か、勝負に出ます!」

 

「わたしが気を引いている内に、お願いします!」

 

不可視の地面を蹴り、マシュがビーストⅡの視界を飛び回る。

目障りな羽虫を払い除けんとビーストⅡの眼光が光り、幾本もの光条がマシュへと降り注ぐが、彼女の盾を貫くには至らない。

逆に隙を突いて接近し、眼球に特大の一撃をお見舞いされる始末だ。

堪らず苦悶の声を上げたビーストⅡは一旦、歩むのを止めてマシュを撃ち落とさんと光線を連射するが、やはり彼女の防御を打ち破るには至らなかった。

 

「マシュ、避けて!」

 

「はい!」

 

「魔眼起動――――疾走せよ、ヴィイ!」

 

青い双眸が開く。

顕現したヴィイによる魔眼の全力解放。

如何に無敵のビーストⅡといえど、彼女の魔眼の前では綻びが生まれる。

その僅かな隙を、ヴィイは強引に抉じ開け、強烈な吹雪を土石流のように凝縮して解き放った。

轟音と共に視界が白く染まり、ビーストⅡの姿が消える。

手応えはあった。

ヴィイの魔眼は確かに発動し、ビーストⅡの肉体に弱点を創出した。

ベル・ラフムと違ってビーストⅡはあの巨体だ。外すこともあり得ない。

そう思いつつも一抹の不安を拭えなかった。

これまで経験してきた数多くの戦いで培われた第六感とでもいうべきものが、自分に警戒を解くなと訴えている。

やがて、その不安は的中した。

 

『ビーストⅡ健在! 魔力値上昇! 攻撃が来るぞ、みんな!』

 

白い霧を吹き飛ばし、深紅の魔力光が全方位に向けて照射される。

何て恐ろしい。あの光は一本一本がゴルゴーンの視線に匹敵する出力を秘めている。

マシュは咄嗟に盾で防ぐことができたが、直撃を受けたアナスタシアはバランスを崩し、坂を転がるように冥界の空を落ちていった。

 

アナスタシア(キャスター)!?」

 

「待て、いくなカドック君!」

 

マーリンが制止するのも聞かず、カドックは落ちていくアナスタシアを追う。

直後、悍ましい黒い泥が津波のように頭上から押し寄せてきた。

新たに生成されたケイオスタイドだ。よく見ると表面に僅かな凍結の跡がある。

マーリンの宝具によって権能こそ無力化されているが、ビーストⅡは自らが生み出した生命の泥を盾として使い、アナスタシアが放った吹雪から身を守ったのである。

更にアナスタシアが攻撃を受けた事で凍結も溶け、流動性を取り戻した泥を操ってこちらを攻撃してきたのだ。

マーリンのおかげで泥に取り込まれることはないだろうが、あれだけの質量を食らえば内臓破裂は避けられない。

最悪、即死もあり得る。

 

(しまっ……)

 

防御の術式を展開するのと、マーリンが滑り込んできたのはほぼ同時だった。

 

「マーリン!?」

 

「くっ!? 早くいけ、カドック君! キミのパートナーのところに!」

 

「すまない!」

 

自分の不甲斐なさを詫び、マーリンに背を向ける。

足先に魔力を集中し、壁を蹴るように勢いをつけて眼下のアナスタシアを追う。

一方、ケイオスタイドの波を防ぎ切ったマーリンは更なる驚愕を覚えた。

黒泥を掻き分けながら、ビーストⅡが彼の元に向かって来ていたのだ。

ここに来て獣は、遂に地上へ逃げ切ることよりも邪魔をする彼らを先に始末するべきと判断したのだ。

 

「ぐっ、まさか直接、丸呑みにくるとは! マルドゥーク神でもあるまいに、助かる筈もない!」

 

大蛇のように大口を開けたビーストⅡがマーリンに迫る。

この距離では得意の幻術も役には立たず、食いつかれるのは時間の問題であった。

 

「キャスパリーグ、頼む! 強制転移をしてくれないかい!?」

 

「フォ~、フォウ?」

 

