将棋界の戦争狂   作:nasigorenn

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久々の更新で申し訳ないです。体調を崩してしまって………皆様は風邪などにご注意下さい。


第4戦 その男の師匠につき

 大阪にて噂の竜王『九頭竜 八一』との邂逅を成した晴明。その対局は棋士にしては正直酷い泥仕合としか言い様がないものであったが、晴明は寧ろ好ましいと感じた。持久戦や籠城戦もまた兵法なり。その『戦争に勝つ』執念こそが重要なのだ。将棋の世界において潔さも重要だと皆言うが、晴明はそうだとは思わない。必死に足掻いて酷評という汚泥を被ろうとも勝とうと進む精神こそが大切なのである。それこそが『戦争』をより輝かせる。命掛けの戦いに潔さなどいらない。殺し合うこと自体が野蛮な行為であり、それこそが晴明のもっとも大好きなことであった。まぁ、身体が弱い晴明に出来るのは盤上という名の戦争だけなのだが。

そんな出会いもあって最近ますます楽しみが増えている晴明。より盛り上がる将棋界に彼なりにワクワクしているのであった。

 そんな晴明は最近何をしているのかと言えば……………。

 

「え~、何々…………史上最年少竜王、弟子をもう一人追加。よりロリコン疑惑が!? 浪速の白雪姫快勝!女流玉将『月夜見坂 燎』を最速で打ち破った!!……へぇ~」

 

棋士でありながら記者としても活躍を見せている山城桜花『供御飯 万智』が書いた記事を見ていた。最近盛り上がりを見せている将棋界でどのような話題が出ているのかを何となく見てみようと思ったからだ。本当に何となくなのだが、どうにも最近若手有名人と会うことが多かったからである。他意はない。

そんな晴明の隣にさも当然の如く座り、尚且つ唇が触れるかも知れない程に顔を近づけながら記事を覗き込むのは彼の後輩にして晴明大好きな珠代だ。晴明にとってはいつものことなのだが、周りから見たらカップルにしか見えない。それにドキドキするのならまだ初々しいものだが晴明は慣れているので特になく、珠代はそんな晴明に若干の怒りを込めてジト目を向けていた。

 

「せんぱい、随分と熱心ですね、この記事だけ。確かこれって山城桜花である供御飯 万智先生が書いた記事ですよね。せんぱい、もしかしてあの人に気があるんですか?確かにあの人、美人ですもんね。色白で綺麗な肌に綺麗な黒髪、それに胸も大きいし………でも私だって負けてませんし………。それとも、もしかして…………空 銀子先生の方ですか!? ど、どうしよう、せんぱいがいつの間にかロリコンに………何とかして私が矯正しないと…………」

「お前はどうしてこの記事からそんなことを考えつくんだ………。ただ単にここ最近若手の有名人に会うことが多かったから何となく気になっただけだ。それと鹿路庭、何人を勝手に『幼女性的嗜好者』にしているんだ。相手に失礼な上に俺はそういう趣味はない」

「でも最近そういう話題が多いじゃないですか。九頭竜先生とか」

 

今見ている記事にまさにそのことが書いてあるだけに何とも言えなくなるが、それでも晴明は呆れながら答える。

 

「まぁ、それは人それぞれだろ、多分……。少なくとも俺はそういうのはない。正直、後輩の面倒で手一杯だからな。俺にそういうのは一人で十分だ」

「え、それって………せんぱい?」

 

遠回し的なその発言がどのような意味を持つのか、それは当人にしか分からない。だが、長い付き合いのある珠代はそれを『良い意味』で捕らえ顔を赤らめる。美女の嬉しそうな顔というのは綺麗で可愛らしい。端から見たら幸せそうな恋人にしか見えないだろう。

そんな恥じらいつつも嬉しそうな珠代は晴明に向かって嬉しさを隠さずに言う。

 

「せんぱいってツンデレなんですね」

「お前はまた変なことを覚えてくるんだから…………」

 

