将棋界の戦争狂   作:nasigorenn

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スランプにつぐスランプで遅れて申し訳ない。新型コロナの脅威によるストレスでアレルギーが酷くなったり逆流性食道炎になったりしてたんだ。許して欲しい。


第14戦 その男、叱咤激励につき

 竜王戦は初戦竜王の敗北から始まり、その後第二局、第三局と試合が続いていくがその結果は彼の予想通りであった。

 最初こそ最年少の竜王と名人というカードに沸いていた報道陣であったが、その偏りが名人に傾いていることもあって既に名人を新たなヒーローのように扱い始めている。それだけならばまだ良いのだが、中には竜王の力を嘲笑い貶す輩も現れた。やれ竜王に相応しくないだの、調子に乗っているからだのと、様々な悪意が飛び交っている。正直聞いていて良いものではなく、例え当人でなくても気分が悪くなる。竜王が悪役である。そんな雰囲気がこの業界に満ちていた。

 

 

 

 彼……戦部 晴明は只今不機嫌さを露わにして歩いていた。

その様子は如何にも機嫌が悪いといった様子であり、初見だと今にも人を殺しそうだと言われそうなくらい怖い顔をしている。

 

「せんぱい、顔が凄いことになってますよ~」

 

そう言いながら晴明の頬をぷにぷにと突っつく珠代。そんな彼女の行為を咎める気が無いのか晴明はそのままの状態で何故自分がこんなにも不機嫌なのかを答えた。

 

「気にいらねぇ」

 

 彼は何が気にいらないのか? それはこの場の雰囲気か? または悪しげに扱われている竜王の事か? いいや、違う。彼は悪意に左右されるような人間ではない。

 彼が不機嫌な理由、それは…………。

 

「今の竜王がむかつくんだよ」

 

 晴明は今の竜王に怒りを抱いていた。仮にも名人と戦う者がこんな不甲斐ないからか? いいや、違う。または彼も周りと同じような考えをしていたからか? 違う。

 なら何故晴明はこんなにも怒っているのか?それは彼に取って『一番大切なこと』を竜王が忘れているからである。

 もしそれを忘れていないのならばこうは怒っていない。押しつけなのではないのかと思われるかも知れないが、そんなことは関係ない。

 それが何なのかをわかる珠代は仕方ないですねと苦笑しながら晴明の腕にくっついた。女性特有の柔らかな感触と温もりが腕から感じられ母性が溢れ出す。ドキドキする場面なのだがどういうわけか母親に窘められているように感じてしまう晴明。

 

「それはわかりますけど、だからといってここで苛立たないで下さい。その所為で道行く人がせんぱいを怖がってるじゃないですか。まぁ、そのお陰でこうして悪い虫が近寄らないからいいですけど」

 

 恋人のように身を寄せる珠代に晴明はなすがままであった。その顔は若干怒りが薄れたのだろう、呆れた顔になっていた。

 

「あの、珠代さ~ん。仮にも結構真剣な雰囲気だったんですけど…」

「そんなことは関係ありません。せんぱいがいくら怒ろうと仕方ないことに関わっていられませんから」

 

 そんな珠代に毒気を抜かれた晴明は深い溜息を一回吐くと身体の力を抜いた。確かに怒っていることは確かなのだが、当人がその場にいない怒っていてもどうしようもない。

 そんなふうに怒りを収めていた晴明に珠代は顔を近づけながら問いかける。

 

「それでせんぱい、どうします?」

 

その可愛らしい問いかけに晴明はまた軽く溜息を吐くと面倒臭そうする。自分が何と言うのかをこの後輩はすでにわかっているのだ。それを敢えて言わせようとするのはある意味意地悪だろう。

 

「おまえさんの予想通りだよ。これから竜王のとこ、行くぞ」

「はい」

 

 そうして彼等は向かう。目的地は竜王こと九頭竜 八一の所へと。そこに向かって晴明が何をするのかと言えば、まぁ…………叱咤激励になるのだろう。他所様からしたらそんなふうには絶対に見えないとしても………。

 

 

 

 関東から関西、そして八一を探すべく関西将棋会館へと向かった晴明と珠代。そこで八一を探すが当然見つからず、そこで彼の自宅へと向かおうということになったわけなのだが、当然プライバシーの問題で住所など教えられるわけもない。晴明がどうにか聞き出そうとすれば途端に悲鳴を上げられて警察沙汰になりかねないことが予想出来るだけに困る晴明であったが、そこで珠代が動いた。