ニップル市でアナを逃がしたように、今度は自分を転移させてもらえないかとマーリンはフォウに懇願する。

その答えは、フォウからの体当たりであった。弾丸のように丸まったフォウがマーリンの水月に激突し、そのまま両者はもつれ合うように冥界の地面目がけて落下していく。

だが、そのおかげでマーリンはビーストⅡの執拗な追撃から逃れることに成功した。

 

「ぐわああああああああああ! おのれ、キャスパリーグ!!」

 

『な、マーリンが墜落!? あいつがいないとケイオスタイドを緩和できないぞ!?』

 

ロマニの叫びを聞き、カドックは慌てて振り返るが、余程の力で突き飛ばされたのか既にマーリンの姿は遥か下にまで転がり落ちていた。

今からの戦線復帰は絶望的だ。

そして、マーリンがいなければケイオスタイドは再び権能を取り戻し、生命を蝕む泥へと変貌する。

あれに抗う術を自分達は持たない。冥界の加護もあくまで泥に浮かべるだけで無力化する訳ではないため、飲み込まれてしまえばそれまでだ。

そして、目障りな花の魔術師を始末したビーストⅡは悠々と地上を目指して進軍を再開する。

先ほどから攻撃を続けているこちらのことなど、お構いなし。

ゴルゴーンやギルガメッシュ王の時もそうだったが、この獣は本能的に自身の脅威となるものを優先して排除しようとする傾向がある。

言い換えれば、自分達はビーストⅡにとって羽虫のようなもの。どれだけ攻撃しようと飛び回る羽虫のことは眼中にないのだ。

 

「くそっ! このままじゃ地上に出てしまう!」

 

「分かっています! けど、後少し! 後、少しだけ距離が……!」

 

冷気の射程まで、後ほんの少し届かない。

全速力で駆け上がっているが、ケイオスタイドに阻まれてなかなか前に進むことができない。

対してビーストⅡは、岩盤に爪をめり込ませながら、山のような巨体を一歩、また一歩と持ち上げて空へ空へと昇っていく。

後、二百メートル。

あの速度なら一分もかからないだろう。

すると、ビーストⅡの進行方向に一騎の騎士が立ち塞がった。

マシュだ。

盾を構え、まっすぐにビーストⅡを見下ろすシールダー、マシュ・キリエライトがそこにいた。

まさか、一人でビーストⅡを押さえるつもりなのだろうか。

それは無謀でしかない。

アナスタシアとの二人がかりでも足止めすらできなかったというのに、彼女一人ではとても敵うはずがない。

 

「無茶だ! 僕達が行くまで待て!」

 

『それだけじゃない、ケイオスタイドはそちらにも向かっている! キミ達まで飲み込まれては元も子もない!』

 

「いえ、ならばこそ、わたしはここで盾になります! 生身であの泥に飲まれたら違う生き物になってしまう……ですが、デミ・サーヴァントのわたしなら少しは耐えられるはずです。そして、ビーストⅡは必ずわたしが押さえます!」

 

『マシュ……! しかし、キミの体では、もう……』

 

「俺達はやります、ドクター! 信じてください!」

 

啖呵を切った藤丸が、一方的に通信を切る。

同時に、マシュが構えた盾に周囲の大気が歪むほどの膨大な魔力が集められていく。

宝具でビーストⅡを受け止めるつもりのようだ。

確かにあれなら神格といえど容易く破れるものではなく、物理的な結界としても機能する。

マシュがあの場所から動かない限り、ビーストⅡは地上に上ることができない。

だが、やれるのか。

相手は規格外の化け物、獣のクラス、人類悪だ。

果たして人理の盾がどこまで通じるか。

そう思った刹那、更なる驚愕が襲いかかってきた。

 

『ビーストⅡ、体内の魔力量増大! 数値は……くそっ、シバが何枚か飛んだぞ! 正確な数値は不明! だが、偽りの獅子心王の裁きの光と同等……いや、それ以上だ!』

 

「逃げろ、藤丸!」

 

「マシュ! 止めて!」

 