そう言いながらそっぽを向く晴明。その顔は気恥ずかしさから若干赤くなり、ごまかすために頬を掻いていた。

 

「貴方達、とっととくっつきなさいよ。そんなんだから周りからリア充爆発しろって言われるのよ」

 

そんな二人を見ていた『山刀伐 尽』が持っていた記事に書かれていたのはとある棋士の熱愛報道。

 

『たまよんに恋人の影!! お相手は何とあの…………』

 

この間大阪にて棋帝戦リーグの解説を行った棋士とそれの付き添いにきた女流棋士の話であった。勿論、本人達に確認を取ったわけではないので憶測でしかないのだが…………。

 と、そんなやり取りがありつつあった朝も終わり、本日どうするかが話題として上がった。

 

「僕は将棋会館に用事があるから」

 

そう山刀伐が言うと、それに続くように珠代も言う。

 

「私は残念ながら大学です。はぁ、せんぱいも一緒に行けたら嬉しいんですけどね。せんぱい、今からでも遅くないんで私が通ってる大学受験しません? 今なら有能でせんぱいにだけ従順な家庭教師が24時間手取足取りみっちりと教えてあげます…………あ、そんなせんぱい、いけません。その、そういうことはもっとお付き合いしてからで………」

 

途中から妄想にトリップする珠代。まぁ、これもいつものことなので晴明はスルーする。鹿路庭 珠代、世間では容姿端麗で華やかでありながら真面目な性格で皆から好まれるのだが、残念なことに想い人の事になると途端に残念なポンコツ娘に変わる。まぁ、そこがまた珠代らしいという意見も彼女の身近な者達は言うのだが。

そんな二人の言葉を受け、晴明はどうしようかと考える。

このまま部屋に籠もって自分の将棋のために戦術を勉強する(ゲームや漫画、歴史の戦術所などなど)もよし、山刀伐にひっついて将棋会館に行くのも悪くない。珠代の提案は……………除外する。

そして再び目に入ったのは、先程見ていた記事。

その中の『弟子』というワードを見て彼は思い立った。

 

「今日は…………久しぶりに師匠の所に行ってくるか」

 

その言葉に先程までホンワカとしていた山刀伐と珠代の顔が強張った。

山刀伐は知っている。晴明の師匠が誰であるかということを。そして二人が揃えばどういう事になるのかということを。

珠代も知っている。大好きな晴明の師匠がこの将棋界に於いてとんでもない重鎮であるということを。

故に二人に緊張が走った。だが、その発言をした当人は気負った様子もなく普通に動く。何せ彼がこれからすることはこの業界なら普通にあることであり、そこまで気負うこともないことだから。

そして彼は外出用の服に着替えると師への手土産を買うためにまず大型デパートに向かうことに。

そしてそれらを買いそろえ、向かったのは八王子。そこにある至って普通の住宅街の一角。そこの呼び鈴を押し待つこと数十秒。

 

「やぁ、君か」

 

そう言ってきたのは白髪交じりの中年男。見た目はパッとしない男性だが、その目は真理を追い求める求道者である。

そんな人物に晴明は軽く笑いながら声をかけた。

 

「ご無沙汰しています、師匠。今日はまぁ………久しぶりに『殺しに来ました』」

 

その言葉を聞き晴明の師匠である男性は微笑んだ。物騒な言葉だが、その言葉の意味をこの男は知っている。

 

「そうか、だったら指そうか。何、今日は特に用事も無い。娘達も君が来たと知れば喜ぶだろうさ。君と指すのは心が躍る。今日は眠れそうにない」

「寝させないの間違いでしょう、師匠。とことん『殺リ合いましょう』か」

 

そして晴明はその男の家へと入っていった。

 

 晴明の師、それはこの世界に於ける神。『名人』その人なのだから。

そんな偉大な師を前にして彼は戦かない。将棋界の誰もが戦く神に対し、この男はそういった感情を抱かない。何故なら彼は………『戦争狂』だから。

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