将棋界の戦争狂   作:nasigorenn

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久々の更新ですよ。


第2戦 その男、ゴッドコルドレンとの出会いにつき

 後輩とのお出かけ、もといデートをすることになった晴明ではあるが、彼は当然その意識がない。彼自身『鹿路庭 珠代』が美女であることは認めているのだが、如何せん小さい頃からの腐れ縁、大概どこに行くのも一緒だった為に一緒に出かけることに何の感慨もないのである。世の男性なら誰もが羨むシチュエーションだが、彼はその程度なんともなかった。

そんなわけで精々たかられるだろうなぁ等と軽く考えつつ彼は将棋会館に向かって歩き始めた。

 将棋会館は日本に3つあり、東京の『将棋会館』、関西の『関西将棋会館』、そして北海道の『北海道将棋会館』がある。

この三つに日本各地からの猛者が集まってくるのだが、その所属に関しては交通の関係や住所などの関係で基本近い場所の所属になる。書類手続きやら弟子入りした門派の関係もあるのだが。晴明や珠代は今住んでいる場所が東京ということで『将棋会館』に所属している所謂関東棋士というわけだ。そんなわけで彼は似合わないスーツに身を包み若干ふらついた足取りで将棋会館にたどり着いた。

 

「さて、どうしようかね……」

 

軽く呟きつつ周りに目を向ける。将棋会館の一階は販売部であり様々な将棋グッズが売っていた。一般向けの駒のストラップやプロ棋士の直筆の扇子(コピー)などがある。

ボーとした目でそれらを眺めている晴明。ふと自分の扇子があったかなと思ったが、まぁ嫌われている手前売ってないと思い探すのを辞めた。それどころか昔書いたその字すら忘れたので探しても見つけられない。なので他の棋士の扇子を見ていくのだが、そこに一つ実に個性的なものを見つけた。

それは普通に四字熟語が書かれているのだが、その上に書かれているルビがカタカナであり、普通に読んだら絶対にそうは読めない訳が成されている。周りの扇子に比べ明らかに浮いたそれを晴明は近くで見る。

誰の扇子か? そう思いながら見ると、そこには彼自身あんまり付き合いはないが有名な人物の名が刻まれていた。

 

「あぁ、最近調子が良い神鍋六段か。確かに噂に違わぬぶっ飛びぷりだな、こりゃ」

 

晴明の脳内に浮かぶのは雑誌などで取り上げられている若手ナンバー1とすら言われているプロ棋士『神鍋 歩夢』。現在18歳という若さでB級2組に所属している強い棋士であり、その独特の……もとい中二病全開な物言いと真っ白な服にマントという目立ちすぎる格好が人目を集める。まさに次代を担うに相応しいが個性的過ぎる棋士だと言えよう。

そんな人物の扇子に納得した晴明。派手だなぁと思っているが、実際彼自身この世界においてはそれ以上に派手だと認識されているのは本人だけが知らない。誰しもが口を揃えて言うだろう。

 

『自分と同格であるはずの棋士相手に全ての駒を剥ぎ取るなんて芸当をする人物などこの人しか存在しないと』

 

皆からそう言われ恐れられているなんてことは知らない、もとい意識しない晴明は続いて二階に行く。

二階は一般に公開されている部屋であり、そこで将棋道場や将棋教室などが行われている。故に本日も老若男女問わず賑わいを見せていた。

その周りをグルリと見渡す晴明。皆楽しそうに一生懸命に思い思いに将棋を指している姿がそこにありどことなく晴明も疼きを感じる。

彼はその見た目と言動から老成していると思われがちだが、実は意外と精神的に幼なかったりする。単純に言うと皆楽しそうなので自分も指したいと思ったらしい。

とはいえ自分はこれでも一応プロ棋士(タイトルホルダーのA級棋士)、一般人相手に指すのは大人げない。だからなのか内心ションボリする晴明だが、次の瞬間気落ちした心は一気に猛り始めた。

 

「もし……もしや戦争卿ではございませんか?」

 

その声の方を向くと、そこにいたのは明らかに場違いな格好をした青年。この将棋会館という場に似合わない真っ白な衣装に真っ白なマント。そんな格好をした人物など将棋の歴史を振り返っても一人しかいない。

 

「神鍋 歩夢さん……か?」

 

急にこんな人物が現れたのだ、驚かない方がおかしい。一部を除けば一般的な感性の持ち主である晴明は驚きで目を丸くしていた。

そんな晴明を見て歩夢は仰々しい動作で関心した声を出す。

 

「おぉ、やはり戦争卿でした! まさかこのような日に貴方のようなお方と出会えるとは、何という僥倖! やはり我は運命さえ凌駕している!」

 

