将棋界の戦争狂   作:nasigorenn

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しばらく書けなくてもうしわけないです。リアルに仕事とコロナ騒動で疲れ切ってしまいスランプだったので。なので今回はリハビリなのでつまらなくても許して欲しいです。


第13戦 その男、竜王戦初戦を見て

 昼間にバカンスを大いに楽しんだ一同はその後も更にハワイを堪能したわけだが、今回のメインは旅行ではない。竜王戦前夜祭を終えた翌日、ついに本題である竜王戦の第一局が始まった。

 この対局は二日制であり前半と後半で別れている。その前半の始まりは名人竜王共に両者とも落ち着いた様子で指していた。

 そんな二人の対局をモニター越し眺めている関係者の面々の表情は様々である。竜王の身内は皆不安になりながらも竜王が勝つことを信じている表情でモニターを見つめ他の面々はこの対局を興味深そうに見る。

 そして我らが戦争狂である晴明は自分の師の指し筋を見て面白そうに笑う。その顔は師の考えを察しての笑みであり、普段の物騒な笑みとは違いどこか子供のような無邪気さがあった。

 

「せんぱい、楽しそうですね(まったくもう、こんな時にそんな顔するなんてずるいです。可愛いんですから、もう~)」

 

 台詞と思考がイマイチ噛み合っていないのは晴明の隣に当たり前のように座っている鹿路庭 珠代である。この対局は棋士ならば誰もが注目するものであり彼女も例外ではないのだが、半分以上その視線が隣の大好きな人に向いていた。正直こんな時くらい真面目にしろと突っ込みが入りそうなものだが彼女はブレない。

 そんな後輩の言葉に晴明はあぁ、楽しそうに答える。

 

「そりゃ師匠とあの竜王の対局だ。面白くないわけがない。それに師匠も竜王との対局を楽しみにしてたからな」

「そうなんですか?」

「あの人は将棋が楽しくて仕方ないからな。相手が強ければ強い程に楽しむんだよ」

「ならせんぱいとの対局も楽しんでるですよね」

「まぁな。俺も師匠と戦争は楽しくて仕方ない。その所為で夜通し指し続けて師匠の奥さんに叱られて娘さん達にジト目を向けられるからな」

 

 晴明のクスクスと笑いながらの回答に珠代は話に出ていた名人の家族の反応を聞いてソレと同じように呆れた目を晴明に向けた。

 

「それだけ聞くとせんぱいは駄目人間にしか聞こえないですね」

「うるせぇ。仕方ないだろ、師匠と戦りあうのは楽しいんだから」

 

 そう語る晴明は自覚があるのか少し気まずげだ。彼曰く、将棋指しは皆どこかおかしいだそうだ。

 

「私との将棋よりもですか?」

 

 珠代のその言葉は答えを知っていての言葉なのだろう。既に若干拗ねていた声であった。

 

「お前との将棋も悪くはないがまだ温いからなぁ。もうちょい深みがあればマシにもなるんだがな」

「むぅ~、せんぱいは私と名人、どっちが大切なんですか?」

 

 ジト目でそう問いかける珠代に晴明はどう答えて良いのか悩み口を噤む。将棋で考えれば師の方が良いのだが、ここで安易にそう答えると目の前の幼馴染みは実に不機嫌になることが目に見えている。だからといってここで珠代の方が大切だと答えたならば確かに彼女は納得するのだろうが、此方としてはそう正直に答えたくない。そんな訳で晴明は視線を逸らしてモニターに目を向けると話題転換をすることにした。

 

「と、ところで珠代。今の戦況をどう見る?」

「あ、誤魔化した。後でしっかり答えてもらいますからね」

 

 ジト目で睨む珠代は晴明にそう答えつつモニターを見て少し考え込む。その視線に真面目な雰囲気を感じ取り話題転換が成功したことでホッとする晴明。既に彼女の尻に敷かれていることに彼は自覚がなかった。

 

「そうですね………今のところ互角と言うところでしょうか? まだ始まってそんなに経っていないから。でもまさか名人が九頭竜竜王の得意技である一手損角換わりを使ってくるとは思いませんでした」

 

 真面目に考え込んでいるのにう~んと唸っている姿が可愛らしい珠代に晴明はククっと笑いながら答える。

 

「あれは師匠の挨拶だよ。此方も貴方との対局を楽しみにしていましたっていう挨拶だ。向こうからしたら自分の得意技を出されて警戒してそんな意図なんて読めないだろうけど」

