将棋界の戦争狂   作:nasigorenn

4 / 18
中々に更新が難しいですね。


第1戦 その男の朝につき

 将棋界にある意味名を轟かせる彼『戦部 晴明』であるが、そんな彼でもプライベートは他の人達と全くといって良いくらい変わらない。

朝、幼馴染みにして後輩棋士である『鹿路庭 珠代』にラブコメよろしくに起こされ寝起きの悪い様子を暖かな目で見つめられ、その様子を隣人にして同じA級棋士である『山刀伐 尽』に呆れられながら彼が作った朝食を三人で食べる。若干普通と違うような気がしなくもないが、それでもこれが晴明にとっていつもの普通だ。

 

「いつもすみませんね、山刀伐さん。まったく、鹿路庭は山刀伐さんを見習ってもっと家事力上げろよ。見た目は良いんだから後は中身がそろわないとな」

 

山刀伐に感謝をしながら白米を口に入れる晴明。その朝食の味を楽しみながら女子力が低い後輩をからかう。

からかわれた珠代はプリプリと怒りつつもドヤ顔を噛ましてきた。

 

「ちゃ~んと教えてもらってますよ~。今ならなんと、お味噌汁だってお手の物です。どうですせんぱい、毎日私にお味噌汁、作ってもらいたくありませんか? 私は毎日OKです!何ならせんぱいの最後を看取る時までせんぱいの為に作り続けます!」

「いや、そこまで毎日味噌汁飲みたくない。寧ろ行きすぎて怖いだろ、それ。っていうか味噌汁だけでそこまで調子づくな。山刀伐さん、どうせこいつのことだからそれ以外はまだダメダメじゃないですか。家事の師匠としてそのところどうです?」

 

同じA級棋士で隣人ということもあって仲が良いだけでなく、どういうわけかこのバカップル(笑)の世話を焼くことになってしまった苦労人である山刀伐は晴明に問われたことに同じく朝食を口に運びながら答えた。

 

「別に師匠を自認した覚えはないのだけれど。でもそうね~……確かにお味噌汁なら上手に出来るようになったね。それ以外はてんで駄目だけど。せめて卵焼きくらいちゃんと出来ないと。でないと貴方、このまま毎食白米とお味噌汁だけの食事になるわよ」

 

その言葉に晴明はジト目を珠代に向ける。見た目は正に魅力的な女の子なのにその中身の女子力が酷いことをしっているからこそのジト目である。そんな目を向けられた珠代はサッと目をそらした。

 

「べ、別にこれからですから。私だってやれば出来るんです」

 

開き直ってそう答える珠代に晴明はやれやれと呆れつつも苦笑した。自分を慕う後輩のことを彼は嫌いではないのだ。

 

「だったら頑張れよ。お前が作る料理、まぁ一応楽しみにしてやるよ、一応な」

「むぅ~、言いましたね。だったら思い知らせてやります。覚悟して下さいね」

「はいはい、その調子で将棋も頑張れよ、女流二段」

「はい!」

 

そんな感じに朝食を楽しむ3人。周りからは不思議に見えるかも知れないが、これが彼等の朝である。

 朝食を終えて食後のお茶を楽しむ3人。そんな3人の話題は当然彼等の仕事にして本懐である将棋のことだ。

 

「今日の予定は? 僕はいつも通り名人の所に研究会だけど」

 

山刀伐は将棋界の神とすら言われる『名人』と研究会をしている。この男の将棋は研究によって作られた手強い将棋だ。才能はあまりないと言われているようだが、それを経験と知識によってカバーしている。寧ろ凌駕しているといっても良い。だからこそ、あの名人の研究パートナーとなれたのだ。ある意味努力が大成した人と言えるだろう。

その予定を聞いた晴明は少しばかりがっかりした。

 

「そっか、研究会か。俺は今日用事が特にないから研究会でもしてもらおうと思ったんだけどな」

「ごめんなさい。後日空いたらお願いするわ」

 

山刀伐に断られた晴明は仕方ないと諦める。確かに同じ研究会でも名人相手とそうでないとではその重要性も変わってくるだろう。実はそれ以外にも理由があるのだが、それを本人は今のところ知ることはない。

そんなふうに多少気落ちしている晴明に今度は珠代が元気よく身を乗り出しながら提案する。

 

「でしたら私と研究会しましょう! せんぱいとならきっと凄く勉強になると思います。それで手取足取り色々と…………えへへへへ」

 

顔を赤らめながら何やら良からぬ妄想をしてニヤニヤと笑う珠代。可愛らしくはあるのだが、慣れている晴明は特に思うことなく返す。

 

「お前は今日大学だろうが。おばさんにお前がサボらないよう見ておけと言われているんだ、サボったら報告せにゃならん。それは嫌だろ」

「むぅ~、お母さんのいけず。あ、ならせんぱい、大学が終わったらどこか行きましょうよ。私、美味しいスィーツを食べたいです」

 

すかさずデートを誘う珠代。タダでは転ばない辺りが本気で恋していることが窺える。

美女からのお誘いとあれば男は嬉しい者なのだが、毎回誘われている晴明にとってはそんな喜びはない。故に呆れた顔でこう返す。

 

「俺が奢る前提かよ。別に金が無いわけじゃないが。だとすると外にいた方がいいか。ならどうしようかな」

 

後輩に世話になっている?(逆に世話しているとしか思えない)手前、たまにはそれぐらいいいかと思い了承することにした晴明。

 

「やった! えへへ、せんぱいとデート、せんぱいとデート……そしてあわよくばホテルに…………」

 

何やら良からぬことを考え始めている後輩に目を向ける事無く晴明は今日の予定を軽く考える。山刀伐と研究会をしたかったのは本当に何となくであり出来なくても問題ない。では一人でいるときは何をするのかと言えば『将棋の研究』と『将棋に応用する為の戦術研究』、兵法や戦術などを書物や映画、ゲームなどで学びそれを将棋の戦術として応用する為の改修を行ったりするのだ。これこそがこの男が将棋界の異端と呼ばれる理由の一端である。彼は将棋そのものの研究も行いはするのだが、それと平行して過去現在における実際の戦争で使われていた戦術を将棋に応用することをしているのだ。だから既存とは違った戦術を多くとるし戦型も定まらない。オールラウンダーではなく、戦型がないとさえ言われている。故に異端と呼ばれているのだ。その本質こそが戦狂いだからこそなのだろう。

そんなわけで研究しようかと思っていたわけだが、たまには後輩と出かけるのも悪くない。だから彼は外にいた方が都合が良いと考えた。

そして時間を潰せる所を考え、そして如何にも期待に瞳を輝かせている後輩にこう答えた。

 

「んじゃ俺は取り敢えず将棋会館にいるわ、何かあったら連絡をくれ」

 

こうしてその日の予定が決まった3人。山刀伐は洗い物をシンクに運び入れ珠代は浮かれた様子で大学にいく準備を行う。

そして晴明は出かけるようの準備を行って外に出た。

 

「まぁ、楽しませてもらおうかな………誰かいればだが」

 

この日、彼はある人物と出会うこととなった。その事を今の彼が知ることはない。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。