燦々と輝く太陽に照らされたエメラルドグリーンの海。
「せんぱ~~~~い! こっちですよ~~~~!」
ユッサユッサ
そしてその色を更に映えさせるかのように真っ白な砂浜。
「キャッ! せんぱい、海気持ちいいですよ」
ぶるんぶるん
目の前では誰が見ても美女だと断言するであろう後輩が歳よりも幼さを感じさせる無邪気な笑顔ではしゃぐ姿。
「もう~~~~~、早く来て下さいよ~~~~~!」
たぷんたぷん
何がとはいわないが目に毒としか言いようがない大きなのが彼女の気分に反応するように揺れている。正直直視出来ない。
「呼ばれていますよ。行かないんですか?」
「師匠、俺が病弱だって事忘れてないか? こんな日差しの中出て見ろ。直ぐさま貧血起こして熱中症だ」
魅惑的な光景を前にしてベンチにパラソル刺して横になっている晴明と名人。
彼等がいるのはハワイ。この度竜王戦の初戦はこの異国にて行われる。そこから別の場所に移動してまた対局があり、それが7回行われるようになっている。それが竜王戦というタイトルの対局であり、先に4勝した方が勝ちということだ。一回負けたら終わりではないというのがまた戦術的難しさを感じさせる。
だが初戦の前は大体こんなもので寧ろレクリエーションといった感じである。お陰でこうして対局者の知人関係はハワイのビーチにて思い思いに翼を伸ばしている。少し離れた方を見れば今回防衛側である竜王こと九頭竜 八一と彼が弟子入りしている清滝一門が総出で遊んでいる姿が見えている。
そんなわけでこうして晴明達もまたハワイの海を満喫しにきたというわけなのだが、晴明は見ての通り強い日差しを避けてくつろいでいる。
何度も言うが彼は病弱だ。こんな強い日差しの中、可愛らしい後輩の誘いに乗ってはしゃげば熱中症を引き起こしてダウンすることが容易に想像出来る。
だからこそ晴明はもうしているのだが、それはこのバカンスを楽しみあわよくば更に一歩先に進みたい後輩こと鹿路庭 珠代にとって不服であった。故に彼女は晴明の前に来るなりむくれた顔をする。
「せんぱい、せっかくハワイに来たんですから一緒に遊びましょうよ~」
そう言いながら晴明の顔を覗き込む珠代。その際に屈むため薄ピンク色のビキニに包まれた豊満な胸の谷間が晴明の視界に突きつけられる形になる。思春期の男ならば誰しもが前屈みになるほどに刺激的な光景。もしここで竜王こと九頭竜 八一が同じ事をされた場合、間違いなく見入ってしまい姉弟子である空 銀子や彼の弟子である雛鶴 あいに睨まれて罵詈雑言を吐かれていただろう。それほどの魅力溢れる光景を前にして、まぁ、最近何だかんだと言いつつデレ始めた晴明は少しだけ見入ってしまいそんな自分を恥いて顔を反らす。
「無茶いいなさんな。俺が病弱なのはお前だって知っているだろ」
「知っていますけど、それでも私はせんぱいと一緒に海で遊びたいんです。だってハワイですよ。こんな素敵な場所にいるんですから、せんぱいともっと一緒に色々したいんです」
顔を赤らめつつも嬉しそうに話す珠代に晴明は恥ずかしくなってしまい顔を見られないように手で覆う。ここまで彼女は好意を露わにするような人だったかと一瞬だけ考えて直ぐに自分が愚かだったと判断して止めた。いや、昔からそうだったし今も変わらず暴走しているんだったと。しかも今回はハワイという観光地ということもあって暴走が更に加速しているらしい。こうなっている彼女は止められないということを晴明は昔から知っている。
だからこの後自分がどう動くのかも直ぐに予想が付くのだが、それでもせめての反抗はしたい。珠代曰く『せんぱいはツンデレなんです』だからである。
「それで倒れたらどうするつもりだよ」
ジト目を珠代に向けた晴明。そんな彼に珠代はむふんと自慢気に胸を張ってドヤ顔で答える。その時に強調された胸がたゆんと揺れたのは見なかったことにしておきたいが無理だろう。
「それはそれでせんぱいの看病が出来るのでありです。ああいうときのせんぱいは結構可愛いですからそれもまたおいしいわけで。そうじゃなくても私は先輩と一緒に楽しみたいんです」
「こいつまったく隠す気がない。どっちに転んでも駄目じゃねぇか」
「だから観念して下さい♡」
可愛らしくてへっと舌を出しながらはにかむ珠代に晴明は内心ドキッとしつつ呆れた。
そんな二人のやり取りを見ていた名人は晴明に笑いかける。
「二人は本当に仲が良いね」
「腐れ縁ですから」
「大好きなせんぱいですから」
ほぼ同時に答える晴明と珠代。その息の合いように名人はクスりと笑ってしまう。そして彼はおもむろに起き上がる。
「私は月光さんと話があるから後は若い二人楽しみなさい」
そう言う名人に晴明は内心見捨てられたかのような気持ちになり呼び止める。
「いや師匠、月光さんとの話し合いはあと一時間くらい時間があるって言ってませんでしたか?」
そんな置いていかないでくれと言わんばかりの突っ込みをした晴明に対し名人は和やかに笑うだけであった。その様子はまるで自分の過去を見ているようである。そんな顔をしている名人を見て晴明は大方何を考えているのかを見抜く。大方奥さんとの青春を思い出しているのだろうと。
そして反論するよりも先に珠代が実に嬉しそうに笑いながら言った。
「せっかくのご厚意なんですからここは甘えさせていただきましょう! ほら、せんぱい、行きますよ」
そして名人が背を向けて去って行くのを見送る中、晴明は珠代に引っ張られて歩き出す。
「はぁ、もう…………仕方ないか」
諦めた晴明の顔にあるのは呆れであったが仕方ないと溜息を吐く割には満更でもないような顔をする。
そんな顔をする晴明を見つつ珠代もまたしょうがないなぁと苦笑した。
「せんぱい、呆れているわりには嬉しそうな顔してますよ。本当は嬉しいんじゃないですか?」
「俺を無理矢理引っ張り出しておいて何を言っているんだ」
晴明が諦めて普通に歩くと珠代は晴明の隣につくとやんわりと晴明の手に自分の腕を絡めてきた。
「おい」
そう声をかけた晴明の顔は赤くなっていく。何故なら珠代が腕を絡めると供に身を寄せるとその豊満な胸を晴明の腕に押し当てていたからである。
腕にしっかりと感じる圧倒的な柔らかい質量。むにゅりと形を変えるソレはいくら枯れている男であろうと反応するは必然である。
それが分っている珠代は自分でやっていながらも恥ずかしさから顔を真っ赤にしてしまう。
「い、いいじゃないですか。ハワイなんですし……その、大胆になっても」
「そ、そうか……まぁ、その、なんだ………どうせ抵抗出来ないんだし、好きにしろ」
そう答えることしか晴明は出来ず、そして二人はしばらく二人だけの時間を過ごすことに。その際に海での水の掛け合いなどをお約束をしたのは当然のことであり、端から見たら二人は完全なカップルだったのだとか。
尚、八一達は晴明に気づき声をかけようとしたのだが、二人のカップル感に声をかけるのを止めたらしい。