実にノリノリな中二病全開な歩夢。それについて行けない晴明はタジタジであるが周りは寧ろ盛り上がりを見せてる。何せこの場に有名人が現れたのだから。晴明とは偉い違いだが、それは仕方ないだろう。彼は基本一般公開されていないのだから。

だが棋士達にとっては違う。この場に若手のホープとタイトルホルダーが顔を合わせたということに何やら騒々しくなっていた。

そこで二人は周りの注目を集めつつ会話することに。

歩夢は何でも近々ある『竜王』との試合を前に勉強中らしい。竜王といえば関西将棋会館に所属する『史上最年少の竜王』こと『九頭竜 八一』のことであり、年齢が近いこともあってか歩夢と竜王は互いに良きライバルらしい。

その話を聞いた晴明は内心少しばかり羨ましく感じる。何せ彼にはそのような相手がいないから。その年齢でタイトルを持ったこの男は、その強さで大概を粉砕するのである。互いに切磋琢磨する相手というのが出来ない、出来なかったというのが実情。彼と拮抗できる相手が少なく、それが皆最上級の人達ばかりだったからである。

そんなわけで若干の羨ましさを感じながら晴明は歩夢の話を聞いていく。

 

「次の我が宿敵、竜王(ドラゲキン)との試合、全力でいく所存です」

「そいつは結構だ、若モンはやる気があっていいね。君みたいな殺る気に溢れる人達がいるほうがこの業界も楽しくなる」

 

その言葉を褒め言葉として受け取った歩夢は誇らしげに喜んでいた。そして彼は晴明にこう言ってきたのだ。

 

「それですみませんが、戦争卿……一局指していただけませんか」

 

それまでの和気藹々とした雰囲気から一転して真剣な様子で真っ直ぐ晴明を見つめる歩夢。そんな歩夢の発言に周りは当然ざわつき始める。

何せ若手のホープとが将棋界の死神と指すというのだから。

そんな空気に包まれる中、晴明はニヤリと笑みを浮かべた。その際に発される殺気は周りに伝わりそのざわつきを凍り付かせる。それを直に受けた歩夢は息を吞み冷や汗が噴き出す。彼が今まで受けてきたことのない殺気に恐怖を感じ取った。

 

「丁度良い。俺も暇だったんでな。噂の若手ナンバー1の実力見せてもらおうか」

「は、はい!」

 

そして始まるプロ棋士同士の野良試合。

互いに盤を挟んで向かい合う両者の顔は互いにやる気に満ちている。

最初の始まりは両者互角。そこから互いに攻めていくのだが、歩夢はそこで困惑を隠せずにいた。

 

「なっ!? そのような攻めがあるとは!」

「トロイの木馬を見立ててみたが、案外使えるか?」

 

初めて見る定跡にない攻め手。常識外の手に振り回され、それでいてオールラウンダーとは一味も二味も違う指し手に翻弄されていく。

歩夢が攻めようとすると時に躱され待ち伏せされ、また防御に回ろうとすれば予想外の位置からの強襲が仕掛けられる。

現在の定石からは外れすぎているその様子はまさに未知。見ていた者達も皆驚きどうしてこうなったのか分からない様子だ。そんな中、まるで実験するかのように次々と手を出し変える晴明。そんな彼はギラギラと殺気に満ちあふれた目で楽しそうに笑みを浮かべていた。

そしてそれなりに時間が経ったところで歩夢が小さく口に出した。

 

「…………ありません」

「ありがとうございました」

 

試合が終了し、勝ったのは晴明。歩夢は善戦むなしくも最後は陣形を壊され王手をかけられた。

その様子に周りの皆がどうやったらこうなるんだと検討し始める。そんな中、それなりに指せた晴明はお礼代わりに歩夢にアドバイスをあげることにした。

 

「たまには定跡を外して伸び伸び打ってみるのもいいもんさ。それと攻めはいいが、常々全力ってのは疲れるぞ。持久戦に持ち込まれる場合も考えてみたら良い」

「ありがとうございました。勉強になりました」

 

晴明に感謝する歩夢に晴明は軽く肩を叩く。

 

「これからも頑張ってくれ。君みたいなやる気がある奴ほど『戦争のしがい』があるからさ」

 

そして晴明は将棋会館から外に出る。

予想外の人物との出会いがあったが、悪くない出会いであった。

 

「ああいう若者が多ければもっと楽しくなるなぁ。もっと『殺し合い(戦争)』がしたいねぇ」

 

そしてそんなふうに楽しそうにしている晴明に声がかけられた。

 

「お待たせしました、せ~んぱい。さ、一緒にスィーツ食べにいきましょいう」

「あいよ」

 

そして戦争狂は女の尻に敷かれていくのであった。

 


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