 

 名人と対局ばかりしている晴明はそう平然と答えるのだが、それを聞いた珠代はげんなりとした顔をする。

 

「それ普通は分りませんよ。寧ろ相手からしたら自分の得意を潰されて警戒心を煽るだけじゃないですか。それはあまり勝つには良い手じゃないと思うんですけど」

 

 珠代のそんな質問に晴明はそりゃそうだと笑うわけだが、だからといってそうじゃないんだよなぁといった感じに首を横に振る。

 

「そもそもそこがあの人は違うんだよ」

「え?」

 

 珠代のポカンとした顔を見ながら晴明は言う。

 

「あの人にとって勝つか負けるかなんていうのは二の次なんだよ。あの人はいつでも『将棋の真理』の追求が一番なんだ。だからこそ、あんなに面白いのさ」

 

 名人が他の棋士よりも異様なのはその考え方や志だろう。普通の棋士ではそんな風には考えられない。だからこそ、こうも強い。常人には計り知れないからこそ、彼は名人なのである。

 それを聞いた珠代は晴明をみながら呆れていた。

 

「だからせんぱいも似たような感じになるんですね。私、名人ってもっと理知的な人だと思っていました。ちょっと幻滅です」

「それはどういう意味だよ」

「名人はせんぱいと同じってことです。快楽主義というか刹那的というか、物騒というか」

「お前が普段から俺をどういうふうに見ているのかよく分った」

 

 晴明はジト目で珠代にそう返すと彼女はそれこそ誤魔化すようにモニターに目を向ける。

 

「せんぱいはどう見るんですか? 今のところは九頭竜先生が優勢のようですけど」

 

 今の戦況は竜王の優勢であり、このままいけば確かに竜王の勝ちだろう。まだ二日目があるとは言えこれは結構マズい。いや、普通の棋士ならばそれなりに焦るはずなのだ。だというのに名人にはそんな様子は見受けられない。その落ち着いた様子に周りは流石だと感心するほどだ。

 そんな状況を見て晴明はまたおかしそうに笑った。

 

「まったく、あの人はつくづく性格ひねてるな。このままいけば今日は勝敗つかずに終了。明日の対局で師匠の勝利だ」

 

 確信してそう答える晴明。その言葉にある確かな自信は師を信じているとかそういうものではなく、純粋な将棋の腕を知っているからこその言葉である。

 

「師匠は竜王を試してるんだよ。これから更に広がる将棋の世界に彼が応えられるかどうかをさ」

 

 それが他の棋士との違いなのだろう。名人と呼ばれる神がいる場所に行けるかどうか、それを試されているのだと。

 その言葉に珠代は感心した様子を見せるわけなのだが、そこで分りきっているのに敢えて質問をした。

 

「ならせんぱいはどうなんですか?」

「俺とあの人はそもそも考え方が違う。俺は真理なんてもんに興味は無いからなでもまぁ…………俺は戦争が出来ればそれでいい。殺し合いは命掛けだからこそ、尚面白いもんなんだよ。俺でも出来る殺し合いの戦争……これほど面白いもんはないだろ」

 

 その時の晴明はいつもの物騒な笑みであり、そんな晴明に珠代はいつものせんぱいだと思って微笑みながら見つめていた。その物騒な顔が大好きな彼女もまた変わり者だということを自覚せずに。

 

 

 

 そして晴明の予想通り初日は竜王の優勢で終わりを迎え、そして二日目は見事というか予想外というか、名人が一気に戦況をひっくり返し見事に勝利して見せた。

 それを予見していた晴明は流石は弟子だというべきなのだろうか、もしくは狂人と言うべきか。

 周りが名人の勝利を讃える中、晴明だけは竜王を見ていた。彼の顔にあったのは理解が及ばない恐怖。自分を形作る自信と経験、才能そのものが崩れていくかのように感じているのだろう。言っては悪いが名人と戦ったことがある人がよく出す『症状』だ。圧倒的実力と自身では想像もつかない手を見せつけられて揺らいでしまうらしい。

 そんな竜王を見ながら晴明は一人呟く。

 

「おいおい、まだまだ始まったばかりだぜ、竜王。もっともっと楽しまないと損するぞ」

 

そう言いながら晴明は師である名人の方に向かうべく席を立つ。その彼の腕にしっかりと組み繋いでいる珠代に誰も突っ込みは入れなかった。

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