こちらの叫びなど聞こえていないかのように、マシュは決意を胸に盾を構える。

そんなマシュにビーストⅡは最大限の警戒を露にした。

握り潰せば粉々になってしまうようなか弱い少女が持つ力を、獣はその本能から危険であると判断したのだ。

繰り出される最大の一撃が何よりの証。

喉元まで裂けた巨大な咢の向こうで、立ち塞がるものを悉く塵へと還す必滅の魔力砲が今、唸りを上げる。

 

「マスター! 令呪をわたしに!」

 

「マシュ! 令呪を以て命ずる!」

 

光が爆ぜた。

唯の一人を消し去るにはあまりに過剰な暴力。否、それは最早、神罰だ。

神々が振るいし雷霆の如き神罰の光が、ビーストⅡの肉体すら焼き焦がしながら、小さな人理の守り手を飲み込まんとまっすぐに迫る。

ほぼ同時に、少年と少女は唱和した。

 

「どうか、わたし達に――」

 

「俺達に――」

 

「――笑顔ある明日を!」/「――笑顔ある明日を!」

 

純粋な願い。

明日を求め、今日を生き、昨日を糧とする切なる願い。

ただ生きたい、生きついた果てに笑いたい。

その願いが今、二人に力を与えた。

 

「顕現せよ! 『いまは遥か――(ロード)

 

――理想の城(キャメロット)』!!」

 

現れた白亜の城は、これまで見てきたものよりも遥かに堅牢で強固な実体を伴っていた。

荘厳な輝きはそれ自体が悪意に対する抵抗力を有し、城壁へと迫る脅威を押し流す。

光も、熱も、炎も、生命の天敵である黒泥すらも完膚なきまでに受け止め、それでいて尚、輝きを損なうどころか益々強く、激しく光を放つ。

白光が黒炎を飲み込み返す勢いだ。

ただの人、紛い物の英霊、デミ・サーヴァントでしかない彼女が今、その細腕で聖杯にも匹敵する魔力の渦を、受け止めているのだ。

 

「すごい……余波がここまで……」

 

「防壁を張れ、アナスタシア(キャスター)! こっちまで焼かれるぞ!」

 

白亜の城とビーストⅡのブレスの衝突。真反対にいるというのに、余波だけで肌が焼けるほどの凄まじい熱量だ。

だが、その程度て済んでいるのはあの白い光のおかげだ。如何なる摂理によるものか、マシュの宝具はビーストⅡの攻撃がこちらにまで及ばぬよう、受け止めた炎を上空に向けて散らしている。

ここまで伝わってきている熱は、置換し切れなかった余剰魔力によるものだ。

そして、それほどまでに凄まじい熱量を、マシュは我が身一つで受け止めている。

彼女の宝具、彼女の守りは彼女自身を含まない。守らない。

盾で受け止めた熱は全てがマシュの中へと還元され、身を焦がす憎悪の火に苦悶の声が漏れている。

常人ならば泣き叫ぶことすらできず、発狂してもおかしくない痛苦のはずだ。

それをマシュは、強靭な精神力で抑え込んでいる。

痛みを感じていないのではない。

痛みをコントロールしている訳でもない。

痛みを受け入れ、許容し、その上で乗り越えんと両の腕に力を込める。

この苦難の先に待つ、終わらない明日を取り戻すために。

 

「ギャラハッドさん、わたしに……みんなを守る、力をっ!!」

 

一際、強い光が城壁から解き放たれ、遂にビーストⅡの炎が相殺される。

異形の獣が目の前の光景に驚愕している。

必殺の思いを込めて放たれたブレスが、人間によって防がれたからだ。

本来ならば、とっくに地上に辿り着けているはずだというのに、獣は四肢を強張らせたまま動くことができない。

誰の目から見ても隙だらけだ。

だが、宝具の解放で力尽きたマシュにはもう、戦う力は残されていなかった。

空中に立つ魔力すら使い切ったのか、立香に支えられながらぐったりと手足を伸ばして少しずつ高度を下げていっている。

そのことに気づいたビーストⅡは、嘲笑うように口を開いた。

 

「Aaaaaa――――」

 

振り上げられた巨大な爪が、立香とマシュを狙う。

力尽きたマシュにそれを躱す余力はなく、盾で何とか受け止めて立香を庇うのが精一杯であった。

 