 柔和な笑みを浮かべ八一の様子を見に行きたいのだと語り、事務員の手をそっと握り若干上目遣いでお願いしたのだ。

 美女からそんなお願いをされた男は誰しもたまったものではない。事務員は珠代のお願いに陥落、サインもお願いしますという要望も出しつつ八一の住所を教えてくれた。

 教えてもらった住所を晴明にいいながらどうですかと言わんばかりにドヤ顔で胸を張る珠代。ゆさゆさと揺れる胸に色気を感じるはずなのだが、晴明はそんな珠代を白い目で見ながら項垂れる。

 

「気付けば後輩が悪女になっていた件について………あぁ、おばさんに俺はどう弁明したらいいんだよ」

 

 女を武器に使った後輩に晴明は親御さんにどう言えば良いのかと悩むのだが、そんな晴明に珠代はクスりと笑って妖艶に微笑んだ。

 

「安心して下さい。これから先はせんぱいにしかしませんから」

「っ!? そ、そういうことを人前で言うんじゃない」

「だったら今度は二人っきりのときに言いますね」

「あぁ、もう………好きにしろ」

「はい、せんぱい。だいすきです」

「~~~~~~~~~~ッ!?」

 

 後輩からの好意に悶絶しそうになる晴明だが、端から見たらバカップルのいちゃつきにしか見えないわけであり、これからするであろうことが物騒だというのにこの始まりはあんまりだろう。だから晴明はともかく咳き込む真似を多くするはめにあった。

 そんなおピンクな展開も過ぎて八一の自宅へと着いた晴明達。よくあるアパートの一室が八一の住居だ。

 その部屋に向かっていると途中で此方に向かって走ってくる女子学生とぶつかってしまった。

 

「ぐえッ!?」

「キャッ!?」

 

ボディに激突された晴明はダメージを受けて蹲り、女子学生は尻餅をついてしまい急なことに驚いていた。

 そこでやっとぶつかった相手が誰かが判明する。雪のような印象を受ける綺麗な美貌を持った美少女………珠代の目標でもある空 銀子であった。八一とは姉弟弟子の関係であり彼を心配して来たのだろう。

 だが何かあったのだろう事は一目でわかった。何せ目から涙が止まらず赤い顔をしていたのだから。

 そのまま去ろうとする彼女であったが、ここで珠代が引き留めた。事情を聞くのだろうと思っていた晴明であったが、この後の彼女の行動に目を剥いた。

 

「あらあら。まずは落ち着きましょうか」

 

そう言うなり………何と銀子を抱きしめたのだ。

珠代の大きな胸に顔が沈み込む銀子は突然の事態に頭が追いつかず目を見開いていたのだが、さらに珠代に頭を撫でられ困惑する。

 そんな銀子に珠代は幼子をあやすように優しい目を向けながら慈しむように抱きしめる。そしてしばらくそうしている泣き止んだ銀子が気恥ずかしくなり放すように言うまでこれは続いた。

 そこから何とか話せる状態になり小さい声ながらどうして泣いていたのかの事情を説明する銀子。彼女の話を聞き晴明は何とも言えない顔になったのだが、珠代は違った。顔はいつもと変わらない笑顔なのだが目がまったく笑っておらず、ムカっという怒りマークが二三個浮かんでいた。

 

「せんぱい、ギルティです。思いっきりやっちゃてください」

 

死刑宣告を言い渡す珠代に晴明はそれを告げられたであろう相手に同情してしまう。素で今の珠代が怖いのであった。まぁ、もとからそのつもりではあったので問題はないのだが。

 そして銀子を帰すと晴明達は九頭竜 八一宅の呼び鈴を鳴らす。

一回鳴らすも反応は返ってこず、二回三回と鳴らす何も帰ってこない。なので晴明はここで溜息を一回吐き、これから自分がやることが如何に幼稚なのかをわかった上で実行する。

 

『連打によるエンドレス呼び鈴』

 

近所迷惑極まりないこの騒音にげんなりしつ止めることをしない晴明。流石にコレには耐えられなかったのだろう。部屋の主が扉を凄い勢いで開けて出てきた。

 

「いい加減にして下さい、姉弟子!!………!?」

 

部屋から飛び出してきた八一は姉弟子である銀子がもう一回来たのだろうと思った。だが八一の目の前に現れたのは自分より身長のでかい白髪長髪の男だというのだから驚いても仕方ない。

 だが、それ以上に驚かせたのは晴明の表情だろう。

八一の顔色は正直かなり悪かった。過度な精神的ストレスと深刻な寝不足、それにロクに食事を取っていないことによる栄養失調気味。青白い生気の薄れた顔はさながら幽鬼のようであった。故に幽鬼と相対するのは。

 

「よぉ、竜王。さっそく殺し合おう(指そう)ぜ」

 

戦争を好み殺し合いを求める修羅がそこにいた。

 

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