『マシュ! よかった、まだ無事だ! だが、ビーストⅡは……』

 

最早、獣の前を遮る者はいない。

緩慢な足取りで、垂直の崖をゆっくりと昇っていく。

地上までもう百メートルもない。

後、数歩でビーストⅡの爪先は冥界と地上の境目に到達するだろう。

 

「ごめん、カドック……」

 

「いや、よくやった! 今度は……」

 

「――私達の番!」

 

二人が決死の思いでビーストⅡを足止めしてくれたおかげで、こちらは獣を射程距離に捉えることができた。

既にヴィイの魔眼は地上へ腕を伸ばさんとする獣の真体を余さず捉えている。

逃れる術はなく、隠れられる場所もない。

自分達は今、運命に追いついたのだ。

 

「令呪を以て命ずる! アナスタシア(キャスター)! 宝具を解放しろ!」

 

「ヴィイ、今こそ神を射抜きなさい! 我が墓標に、その大いなる力を――『疾走・精霊眼球(ヴィイ・ヴィイ・ヴィイ)』!」

 

再び開かれる精霊の魔眼。

漆黒の影、空想の産物、異聞の悪魔、バロールに連なる死の視線が極大の霊基に針の穴の如き弱所を紡ぎ出す。

狙うはその一点。

アナスタシアと自分の、持てる限りを尽くした最大の冷気操作。

その威力は最早、大儀式にも匹敵する。

絶対零度の極寒、飛沫すらも氷に代わる氷点下の猛威が吹雪となって冥界の空を再度、蹂躙した。

当然ながらビーストⅡはケイオスタイドでそれを防ごうとするが、二度も同じ手は食わない。

防がれるのなら、それごと凍らせるまでだ。

 

「もっとだ、もっと持っていけ!」

 

魔術回路が軋みを上げる。

限界なんてとっくに超えていた。

左半身から感覚がどんどんなくなっていき、意識は何度も寸断する。

それでもまだ足りない。

凍り付いた黒泥の向こう、ビーストⅡは未だ健在だ。

全身を凍てつかせながらも、少しずつ地上に向けて前進している。あの巨体を完全に沈黙させるには、まだ魔力が足りない、冷気が足りない。

もうここで終わってしまってもいい。

出し惜しみなんてしている場合ではないのだ。ありったけを、今ここで出し尽くさねば、自分達はこの先に進めない。

必要ならば持っていけ。

魔力も、命も、何もかも持っていけ。

君のその眼で、神を凍らせろ。

 

『よせ、カドックくん! それ以上はキミが保たない!』

 

「だめだ、後……少し……」

 

『くそっ! なら、居住区の電力をカットだ! リソースを回す、とにかく意識を強く持て! キミはこんなところで終わる奴じゃないだろ!』

 

ロマニの激励が遠い世界の出来事のようだった。

どんどんと意識は遠退いていく。なのに、魔術回路だけは限界を超えて駆動し、魔力を絞り出す。

ビーストⅡは全身の九割を既に氷で覆われており、後は右足と頭頂部の一部を残すだけだ。動きも非常にゆっくりで、まるで鉛を持ち上げているかのようだった。

 

「Aaaaa、aaaaa――」

 

『ダメだ、間に合わない! 爪先が頂上に!!』

 

「……ま、だだ……君の力は、こんなものじゃないだろ! まだ足りないなら、持っていけ! アナスタシア(キャスター)!!」

 

叫んだ瞬間、吹雪が勢いを増した。

令呪によるブースト、生死を省みない魔力の過剰供給、カルデアからの支援、そこまで積み上げても尚、ビーストⅡには届かなかった。

だというのに、最後の最後で、アナスタシアは意地を見せた。

吹き荒れる暴風は太陽すらも凍らせる。

風が、雪が、氷が、全てが牙を以て神を屠る。

ビーストⅡ。生命を生み出す原初の海。遍く命の母なる存在。

だが、その冷気は、凍てつく寒さは生み出すことを許さない。

凍らせるということは、全てを停止させるということ。

それは、神ですら例外ではなかったのだ。

 

凍れ(とま)(とま)れっ、(とま)れぇーっ!!」

 

「Aaaaa――――」

 

皇女の叫びが、空を裂いた。

断末魔にも似た声を上げながら、ビーストⅡは遂に全身を凍り付かせて動かなくなる。

伸ばされた右足は、地上の縁まで後数メートルというところで停止していた。

 

『やった! ビーストⅡ沈黙! 神を……原初の海を、凍らせたぞ!』

 

「アナスタシア!」

 

倒れ込んできたアナスタシアを咄嗟に受け止める。

マシュと同じく、限界を超えて宝具を酷使したことで、全ての力を使い果たしたのだ。

 

「はあ……はあ……や、やったの?」

 

「ああ、何とか……な……」

 

ビーストⅡは凍り付いたまま動かず、新たなラフムも生まれてくる様子はない。

これで戦いは終わったのだろうか?

それにしてはこの静けさは余りに不気味だ。

耳を澄ますと聞こえてくる。

獣の鼓動。

ゆっくりと、規則的に脈打つ心臓の音が、少しずつ大きくなっていく。

 

『まずい、ビーストⅡ再起動! 魔力炉心を臨界駆動させている! 氷を溶かすつもりだ!』

 

言われるまでもなかった。

アナスタシアが全身全霊で施した凍結に、早くもヒビが入っている。

氷の壁の向こうでビーストⅡの眼が動いているのがわかった。

獣はまだ死んでいない。

炉心の熱で氷を溶かし、拘束を振り切るつもりだ。

何てことだ。

ここまでやって、ビーストⅡを倒すことができなかった。

マシュもアナスタシアも最早、戦う力は残されていない。

これ以上、あの獣を冥界に押し留めておくことができない。

自分達の負けだ。

 

『右足の氷が砕けた!? ダメだ、もう――』

 

「戯け! そういうセリフは、這いつくばってから吠えるものだ!」

 

頭上から光が迸った。

降り注ぐ豪雨は次々とビーストⅡの顔面に着弾し、空間を震わす程の爆発を起こす。

ぐらりと揺れる巨体。

後一歩で地上の土を踏むはずだった右足は虚しく宙を切り、バランスを崩したビーストⅡの巨体は冥界の地面目がけて落下していった。

 

『これは、ディンギルか!? いや、ウルクにはもう人は……まさか!?』

 

ロマニが通信の向こうで言葉を失う。

そう、彼が言うようにウルクにはもう生きている人間は存在しない。

それに神権印象(ディンギル)は全て城塞の外に向けて設置されている。街の内側である冥界に向けて放つことは不可能だ。

ならば、この攻撃は神権印象(ディンギル)によるものではない。

これは一人の男によって放たれた攻撃――否、砲撃だ。

その者は黄金色の鎧を身に纏い、傲岸不遜な笑みを浮かべた金髪の青年。

開けた上半身は均整の取れた黄金比。幾つもの紋様が肌に刻まれ、右腕には籠手と共に鎖が巻き付いている。

紅い瞳は全てを見透かし、見下し、等しく侮蔑する魔性の眼。

その背に浮かぶは数多の財宝。

古今東西、あらゆる神話伝承に伝わる武具の原典。

そのような宝具を持つ英雄は一人しかない。

全てを収め、全てを手に入れた英雄の中の英雄王。

即ち――。

 

「サーヴァント、アーチャー。喧しいので来てやったわ」

 

――我らが英雄王ギルガメッシュに他ならない。

 

「王!?」

 

「ふん、これを奇跡と謳うようなら首を撥ねるぞ、雑種。貴様達は戦った。戦い抜いた。逃げる事も諦める事もできた戦いを、必死に食い下がって戦い抜いた。故に――(オレ)が間に合った」

 

ギルガメッシュは全身から溢れんばかりの王気を放っている。

その逞しさ、若々しさは玉座についていた時の比ではない。間違いなく全盛期のものだ。

冥界への旅路に赴く前、暴虐の限りを尽くした後、エルキドゥと出会って数々の冒険を繰り広げた万夫不当の英雄王。

ビーストⅡによって踏み潰されたギルガメッシュ王は、死して肉体を喪失したことを逆に利用し、全盛期の肉体を持つサーヴァントとして現界したのだ。

 

「なぁに、ここまで来たのだ。この程度の常識(ルール)破り、許容範囲というものだろう?」

 

ギルガメッシュが指を鳴らすと、背後から無数の宝具が射出される。

その一本一本が神権印象(ディンギル)と同等の破壊力を秘めた必殺の砲撃だ。

いや、神権印象(ディンギル)がこの宝具に似ているというべきか。

冥界の地形が変わる程の激しい爆撃には、さしものビーストⅡも堪らず吠え立て、その身を冥界へと釘付けにされる。

ここまで苦戦を強いられたのがまるで嘘のように、英雄王は回帰の獣を圧倒していた。

一同に安堵の表情が浮かぶが、次の瞬間、ビーストⅡは咆哮を上げて体内に魔力を蓄え始めた。

マシュに放った極大のブレスをもう一度、放とうというのだ。

マシュはもう戦えない。ギルガメッシュに対抗できる宝具がなければ、ここで詰みだ。

 

「そうか、死を知った事でようやく神の姿に立ち戻ったな」

 

最後の抵抗を試みるビーストⅡに向け、ギルガメッシュは憤怒とも憐憫ともつかぬ表情を浮かべて語りかける。

 

「貴様に向ける憎しみはない。ウルクの民も貴様への怒りはあれ、憎しみは持たぬ。ただ、分かり合えぬ摂理があるだけだ」

 

原初の海は産み、管理するもの。対して人間――否、全ての生命は育ち、旅立つもの。

子はどれほどの愛情を持たれようと、母親の手から離れなければならない。

例えその先にどれほどの苦難が待ち受けていようと、生きている限り、生命は前に進まなければならないのだ。

 

「それをここで示してやろう! 安心しろ、貴様の亡骸を辱めようなどと思わぬ。我らに世界の土台は不要! 死の国にて、今度こそ眠るがよい!」

 

「AaAAAAAAAAA――――LAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――――!」

 

咆哮するビーストⅡ。

来る。

あの砲撃が、聖杯級の魔力の波、神代のブレス。

迎え撃つは英雄王。黄金のサーヴァントは、静かに眼下の母を見据えると、右手に巻き付けた鎖を操って足下にいたカドック達を引き寄せた。

 

「ここで決着をつけるぞ、カルデアのマスターども。最後に(オレ)と共に戦う栄誉、真に赦す! 神殺しの英雄譚、見事果たしてみせるがいい!」

 

ギルガメッシュの言葉を受け、カドックと立香は互いの顔を見合わせる。

ここに来て、英雄王は自分達と共に戦うと言ってくれた。それはとても誉れあることだが、残念ながら自分達にはもう戦う力は残されていない。

王と轡を並べ、共に戦場を駆けることはできない。

ならば、どうするか。

勇士としては共に戦えない。だが、魔術師として――マスターとしてならば、まだ戦える。

自分達の右手には、まだ令呪が一画ずつ残っている。

唱える言葉は一つだ。

願う言葉は一つだ。

これは幼年期の終わり。神からの巣立ち。

掲げる願い、ただ一つ。

 

「令呪を以て――」

 

「――我らが王に願い奉る!」

 

互いに拳を突き出し、王に向けて嘆願する。

 

「どうか、今こそ神との決別を!」/「どうか、今こそ神との決別を!」

 

唱和と共に、最後の令呪が霧散した。

二画の令呪は願いとなって確かに王へと届き、その身に十全以上の魔力を迸らせる。

臣下の願いを聞き届けた英雄王は、豪胆な笑みを浮かべると、どこからか取り出した鍵剣を虚空に向けて突き出した。

 

「相分かった! 貴様達の願い、この英雄王が確かに聞き届けた! この一撃をもって決別の儀としよう!」

 

開錠された宝物庫より引き抜かれたのは一振りの剣。いや、あれは剣と呼べる代物なのだろうか。

柄も鍔も存在するが、刀身にあたる部分は赤い紋様が光る三つの円筒で構成されており、それが個々に独立駆動している。

軋みを上げて回転することで周囲の魔力が巻き込まれ、時空流までもが捻じ曲げられている。

荒れ狂う力場は持ち主であるギルガメッシュですら傷つけるのか、右手を守る籠手と鎖が時空流の乱れを受け止め悲鳴を上げた。

対するビーストⅡは体内の炉心を並列稼働させ、自壊覚悟での攻撃を試みる。

片や生命を産み、育む原初の海。

片や生命を裁き、見守る天の楔。

生み出す者と裁く者。

どちらも愛ゆえにヒトと寄り添いながら、両者は根本から相いれない。

故にこの戦いは必定。

神と人。

獣と王。

決別の時は今、訪れり。

 

「原初を語る。天地は分かれ、無は開闢(かいびゃく)言祝(ことほ)ぐ。世界を裂くは我が乖離剣。星々を廻す渦、天上の地獄とは創世前夜の祝着よ――」

 

「AAAAAAAAA、LaAAAAAAA――――!!!」

 

「死をもって鎮まるがいい――『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!」

 

炎が吐かれ、剣が振り下ろされる。

冥界の空で二つの力場が交差し、衝撃で空間そのものが激しく揺れた。

凄まじい魔力量だ。だが、空間を捻じ曲げる程度の暴風ではビーストⅡの炎を押し返すことはできない。

ビーストⅡのブレスは回帰の願い。我が子達に棄てられたことへの嘆きと怒り、憎悪。そして、それでも再び母として返り咲きたいという純粋な願い。

もう一度、我が子を愛したいという欲求。

母とは生命を生み出すもの。その最上位に位置するティアマト神の思いは、この地上に存在するあらゆる概念、思想を凌駕する。

それはギルガメッシュとて百も承知。

地の理では神を穿つには至らない。

ならばこそ、彼が示すは天の理。

刮目せよ。

貴様が生命を産むと言うのなら、我はその悉くを地獄へと叩き落す。

これより現出するは天地開闢以前の地獄。星があらゆる生命の存在を許さなかった原初の姿だ。

 

「黄泉路を開く! 持ち堪えろよ我が友! 応えて見せよ乖離剣(エア)よ!」

 

そして、原初の地獄が再演された。

ギルガメッシュの叫びと共に暴風を纏った力場が更なる軋みを上げ、膨れ上がったのだ。

力場同士は互いに干渉し合い、ビーストⅡのブレスどころか周辺の空間そのものすら巻き込んで巨大な渦を形作る。

暴れ回る力場の嵐は冥界そのものを破壊し尽くす勢いだ。

こんなものを地上で使えば、間違いなく人理定礎に致命的な傷を残すことになる。最悪、世界が意味喪失する恐れすらあるだろう。

そして、吹き荒れる嵐の向こうにカドックは地獄を垣間見た。

音すらも聞こえなかった。

世界そのものが煮え立ち、焼き尽くされていく。

細胞の一つ一つが恐怖で竦み上がる思いだった。

記憶にあらずとも、この身に刻まれた遺伝子は覚えている。

星が生まれたばかりの姿。未だ天地が開闢する以前、この大地は溶岩とガス、灼熱と極寒が入り乱れる地獄であった。

そう、地獄とは、このおおらかな星があらゆる生命を許さなかった時代。原初の姿そのもの。

暴風の中心は無風などではなく、紛れもない奈落の穴。世界そのものを飲み込む暗黒星だ。

この理を前にすれば、あらゆる事象は灰燼と帰す。

森羅万象、全てを引き裂く対界宝具。

全てを無に帰す断罪の風が、回帰の獣を飲み込んでいく。

最早、悲鳴すらかき消されたビーストⅡは、肉体を自壊させながら自らが産み落としたケイオスタイドと共に暗黒の彼方へと消えていった。

後に残されたのは、冥界の大地に刻まれた夥しい破壊の爪痕のみ。

生きている者は何一つとして存在せず、安息の静寂が冥界へと戻ってくる。

今ここに、神との決別は成されたのであった。




次回で七章エピローグ。
いやあ、長かった。
ダブル令呪はダブルマスターでいこうと決めた時から書きたかったシーンです。
実際にできるのかって?
考えるな、感じよ。

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